全国労働組合総連合(全労連)

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「日本人ファースト」という言葉はやがて「非国民」という意味となり、日本人を選別する言葉の凶器となるであろうことを、歴史が証明している。

2025/07/15

戦時下、国家公務員はどのようなことを強いられたのかをご存知でしょうか?


今からは想像もできませんが、天皇の官吏として、「皇国納税理念」によって相次ぐ増税と新税を国民に強いることになり、異議を唱えた納税者を中庭に集めて、「非国民!」と一喝して追い返すということをさせられていたそうなのです。

昨今「日本人ファースト」という言葉に注目が集まっています。その差別的な言葉の刃の標的は外国人だけにとどまらず、「非国民」(~でない人間は、日本人ではない)という意味となって、「よい日本人」と「そうでない日本人」を選別するための言葉の凶器となるであろうということは、歴史が証明しています。

これからお読みいただく記事は、月刊全労連2025年8月号に掲載された、国家公務員らを組織する労働組合である国公労連の中央執行委員長が執筆した記事を編集したものです。


月刊全労連編集部

公務員は二度と「戦争の奉仕者」にはならない

国公労連は、一人ひとりのかけがいのない個人のいのちを国に戦争の道具として使わせることのないように、公務員が「戦争の奉仕者」になることを断固拒否し、「改憲」阻止と戦争する国づくりを許さないたたかいに全力をあげている。

なぜ公務員が「戦争の奉仕者」になることを断固拒否するのか。その理由は、戦時中の国家公務員が、国家の軍事政策を業務として遂行した深い反省にある。本稿では、戦後、被爆80年を機にその原点を探ることとする。

戦時中の国家公務員の仕事と役割

国公労連及び各単組には、歴史の節目に「労働運動の年史」が編纂されている。その中から戦時中の国家公務員の仕事と役割を拾ってみる。

▶日中戦争開戦翌年の1938年には「国家総動員法」が公布され、1940年には大政翼賛会が発足し、戦時動員体制のもと国家公務員は国民一人ひとりを監視、統制した。

▶国家総動員法にもとづく戦時労働政策は、軍隊の兵力動員と軍事工業への労働力の動員体制をつくりあげ、1941年の太平洋戦争勃発以降は、長時間労働の強制、賃金統制などを実施。労働力不足対処のため、政府は朝鮮人・中国人労働者の大量動員をはかった。

▶職場は戦争一色となった。戦争の進展は労働運動の圧殺であった。戦争の拡大にともない、官公庁の職場もすべてが軍隊式になり、省庁ごとに敵の攻撃にそなえて警防隊が組織され、職員はその訓練をうけた。「軍需工場に動員され、職員の大半は戦争にかりだされていった」(『全労働運動史』)のである。

▶「軍閥や支配階級の意に添う形で有罪判決を出し、知識層や学者、活動家に戦争協力を強要し、国民の目を塞いで、戦争にかりたてる役割を果たした裁判官も多数いた」(『全司法労働組合運動史』)という「天皇の裁判所」。戦争に反対する人々は憲兵と特高警察によって監獄へ放り込まれた。

▶当時の公務員は「天皇の官吏」として、民間人を圧していた。「官僚の作成した『皇国納税理念』によって相次ぐ増税と新税による徴税強行をもって国民に臨まされ、税金の異議申し立てに来た納税者を中庭に集めて、『非国民』と一喝して追いかえす」(『国税組合運動のあゆみ』)など職員の良心をマヒさせ、考えることも許されなかった。

▶当時の病院は陸・海軍病院。「病院・療養所の運営は、従業員も患者もまったく無権利の状態」「軍隊式のきびしい戒律と服従だけが強いられる」(『全医労50年史』)、看護婦(現在看護師)には赤紙の召集状が強要された。

▶戦中は、地図の刊行にも暗い歴史があった。軍事上重要な要塞地帯や周辺の地形図を「秘密図」として一般利用を制限、地形図の一部を空白に、もしくは削除した。戦況の苛烈化につれ、地形図の発売そのものが停止された。

▶1939年制定の軍用資源秘密保護法は、軍事上秘密を要する気象に関する重要な事項について罰則付きで漏洩を禁止し、「真珠湾攻撃の直後からは気象報道管制が実施され、天気図、天気予報は一切公表されなくなっていた」(新聞労連発行「しんけん平和新聞」創刊号)。終戦まで3年8ヵ月もの間、天気予報は公表されず、災害で多くの犠牲者を出した。

なぜ、国公労連が憲法「改正」反対運動をするのか

国家公務員は、現憲法の制定により、戦前の「天皇の官吏」から「国民全体の奉仕者」(第15条)へと変わり、国民の基本的人権実現を目的とする行財政・司法の業務に従事することになった。憲法が改悪され「戦争する国」になれば、国家公務員は前述のように「戦争の奉仕者」に変質してしまう。

組合員の中には、「憲法問題は政治課題」という意見がある。しかし、憲法はこの国のかたちを決める問題であり、ひとりの国民として意見の表明や選択をすべき課題である。

また、「労働組合は組合員の要求実現だけを」という意見もある。憲法はあらゆる法律の基礎であり、公共サービスの内容や範囲、労働者に保障される労働条件の基準に結びついている。たとえば、相次ぐ社会保障制度改悪などに見られる憲法第25条などの空洞化は、関連する業務に働く労働者の雇用や労働条件を不安定なものにしている。一人の国民としての立場で、平和と民主主義を守り、持続的で安定した社会をめざす「国のかたち」を求めることは当然である。また、公務員として、国の責任で社会保障などの確立の必要性を主張することは、憲法に沿った姿勢である。公務員労働者として、働く基盤である憲法擁護を主張することが、自らの労働条件改善につながるものと考える。

上記のような考えから、国民として、公務員として、公務員労働者を組織する労働組合として、国公労連は、改憲反対の運動を重視している。

国公労働運動の原点に立って

国公労働運動にとっての「原点」という場合、それは、今の国公労連の「ルーツ」ともいうべき全官労(全国官庁職員労働組合協議会、1946年9月結成)が掲げた綱領の中に見ることができる。その中心は、①国民生活擁護、②官庁と行政の民主化、③平和な日本の建設などの諸点にある。

これらの「原点」は、国公労連のスローガンである「二つの責任一つの任務」(国公労働者とその家族の利益擁護、国民全体の利益擁護を一体的に追求し、そのために国民的な共同を一貫して目指す立場)などに集約・継承されている。

2025年10月1 日に国公労連は、「国公共闘」より連合体化して結成されてから満50年を迎える。戦後、日本国憲法とともに誕生した公務員労働運動の歴史と伝統を受け継ぎ、戦後、被爆80年を迎えてこれからも国公労働運動の原点に立って、憲法擁護、平和運動を前進させていきたい。

日本国家公務員労働組合連合会中央執行委員長

浅野 龍一

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