【談話】「骨太方針2025」の閣議決定にあたって
2025年6月13日
全国労働組合総連合
事務局長 黒澤 幸一
本日、石破内閣は「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太方針2025)を閣議決定した。今回の骨太方針では「基本的な考え方」として「『賃上げこそが成長戦略の要』との考え方に立って、最低賃金の引き上げを含め、物価上昇を安定的に上回る賃上げを実現する」と表明した。このことは、岸田政権の下での経済政策が「企業の稼ぐ力」や「成長と分配の好循環」優先であったのに対し、労働者の賃金引き上げによって成長をはかるという方向に舵を切った姿勢の表れであり、「すべての労働者の賃上げ」をはじめとしたこの間の全労連の主張の正当性を裏付けている。
しかし一方で問題も多い。
骨太方針では「物価上昇を1%程度上回る賃金上昇をノルムとして定着」させるとして、中小企業・小規模事業者の賃上げ促進のため、価格転嫁・取引適正化、生産性向上、事業継続・M&Aによる経営基盤強化が必要だとしている。しかし価格転嫁対策は官公需関連の対応が示されるのみで過去最高に膨れ上がった大企業の内部留保に迫ることなく、民間企業間における買いたたきや原材料高騰への対策などは示されていない。また、賃金水準が他の産業に比べて低く人手不足問題が深刻化し、「待ったなし」の状況に陥っている医療・介護・障害福祉・保育分野の処遇改善は「過去の報酬改定等における取組の効果を把握・検証し、2025年末までに結論が得られるよう検討する」と切迫感のない姿勢にとどまっている。
一方で、政府が掲げる「省力化投資促進プラン」にもとづく生産性向上や事業継承・M&Aが必要だとしている。生産性向上のためには、AI、ロボットなどの自動化技術の利用・活用による人手不足対策・省力化をすすめることが必要だとしているが、付加価値を構成する賃金の大幅引き上げなしに生産性向上は図れない。加えて行き過ぎた省力化などが行われれば、労働者にはリストラや雇い止めが押しつけられる結果になりかねない。また、M&Aに伴う労働条件の低下や雇用不安の高まりなども懸念される。これらに加えてリ・スキリング支援や副業・兼業の促進など労働者の自己責任による「多様な働き方」の推進も盛り込まれている。骨太方針では「人中心の国づくり」として、人を財産として尊重する「人財尊重社会」を築くとしているが、今求められているのは、憲法に保障された人間らしく生き・働くことのできる「人権尊重社会」に他ならない。
「安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生」として、「地域で活躍する人材の育成を行い、地方の魅力を高め、地方への転入希望を増やす」としているが、その内容は、買物環境の維持・向上や医療・介護サービスの維持・確保といいながらベッド数削減を本旨とする地域医療計画の推進、「交通空白」の解消などを地方自治体に丸投げすることや、地方公共団体や地域の金融機関職員が兼業・副業できるようにするとしている。加えて、教育や医療・介護、インフラ、防災など国民生活に密着し社会・経済的な重要性が高い分野でのデジタル活用をすすめ公共サービスを維持するとされ、マイナンバーカードを活用した「オンライン市役所サービス」や「市民カード化」などを推進するとしている。しかし、多くの住民・国民が望んでいるのは「安心して住み続けられる社会」や「頼れる公共サービス」であり、地域における「公共」維持を地域の自己責任として押しつける政策ではない。特に医療・介護・福祉・教育などケア労働者の抜本的な待遇改善と人員増を即断すべきである。
こうした労働者・国民への犠牲押しつけの一方で、「防衛力の抜本的強化推進」「在日米軍再編及び基地対策の推進」などを掲げるとともに、軍拡をさらにすすめる姿勢を鮮明にするなど「戦争する国づくり」を加速しようとしている。
骨太方針では「国民お一人お一人が『今日より明日はよくなる』と実感」できる社会をめざすとしている。そうであるならば、私たちの切実な要求である、大軍拡・大増税方針の撤回と社会保障充実、全国一律最低賃金制度と今すぐ1500円・めざせ1700円以上の実現、労働法制改悪と解雇規制緩和の阻止、物価高騰対策と食糧の安定供給・自給率の向上、ジェンダー平等と選択的夫婦別姓の早期実現、低賃金・不安定雇用が強いられる非正規雇用の解消、原発に依存したエネルギー政策からの脱却とALPS処理水放出の中止、被災地と住民優先の災害対策とそれを「地域の公共」が担うことのできる体制づくりなどを一刻も早く実現すべきである。それこそが「新しい日本・楽しい日本」を実現するカギにほかならない。
全労連は、引き続きすべての労働者・国民の要求実現に向けて奮闘するものである。
以 上