【月刊全労連連載・国際のページ】極右排外主義に対抗する欧州の経験
4 月12日、ハンガリーで行われた議会(一院制)の総選挙で、新興野党が圧勝しました。オルバン・ヴィクトル首相は敗北を認め、16年ぶりに政権交代が実現したことになります。
今回の選挙は、ハンガリーとヨーロッパの将来を左右する重要なものとして国内外で大きく注目されました。投票率は過去最高の79%に達しました。長期政権を率いてきたオルバン氏は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領や米国のドナルド・トランプ大統領と親しいことで知られます。米国のバンス副大統領は、パキスタンで行われたイランとの停戦協議の直前にわざわざハンガリーに立ち寄り、オルバン首相と与党への支援を訴えています。それだけに、米ロ両国にとってもこの選挙結果は重要な意味を持ちます。
ハンガリー国民の選択
オルバン政権は反グローバリズムを訴えて、EU の中でなかなか経済的に成長できず国民生活が苦しいままのハンガリー国民の支持を集めてきました。自らを「反グローバリスト」と呼び右翼的な主張をしながら、それでいてドイツの自動車メーカーや、中国や韓国の電気自動(EV)用バッテリーメーカーをハンガリーに誘致しました。EU を批判する意味合いから、国家主権の擁護者だとも自称しましたが、ロシアの侵略に対して主権を守ろうとするウクライナではなく、終始ロシア寄りの立場を崩しませんでした。
オルバン首相は移民政策を激しく非難しながらも、スリランカ、フィリピン、ウクライナ、トルコからの移民を密かに奨励し、新工場建設を進めました。子どもの数を増やそうと、巨額の資金を投入しましたが、合計特殊出生率は昨年1.31まで低下。オルバンが社会党から政権を引き継いだ2010年と同じ水準です。
極右、ファシズムへの対抗
ハンガリー国民は今回極右、排外主義的な政権に明確にNO を突きつけました。欧州では最近自治体を中心に左派、進歩勢力が極右の候補者に勝利する事例が少しずつ増えてきました。全労連も参加する反ファシズム国際労働組合ネットワーク(IAFTUN)でも、労働組合をはじめとする運動の成果として受け止められています。
欧州の中でも極右、ファシズムなど排外主義の動向は、各国の歴史的背景、人種構成や経済状態などによっても大きく異なるのが実際です。なぜここまで極右や排外主義が国民的に広がっているのか、多くの分析や研究があります。
25年11月に発表された欧州労働組合研究所の政策ペーパーから、今の欧州の労働組合の研究の到達を紹介したいと思います。
欧州の極右伸長の背景分析
この分析では、階級の下方移動がどのように右派政党の支持に結びついているのかを分析しています。
主に明らかになっていることは、1 )上層の階級から労働者階級への下方移動を経験している人は、極右政党を支持しやすくなること、2 )このことは、上層部エリートへの不信や反移民的な態度よりも、生活苦や雇用と収入の不安定さなど物質的要素によって引き起こされること、3 )全国的な階層移動も、極右支持傾向に影響しており、階級の下方移動が多い国ほどその傾向は強まる、4 )前述のように階層の下方移動を経験した人が極右を支持する傾向があるにも関わらず、実際の選挙区の人口比で下方移動を経験した人の割合は少ない。したがって、極右のこの間の伸長は、この層が引き起こしたと考えることはできず、経済的苦境を感じている多くの国民が、極右政党の支持者の範囲を超えて広がっていることが、極右政党の成功の要因と考えられる。
なぜ下方移動が実際より影響するか
この分析を行なった学者の間では、階級の下方移動による政治的影響が、各国の政治文化や歴史的背景によって異なるとしています。しかし、人々は投票行動を行うときに他の人との比較をし、孤立無援に投票行動を決めることはほとんどないとされます。下方移動した割合、人数の大小ではなく、投票する人が下方移動という現象に対してどのように反応するかの方が大きな要素だと考えられます。
仮に下方移動する人が社会の中で一定の割合以上に存在するとき、人々は自身の生活苦や苦境を社会全体の問題と捉えやすく、不幸な状況にあっても孤独を感じにくくなります。しかし下方移動が少なく稀な場合、生活苦や苦境は社会的なスティグマ(負の烙印)となりやすく、孤独感をより強く感じることにつながります。社会一般では安定している、あるいは上昇傾向のある生活ができているのに、自分だけが下方移動することは、自分が奪われているのだという考えを強め、社会的に排除されていると考えやすくなります。
この研究では欧州各国の階層構造、経済状況の変化と階級移動を分析していますが、以上のような傾向を多くの国の実例から導くことができるとしています。
階級の下方移動と極右勢力の伸長との関係が強く現れている国である、オーストリア、ベルギー、ギリシャ、イタリアなどの国では、階級移動が比較的少ない国です。これらの国では下方移動した人が、不満を感じやすく、自分は特別に不利な状況にあると考えやすくなります。一方フランスやオランダのように階層移動が激しい国では、経済的困難や生活苦、失業などの要素が個人の問題、自己責任ではなく、より一般的に起こっていることと捉えられやすくなります。
このことから、階級の下方移動が起こった場合、階層移動が全体的に少ない社会においては、下方移動した人たちが不満をより強く感じて政治不信になりやすいことがわかります。極右政党は人々の孤独感に巧みに働きかけ、それを壊れた社会システムのせいだとし、一度は安定的な生活を送ったりそれに近い位置にいた人の支持を集めるのです。そのような下方移動を経験した人々は決して有権者の多数というわけではないのですが、その周囲にいる階級移動はしていないが、経済状況に一定の不満があるより多くの人々が、その少数の人の周囲に巻き込まれるようにして極右政党を支持している傾向が、欧州ではみられると言います。
求められる対抗策は?
このような分析から導かれる、求められる社会経済政策として、3 つ提案されています。1 )経済的不安定を解消すること。安定的な収入を得られるようにし、収入減へのセーフティーネットを強化するために、労働者を代表する労働組合が団体交渉や政策実現で役割を果たすこと、2 )教育、労働市場改革、社会政策により階級の上昇方向への移動を容易にし経済停滞の悪影響を低減させること、3 )実存的かつ物質的な充足に関して積極的なメッセージを出すことで、ポピュリストのナラティブに対抗するために、政党や政治家は分断を煽るのではなくより包摂的な経済政策を押し出すこと。
極右ポピュリズムや排外主義に対抗するために、労働組合が労働条件や生活条件を向上させる運動をより集団的に進めることが鍵のようです。差別やヘイトに人権の問題として強く抗議することに加え、労働組合の役割が大事になっています。
(全労連事務局次長 布施恵輔(全労連国際委員会))
(月刊全労連352号 2026年6月発行)
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