【基調報告】9.3ケア労働者大幅賃上げアクション スタート集会
すべてのケア労働者の大幅賃上げを!
― 診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬を直ちに臨時改定せよ ―
― 国の責任で生計費と専門性にふさわしい賃金水準に引き上げろ ―
国民春闘共闘 事務局長
黒澤幸一(全労連・事務局長)
ケア労働者の労働実態が深刻さを増しています。特に、医療や介護、障害福祉、保育などの職場の労働者の賃金が低水準に抑え込まれ、取返しのつかない程の人手不足を招いています。
国民春闘共闘・全労連は、25年秋季年末闘争の特別行動として「ケア労働者の大幅賃上げアクション」(9月~12月の4か月間)に全力をあげて取り組むことを決め動き出しています。すべてのケア労働者の大幅賃上げを!― 診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬を直ちに臨時改定せよ。国の責任で生計費と専門性にふさわしい賃金水準に引き上げろ ―を中心要求に、その実現をめざします。ケア労働者を組織する単産(日本医労連、福祉保育労、自治労連、全労連・全国一般、生協労連、建交労、全農協労連)はもとより、他産業の仲間、すべての地方・地域の仲間に提起します。「地域と公共をまもる」この特別行動に一丸となって取り組みましょう。
1、深刻さを増すケア労働者の実態
春闘の賃上げ推移を10年分集約しグラフにしました。25年春闘で他産業では1万円(改定率4~5%)を超える賃上げとなっているなか、医療職では6,470円と極端に低いまま推移していることがわかります。24春闘で10,161円(改定率3.5%)を記録していますが、これは「ベースアップ評価料」の新設で一時的に加算されたもので、25春闘では例年水準に戻っています。福祉・介護職では、25年春闘で11,156円(改定率3.46%)の賃上げを記録していますが、これも、福祉保育労などの保育労働者の制度改善闘争で24年に公定価格を10.7%引き上げさせ、職場での賃金闘争で経営者と交渉して2万円、3万円といった大幅な賃上げを実現させたことを反映したものです。残念なことに、介護職に限っては、日本医労連の25春闘最終集計でも4,510円(改定率1.92%)と極めて低水準のまま推移しているのが実態です。
また、全労連が2024年10月1日~12月31日に6,353人の介護労働者を対象として調査した「介護労働実態調査」では、介護職場の賃金は、月額平均249,585円で、他産業と比較して11万円低いことが明らかになっています。
さらに、ケア労働者の職場では、「年末一時金が昨年より11万円もカットされた」(医療職場)など、実質賃下げとなる事態が続いています。パートで働く非正規雇用のケア労働者などは、最低賃金ギリギリの低賃金で働いている人も少なくなく、この物価高騰の中で生活がひっ迫しています。均等待遇を求めるたたかいが求められます。同時に、ケア労働者の多くは女性労働者です。夜勤労働も多く人手不足は、長時間・過酷な労働に拍車をかけています。すべての労働者が働き続けられる職場をつくるたたかいが求められます。

2、物価高騰や人件費増を反映しない公定価格
イスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への人道なき攻撃の長期化など、中東での戦争を背景に、2020年から原油の急激な高騰が世界的インフレを招き、日本でも物価高騰が4年以上に渡り続いています。そして、日本の労働者の賃上げは、実質賃金をプラスに転嫁するまでには引き上げられていません。
物価高騰や低賃金は、人手不足に拍車をかけると同時に、病院や介護事業所の倒産・閉鎖を招き、地域の公共の破壊につながっています。その背景には、ケア労働者の賃金の原資となる公定価格(診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬など)が物価高騰や人件費増を加味したものとなっていないことがあります。2年に一度の診療報酬改定の推移をみても、2020年改定はマイナス0.46%、2022年改定もマイナス0.94%、2024年改定でマイナス0.12%と2016年以降10年間にわたってマイナス改定が繰り返されています。日本医師会と6病院団体は今年3月「地域医療は崩壊寸前!69%の病院が赤字」と声明を発表、自治体病院協議会は今年8月に「全国の自治体病院の9割が赤字」であることを明らかにしています。
地域医療・介護の崩壊は、その地域に住み続ける住民のいのちと権利を奪い、生活を破壊するものです。物価の高騰が追い打ちをかけており、来年4月の診療報酬改定、27年の介護報酬や障害福祉サービス等報酬の改定を待たずに、この秋にも臨時の改定を行うことを強く求めていきます。

3、要求実現へたたかいの3つの方向性
「ケア労働者の大幅賃上げアクション」のたたかいの3つの方向性を提起します。
(1)賃上げを優先して実現させる
一つは、「すべのケア労働者の賃上げを優先して実現させる」ことです。賃金不足が人手不足を招き、医療や介護の継続を困難にしています。賃金不足が解消されなければ、新たな人の確保どころか、働き続けることすら困難になってしまいます。「公定価格が上がらなければ賃上げは実現しない」との見方が強くありますが、賃上げを優先して行わせなければ、経営者も必要な原資の確保のために政府に働きかけようとはしませんし、政府も公定価格を引き上げることはしないのがこれまでの教訓です。使用者に対する労働組合の交渉と、世論に訴える社会的な賃金闘争の両方の力によってこそ大幅な賃金引き上げを実現させることができます。この秋は、年末一時金の大幅引き上げも前面に掲げてたたかいましょう。
(2)社会的な世論を味方にたたかう
二つには、「公共の再生として、社会的な世論を味方にたたかう」ことです。繰り返しになりますが、地域医療・介護が立ち行かなくなれば、その地域に住み続けることはできません。愛知県立大久保田貢教授は、新自由主義は「資本が富の再構築をするためのイデオロギーや運動」であり、大企業が優位になって富を蓄積するために市場競争を活性化させ、市場評価システムをつくっていると指摘しています(月刊全労連2025年9月号)。大型店規制法の規制緩和によって、ショッピングモールが増え、地域の小売店は淘汰されました。学校にまで市場原理が導入され、学校の統廃合が加速度的に進められました。医療では、「病院機能評価機構」が設立され、第三者評価によって地域医療の淘汰が進められました。公立学校教員には、教職員評価システムが導入され、賃金や人事が左右されてきています。久保田教授は、「賃金が下げられ、病院経営を苦境に陥れているのは、政府と厚生行政の責任であり、病院が悪いのでも、医療労働者に責任があるのでもない」と指摘しています。ケア労働者の賃上げアクションは、新自由主義経済に対峙する公共の再生のたたかいです。地域住民の力を味方に暴政を変えるたたかいとして位置付けてたたかいます。
(3)労働組合の仲間を増やし、当事者自らが声をあげたたかう
三つには、「労働組合の仲間を増やし、当事者自らが声をあげたたかう」ことです。このアクションを通じて、どれだけ多くの組合員が自らのたたかいとして立ち上がり展開できるかで、すべての運動の水準が決まります。労働組合のプロや地域住民の活動家が必死になって動くだけでは、このたたかいを勝ち切ることはできないばかりか、次のたたかいにつなげることができません。現場の組合員、地域のケア労働者との「対話と学びあい」を丁寧に行い、エンパワーメントでその人達の力を引き出しましょう。そして、まだ、労働組合にアクセスできていない、近隣の医療機関、介護事業所、福祉や保育施設などで働く未組織労働者とつながり、「医療・介護を守るために、労働組合に入っていっしょに『賃上げ交渉しよう』『声をあげよう』」と対話しましょう。このことを正面から提起したいと思います。
4、要求と行動提起
【主要な要求】
・来年の診療報酬改定や2027年4月の介護や障害福祉サービス等報酬の公定価格改定を待たずに臨時改定し、この秋、直ちに賃上げ対策を講じること。
・賃上げは生計費や専門性にふさわしい水準に引き上げることを、政府、自治体、使用者に求める。
【行動提起】
① 医療や介護、福祉労働者を組織する単産・単組が主体となって、各地方・地域組織にケア労働者を守る要求と行動を持ち込み、地方地域・組織がハブとなって、他産業・地域の仲間と大きな活動をつくる職場と地域一体の行動をつくります。これは、全教が先に展開した「定時退勤アクション」を大きく成功させた経験を生かす行動提起です。
② 地域での最低月一回の宣伝行動を提起します。職場のある地域で組合員参加と地域や他産別の仲間と成功させましょう。
③ 年末一時金交渉やストライキ行動などの支援を地域一体で取り組みましょう。
④ 9月25日、東京・日比谷野外音楽堂での「9.25いのちまもる総行動」に参加しましょう。
⑤ 政府、自治体・議会への要請行動を全国で展開します。
⑥ 「ケア労働者の大幅賃上げ」を求めるチラシやプラスター、横断幕を活用しましょう。
おわりに
最初に明記したように、ケア労働者をめぐる事態は深刻です。国民春闘共闘・全労連は2020年コロナ禍の中で、ケア労働者の命をまもることで地域住民の命をまもろうと「いのちまもる緊急行動」を展開し、一万人を超える「菅首相への手紙」、60万筆を超えるいのちまもる署名を集めるなど、政府に対して対策を求めてきました。今般の事態は、この時に匹敵する危機的な状況です。
私たちに求められる行動は、組合員参加と新たなたたかう仲間を獲得し広げることです。職場や地域で小さな集まりを持つことからはじめ、「対話と学びあい」で一つ一つ丁寧に積み重ね、大きな運動をつくり上げること、広く社会に訴え、地域住民の力を味方に社会的な世論形成をはかりケア労働者の賃上げを実現しようではありませんか。
以上
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