全国労働組合総連合(全労連)

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事務局長の部屋

【月刊全労連連載】It’s Union Time「人間らしい生計費が焦点に」(2025年10月号)

2025/10/15
国際連帯
月刊全労連
賃金・最低賃金

「生計費」がキーワードとなっています。賃金が名目上は引き上げられようになり、その上げ幅が議論になっているのです。「物価の高騰分ぐらいの賃上げは仕方がない」とする経営側と、「それでは改善にはならない」とする労働者側のせめぎあいです。

最低賃金、物価上昇分ではまったく足りない

最低賃金の2025年改定の審議が8月末、大詰めを迎えています。

この審議でも、生計費をどう見るのかに注目が集まりました。最低賃金法は、その時々の労働者の「生計費」と「賃金」、事業の「支払い能力」の3点を考慮して決めます。ところが、最も重要であるはずの生計費のデータは、「物価が昨年よりもどれだけ変化しているか」が唯一と言ってもよい、極めて乏しいものなのです。今年の中央目安の審議では、食料品の物価は前年比で5%、「1ヵ月に1回程度購入」する生活必需品の物価は前年より6.7%高く推移していることを引き合いに、目安額を63円(6.0%)引き上げると示しました。中央最低賃金審議会のデータには、「標準生計費」という生計費が毎年示されていますが、生活できない低水準が標準とされ、その上、毎年乱高下するまったく信ぴょう性のない数字です。

今年審議会に示されたのは、2024年4月の標準生計費でした。4人世帯月額で、埼玉県が一番高く27万2540円(前年23万 3690円、13位)、愛媛県が一番低く16万4940円(13万8810円、47位)です。石川県は前年23万4490円で全国8位でしたが、今年は45位の17万2910円で、標準生計費が一年で6万1580円(26.3ポイント)も急に下がったと示されています。まったくでたらめです。

これはなにを意味するか? 最低賃金を決める際に、労働者の生計費が脇に置かれ、物価スライド分が労使合意できる材料として審査されているのです。本来は、人間らしい生活以下で労働者を働かせてはならないと経営者を規制し、低賃金の労働者の生活を守ることが最低賃金の一番の役割ですから、その視点からのデータが必要です。そこで、全労連は静岡県立大学短期大学部の中一准教授と、最低生計費試算調査の結果を採用するように求め続けているのですが、今年は大きな変化がありました。愛知県の審議会で愛労連の生計費試算調査結果が正式資料として採用されたのです。史上初です。新潟県では新潟県労連が特別に審議会で説明をしました。最低賃金1500円を早期に実現させる必要があるという政府も含めた社会的な合意のもとで、「最低生計費試算調査」に注目が集まっています

韓国には政府の「家計動向調査」がある

韓国では、政府が「家計動向調査」(いわゆる生計費調査)を毎年示していることを知りました。7月11日に韓国・民主労総(全国民主労働組合総連盟)が、韓国最低賃金審議にかかわる声明を出し、その中で「2024年の生計費は7.5%上昇したが、わずか2~3%台の引き上げ案を公益委員は妥協案として示した。労働者の現実を無視している」と抗議していたのです。
同時期、民主労総から全労連に2週間研修に来られていた、キム・ソンフン(法律院・総務局長)さんに調べていただきました。
韓国の「家計動向調査」は、非婚単身労働者の実態生計費を算出し、最低賃金委員会の審議の基礎資料として統計庁が1987年から調査しているものです。29歳以下の未婚単身労働者を対象に、いわゆる家計簿を6ヵ月連続で毎日記載し、6ヵ月の休憩期間の後、6ヵ月記載します。全国900調査区、7200世帯を対象として、約3000人分を分析しています。その結果、2023年度の韓国の未婚単身者1人の実態生計費は、245万9769ウォン(=日本円で約26万円)と割り出しています。韓国民主労総は、この2023年度結果から7.5%上昇に見合う最低賃金の引き上げを求めたわけです。
日本の政府にも調査を求めていきます。

ケア労働者の賃上げへ、生計費と専門性を見積もれ

ケア労働者の実質賃金低下が著しく社会問題となっています。人手不足に拍車をかけ、地域の公共性を維持することが次々にできなくなり、深刻な事態です。医療や介護、障害福祉、保育などの現場の収入源は、診療報酬や介護、障害福祉サービス報酬などの公定価格です。
ここでも、生計費が問題です。こうした公定価格でも、実績主義の審議しかないのです。病院が赤字になればその分は補填する程度の手当てで、そこに働く労働者の生活を人間らしい水準の賃金に見積もる発想が全くないのです。

やはり、人間らしく暮らすに足る賃金と、ケア労働者ではさらに専門性も加味させた大幅な賃上げ・底上げを求めて行かなければいけないと強く思います。そして、これは労働者が交渉しないと上がらないということを社会的に共有することが必要だと考えます。


この「人間らしい生計費の獲得」と「賃上げ交渉しよう」が、26国民春闘の焦点です。

(月刊全労連2025年10月号掲載)

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