全国一律最賃と賃金引き上げに向けた中小企業政策の提言

2026年04月
全国労働組合総連合
全労連は、2014年4月に「中小企業支援の拡充と最低賃金の改善による経済好循環の実現を」と題する提言を行った。15国民春闘では、最低賃金・公契約・公務賃金改善など「社会的な賃金闘争」を大きく位置づけ、新たに「全国一律最賃制の実現を求める法改正署名」を開始した。15年秋からは法改正署名のとりくみを通年化するとともに、「地域活性化大運動」を提起し、賃金の底上げと中小企業支援の抜本的な強化を重点に、地域の労働組合や経済団体、商店街をはじめ諸団体との対話・懇談運動などを推進してきた。
2016年7月に開催した第28回大会では、「全国最賃アクションプラン」を策定し、全国一律最賃制の創設に向けた集中的なとりくみを展開した。2023年にはランク制の見直しが行われ、4ランクから3ランクへと縮小された。また、2024年の最低賃金改定では、最高額と最低額の格差が一気に8円縮まるなど、地域間格差の是正に対する地方の強いメッセージが示された。その後政府は、2020年代に加重平均で1500円の達成を目標に掲げた。2025年の最低賃金改定では、中央最低賃金審議会はCランクの目安額をA・Bランクよりも1円高く示し、地域間格差の是正に向けた姿勢を示した。
2024年の総選挙では、主要政党から賃金引き上げの必要性が語られるなど、全労連の粘り強いとりくみの成果が現れている。しかし、全国一律最低賃金制の実現には、多くの壁が立ちはだかっている。2025年10月には、高市首相が2020年代に全国加重平均1,500円をめざすとした政府目標の見直しに言及した。経済成長に合わせた引上げにとどめるとしており、政府目標を大きく交代させた。なお、最低賃金が低い水準の県では、人口流出に対する危機感から引上げの必要性を訴えるとともに、中小企業支援の強化に対する強い要望が出されている。
労働者の賃金は春闘によって引き上げられつつあるが、実質賃金は依然としてマイナスが続いており、労働者全体の賃金をいっそう引き上げていくことが求められている。そのためには、全国一律最賃制を確立させて多数の労働者の賃金を引き上げ、地域経済の好循環を図ることが必要だと考える。
労働総研が2023年2月に発表した「最低賃金が全国一律1500円になったら 生活はどう変化し、経済はどう変わるか」よれば、国内生産額が17.9兆円増加し、粗付加価値額が10.5兆円増加するとされている。また、新たに105万人の雇用増加をもたらすとしている。これにより、雇用者報酬の増加をもたらし、税収も2兆円余の増加をもたらす。
こうした点をふまえ、2022年4月に取りまとめた「最低賃金の改善、中小企業支援の拡充で地域経済の好循環を」と題する中小企業支援の提言をバージョンアップすることとした。
ついては、本提言が関係各所で活用され、価格転嫁と公正取引で中小企業と地域経済の活性化が図られるような政策の実現をめざす。
Ⅰ 価格転嫁と公正取引の実現
政府は、最低賃金について2020年代に加重平均で1,500円を目標としているが、2025年の改定により、加重平均は1,121円となった。政府目標の達成には、少なくとも毎年10%を超える引上げが必要となる。
内部留保など資金力のある大企業は対応可能だと考えるが、価格決定権を持たない中小企業では、価格転嫁できなければ経営を圧迫し、雇用に影響を及ぼしかねない。こうしたことから、価格転嫁が可能な取引を実現させることが欠かせない。
政府は、労務費の引き上げにともなう価格交渉を推奨し、交渉に応じていない企業名の公表などを行っているが、取引の中止を恐れ、交渉できていない企業も多い。また、価格転嫁の交渉が短期間でまとまることはまれであり、価格転嫁できるまでの間、原材料費の上昇や労務費の上昇に耐えることができるだけの経営力・資金力も欠かせない。加えて、賃金に関する指標がないことから、賃金財源の確保を理由とした価格交渉は事実上困難だと言われている。
資金的な支援策に対しては、助成制度などについて後述するが、価格転嫁に向けた公正取引の実現に向け、全労連は次のようなとりくみを呼びかける。
①政府に対し、法的な制度改善を求める。具体的には「取適法」「独禁法」「フリーランス法」についてであり、詳細は以下のとおり。
②経営者に対し、労務費の上昇にともなう取引価格の引き上げについて交渉を行うよう要求する。
③発注者である企業・行政機関に対し、受注者の労務費について把握を行うよう求め、適正な価格での発注を行うよう要求する。
④業界団体に対し、不当廉売の禁止、労務費の上昇にともなう単価引き上げ交渉への誠実な対応など、ガイドラインの作成などを行うよう要請する。
1.中小受託取引適正化法及び受託中小企業振興法の履行とさらなる改正
2025年の第217国会において、政府は中小企業における賃上げ実現に必要な価格転嫁を推進するため、協議を行わないままでの代金の決定及び支援の対象となる事業者の範囲の拡大等を図るため、「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払いの遅延等の防止に関する法律」に名称も変更する「下請代金支払遅延等防止法の改正法案」を提出した。
国会では、衆参両院での審議により5月16日に可決・成立し、23日に公布された。
改正法により次の点などが追加・修正された。
1.規制の見直し
①対象取引において、代金に関する協議に応じないことや協議において必要な説明又は情報の提供をしないことによる、一方的な代金の額の決定を禁止
②対象取引において、手形払を禁止。また、支払期日までに代金相当額を得ることが困難な支払手段もあわせて禁止
③運送委託の対象取引の追加
④従業員基準の追加(従業員数300人(役務提供委託等は100人)の区分を新設し、規制及び保護の対象を拡充
⑤関係行政機関による指導及び助言に係る規定、相互情報提供に係る規定等を新設
2.振興の充実
①多段階の取引からなるサプライチェーンにおいて、二以上の取引段階にある事業者が作成する振興事業計画に対し、承認・支援できる旨を追加
②製造、販売等の目的物の引き渡しに必要な運送の委託を対象取引に追加
③法人同士においても従業員数の大小関係がある場合を対象に追加
④国及び地方公共団体が連携し、全国各地の事業者の振興に向けた取組を講じる旨の責務と、関係者が情報交換など密接な連携に努める旨を規定
⑤主務大臣による指導・助言をしたものの状況が改善されない事業者に対して、より具体的措置を示して改善を促すことができる旨を追加
3.「下請」等用語の見直し
①「下請事業者」を「中小受託事業者」、「親事業者」を「委託事業者」等に改める
②法律の名称について、「下請代金支払遅延等防止法」を「製造受託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に、「下請中小企業振興法」を「受託中小企業振興法」に改める
4.2026年1月1日から施行する
以上をふまえ、改正法の履行とともに以下の点についてさらなる改正を求める。
(1)独占的市場では、受注者が優位な立場に立つとも考えられるが、競争市場では、発注者が圧倒的に優位な立場に立つことから、資本金・従業員数などの区分をなくし、すべての企業間取引を規制する法律とすべきである。
(2)労働法が規制する中間搾取というべき重層下請構造がつくられているが、何らの製造・役務を行うことなく、別企業に丸投げするような事例があることから、何らの製造等を行わない企業に対する受注禁止条項を導入すべきである。
(3)買いたたきを防止するため、第三者機関もしくは公正取引委員会による仲裁・あっせん機構を整備すべきである。
2.「独占禁止法」の改正
独占禁止法の目的は,公正かつ自由な競争を促進し,事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることとされている。その上で、独占禁止法は次のことを定めている。
(1)公正取引委員会は、違反行為をした者に対して、その違反行為を除くために必要な措置を命じること。
(2)私的独占、カルテル及び一定の不公正な取引方法については、違反事業者に対して課徴金を課すこと。
(3)カルテル、私的独占、不公正な取引方法を行った企業に対して、被害者は損害賠償の請求ができること。この場合、企業は故意・過失の有無を問わず責任を免れることができない(無過失損害賠償責任)。
(4)カルテル、私的独占などを行った企業や業界団体の役員に対しては,罰則が適用されること。
こうしたことから、国や自治体などによる行政機関が行う公的なすべての国民が享受すべき事業は独占が認められるが、それ以外は競争が原則となる。
2025年11月、東京都交通局による談合発注の疑いで公正取引委員会が立ち入り調査を行ったが、多数の企業とそこで働く労働者があってこそ競争が成り立つ。人口減少による人手不足が深刻化していることから、国や自治体業務の民営化などではなく、公務による直接運営を拡大すべきである。
また、労働組合では、企業間の競争環境を公平なものとするため、労働者の賃金について事業者団体と協定することがある。したがって、労働組合との賃金協定など労働条件に関する協定はカルテルではないことを明確にすべきである。加えて、規模30人以下の零細業者が適正価格維持のため、労働組合と締結した賃金協定と連動した価格協定については、独占禁止法の「カルテル」の適用除外とするよう改正を求める。
3.フリーランスの保護強化にむけて
2024年11月1日から施行されたフリーランス法は、個人で働くフリーランスに業務委託を行う発注事業者に対し、業務委託をした際の取引条件の明示、給付を受領した日から原則60日以内での報酬支払、ハラスメント対策のための体制整備等を義務付けた。
多くの企業が労働基準法をはじめとする法の保護が及ばない雇用によらない働き方を増加させている。法を潜脱するものであり、雇用によらない働き方への安易な契約変更は許されない。フリーランス保護法は、労働法の保護が及ばない者を保護する一面があるが、労働者性が強いことから、さらに規定を強化することが求められる。
法の取引の適正化に係る規定については主に公正取引委員会及び中小企業庁が、就業環境の整備に係る規定については主に厚生労働省がそれぞれ執行を担っている。
改正された「下請法」(公正取引委員会は、今後「取適法」としている)は、資本金関及び従業員数の格差による親子関係を規定しているが、フリーランス法は受注者が個人である場合の取引などについて規制するものであり、労働者性が高い者を保護するものとなった。しかしながら、あくまでも事業者としての規制であり、経済的従属性が強いにも関わらず、労働者として扱われないために、労働者に対する保護よりも弱くなっている。
基本的には、労働基準法における労働者性の範囲について、経済的従属性の高さも判断基準に加え、労働組合法をはじめとする多様な労働者を保護する範囲を広げることが求められる。
なお、相談窓口が公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省と分かれており、わかりにくいことから、窓口の一本化などとともに相談体制の拡充整備を求める。
Ⅱ 全国一律最低賃金制に向けた中小企業支援策
全国一律最低賃金制度の実現には、地域間格差の是正が欠かせない。2025年の最低賃金改定により、最高額の東京と1,226円と最低額の高知・宮﨑・沖縄1,023円との差は203円となった。依然として大きな格差があり、全国一律最低賃金制度の実現には、最低賃金額が低い県に対する助成制度は欠かせない。
中小企業団体との懇談やアンケートなどからは、特に要望が大きいのが社会保険料の負担軽減である。したがって、社会保険料について、企業規模によって負担割合を変化させることにより、小規模企業の負担軽減を図ることを提言する。
また、労務費の上昇などによる価格転嫁に向けた公正取引の実現には時間がかかることから、資金力の乏しい中小企業に対し、当面の資金を提供するなど、政府の支援策を充実させるよう求める。
1.中小零細企業に対する社会保険料の引き下げ
社会保険料は、医療・年金・介護・労働保険など、労使折半を基本とする保険料と公費により賄われている。なお、使用者だけでなく、労働者に対する社会保険料負担の大きさの問題もある。欧州では、労使折半ではなく、使用者割合を引き上げている国もあるが、医療・年金・介護などの社会保障については、国民すべて等しく享受すべきものであることから、加入している保険制度による差異が生じることは好ましくない。
したがって、公費負担割合を引き上げることにより、加入制度による差異の縮小と保険料負担の軽減をめざす。同時に、財源については、所得税の応能負担原則(累進課税制度の強化)の徹底と金融所得を含めた総合課税制度への転換を求める。また、法人税では、大企業などに対する控除制度の見直しをはじめとする課税強化を図る。
財務省財政制度審議会財政制度分科会の提出資料によれば、社会保障財源は保険料80.3兆円、国庫負担37.7兆円、地方負担17.0兆円の合計135兆円(2024年度当初予算ベース)となっている。そのうち、基礎年金については、保険料と公費で折半している。基礎年金は、20歳から60歳までの40年間加入して初めて満額支給となっている。現在、国民年金の保険料は、月額17,920円(2026年度)とされており、失業者や学生など収入が少ない者に重い負担となっている。全労連は、最低保障年金制度の創設を求めており、財源は全額公費で賄うべきとしている。こうしたことから、基礎年金にかかる財源をすべて国庫負担とすることにより、全体の保険料負担を軽減させる。
ちなみに、2024年度当初予算ベース厚生年金勘定から基礎年金勘定へ繰り出されている拠出金は約21.5兆円となっており、全額公費負担とした場合、厚生年金保険料の保険料収入が36.6兆円であることから、厚生年金保険料(掛金)を40%程度軽減させることとなる。
また、介護保険においても国と地方で財源の2分の1を賄っているが、「保険あって介護なし」とも言われていることから、公費負担を拡大させることが求められる。すでに国は、介護保険の第1号保険料について、国庫から595億円、公費で1,190億円を別枠で投入し、低所得者の負担軽減を図っている。こうした点も鑑み、国庫負担を4分の1から3分の1へ引上げ、都道府県・市町村は6分の1へ引き上げることにより、介護保険財源の保険料分を2分の1から3分の1へ引き下げる。なお、2025年度当初予算で介護にかかる国庫負担は3.7兆円であることから、負担引上げで必要となる額は4.9兆円となる。
社会保障財源の国庫負担増により、税財源の確保が問題となる。上述したことにより、国庫から22.7兆円の財源を確保しなければならない。
国公労連の「税制改革の提言」(2025年版)によると、大企業優遇税制を廃止した上で、大企業、連結法人、通算法人の法人税率を1999〜2012年の税率である30%にすれば、現在の税収からさらに約16兆円の財源が得られ、所得に応じた超過累進税率(最大43%:1984〜87年の法人税率)にした場合、得られる追加財源は約37兆円としている。
大企業の内部留保が積み増しされている現状から、大企業の負担能力は十分にあり、社会保障財源を確保することは可能である。
これらをふまえ、社会保険料について、国庫負担の拡大による保険料負担軽減を図った上で、以下のとおり企業規模に応じたものに転換するよう求める。なお、企業規模は、中小企業基本法に基づく分類による(別添資料参照)。
- 大企業 保険料のうち使用者負担の保険料率に10%を上乗せして徴収する
- 中企業 保険料のうち使用者負担の保険料率に5%を上乗せして徴収する
- 小企業 保険料のうち使用者負担の保険料率を50%減じて徴収する
2.助成金制度の拡充
業務改善助成金については、予算の拡充や制度の周知が図られているが、いっそうの拡充とともに制度の周知を強化することが求められる。
なお、最低賃金の引き上げに関する自治体独自の補助金制度も創設されている。2024年に84円の引き上げとなった徳島県では、930円未満の最賃を980円以上に引き上げた事業所に対し、賃上げ支援事業として正規従業員一人あたり5万円、非正規従業員一人あたり3万円の一時金を支給している。群馬県では、「群馬賃上げ促進支援金」制度を拡充し、小規模な事業者で3%賃上げした場合、3万円を最大40人分まで支給できるとしている。なお、上限に達するまで複数回申請可能ともされている。このほかにも多くの自治体で助成金制度がつくられている。岩手県(中小企業者等賃上げ環境整備支援事業費補助金)をはじめ、富山県(富山県賃上げサポート補助金)、鳥取県(持続的な賃上げ・生産性向上支援補助金)などで多様なメニューがつくられている。
雇用に関する助成金では、非正規労働者の正規化を行った場合に支給されるキャリアアップ助成金(正社員化コ-ス)や有期雇用労働者の賃金を3%以上アップさせた場合に支給されるキャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)などがある。ただし、最低賃金の大幅引き上げに対応したものではない。
※①女性非正規雇用労働者の所定労働時間1時間当たりの賃金(時給)を50円以上増額改定した場合 5万円/人を支給
さらに、100円以上増額改定した場合には、5万円/人を加算
※②女性非正規雇用労働者を正規雇用労働者に転換した場合 10万円/人を支給
さらに、対象労働者が就職氷河期世代に該当する場合には、10万円/人を加算
以上をふまえ、業務改善助成金について、以下の点を改正するよう求める。
(1)支給対象を設備投資ではなく、引き上げた賃金そのものとすること
(2)支給要件から生産性要件を削除すること
(3)支給手続きを簡素化すること
(4)助成金の支給方法として、賃上げ前に支給を可能とし、一定期間の経過後に精算する制度を創設するなど、資金力の乏しい中小零細企業に配慮した制度とすること
3.税制改正など
(1)消費税法の見直し
消費税の引き上げにより、中小零細企業の廃業などが相次いでいることから、速やかに税率を5%に引き下げ、廃止をめざす。
同時にインボイス制度の廃止を求める。なお、当面は現行の特例措置を継続させること。
(2)「賃上げ促進税制」
賃上げを実施する企業に対する税制上の優遇措置として、「中小企業向け所得拡大促進税制」がある。雇用者給与等支給額が前年度比より1.5%以上増加した場合、増加額の15%を税額控除できる。なお、前年度比で2.5%以上増加させた場合は、30%を税額控除できる。また、教育訓練費の増加や子育て支援制度による上乗せ要件も設けられている。
なお、法人税等から控除しきれなかった控除額は、5年間の繰越ができる。
さらに、奨学金の返還支援制度では、企業等が直接学生支援機構に送金することができ、給与として損金算入できるとともに、賃上げ促進税制の対象に含めることができる。なお、返還額は所得税を非課税とすることや社会保険料の報酬に含められない。
制度は、2027年3月31日までの制度となっているため、恒久的な措置とするよう求める。
(3)事業承継税制など
① 法人版事業承継税制
本制度は、2027年9月30日までに特例事業承継計画届を提出し、2027年12月31日までに申請しなければならない時限措置とされているが、期間の延長もしくは恒久化を図るよう求める。
② 個人版事業承継制度
本制度は、2028年3月31日までの時限措置とされている。法人版事業承継制度と同じく、制度の恒久化を求める。
Ⅲ 行政体制の拡充
中小零細企業で働く労働者の労働条件を維持・向上させるには、対等な取引が可能となるような環境をつくらなければならない。基本的に、発注者が優位にあることから、不当な取引が行われないよう行政による監視機能や相談体制を拡充することが求められる。
それだけではなく、行政機関の体制拡充だけではなく、連携を強化し、発注者による不当な取引を摘発し、是正させることが求められる。
また、大企業に対する法令遵守に対する指導を強化することが求められる。
1.中小企業庁の体制拡充
フリーランス法の施行により、対象となる取引が大幅に増加しているが、体制拡充は不十分なままとなっている。約336万社の中小企業政策を担う中小企業庁の職員数は200名のみであり、各地域で企業支援する地方出先機関の地方経済産業局は、全国で9カ所にすぎない。出先機関の拡充とともに、人員を大幅に増員する必要がある。
また、下請取引調査員(下請Gメン→今後は「取引Gメン」)の職員数が増員されてはきたが、依然として不足している。さらに体制を倍化し、公正な取引環境を整備することが求められる。
さらに、調査権限を有する検査官を大幅に増員することが求められる。
2.公正取引委員会の体制拡充
地方事務所が全国に8カ所設置されているが、それぞれの管轄地域が広く、人員は少ない。公正な取引環境を醸成するためにも、体制の拡充を図ることが求められる。少なくとも職員数を倍化させること。
特に、中小企業庁と同様、調査権限を有する検査官を大幅に増員することが求められる。
3.労働行政の体制拡充
労働基準監督官の職員数が圧倒的に不足している。体制を拡充し、不適正な事例について関係省庁との連携を密にし、公正な取引環境の醸成に努めることが求められる。そのため、労働基準監督官の職員数を現行よりも3倍化以上させること。
Ⅳ 地域における中小企業支援政策の拡充
地域経済を活性化させるため、政府・自治体に対し、以下のとりくみを進めるよう求めるとともに、地域経済循環に向けた長期ビジョンを別紙のとおり提示する。この政策は、とりわけ地方都市で深刻な人口減少に伴う人手不足対策も勘案した長期的ビジョンとして提示する。
1.中小企業振興条例の制定
中小企業振興条例の制定が進展(理念条例を含む)しているが、中小企業振興、地域経済の活性化の施策を具体化する「円卓会議」を設置するなど、実効性の担保が課題となっている。
そのため、自治体による中小企業への発注等を義務づける等の対策を図るため、引き続き、すべての自治体で中小企業振興条例が制定されるよう求める。
2.「公契約法」ならびに「公契約条例」の制定
国などが行う契約、調達、役務などでは、従事する労働者の賃金についての考慮はなされておらず、入札が繰り返されることにより、当該事業に従事する労働者の賃金が低水準、最低賃金水準に据え置かれ、官製ワーキングプアの温床との批判がなされている。また、事業者からも健全な経営が成り立たないとの批判もされている。
地方自治体では、公契約条例を制定し、労働者の賃金水準や経営に対する配慮を行うところが増加している。しかし、依然として多くの自治体及び国においては、財政事情を理由とした低価格での落札が相次いでおり、労働者の賃金が低水準に据え置かれるなど問題は山積している。「公契約法」並びに「公契約条例」の制定とともに、労働報酬下限額の設定を行うよう求める。
3.中小企業への優先発注
官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律第4条「国は、毎年度、国等の契約に関し、国等の当該年度の予算及び事務又は事業の予定等を勘案して、中小企業者の受注の機会の増大を図るための基本的な方針を作成するものとする」を実践することが求められる。
具体的には、低価格入札を防止するため、発注単価の計算に最低制限価格を必ず導入する。その積算においては、従事する労働者の労働時間を勘案するものとし、国において発注単価を示すこととする。
また、公共事業の発注においては、地方自治法施行令に基づく「地域要件」の設定を行う発注事業を50%以上とする。さらに、「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律」による中小企業者の受注機会を確保するため、80%以上の受注機会を確保する。
なお、国・自治体などが発注する場合における入札参加資格において、中小企業が参加できる範囲を拡大するため、分割発注を増加させるとともに、設定金額の引き下げを求める。
4.地域金融機関による経営支援
地域金融機関による経営支援は融資制度にとどまらず、地域と一体となった経営支援策をとることが求められる。
しかし、自己資本比率による金融機関規制が強められ、地域金融機関の経営を追い詰め、支店の統廃合や地域金融機関の合併などが金融庁によって強制的に進められてきた。
最低賃金の引き上げは、中小零細企業の経営に多大な影響を与えることから、密接な関係にある地域金融機関を強化・重視した金融政策を展開することを求める。
具体的には、中小零細企業や個人事業主を対象に、賃上げに際して必要となる手元資金を低利もしくはゼロ金利で貸し付ける融資制度が考えられる。また、取引先との価格転嫁交渉などをはじめとする経営支援について、相談体制を拡充することが求められる。
以上
地域経済循環の実現に向けた産業政策(補論)
人が暮らし、働き続けることができる地域には、エネルギー・食料・ケア産業なくして語ることはできない。いかに地域ごとに自立させていくかが課題である。そのことが気候危機打開にもつながるものであり、持続可能な社会を実現させることでもある。
「世界がもし100人の村だったら」という書籍が世界的に広まったのは、2001年頃であるが、これらも参照にしつつ、地域に欠かすことができない産業を提示し、過度な競争を排し、公正な取引環境の醸成や民主主義社会として必要なシステムなどを提示したい。
1.地域社会に欠かせない産業とは
地域社会の欠かせない産業は、人が生きていくために必要な食料やエネルギーの供給を行う産業であり、平時においても災害時などにおいても、いのちを守るために必要な産業だと考える。また、例えば除雪が必要となる寒冷地など、自然環境によって必要な産業が加わることにも注意を要する。
地域に欠かせない産業は、次の産業分類表のうち、太字・下線を引いたものと考える。
| コード | 産業名 |
| A | 農業、林業(2) |
| B | 漁業(2) |
| C | 鉱業、採石業、砂利採取業(1) |
| D | 建設業(3) |
| E | 製造業(24) |
| F | 電気・ガス・熱供給・水道業(4) |
| G | 情報通信業(5) |
| H | 運輸業、郵便業(8) |
| I | 卸売業、小売業(12) |
| J | 金融業、保険業(6) |
| K | 不動産業、物品賃貸業(3) |
| L | 学術研究、専門・技術サービス業(4) |
| M | 宿泊業、飲食サービス業(3) |
| N | 生活関連サービス業、娯楽業(3) |
| O | 教育、学習支援業(2) |
| P | 医療、福祉(3) |
| Q | 複合サービス事業(2) |
| R | サービス業(他に分類されないもの)(9) |
| S | 公務(他に分類されるものを除く)(2) |
| T | 分類不能の産業(1) |
以上に示した産業を振興し、従事者を確保しなければ、地域が衰退し、人口減少へとつながると考える。当然だが、従事者の労働条件はその職務にふさわしいものでなければならない。公的性格が強い産業は、市場競争主義ではなく、公的な産業とすることも考えなければならない。公務は、産業の独占が許されるが、議会による民主的コントロールが行われることが前提である。
市場による競争を基本とするにしても、過度な競争を避けることも必要である。また、当該産業に必要不可欠な業務を分社化(製造業の構内下請など専ら下請)することなどは、従属性が強いことから、本来は企業の一部であるべきであり、分社化などの重層下請構造には何らかの制限を加えることも検討する必要がある。
2.地域社会に欠かせない産業の具体的なあり方
(1)農業
人間は、生きていく上で食糧を確保できなければ生き続けることができない。「食料主権[1]」が叫ばれる中、地域循環型経済でも農業は重要な位置を占める。したがって、農業に従事する住民を確保するとともに、地域で耕作地を確保することが求められる。
農林水産省の「農林業センサス」などによると、基幹的農業従事者数は2000年に240万人であったものが、2024年には111万4千人と半減している。また、農地面積では2000年に483万㏊であったものが、2024年には427万ヘクタールへと減少している。
農林水産省の「食料・農業・農村白書(令和6年版)」では、農業の基幹的従事者が20年間で半減し、高齢化が進展していると述べている。その上で、「農地を保全し、集落の機能を維持するためには、地域の話合いを基に、担い手への農地の集積・集約化を進めるとともに、農業を副業的に営む経営体等の担い手以外の多様な農業者が重要な役割を果たしていることも踏まえ、これらの者が農地の保全管理を適正に行うことによって、地域において持続的に農業生産が行われるようにすることが必要」だとしている。
いっぽうで、「販売農家数と自給的農家数の減少に比べ、土地持ち非農家数の増加は相対的に抑えられており、このことから地域に在住していない土地持ち非農家の増加が懸念されています。地域に在住していない場合、地域の農業委員会が通常の活動で土地持ち非農家に接触することが困難であり、地域の農地を適切に利用していくためには、実態の把握を進めていく必要があります」とも述べている。
地域に在住していない土地持ち非農家ではなく、地域に在住する担い手を増加させなければ、地域社会の発展にはつながらない。また、農業経営が安定しなければ、持続することはできない。
中山間地域が多い日本では、大規模な耕作地を確保することが難しく、アメリカやオーストラリアとは比べものにならず、価格競争力で太刀打ちすることはできない。しかし海外からの食料輸入に頼るのではなく、自給率を高め、地産地消を基本に据えることで気候危機打開につなげることが必要と考える。
以上をふまえ、少なくとも現在の耕作地を維持することをベースに、耕作面積あたりの収穫量引上げや後継者の育成が可能となるよう、一人あたりの耕作地面積を2000年頃の水準に戻すことをめざす。
(2)建設業
建設業は、住まいをつくり、維持するためだけでなく、インフラの整備とも密接に関連する産業である。災害が発生した際には、復旧・復興に欠かせない産業であり、日常から防災のためにも必要不可欠な産業でもある。
大規模な橋梁やトンネル工事などは国家的プロジェクトだが、生活道路の維持管理など、地域ごとにきめ細やかな対応が求められる事業は多い。地政学的な面や気象条件などによっても必要な職種に違いがあるものの、建設業の必要性は高い。
石川県の能登半島地震では、孤立した集落に居住する建設労働者が存在したことにより、他地域に先駆けて自力で生活道路を復旧させ、水道などの復旧作業を進め、被災者が力を合わせて地域での最低限の生活を取り戻した事例がある。
住まいが確保されなければ、生業の再建もままならないことから、地域の実情に応じた建設業に従事する労働者を確保することが求められる。
(3)電気・ガス・熱供給・水道業
エネルギーの確保等インフラの整備は、生き続けるために必要不可欠なものである。同時に、万人に等しく保障されることとともに環境保全が必要である。しかしながら現代日本では、ほとんどすべてが民営とされている。公的な性格が強く、いのちに関わるものであることから、これらの産業については公営とすべきである。
その上で、地域分散型として災害時などにおける復旧・復興が迅速に行われるようにすべきと考える。
なお、山間部など集落などから離れた場所に居住する住民の基本的人権を保障することも必要である。その際、架線の敷設などが困難なケース[2]も考えられることから、電気などのエネルギーが自給できるよう行政が支援することを基本とする。
(4)情報通信業
社会とのつながりを確保するためには、情報通信業は欠かすことのできない産業である。同時に、誰もが平等に使えなければならない。したがって、上述の「電気・ガス・熱供給・水道業」と同じく、公営であることが基本と考える。
なお、この産業は、全世界とつながる扉となるものであり、国家間の調整も必要な分野であることから、国による独占産業として運営されることが望ましいと考える。したがって、政府が予定しているNTT法の廃止には断固反対する。
その上で、災害時からの速やかな復旧・復興などが行えるよう地域ごとに拠点を設置することが望ましい。なお、災害への対応を考慮するとケーブルではなく、無線を活用する方法など、地理的な状況によって判断することが必要。
(5)教育・学習業
教育・学習は、国家百年の計であり、生涯学習の観点からも、重要なものである。
現行の教育制度をベースに国民の居住の自由などとも調和を図りながら、学校の設置を行うことが求められる。その際、学級人数についても考えておくことが必要である。日本は国際的にみて学級人数が多い。OECDの小中学校の平均学級人数は22人である。
また、世帯人数が縮小の一途をたどっている日本において、多人数のクラス運営はそぐわないといわなければならない。
少人数学級の運営を基本とすることにより、きめ細かい指導が可能となれば、塾などの補助的学習業の必要性を減らすことも可能となる。人口増となってきた時代においては、宅地開発などにより、クラス数が多い大規模校が生じてきたが、人口減少の今後においては、少人数学級に加えクラス数の上限を設けるなどして大規模校の設置を制限することも可能と考える。
地域においては、避難所などの重要な役割を果たす場所ともなっている。だからこそ、広い運動場など一時的に避難できる場所として、同時に、地域の要となる場所であるようにすべきと考える。
(6)医療・福祉
医療・福祉は、いのちを守るために必要不可欠なものであり、従事者を確保することは地域社会の維持に欠くことができないことである。従事者の割合について算定することは困難ではあるが、地政学的なことを考慮しつつ、医療体制を確立することが望ましい。
すべての診療科目がそろった総合病院について、都市部での集中を分散させ、国民が医療を受けられる権利のできる限りの機会均等を図る。
島嶼部や山間部などからの緊急搬送による経過時間を可能な限り短くできるよう配慮することも必要となる。
以上
[1] 「食料主権」が最初に国際舞台に登場したのは1996年で、1990年代から2000年代にかけて、食料主権運動(food sovereignty movement)が発展しました。そして2007年、マリのニエレニ(Nyéléni)で食糧主権国際フォーラムが開かれ、そのニエレニ宣言で、食料主権は「生態学的に健全で持続可能な方法で生産された、健康的で文化的に適切な食料に対する人々の権利、そして自らの食料と農業システムを定義する権利」と定義されています。
食料主権は、フードシステムをコントロールする権利を持つのは企業や市場ではなく、生産者・流通業者・消費者だということを強調する政治活動です。農業がより産業的になり、グローバルフードシステムにおいて大企業が支配力を強め、輸入品や加工食品に偏った食事になってきたことに対する反動として成長してきました。 食料主権運動の中心的な存在である、国際的な農民組織ビア・カンペシーナ(La Via Campesina)は、今ではさまざまな背景を持つ81か国2億人のメンバーを抱く規模にまで成長しました。
食料主権は、食料安全保障(food security)としばしば対比されます。最初はかなり違う性質のものではありましたが、互いの定義が変化してくるにつれ、相反しない概念になってきました。とは言っても違う部分はあり、食料安全保障は飢餓や栄養不良を理解するための説明的な概念やツールであり、食料主権は政治戦略が付随する点が異なるとも言われています。
[2] 山間部の場合、河川ケーブルを引くよりも、小規模な再生可能な発電システムを設置する方がコストがかからず、災害への対応も可能となることが考えられる。
社会保険料に関する計算書
2025年4月23日 財務省財政制度審議会配付資料より抜粋(金額は2024年度当初予算ベース)

令和3年経済センサス(活動調査より)
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令和5年賃金構造統計調査

■小企業 100人未満
従業者数 34,462,774人(5人未満を除く)
賃金 294,000円
■中企業 100人以上300人未満
従業者数 8,323,239人
賃金 311,400円
■大企業 300人以上
従業者数 9,084,295人
賃金 346,000円
■使用者負担保険料率
年金保険 9.150%
医療保険 4.76~5.175%(都道府県別)
介護保険 0.80%
労災保険 0.3~0.88%(業種別)
雇用保険 0.95~1.15%(業種別)
合計 15.96~17.155%
| 保険料率 | ||||
| 従業者数 | 比率 | 賃金 | 0.1596 | |
| 小企業 | 34,462,774 | 66.44% | 294,000 | 46,922 |
| 中企業 | 8,323,239 | 16.05% | 311,400 | 49,699 |
| 大企業 | 9,084,295 | 17.51% | 346,000 | 55,222 |
| 保険料引き下げ額 | |||
| 保険料総額 | 50% | 30% | |
| 小企業 | 1,617,076,066,738 | 808,538,033,369 | 485,122,820,021 |
| 引き下げ分補てん負担(大7:中3) | |||
| 中企業 | 413,660,317,286 | 242,561,410,011 | 145,536,846,006 |
| 大企業 | 501,649,304,772 | 565,976,623,358 | 339,585,974,015 |
| 従業者一人あたり保険料 | |||
| 中企業 | 29,143 | 17,486 | |
| 大企業 | 62,303 | 37,382 | |
| 保険料率換算 | |||
| 中企業 | 9.36% | 5.62% | |
| 大企業 | 18.01% | 10.80% | |
中企業の使用者負担分保険料率をおよそ1.5倍、大企業の保険料率を2倍に引き上げれば小企業の保険料率を50%引き下げるだけの財源を確保できる。
かなり大きな負担となるため、小企業の使用者負担を3割程度引き下げにすれば、中企業の負担は1.3倍、大企業は1.7倍程度となる。
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