2024介護労働実態調査報告
介護現場で働く労働者の声を聞いてください
介護保険制度の発足以降、保険料の引き上げと介護給付の引き下げが続けられてきました。多くの介護労働者は低賃金と劣悪な処遇で離転職を繰り返す状況が続き、人材が定着しないことから慢性的な人材不足で多くの事業所が経営難にあえいでいます。全労連介護・ヘルパーネットは、この度介護労働実態調査を行い、6,353人の介護現場で働く労働者からアンケート調査へのご協力を頂き、調査結果をまとめました。調査の結果、現場では“介護崩壊”とも言える事態が進行していますが、労働者の「やりがい搾取」ともいえる状況で支えられている実態が明らかとなりました。介護現場には、まだまだ多くの人員が必要です。従事者のやりがいを失わせることなく、働き続けることができる処遇や職場環境の改善だけでなく、介護を受ける方々の人権を守れるだけの十分な人員体制が必要です。
【調査の概要】
実施期間 :2024年10月1日から2024年12月31日
対 象:介護現場で働く介護従事者
配布・回収:①全労連加盟組合を通して組合員と未加入労働者に配布・回収
②未組織職場への訪問・郵送による配布・回収
③調査用紙及びWEBでの回収
回 収 数:6,353人(調査用紙:4,451人/WEB:1,902人)
【調査結果のポイント】
〈基本属性〉
介護の職場は、非正規雇用労働者・女性が多く、低賃金に繋がりやすい状況に置かれ続けています。あわせて、20代が極端に少なく、50代が一番多く働いていることから高齢化が深刻になる年齢構成であり、事業の持続や経験の継承など将来に大きな不安がある職種と言えます。
また、介護労働者として通算経験年数は「20年以上」が「10~15年未満」と同じく一番多いですが、現在の職場での勤続年数は「5~10年未満が」一番多い結果となっており、転職をしている労働者が多いと思われます。これはよりよい労働条件の職場に転職したいという願望があると思われ、逆に考えるとそれだけ介護職場の労働環境が悪いと言えます。あわせて、人手不足が蔓延している職種であることから、求人が多く一旦やめても就職先が見つかりやすいという理由もあるのではないかと推測されます。
〈賃金〉
全産業の一般労働者と本調査の正職員の賃金の月額を比較すると、政府統計の毎月きまって支給する現金給与額でみれば約11万円の差があり、差は縮まるどころか広がっており、介護職は低賃金のままであることがわかりました。一方、常勤の介護職にふさわしいと考える平均年収を問うと全産業平均の500万円台を求める声が一番多く、せめて平均の賃金にしてほしいという強い願いが聞こえてきます。ヘルパーに関しても時給1500~2000円未満を半数近くの人が望んでおり、推定時間給が1500円くらいと考えると、あと数100円の引き上げを求めていることがわかりました。
通算経験年数別の平均賃金は20年以上が一番多く、経験に応じて順当に賃金が上がっていますが、年齢別平均賃金を見ると40代が一番多く、次に30代で、50・60代となるにつれて下がっています。これは中高年になって初めて介護職に就く人の割合が比較的高く、一方で40代の正職員の割合がほかの世代と比べて多いことが影響していると思われます。
賃上げについて、6割近くで定期昇給があった一方でベースアップとなった人は3割もなく物価高騰の中、上がる物価にまったく追いついていない賃金の状況は処遇改善加算の効果が薄く非常に問題です。労働組合として賃上げ要求を加速化させると同時に、介護報酬の大幅引き上げや3年の改定を待たずに再改定をするなど制度の改善を求めることが必要と考えます。
〈労働時間〉
残業がなしと回答した人が約2割いる一方で、2018年の調査と比べて正職員だけでなく非正規労働者も勤務時間が増えており、人手不足の影響が出ています。時間外労働についても、前回調査と比較すると非正規労働者で増えており、ここでも人手不足であることがうかがえます。
また、登録ヘルパーの労働時間は月平均34.2時間と短いですが、これは移動や待機時間が賃金に含まれていないことが原因で、このことは低賃金につながると同時に、労働時間が短時間であることで自治体の家賃補助の対象とならないなど(例えば東京都の介護職への居住支援特別手当は所定労働時間週20時間以上が対象者)の問題も発生しています。時間外労働は月平均13.8時間とほかの職種より多くなっていますが、これは訪問先で働いた時間だけが賃金となる場合が多いため、移動時間などが未払いではあるが労働時間であると認識しその未払いの時間を時間外労働時間として回答した人も多いと推測されます。
〈働き方〉
兼業・副業をしている人は全体で5%ですが、短時間パートや登録ヘルパー、下請・派遣など勤務時間が短い働き方をしている人は割合が高くなっています。この理由は、短時間であるというほかに時間給が低く低賃金のためであることも考えられます。一方、フルタイム(正職員・パート)で働く人(2.8%)も兼業・副業をしており、政府が兼業・副業を推進している影響が出ていると思われます。 やりがいについては7割を超える人が感じています。一方で「仕事を続ける」・「続けたいと思う」人は6割弱にとどまっており、その理由として仕事の困難さ、労働条件の悪さがあると考えられます。雇用形態別でみると、登録ヘルパーの77%が「続ける」・「続けたい」と思っているのに対し、正職員は55%と低くなっています。また、年代別に見ると若い世代ほど「続けたいと思わない」・「早くやめたい」と感じており、介護職の将来に不安が見えます。
〈ハラスメント〉
介護職の4割近くがこの1年間に何らかのハラスメントの経験をしています。男女別での割合はほとんど変わりません。上司、同僚からのハラスメントはそれぞれ12.8%、11.3%ある一方で、利用者からのハラスメントは倍以上の27.2%となっており早急に解決策が必要です。
「介護の仕事を続けられると思うか」の問いで、ハラスメントの経験あり・なしで見ると、「続けたいとは思わない」・「早くやめたいと思う」人が経験のない人より「あり」の方が倍以上となっており、ハラスメントの悪影響は非常に大きく、深刻な状況と言えます。相談については、この1年間でハラスメントを受けた経験がある人で「相談していない」が23.7%となっており、10年前の調査での27.5%と比べて若干減ってきていますが、まだまだ相談体制が確立されておらず、相談しにくい環境であることがわかります。また、相談先に労働組合を選んだ人は少なく、労働組合としての課題が浮き彫りとなりました。
〈人手不足〉
8割の人が人手不足を感じており、深刻です。また、「とても人手不足」だと回答した人では7.2%が「早くやめたい」と思っており、「少し人手不足」と感じている人は3.8%、「ちょうどよい人数」と感じている人は2.0%が「早くやめたい」と回答しているのをみると人手不足を強く感じている人ほどやめたいと思っており、すでに辞めた人もいると考えるとますます深刻となります。人手不足による影響は「疲れがひどく残る」(50.1%)と体調面への影響と、「職員が高齢化」(37.1%)、「予定外の仕事が多い」(29.7%)、「時間外が多くなった」(23.8%)など仕事に関する影響もあり、心身と仕事の両方の負担が増していることがうかがえます。