2002年国民春闘共闘情報
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第57号  2002年8月08日

勧告史上初。本俸引き下げを強行

 02人勧  年収で平均15万円のマイナス

国公・公務労組連が抗議の座り込み

 写真

 人事院は8日、国家公務員の2002年度賃金等の改定について、史上初の「月例賃金引き下げ」を勧告しました。とくに月例賃金は官民格差がマイナス2.03%(7770円)になったことから、はじめて本俸の引き下げに踏み込み、配偶者手当を削減。さらに一時金を0.05カ月削減し、4年連続の切り下げを行いました。実施時期を4月に遡る(12月の一時金で精算)という不当なものです。年収ベースでみると、平均15万円(2.3%)の減収になるというきびしいものです。
 人事院はこのほか、地域における公務員給与の見直し、一時金にも能力・業績等が十分反映させることなどにも言及しています。一方、勤務時間の短縮等については具体的な改善策が示されておらず、「公務員制度改革に関する報告」を含め、公務員に負担と犠牲のみを強要する勧告になっています。
 公務の各単産と公務労組連絡会は、全国から3500人を結集した7月31日の中央行動につづき、8月6日から連日の炎天下、霞ヶ関・人事院前で250人規模の座り込み行動(写真)をつづけてきました。並行して行われた人事院交渉でこの内容が明らかになり、7日昼からは抗議の声が飛び交う座り込み行動になりました。この行動には国民春闘共闘、全労連、東京春闘共闘をはじめ、民間のJMIU、全労連全国一般、生協労連、建交労、全信労などの代表が激励に駆けつけました。8日、各公務単産・団体は声明や談話を発表し、勧告をきびしく批判しました。
 なお、公務員の賃金と来年度の年金支給額「物価スライド」が連動しており、人事院が「マイナス勧告」を強行したことにより、早くも「賃下げの悪循環」が動きだそうとしています。





 2002年勧告の主な内容 

 ◎本年の給与勧告のポイント
1) 官民給与の逆較差(△2.03%)を是正するため、給与勧告制度創設以来初の月例給引下げ改定
〜俸給表の引下げ改定及び配偶者に係る扶養手当の引下げにより措置
2) 期末・勤勉手当(ボーナス)の引下げ(△O.05月分)
3) 3月期のボーナスを廃止し6月期と12月期に再配分。併せて、期末手当と勤勉手当の割合を改定
4) 年間給与で実質的な均衡を図るため、不遡及部分については、12月期の期末手当の額で調整
〜平均年間給与は4年連続の減少(△15.O万円(△2.3%))

◎官民給与の比較

 約7,900民間事業所の約40万人の個人別給与を実地調査(完了率93.8%) 

〈月例給〉官民の4月分給与を調査(ベア中止、定昇停止、賃金カット等を実施した企業の状況も反映)し、職種、役職段階、年齢、地域など給与決定要素の同じ者同士を比較
〈ボーナス〉過去1年間の民間の支給実績(支給割合)と公務の年間支給月数を比較
○官民較差(月例給)△7,770円△2.03%[行政職…現行給与382,866円平均年齢40.9歳]

 俸   給 △6,427円 扶養手当     △618円

 はね返り分 △ 412円 特別一時金(廃止)  △313円


◎改定の内容
〈月例給〉官民較差(マイナス)の大きさ等を考慮し、これに見合うよう月例給を引下げ
1) 俸給表:すべての級のすべての俸給月額について引下げ
○行政職俸給表 級ごとに同率の引下げを基本とするが、初任給付近の引下げ率を緩和、管理職層について平均をやや超える引下げ率(平均改定率△2.O%)

行(一)の級別引下率(再任用を除く)
1・2 4〜7 8〜11
引上率(%) △1.7 △1.9 △2.0 △2.1 △2.0

○指定職俸給表  行政職俸給表の管理職層と同程度の引下げ(改定率△2.1%)
○その他の俸給表 行政職との均衡を基本に引下げ
2) 扶養手当 ・配偶者に係る支給月額を引下げ(16,000円→14,000円)
        ・子等のうち3人目以降の支給月額を引上げ(3,OOO円→5,OOO円)
3) その他の手当
○俸給の調整額 平成8年改正に係る経過措置を廃止し、新たな措置
〈期末・勤勉手当(ボーナス)〉 民間の支給割合に見合うよう引下げ4.7月分 →4.65月分
1) 3月期の期末手当で引下げ(△O.05月)
2) 民間のボーナス支給回数と合わせるため、3月期の期末手当を廃止し6月期、12月期に配分
3) 民間の支給状況等を踏まえ、期末手当と勤勉手当の割合を改定(15年度から)
(一般の職員の場合の支給月数)

  6月期 12月期 3月期
本年度期末手当 1.45月(支給済み) 1.85月(現行1.55月) 0.2月(現行O.55月)
勤勉手当 0.6月(支給済み) 0.55月(改定なし)
15年度期末手当 1.55月 1.7月 廃止
勤勉手当 0.7月 O.7月

[実施時期]給与水準引下げの改定であるため、遡及することなく、公布日の属する月の翌月の初日(公布日が月の初日であるときは、その日)から実施するが、4月からの年間給与について実質的な均衡が図られるよう、12月期の期末手当の額について所要の調整措置

◎地域における公務員給与の在り方
給与配分の適正化の観点から、俸給制度や地域関連手当等の諸手当の在り方について抜本的に見直し

◎公務員給与制度の基本的見直し
職員の職務一職責を基本にその能力・実績等が十分反映される給与制度を構築する必要

【その他】
・公務の活力を維持するため、実績を上げた職員に報いるよう、特別昇給や勤勉手当を活用する必要・独立行政法人化の一層の進行に伴い、その役職員の給与水準を国として把握することが必要





【参考】モデル給与例

      勧告前 勧告後 年間給与
      月額 年間給与 月額 年間給与 の減少額
係    員 25歳 独 身 189,210 3,158,000 185,600 3,090,000 △68,000
  30歳 配偶者 243,910 4,053,000 237,300 3,935,000 △118,000
係    長 35歳 配偶者、子1 328,010 5,523,000 319,700 5,370,000 △153,000
  40歳 配偶者、子2 367,210 6,178,000 358,200 6,011,000 △167,000
地方機関課長 50歳 配偶者、子2 490,690 8,155,000 479,360 7,946,000 △209,000
本府省課長 45歳 配偶者、子2 685,330 11,821,000 669,060 11,507,000 △314,000
本府省局長 1,148,000 19,576,000 1,123,360 19,076,000 △500,000
事 務 次 官 1,507,520 25,707,000 1,475,040 25,048,000 △659,000



公務員制度改革に関する報告の骨子

 人事院の果たしてきた役割と反省を踏まえつつ、現在進められている公務員制度改革が向かうべき基本的方向と今後改革を進めるに当たっての留意点等について意見を表明

1 公務員制度に対する国民の批判と課題

 行政の信頼確保のためには、国民の批判に正面からこたえることが出発点。セクショナリズム、キャリアシステム、退職管理(天下り)、年功主義などの是正を改革の共通認識とする必要

2 公務員制度改革が向かうべき基本的方向

○国民全体の奉仕者としての公務員の確保・育成
・知識より問題設定能力、多角的考察力を重視する採用試験改革
・退職管理の内閣への一元化と在職期間の長期化
・具体的な数値目標の設定などによる幹部公務員の人事交流の推進
・不祥事の防止、国民全体の奉仕者としての意識を徹底する研修 等
○キャリアシステムの見直し
 採用時の1回限りの採用試験の別による固定的な人事管理の弊害等を踏まえ、新たな中核人材の選抜・育成システムの構築に向けた検討が必要
○公務組織における専門性の強化
 外部専門家を積極的に登用する必要。公務部内においても、スペシャリストとして活用されるキャリアパスを用意し、シンクタンク等との人事交流など専門性を磨くことのできる機会等を付与
○職務・職責を基本とした能力・実績主義の確立
 職務・職責を基本に能力・実績を重視した給与制度の構築とそれを可能とする新たな人事評価制度の導入
○個人を重視した人事管理の推進
 多様な人材の活用と個人の価値観を尊重した人事管理
・女性国家公務員の採用・登用の推進
・フレックスタイム制、短時間勤務制など多様な勤務形態の導入を検討する必要
・非常勤職員の制度的整備の検討が必要

3 現在進められている公務員制度改革

 現在進められている公務員制度改革を国民の期待にこたえた、より実効的なものとするには、具体的な制度設計に当たって上記の基本的方向に留意するとともに、以下の点を踏まえた更なる検討が必要
・国民全体の奉仕者として中立公正に職務を遂行するという基本理念が改革の原点
・有識者を含む各方面のオープンな議論や、各府省当局、職員団体との十分な意見調整が必要
・各府省の人事権の行使に当たっては、公務員が全体の奉仕者として中立公正に職務遂行を果たし得る枠組みが機能することが重要
・民間企業への再就職の大臣承認制や各府省幹部候補職員の集中育成制度等については、セクショナリズムの助長にならないよう検討する必要
・採用試験の企画立案については、内閣と人事院が適切な役割分担をすることが適当。合格者の大幅な増加については、慎重な検討が必要
・公務員の勤務条件について、憲法が要請する労働基本権を制約する以上、代償機能が適切に発揮される仕組みが確保される必要






 声 明

 1、人事院は、本日、国会と内閣に対して、一般職国家公務員の給与改定に関する勧告及び公務員制度改革に関する報告をおこなった。なかでも給与勧告は、官民較差マイナス2・03%、(7770円)の較差が生じたことを理由に勧告史上初の月例給に切り込むとともに、配偶者手当削減、4年連続となる一時金のO・05月削減を内容とする「賃金引き下げ勧告」である。

 公務労組連絡会は、この「賃下げ勧告」が公務員労働者のさらなる生活悪化にとどまらず公務・公共業務関連労働者、年金受給者など広範な労働者・国民生活に影響を及ぼすものであり、断じて認めることはできない。

 2、「賃下げ勧告」は、次の点で問題がある。第1は、官民給与の逆較差が2・03%あるというが、日本経団連の賃金交渉妥結集計結果1・59%など各種の調査と比較しても大幅なマイナス較差は、民間賃金実態調査方法の見直しが影響していると思われ、公務員労働者の生活の大幅な切り下げにつながることである。

 第2は、月例給の切り下げという不利益に対して、「不利益不遡及」の原則に則り「賃下げ給与法」成立の時からの「賃下げ実施」をとりつつ、4月からの「給与の調整」を12月の一時金でおこなう「精算措置」をとったことである。これは「不利益の遡及」であり、不当である。

 第3は、われわれの「生活改善につながる賃金改善」というひかえめで、かつ切実な要求に対して、逆に賃下げ勧告という回答を突きつけてきたことは、労働基本権制約の「代償措置」として公務員労働者の利益擁護を果たすべき人事院の役割を放棄したものである。

 そして第4に、消費不況にあえぐ日本経済をさらに冷え込ませるもので、「負の連鎖」を断ち切ることを求めている国民の期待にそむくとともに、小泉「構造改革」の痛みをさらに国民に押し付けるために、公務員賃金切り下げを突破口とすることになりかねない勧告といえる。これは、国民的にも糾弾されるべきものである。

 さらに勧告は、月例給の減額とともに一時金の4年連続、延べO・6月もの削減によって年間4・65月となり、1960年代の支給月数に逆戻りさせ、そのことによって年間平均15万円賃下げとなり、過去最大の賃下げ勧告であり到底容認できるものではない。

 また、行革・定員削減のもとで長時間過密労働が常態化し、勤務時間短縮が求められていたにもかかわらず、超勤縮減策すら何一つ示されず労働強化をもたらす勧告といえる。

 くわえて、「同一労働同一賃金」から公務員給与の地域間の給与「見直し」に反対してきたが、今年の勧告で具体的な推進を表明したことはきわめて重大である。

 3、公務労組連絡会は、夏季闘争の課題に「マイナス勧告阻止」「有事法制阻止」「民主的公務員制度の確立」をかかげ、小泉「構造改革」にもとづく医療改悪法案、郵政関運法案、有事法制、メディア規制法案など悪法阻止の国民的な共同闘争と連携し、国会内外のたたかいに全力をあげてきた。

 そのなかで人事院に対して6月11日に「2002年夏季重点要求書」提出して以来、職場・地域から要求にもとづく「総対話と共同」を軸とした2波にわたる全国統一行動旬間、2次の「中央行動」(7/3,7/31)への延べ4700名の参加、人事院あて賃金改善要求署名約30万筆の提出、勧告当日まで炎暑のなかで実施した中央・地方での人事院・地方事務局前「座り込み行動」、「緊急要求打電行動」を含めて、中央・地方一体で最後の最後まで奮闘してきた。このような公務労働者の切実な声と要求に背を向けた「マイナス勧告」には激しい怒りを感ずる。

 4、いま、日本の経済社会全体が深刻な行き詰まりに直面し、小泉「構造改革」が労働者・国民に「激痛」を与え、来年度予算編成に向け「年金切り下げなど社会保障のさらなる改悪」「消費税増税など大衆増税」が企図されているもとで、社会的な基準としての公務員賃金の役割が問われている。

 公務労組連絡会は、今後、今次勧告等の取り扱いをめぐって対政府・国会闘争と地方賃金闘争に移るもとで、「マイナス人勧にもとづく給与法の改定反対」などの要求をかかげ、国家公務員法、地方公務員法「改正」が重要局面を迎える「公務員制度改革」闘争をはじめ、有事法制、メディア規制法案反対の国民的共同闘争とも結合し、公務・民間の「賃金切り下げの悪循環」を断ち切るために広範な労働者・国民との対話と共同に全力をあげ、断固たたかいぬくものである。

     2002年8月8日  

     公務労組連絡会幹事会