ILO190号条約批准を厚労省政策統括官に要請
「もう我慢したくない、我慢させたくない」 今国会でハラスメント違法化を
3月10日、全労連は、厚労省政策統括官交渉を行い、最低賃金全国一律や労働法制、ハラスメント対策など11項目を要請しました。
ILO第190号条約批准について、森川善樹・厚労省政策統括官は、「ILO第190号条約の趣旨についてはおおむね妥当であり国内法制との整合性を確保する観点から検討している」「今国会にハラスメント対策強化のために、①規範意識の醸成に向けた取り組み、②カスタマーハラスメント対策の強化、③就活等セクシャルハラスメント対策の強化等の改正法案を準備しており、これもILO条約批准に資するものだ」と回答しました。

「許されるものではない」から「規範意識の醸成に国が取り組む」へ後退 おかしい
全労連・九後健治副議長は、今国会に提出される(交渉の翌日衆議院に提出されました)改正法案について、カスタマー・ハラスメントや就活生へのセクシャル・ハラスメントへの対応がされたことについては評価しつつも、研究会報告には「ハラスメントは許されるものではないという趣旨を法律に明記」とあったものが建議になると「社会における規範意識の醸成に国が取り組む旨の規定を法律に盛り込むことが適当」と後退していることを指摘。「本当にハラスメントを根絶する気があるのなら、禁止規定や法の適用範囲などをきちんと定めて、ILO第190号条約を批准できるレベルにすべき」と強調しました。
続けて髙木りつ副議長が、「ハラスメントは人権侵害であるという認識は共通しているのか」「ハラスメント防止のための新法制定は考えられないのか」と問いかけ。「現在の4類型に収まらないハラスメントはILO条約の定義に則ればすべてカバーできる」「もう我慢したくない、我慢させたくない。日本でも国際水準で働き続けられるよう努力すべき」と要請しました。
木村剛一郎 雇用環境・均等局機会均等課ハラスメント防止対策室長は、これに対し「ハラスメントは人権侵害であるという認識は持っている」そのため、法案の中に「何人もハラスメントを行ってはならないことに鑑み」と入れている、「職場」の概念は現行法制のもとでも厳密な意味での職場に限っているわけではない、SOGIハラや、就活生ハラスメントなどについてはこれまでより広げる法改正を準備していくと述べるにとどまりました。
「ハラスメントを行ってはならない」旨の記載を
ILO第190号条約は加盟国に対し、ハラスメントを定義し禁止する法令の制定を求めていますが、日本の法制には、ハラスメントの定義も禁止規定もありません。定義について、小分け主義のために、セクハラ・マタハラ、イクハラ(パタハラ)、パワハラと新しいハラスメントが問題になるたびに対象を徐々に広げることになっています。今回の法改正では、カスタマーハラスメントと就活ハラスメント(セクハラのみ)に広げましたが、SOGIハラなどへの対応はされていません。また、いずれも、労働者の権利を認めたものではなく、事業主の雇用管理上の措置義務にとどまっています。
法改正に向け、昨年夏の研究会報告で「職場におけるハラスメントは許されない旨規定する」としており、審議会では賛成意見しか出されていなかったのに、法案要綱では「国による啓発活動の促進」に大きく後退しています。
全労連はハラスメント禁止規定を求めて運動を強めます。
どう変わった?研究会報告→法案要綱
◆研究会報告「一般に職場におけるハラスメントは許されるものではない旨を規定する」
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◆労政審建議「一般にハラスメントを行ってはならないことについて、社会における規範意識の醸成に国が取り組む旨
の規定を、法律に設けることが適当」
↓
◆法案要綱「国は職場における労働者の就業環境を害する言動に起因する問題の解決を促進するために必要な 施策の充実を取り組むに際しては、何人も職場における労働者の就業環境を害する言動を行ってはならないことに鑑み、規範意識の醸成がなされるよう、必要な啓発活動を積極的に行わなければならないものとすること」
ILO190号条約で加盟国に要請されていることは?
1.仕事の世界における暴力およびハラスメントの定義
(行為類型)
・1回限りのものか反復するものかは問わず、
・身体的・心理的・性的または経済的損害を目的とし、またはこれらの損害をもたらし、若しくはもたらす恐れのある一定
の容認することのできない行動および慣行又はこれらの脅威であって、
・これにはセクハラなどのジェンダーに基づく暴力およびハラスメントが含まれる
・また必要に応じてカスハラなどの第三者が関与する暴力およびハラスメントも含めて考えるべき
(適用範囲)
・対象者:被用者契約上の地位を問わず働く者、訓練中の者、雇用が終了したもの、ボランティア、求職者、就職志望者、
使用者(コンビニ店長など)
・対象分野:民間部門か公的部門か等を問わずすべての分野
・対象場面:職場休憩所や更衣室、外出や出張、ITを使った業務連絡、使用者の提供した居住施設、通勤時
2.加盟国がとるべき措置
①仕事の世界における暴力およびハラスメントを定義し、および禁止する法令の制定
②暴力およびハラスメントに一層さらされる分野、職業、就業形態の特定
③職場の方針の策定等の適当な手段をとることを使用者に要求する法令の制定
④被害者の適当かつ効果的な救済措置や安全かつ公正で効果的な報告及び紛争解決のための制度への容易なアクセスの確保
⑤指針や訓練機会の提供や啓発活動の実施の確保