【談話】地方最低賃金審議会の2026年度改定答申を受けて
2026年9月8日 全国労働組合総連合 事務局長 九後健治
2026年度の地域別最低賃金改定額の答申が出そろった。全国加重平均は現行の1121円から56円(5.0%)引き上げられ、1177円となった。引き上げ額は過去最高だった昨年の66円を10円下回った。リーマンショック(2009年)、東日本大震災(2011年)、コロナ禍(2020年)の影響を受けた年度を除けば、引き上げ額が前年を下回るのは2002年度以来24年ぶりとなる。物価高で生活が深刻化する中、引き上げの流れを後退させることは容認できない。
1177円では生活できない 生計費との乖離はあまりにも大きい
物価高騰が続き、労働者の生活が厳しさを増す中、今回の改定額は到底容認できない。全労連の最低生計費試算調査では、現在の物価水準のもとで、若者が一人暮らしをしながら健康で文化的な生活を送るには、時給1900円以上が必要との結果が示されている。全国加重平均1177円では、生計費との乖離は余りにも大きい。労働者の生活の安定を図る最低賃金制度の役割から見ても、極めて不十分である。
その最大の要因は、中央最低賃金審議会(以下、中賃)が低い目安を示したことである。中賃は7月28日、Aランク54円、B・Cランク56円、全国加重平均55円という目安を示した。さらに、「地域間格差の是正を踏まえて検討されたことを配意いただきたい」「中賃が地賃の審議結果を重大な関心をもって見守る」として、地方が目安に大幅な上乗せをしないよう、強くけん制した。地方の実情や働く者の声を踏まえた自主的な審議を損なうものであり、看過できない。
さらに重大なのは、中賃の審議が本格化するさなか、政府が「全国平均1500円」の達成時期を2020年代から2030年代前半へ後退させたことである。政府自ら賃上げのテンポを後退させる方針を示したことが、最低賃金審議に強いブレーキをかけた。2026年度の1177円から仮に毎年5%引き上げても、1500円に到達するのは2031年度以降であり、これでは、今苦しむ労働者を救うどころか、低賃金のもとでの生活を長期にわたって強いることになる。
また、最低賃金法が重視する「労働者の生計費」が、審議にも資料にも全く位置づけられなかった。生計費は本来、最低賃金を決める中心的な要素であるにもかかわらず、審議では物価上昇分の反映に置き換えられた。人間らしく生活するために必要な賃金水準という視点が欠落しており、これでは物価高に苦しむ労働者の生活を支えられない。
中賃目安と上乗せへの抑制をはね返す地方の奮闘
一方、こうした逆風のなかでも、47都道府県中33府県が中賃の目安を1~9円上回ったことは重要である。佐賀が9円、鹿児島が8円、高知・沖縄が7円上乗せした。Aランクでも埼玉、千葉、愛知が目安を1円上回り、Bランクでは18府県、Cランクでは13県中12県が上乗せした。
とりわけCランクでは、長崎を除くすべての県が目安を上回ったことは、地方にこそ最低賃金の大幅な引き上げが必要であることを示している。低賃金を放置すれば、若者をはじめとする人口流出を招き、地域経済を弱体化させる。今回の地方の判断は、全国一律最低賃金制度の必要性をあらためて示すものとなった。
この成果は、全労連と各地方組織・地域組織が、最低生計費試算調査を力に、要請署名、意見書提出、宣伝、座り込みなどを重ね、働く者の生活実態を審議会に突きつけてきた運動の成果である。地方の審議会で目安を上回る判断を引き出したことに確信を持ちたい。
しかし、最高額の東京1280円と最低額の宮崎1085円には、なお195円の差が残る。月150時間働けば約3万円、年間約35万円もの格差となり、「格差解消」と呼べる水準ではない。
発効日を交渉カードにするな 「30日以内」を原則とする法の趣旨を徹底せよ
さらに、昨年問題となった発効日の先送り・分散化は、大きく改善され、越年はなかったが、今年度も10府県で発効日が11月・12月へ先送りされ、11月発効が7府県(京都、山梨、徳島、愛媛、佐賀、大分、長崎)、12月発効が3県(岩手、熊本、沖縄)となった。最低賃金の引き上げを決定しながら実施を遅らせることは、労働者にとって賃上げの先送りである。とりわけ長崎では、中賃の目安額への上乗せを行わなかったにもかかわらず、発効日を11月に先送りした。引き上げ額で労働者の期待に応えられないうえ、実施まで遅らせることは、物価高騰に苦しむ労働者の生活を顧みないものと言わざるを得ない。発効日を交渉の材料とし、賃金額だけでなく発効時期にも格差を生じさせることは看過できない。公示後30日以内の発効を原則とする法の趣旨を徹底すべきである。
全労連は、最低賃金改定について、低すぎる目安と政府による目標の先送り、中賃による地方の上乗せ抑制を強く批判する。同時に、全労連と地方の仲間の奮闘によって33府県で目安を上回ったことを重要な成果として確認する。
「これでは生活できない」という労働者の声を、最低賃金決定の中心に据えなければならない。自治労連の全国一斉調査でも、22歳・単身者で生計費は大都市と地方で大きな差がないことが明らかになっている。どこで暮らしても生計費に差がないのであれば、地域によって最低賃金を分ける合理性はない。
全労連は、全国どこでも安心して暮らせる賃金を実現するため、全国一律最低賃金制度を確立し、生計費を基準とした最低賃金として、今すぐ1700円、そして2000円の実現をめざす。最低生計費試算調査をさらに広げ、働く者自身が必要な賃金水準を示し、地域から国を動かす運動を強める。また、中小企業が賃上げできる環境をつくるため、価格転嫁の徹底、社会保険料負担の軽減、直接支援など、国の責任による抜本的な支援策を求めていく。
以上
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