全国労働組合総連合(全労連)

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2026年度最低賃金額改定の目安審議に向けた意見書——生計費に基づき全国一律1,700円以上に

2026/06/29

全労連は6月25日、2026年度の最低賃金額改定を審議する中央審議会に対して以下の2点を要求する意見書を提出しました。
1.地域間格差(額)を解消し、全都道府県で人間らしく暮らせる最低生計費(1,700円以上)に引き上げる目安額を答申すること
2.最低賃金の引き上げを円滑に実施するため、中小企業・小規模事業所への助成措置と、原材料費と人件費が価格に適正に反映される仕組みを中央審議会から国に要請すること

2026年度最低賃金額改定の目安審議に向けた意見書

中央最低賃金審議会 御中

2026年6月25日
全国労働組合総連合(全労連)
議長 秋山 正臣

はじめに

本年度の最低賃金改正の審議にあたり、全労連は、中央最低賃金審議会に対して、物価高騰のもとで広がる貧困と格差の是正、地域経済の再生のため、第一に、最低賃金の地域間格差(額)を解消し、全都道府県で人間らしく暮らせる最低生計費(1,700円以上)に引き上げる目安額を答申すること、第二に、最低賃金の引き上げを円滑に実施するため、中小企業・小規模事業所への助成措置を行うとともに、原材料費と人件費が価格に適正に反映される仕組みを国に要請することを求めます。
今、「賃金が上がらない国」日本が可視化され、労働組合はもちろん、政府や大企業も「賃金引上げ」が必要と言わざるを得ない状況となっています。中東情勢の緊迫化やそれに伴う経済への影響を背景にした、経営悪化を理由に賃金引き上げを抑制する動きや雇用調整の拡大が起きています。しかし、リーマン・ショックなど過去の経済危機に際して行われた雇用破壊や賃金抑制による「労働者しわ寄せ型」の対応は、日本経済の停滞を長期化させるだけで、その誤りを繰り返してはなりません。日本の実質賃金は2025年で前年比0.5%減、4年連続マイナスとなり、物価上昇に賃金が追いついていない状況が続いています。こうしたなかで、前政権が掲げていた「2020年代に全国平均1,500円」という目標は、高市政権のもとで事実上投げ捨てられ、到達時期も道筋も示されないまま後退しています。しかし最低賃金の大幅引き上げは、労働者・国民の生活と国民経済の「失われた30年」からの再生に不可欠であり、もはや先送りできない政治課題です。政府が掲げてきた目標さえ後退させることは、低賃金に苦しむ労働者・国民への責任放棄と言わなければなりません。
今必要なのは、賃上げを日本経済再生の要にすえ、「実質賃金があがる国」へ転換することです。GDPの6割を占める個人消費を拡大し、地域循環型経済への転換を進めるために、最低賃金の抜本的引き上げと地域間格差の解消は不可欠です。そのためには、働けば人間らしく暮らせる最低生計費を明確にし、その水準に基づく最低賃金の審議を中央最低賃金審議会が行うことです。それこそが、生存権を保障し、国民経済の健全な発展を支えることを目的とする最低賃金法の本来の役割であると考えます。

1.物価高騰下でも、どこでも、働けば人間らしく暮らし、「労働者の生活の安定、労働力の質的向上」を保障する目安を出してください

2025年地域別最低賃金改定では全国加重平均1,121円(前年比66円・6.3%増)と額・率とも過去最高となりました。中央最低賃金審議会答申が地域間格差を縮める目安を出し、その目安を39道府県が上回りました。引き上げの根拠として地域間格差による「労働力人口流出」や「地域間格差是正」を挙げていることが特徴であり、地域間格差の解消をめざす流れが強まりました。
今回の過去最高の引き上げは、あまりにも低い最低賃金の改善を求める労働者の声と運動によって導き出されたものです。しかし、これでも不十分です。最低賃金近傍の労働者の生活改善が実感できる水準となっていません。私たちの求める「いますぐ1,700円以上」にも、政府の「2020年代に1,500円」の水準 (年+7.5%)にも届いていません。改定後も最賃近傍で働く労働者からは、「物価高騰で食費を削っている」「節約のために朝食を抜いている」「病院にいけない。栄養はサプリで我慢している」「携帯電話は夫婦で1台にした」など、深刻な実態が寄せられています。
全労連と地方組織は全国29都道府県で5万人超の協力で “マーケットバスケット方式”による「最低生計費試算調査」を行ってきました。その結果、全国どこでも25歳単身者が人間らしく暮らすのに必要な最低生計費は、月額27万円(税込み)・時間額1700円以上(月150時間換算)必要との結果が示され、都市部でも地方でもほぼ同額であることが明らかになっています。さらに物価上昇を加味した直近の試算では1,800円、1,900円の結果が出ており、1,500円でもすでに生活できない状況が示されています。(資料参照)
また海外では、物価上昇や一般労働者の平均賃金の中央値を指標に最低賃金の大幅引き上げが行われており、オーストラリア2,887円、イギリス2,656円、アメリカ・ワシントン州では2,655円となっています。日本の最低賃金(平均)は主要先進国の中でも低水準で、韓国を下回っています。実質的最低賃金である高知県・宮崎県・沖縄県の1023円では、月150時間労働でも月15.3万円、年収184.1万円にしかなりません。173.8時間換算でも月17.8万円、年収213.4万円であり、税・社会保険料を差し引けば普通に暮らすことは到底困難です。 改めて、働くことで人間らしく暮らし、「労働者の生活の安定、労働力の質的向上」を保障する生計費を議論し、それにふさわしい目安を示すため、これまでの延長線上ではない審議を求めます。

2.全国一律制度実現めざし、地域間の格差(額)解消のメッセージとなる目安を出してください

最低賃金の地域間格差は、最低賃金の低い地方から都市部への人口流出、とりわけ若者流出の要因となっています。最低賃金の地域間格差は賃金格差となり、診療報酬や介護報酬が全国一律であるにもかかわらず、医療・福祉労働者の所定内賃金は地域別最低賃金と連動しています。さらに、公務員賃金、生活保護、年金、保険料など様々な制度格差にもつながっています。その結果、地方の高齢化と過疎化が進み、地域経済の疲弊を招いています。 地方から大都市への人口移動は地域経済を冷え込ませ、中小企業の人手不足に深刻な影響を与えています。人口格差是正には、ベースとなる最低賃金の地域間格差是正が必要です。そのうえで地域特性を生かした施策が可能になります。いくつかの自治体首長も、人口流出や地域経済の疲弊を放置できないとして、地方最低賃金審議会に対し格差是正と最低賃金引き上げを求める行動を行っており、地方政治の重要な焦点となっています。2025年の改定では、最高額の東京都が1,226円、最低額は1,023円と、依然として203円(16.6%)もの格差があります。しかし、前述したように最新の「最低生計費試算調査」の結果は都市部も地方も25歳単身で月額27~28万円(税込)、時間額1,800円以上(月150時間)必要との結果が示されています。
昨年は39道府県で目安を上回る引き上げとなりましたが、現行のランク制による地域別最低賃金制度では、最低賃金の低い地域ほど現状の支払い能力や経済状況が勘案され、低いまま決定される構造的問題があります。目安額の上乗せは、近隣県との格差是正だけでなく、深刻な人手不足や若者の人口流出に歯止めをかけ、地域経済を維持したいという切実な危機感の表れです。また、「地域間格差拡大の抑制」という考え方は、最低賃金が高い地域の引き上げを抑制する要因になっています。地域別のままで格差をなくすことは基本的に不可能と考えます。全国一律制度への法改正が必要であり、大幅引き上げが議論されている今こそ好機です。 昨年、中央最低賃金審議会はA・Bランク63円、Cランク64円と、1円差ながら地方を意識した目安を示しました。この答申に対し、39の地方最低賃金審議会が上乗せ答申を行いました。これは、低いランクに位置づけられてきた地方の“怒りの反乱”と言えます。こうした地方審議会の意思を重く受け止め、「AランクよりBランク、BランクよりCランクの方が高い目安額」など、地域間格差解消に向けた計画的な目安を検討いただくよう要請します。同時に、中央最低賃金審議会として国に対し、「最低賃金法を全国一律制に改正する」よう進言する答申を行うことを求めます。

3.「発効日の先送り・分散化」は直ちに是正してください

2025年の改定で看過できない問題となっているのが、発効日の大幅な先送り・分散化の急増です。発効日は「公示の日から起算して30日を経過した日」(最低賃金法第14条2項)が原則ですが、2025年の改定では10月発効は20都道府県(昨年46都道府県)にとどまり、11月発効13府県(昨年1県)、12月8県、翌年1月4県、翌年3月2県となっています。
発効日の先送りは、近隣地域との間でこれまでにない格差を労働者に新たに強いました。全地域で発効後は地域間格差が212円から203円へ9円縮小しましたが、発効時期の違いによって最大275円まで拡大する期間が生じました。物価高騰が続くなか、発効日の先送りは労働者の生活をさらに厳しいものにします。最低賃金はその年の4月時点の春闘賃上げ状況や物価の情況を基に検討されており、本来なら4月に遡って支払われてしかるべきもので、10月発効でも半年近い遅れです。それを翌年まで先送りすることは最低賃金引き上げの効果を著しく損なうものです。こうした運用は、新たな地域間格差を生み、「労働者の生活の安定」を目的とする最低賃金法の趣旨にも反するものであり、直ちに法に基づいた是正が必要です。
また、先送り理由は使用者側の「準備期間」とされるのみで、合理的根拠は十分に示されていません。答申によっては理由の記載自体がないものも見られます。
こうした発効日先送りの動きは、経団連「経営労働政策特別委員会報告」が2019年度版以降、最低賃金改定の発効時期の後ろ倒しを主張してきたこととも軌を一にするものです。「最低賃金分の賃上げで合理化する」との考え方は、結果として春闘による賃上げ機能を弱め、賃金抑制につながる懸念があります。
発効日を先送りした県では、各県労連が異議申立てを行うとともに、翌年3月発効とされた秋田県・群馬県に対しては、全国から団体署名による再審議要請が行われました。秋田地方最低賃金審議会では、「全労連系750超組織」「全労協系28組織」から発効日の前倒しを求める要請が提出され、各要請書および提出組織一覧が配布されました。秋田県労連など14組合からの異議申出についても審議されましたが、「答申通り」とされました。
また、群馬地方最低賃金審議会の異議審にも、多数の労組や個人から申出が寄せられ、全国からの特別要請453通を提出しました。しかし、実質的な審議は行われず、「8月26日答申どおり」と決定されました。群馬県労会議は、「異議申出について十分な審議が行われないまま、労働者に大きな不利益を与える結果になった」として抗議声明を発表しています。
発効時期の先送り・分散は、制度の公平性および信頼性を損なう重大な問題です。また、発効時期のばらつきは、中央最低賃金審議会が示す目安の実効性を弱めることにもつながります。最低賃金制度は、全国一斉に引き上げることで賃金相場を形成し、それが適正な価格形成にもつながることで機能する制度です。地方最低賃金審議会および都道府県労働局に対し、発効日の先送りや地域差が生じないよう、必要な運用上の対応を直ちに図ることを求めます。

4. 中小企業支援策の抜本的な強化を政府に求めてください

政府は昨年、「2020年代に全国加重平均1,500円」を目標に掲げ、「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画」の施策パッケージ案を示しました。最低賃金引き上げを軸に政策を強化し、中小企業支援を進める方向性そのものは重要な転換です。
しかし、歴史的な物価高騰のもとで、時給1,500円でも十分な生活保障水準とは言えず、実現までに長期間を要しては、労働者の生活の安定ははかれません。さらに目標が全国一律ではなく「全国加重平均」では不十分です。最低賃金は、働くすべての人に人間らしい生活を保障するための制度であり、国がその責任を果たすことが求められます。
日本では企業の99.7%が中小企業であり、労働者の約7割が中小企業で働いています。最低賃金引き上げを実現するためには、中小企業支援の抜本的強化が不可欠です。他方で、最低賃金を「支払い能力」で抑制する考え方では、賃金が「労働に対する適正な対価」であるという原則が損なわれます。中小企業の賃上げが困難な背景には、大企業優位の取引構造や不十分な価格転嫁などがあり、適正な賃金を支払える公正な取引環境の整備が必要です。
現在の施策パッケージ案は、生産性向上や効率化支援が中心となっています。その内容は、労働者や企業に生産性向上、効率化、省力化(=人員削減)を迫ることを主とするもので、国の生存権保障を責任転嫁するものと言わざるを得ません。社会保険料の事業主負担軽減や、賃上げ分への直接補助など、中小企業が実際に賃上げを実施できる支援策の拡充が求められます。
また、各地での運動の広がりは、目安額を上回る引き上げに対応した自治体独自の補助制度を実現する成果にもつながっています。こうした経験も踏まえ、国による支援策の抜本的拡充が必要です。
あわせて、労務費の適正な価格転嫁、公正取引の徹底、公契約における最低制限価格制度の強化など、賃上げ原資を中小企業へ循環させる施策を、実効性ある形で進める必要があります。
最低賃金は、生存権を保障するための最低基準です。物価上昇を上回り、生活改善を実感できる水準への大幅引き上げとともに、地域間格差の解消につながる全国一律最低賃金制度の実現が必要です。中央最低賃金審議会におかれては、全国どこで働いても人間らしい生活ができる水準の目安額を示すとともに、その実現を支える中小企業支援策の抜本的強化を求める提言を行うよう要望します。

5.審議を全面公開し、広く国民が関心をもてる運営に改善してください

中央最低賃金審議会は、私たちが求めてきた審議の「原則公開」を3年前からおこない、その流れは全国で広がりました。しかし、審議は「公開」したものの、金額など実質的な審議は相変わらず、非公開の「公労」や「公使」の「二者協議」でおこなわれており、議事録も残りません。
2026年度最低賃金額改定の目安審議は、最低賃金近傍で働く労働者にとって、また、「労働者しわ寄せ型」経済を転換し、「賃金があがる国」にしていく流れを加速するうえでも重要なものとなります。
全面的に公開している鳥取地方最低賃金審議会では、「公開することで議論が活発になった」(鳥取県最低賃金審議会元会長の鳥取大学名誉教授・藤田安一氏の談話)という経験が報告されています。「原則公開」の原点に立ち返って、審議の透明性を確保し、広く国民が関心をもてる運営に改善していただくことを求めます。

さいごに

人口減少が加速しています。2025年の合計特殊出生率は1.13~1.14で統計がある1947年以降で過去最低を更新し続けています。同年の出生数は67万人台となり、推計より15年前倒しとされるほどです。加えて、東京一極集中に象徴されるように、地方から都市部への人口移動がコロナ「5類」移行後に加速しており、地方経済に大きなダメージとなっています。
出生の減少は、出産後の支援強化も必要ですが、根本的には希望する人すべてが子どもを産み育てられる経済的基盤を持つことが大前提だと考えます。同じ仕事をしているのに、働く地域によって大きく異なる賃金水準を放置しては、賃金の高い地域に労働者が移動することを防ぐことはできません。
これらを是正するために国ができることは、最低賃金を大幅に引き上げるとともに、全国一律にすることだと考えます。そのことを述べて全労連の意見とします。

以 上

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