【談話】地方最低賃金審議会の2025年度改定答申を受けて
2025年9月16日
全労連事務局長 黒澤幸一
9月4日、すべての都道府県で2025年度の最低賃金の引き上げ額の答申(以下、「答申」)が出そろいました。47都道府県で、63円~82円の引き上げです。答申どおりならば、加重平均は1,121円(前年比+66円、+6.3%)となります。中央最低賃金審議会答申が地域間格差を縮める目安を出し、その目安を39道府県(83%)が上回りました。最高額1,226円(東京)と最低額1,023円(沖縄、高知、宮崎)の金額差は昨年に続き縮まり、地域間格差解消めざす流れが強まりました。今回の額、率ともに過去最高となる引き上げは、あまりにも低い最低賃金の改善を求める労働者の声と運動によって導き出されたものです。しかし、もともと低額なうえ、24年改定以降の物価高騰分を補う水準が一部の地方で確保されたものの生活改善が実感できる引き上げとはなっていません。私たちの求める「いますぐ1,500円以上」にも、政府の「2020年代に1,500円」の水準 (年+7.3%)にも届いていません。オーストラリア2456円、イギリス2471円、ドイツ2406円など確実な引き上げを続ける世界水準にはまったく届かないものです(2025年7月平均の為替レートで換算)。
目安に上乗せする根拠として地域間格差を挙げている
目安に上乗せする地方が8割を超えましたが、引き上げの根拠として地域間格差による「労働力人口流出」や「地域間格差是正」を挙げていることが特徴となっています。目安に18円上乗せし、最大の引き上げ(82円・8.6%増)を答申した熊本地方最低賃金審議会は、熊本県における法定3要素を検討した上で、「賃金水準に基づく人材流失」等、「熊本県の実情も踏まえ、総合的に判断」したとしています。他県でも「人材が待遇のよい近県へ流れ、人材流出を引き起こすことから、県内の人手不足やスキル蓄積の遅れにつながる可能性もあり、…目安額に対し近県との差になるべく近い額の上積みをする」(群馬)、「最低賃金の地域間格差の是正についても、…検討を行った」(福井)、「県内からの人口流出に歯止めをかけるためには、青森県と県境を接する県のみならず、それ以外の青森県と比較して賃金水準の高い地域への労働人口の流出にも留意し、これらの地域との地域間格差の是正を図っていく必要がある」(青森)など、地域間格差を「是正」する審議がおこなわれています。こうした動きは、地域間格差解消と「いますぐ1,500円以上の全国一律制度実現」を求めてきた私たちの運動の成果です。 しかし、現行制度の地域別最低賃金である限り、必ず地域間格差は残り、「最下位」の地方が出てしまいます。「最下位」にならない、近隣地域よりも1円でも高ければ良いかのような、本質議論から外れる「調整」「対応」はなくならず、私たちの求める大幅な引き上げを阻んでいます。これは、構造的な問題で、地域別最低賃金である限り解消することはできません。顕在化している地域間格差「是正」の流れを、加速して地域間格差を解消する「全国一律制度」をめざす世論を広げるチャンスです。
大幅な発効日の先送りが急増
看過できない問題として発効日の大幅な先送りが急増しました。発効日は、「公示の日から起算して30日を経過した日」(最低賃金法第14条2項)が原則ですが、今回の改定では、10月発効は20都道府県(昨年46都道府県)にとどまり、11月13府県(昨年1県)、12月8県、来年1月4県、来年3月2県となっています。発効日の先送りは、近隣地方との間でかつてないほどの格差を労働者に強いることになります。全ての地方で発効後は、地域間格差は212円から203円に9円縮小しますが、半年間はむしろ257円に拡大します。物価高騰の勢いはとどまる様子を見せていません。このまま発効日が先送りされれば労働者の生活は一層厳しくなることは容易に想定されます。先送りの理由は使用者のための「準備期間」とあるだけで合理的な根拠は示されていません。この発効日先送りは、財界による賃金抑制のための方針です。経団連「経営労働政策特別委員会報告」は2019年度版から最賃改定の発効を遅らせるよう主張しています。 発効日の先送り・分散化は、最低賃金法の「賃金の最低限を保障することにより、労働者の生活の安定」を図るという生存権保障の精神を没却するもので看過することはできません。また、新たな地域間格差であり、「最低賃金分の賃上げで合理化する」などの春闘の形骸化を画策するものと言え、到底認められるものではありません。発効日を先送りした県では各県労連が異議申し立てを機敏に行うともに、来年の3月以降の発効とされた秋田県や群馬県には全国から団体署名による再審議を要請しました。原則に戻す取り組みと、地域別最低賃金の金額差解消とあわせ、全国一律制度の確立の運動強化が求められます。
昨年に引き続き、地方行政・首長が地元経済を守るため、引き上げを求める動きが広がっている
昨年の徳島の経験をふまえ、自治体(最賃)キャラバンなど、各地の県(知事)にむけた要請行動のなかで、県知事への働きかけが強められた結果、岩手、茨城、群馬、秋田、長崎、大分、山梨、徳島、佐賀、福井などで知事クラスが労働局要請や意見書提出、意見陳述をおこなっています。
同時に、地方行政の長が地域間格差の「是正」や大幅引き上げを要請することは、県独自の中小企業支援策の広がりにつながっています。賃上げのための補助金制度(業務改善助成金への上乗せ含)をつくった自治体は、岩手、山形、茨城、群馬、山梨、長野、富山、福井、広島、徳島、佐賀、大分等(全労連調べ2025年8月現在)であり、新たに鳥取、奈良、秋田、石川の知事等が中小企業支援策やそのための予算確保を表明しています。
地方行政・首長が、自らの地域の労働者と経済を守るために意見し、最低賃金の改善を求めることは当然のことです。そのうえで、地方行政による十分な中小企業支援を行うよう求めます。同時に、最低賃金法は国の定めた法律であり、国が責任をもって中小企業支援をすべきです。政府も「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画」等すすめていますが、多くの地方最賃審議会答申・付帯決議に示された社会保険料の減免や新たな支援金、中小企業が労務費を販売価格に転嫁できるよう、取引の適正化、環境整備することを、大企業の内部留保にメスをいれ、財源確保することも含めて求めます。
全国一律制度への転換の決断を求める
地域間格差解消を求める労働者の声と署名や自治体決議などの運動の広がりで、目安を上回る地域最低賃金引き上げの流れが加速し、地方政治の焦点になっています。地域別最低賃金であることの矛盾と破綻は明らかで、地域別のままでは「2020年代に平均1,500円」という政策目標すらも実現できないことは明らかです。私たちは、政府に対し、全国一律制の最低賃金制度に法改正する決断を求めます。また、速やかに地域間格差の解消とただちに1,500円以上にすることを求め、奮闘する決意です。
以 上
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