全国労働組合総連合(全労連)

ページの上部へ
事務局長の部屋

【月刊全労連連載】It’s Union Time「最低賃金と時短で『自ら頑張れる社会』を」(2025年8月号)

2025/07/15
月刊全労連
賃金・最低賃金
対話と学びあい

あなたの「大切は時間」とは?

「“頑張ることを強制される社会”から“自ら頑張れる社会”」に変えていくことが、いまほど重要な時はないと思います。
資本主義という市場原理を原動力とするシステムの下では、人間にとって有限な時間の大部分を資本のために費やすことを強いられています。寝る時間さえも資本のためになるケースも。過ぎた時間だけは取り戻すことができません。家族との時間、社会活動する時間、食べる時間、文化や趣味を楽しむ時間、やりがいや誇りを持って働く時間などの貴重な時間をできるだけ長くするには、資本とたたかわなければなりません。これが自由な時間=生活時間を資本から取り戻すたたかいです。

同時に、経済的な裏付けがなければ“自ら頑張れる社会”も“生活時間を取り戻す”こともできません。賃上げとともに最低賃金が重要です。誰もが、どごで、どんな仕事をしようとも、働いた時間において“人たるに足る賃金”が得られるようにすること、憲法が謳う生存権が保障される賃金が必要です。

社会保障の充実など、公共の再生も必要です。先日、イスラエルがイランを先制攻撃し、アメリカが加担するなどして、戦争が連鎖する深刻な事態になっています。平和でなければ論外なのは言うまでもありません。

「最低賃金一律1500円」は非現実的ではない

最低賃金の今年度改定に向けた審議が始まります。コメの値段が昨年比で倍増するなど物価の高騰が止まらない中、最低賃金が果たす役割は極めて大きく、審議への注目が高まっています。
石破茂 首相は、「2020年代に最低賃金を平均 1500円にする」と発言し、前首相の「2030年代半ばに」を前倒しました。私たちが1500円をかかげたのは2016年、10年越しの運動の反映です。政府は、賃上げと1500円実現のための「 5 か年計画」(2025年 5 月22日)を示し、「賃上げこそ成長戦略」としました。「成長なくして賃上げなし」と言い続けてきたことからすれば、「賃上げこそ」と先に強調したことは、企業の支払能力ありきで、賃金が上がらない中で当然の帰結です。

3 つ指摘しておきたいと思います。 1 つは、「 5 年後では遅い」ということです。毎年7.3%引き上げることが最低条件となりますが、地域別であることから、東京や神奈川は2028年には1500円に達しますが、秋田など21県は 7 年後の2031年にならなければ実現しない計算です。実質賃金は下がり続け、働いても食べていけない人が増え続けています。直ちに最低賃金を全国一律で1500円以上にすることが求められています。非現実的と見る向きがありますが、非現実的な実態に追い込まれているのは、労働者の生活の方です。

2 つには、労働者や企業に生産性向上、効率化、省力化(=人員削減)ありきの計画であり、国の生存権保障を責任転嫁するものと言わざるを得ません。せっかく「賃上げこそ」と優先したのに、人手不足が限界に達している医療や介護、保育、教育まで、生産性向上ありきとなっています。これでは「失われた30年」の延長です。日本の生産性は四半世紀で30%程度上昇しているのに、実質賃金は下がり続けています。ドイツは 25%、フランスは20%程度生産性が上昇し、実質賃金も15 ~ 20%引き上げていると言われます。賃上げが生産性の上昇をつくっているのです。

3 つは、労務費の価格転嫁促進、公正取引の確立、公的発注に関わる最低制限価格制度の徹底などの重要な政策をかかげても、大企業の過去最高にまで膨れ上がった内部留保を、労働者と中小企業に還元することを迫るものとなっておらず、その実現には疑問符が付くということです。中小企業が「賃金を上げたら、コストが上がり、仕事がもらえなくなる」とおびえなくて済む公正な取引のための規制が国の責任で行われれば、いますぐ 1500円の実現も可能だと考えます。
最低賃金改定の審議が始まります。 5 年後に 1500円では遅い、地域別では都市部への人口移動も改善できないと声を上げていきましょう。

“お尻を叩ける”のはたたかう労働組合だけ

賃上げや最低賃金を直ちに改善させるにはどうしたらよいか。私の結論は、使用者や国のお尻を叩けるのは“たたかう労働組合”しかなく、ここが強くなり、大きくなるしかない、ということです。労務費の価格転嫁を諦めて労働者に賃上げを我慢させた方が楽だとさせているうちは、実質賃金を引き上げることなどできません。労使対等な決定がなされる力を労働組合の側が付けない限り、まともな賃上げも“自ら頑張れる社会”も実現し得ないでしょう。
つまり「対話と学びあい」で仲間の力をエンパワーメントできるかどうかにかかっています。この「対話と学びあい」の推進は、次号の論考で検討します。

(月刊全労連2025年8月号掲載)

※月刊全労連のお電話でのご購読のお申し込みは、「学習の友社」までお問い合わせをお願い致します。

定価:550円( 本体500円 ) 電話:03-5842-5611 fax:03-5842-5620 e-mail:zen@gakusyu.gr.jp

すべて表示する