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日本経団連「2017年度経労委報告」批判
−労働者・国民生活の危機の進行、日本経済の停滞に対する無自覚・無反省・無責任を糺す−

2017年1月23日 全労連常任幹事会

 はじめに
 2017年1月17日、2017年春闘における経営側の指針である日本経団連の「2017年度経営労働政策特別委員会報告」書(以下「2017年度経労委報告」)が公表された。
 「2017年度経労委報告」のサブタイトルには「人口減少を好機に変える人材の活躍推進と生産性の向上」とあるが、日本の人口減少を招いた賃金の低下と労働条件の悪化、雇用の劣化(非正規労働の増加)、社会保障制度の改悪や教育費・住宅費の高騰、保育・子育て環境の未整備などの原因には一切触れないばかりか、自らの政策と行動が人口減少を招いた反省はなく責任も全く感じていない。あるのは若年者や女性、高齢者などの活用と労働生産性の向上のあくなき追求だけである。
 また、序文では「アベノミクスによって、景気は緩やかながら着実に回復している」としているが、アベノミクスの4年間で労働者・国民の間で格差と貧困が拡大し、日本社会と経済に深刻な危機が進行していることは全く目に入っていない。確かに日銀の異次元金融緩和やこの3年間で4兆円にも上る企業減税によって大企業は3年連続で史上最高益を更新しているが、労働者の実質賃金はこの4年間で19万円も減少し、家計消費はマイナスとなっている。ワーキングプアは1千万人を超え続けている。日本経済は停滞を続け、未だに1997年のGDPを超えられずにいる。そして、それは日本経団連のこの間の主張と行動(賃金の抑え込み、非正規労働者の活用、庶民大増税と社会保障の変質・解体など)がもたらしたものだということについて、まったく無自覚・無反省であり、無責任そのものの態度である。

 第1章「企業の成長につながる働き方・休み方改革」について
 「働き方・休み方改革に向けた取組み」、「健康経営のさらなる展開」などにふれているが、現代の日本の職場と労働者の深刻な実態−ブラック企業・バラックバイトの跋扈(ばっこ)、過労死・過労自殺に代表される超長時間・過密労働、パワハラ・セクハラ・マタハラの横行と深刻なメンタルヘルス不全の広がりなど−をきちんとみようとしていない。それらに対する企業の社会的責任も全く自覚していない。そのため出されている取組みや対策もきわめておざなりなものである。あくまでも企業の成長が目的であり、「労働生産性の現状と向上への対応」と、「多様な人材(若年社員、女性、ホワイトカラー高齢社員、障害者、外国人材)の一層の活用促進」が中心である。
 「非正規労働者の現状と課題」の項では、非正規労働者数が2千万人近くになり、雇用者に占める割合が37.5%となったことには触れているが、それは自らが1995年の「新時代の『日本的経営』」以降20年以上にわたって低賃金で無権利な非正規労働者を増やしてきたことが原因であることには触れていない。また、「自ら望んで非正規労働者を選択した労働者が8割以上」としているが、「正規の職員・従業員の仕事がないから」以外の選択肢(「自分の都合の良い時間に働きたいから」、「家計の補助・学費等を得たいから」、「家事・育児・介護等と両立しやすいから」、「通勤時間が短いから」など)を選んだ労働者をすべて自ら非正規労働を選択した労働者だとするのはかなり無理がある。非自発的にそうした選択をせざるを得なかったのが実際のところである。
 労働者は「多様な就労ニーズに対応した柔軟な働き方」を求めているわけでは決してない。労働者は、ILOが“21世紀の労働者の働き方・働かせ方”として提唱している「ディーセントワーク」(人間らしい働きがいのある仕事)を、安定していて生活と権利が守られる雇用を、将来の人生設計が可能な働き方を、非正規ではない正規雇用(無期・直接雇用)を求めているのである。
 「2017年度経労委報告」は、一応「非正規労働者の待遇改善」にも触れてはいるが、肝心の「同一労働同一賃金、均等待遇」原則の確立、正規雇用(無期雇用、フルタイム労働、直接雇用)を原則とし、非正規雇用については例外(客観的で合理的な理由がある場合に限る)とする基本点が触れられていない。また、「非正規労働者」という呼称を問題にし、「有期契約労働者」、「定年後継続雇用労働者」などの呼称を提案しているが、非正規という呼称が問題なのではない。非正規というだけで、(1)年収200万以下のワーキングプアの非正規労働者が57.4%(女性の非正規労働者では84.6%)もいること、(2)「有期」という期限付きの解雇を前提とした雇用であること、(3)つぎはぎで都合のいいときだけ働かせ自立できる賃金を払わないこと、(4)派遣などの間接雇用でピンハネが横行し労働者を物扱いして働かせていること、(5)総じて日本の非正規雇用労働者が欧米に比べてもあまりにも劣悪な賃金・労働条件、無権利で不安定な雇用で働かされていることが問題なのである。日本経団連は非正規労働者の深刻な問題を単なる呼称の問題として事の本質をあいまいにし、「多様で柔軟な働き方」ということで非正規労働者を低賃金・無権利・不安定な雇用のまま引き続き活用しようとしている。

 第2章「雇用・労働における政策的な課題」について
 「2017年度経労委報告」は、現在国会に上程され継続審議となっている労働基準法の「改正」案について、「長時間労働による働き過ぎを防止してワーク・ライフ・バランスを確保するとともに、個々の労働者の能力発揮に資する柔軟な働き方の選択肢の拡大」だとして、「労働基準法改正案の早期成立」を強く求めている。その「改正」案の中身である高度プロフェッショナル制度の創設や企画業務型裁量労働制の規制緩和は、「残業代ゼロで働かせ放題、過労死しても自己責任」となるとんでもない改悪であり、安倍内閣の「長時間労働の是正」方針にも矛盾するものである。日本経団連の強い要求を受け、今通常国会における労基法「改正」案の成立をめざす動きが強まることが予想される。労政審解体の動きにストップをかけ、労基法改悪反対闘争をいっそう強めていかなくてはならない。
 「長時間労働を是正」していく上で焦点となっている「時間外労働の上限規制」について、日本経団連は、「突発的な要望への対応」、「業務上必要な繁忙期」などの実態を十分に踏まえ例外や抜け穴を作ることを求めている。また、「インターバル規制」については、「わが国での義務化は現実的でない」と否定している。しかし、こうした姿勢では「長時間労働の是正」を図ることはできない。
 「2017年度経労委報告」は、「多様な就業ニーズに対応した柔軟な働き方を提供する」、「雇用形態にかかわらず社員に能力を発揮してもらう」として、「同一労働同一賃金」の実現にあたって、「単純に欧州諸国の仕組みを導入するのではなく」、「わが国の雇用慣行に適した『日本型同一労働同一賃金』を目指すべき」としている。そして、昨年12月に安倍内閣が出した「同一労働同一賃金のガイドライン案」を、「わが国企業の多様な賃金制度や雇用慣行に留意した内容になっている」と高く評価する。しかし、安倍内閣のガイドライン案は、「業務の内容や責任の程度、配置転換の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認めるべきものであってはならない」とする労働契約法20条、パートタイム労働法8条・9条の範囲内であって、それがほとんど実効性のないものであることは法改正後の現実が示しているとおりである。わたしたちは、雇用形態及び性の違いによる賃金・労働条件の差別的取り扱いの禁止、真の同一労働同一賃金、均衡ではなく均等待遇原則の確立をめざして、労働基準法・労働契約法・パートタイム労働法・労働者派遣法・男女雇用機会均等法の抜本改正をめざしてたたかっていくものである。
 この間の最低賃金の引き上げについて、「2017年度経労委報告」は、「地方の使用者側委員や企業経営者を中心に不信感・不満が高まっている」と苦言を呈し、「特定最低賃金(旧産業別最賃)廃止」を提案している。しかし、日本の最低賃金は2016年改訂後も平均798円(最高が東京都の932円で、最低が宮崎県と沖縄県の714円)であり、年1800時間働いたとしても128〜167万円に過ぎず、ワーキングプア水準であり、地方別格差が大きいのも問題である。全労連がおこなった「最低生計費試算」でも、月22〜25万円は必要であり、それは時間額に換算すると1500円くらいになる。「ただちに1000円(引き続き1500円をめざす)」と「全国一律賃金制の確立」は急務である。

 第3章「2017年春季労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢」について
 「2017年度経労委報告」は、連合の中小組合における要求基準「大手との格差是正と底上げ・底支えをめざす総額10,500円以上の賃上げ」にたいしては現実的な水準ではないと苦言を呈しているが、日本の企業規模別の賃金格差は大きく、それは中小企業の経営環境の困難さや大企業の下請け中小企業いじめによるものである。企業規模別の賃金格差の是正を求めるのは、労働組合にとって当然のことである。
 「2017年度経労委報告」は、「春闘」という言葉にケチをつけ、「春に行う労使の話し合いを闘争や闘いとは捉えておらず、『経営のパートナーとの協議の場』と認識している」から、「春季労使交渉」という言葉を使うべきだとする。しかし、労働組合にとって、賃金引き上げを求めることは労働者の生活がかかった闘いそのものである。「賃金とは何か」についても、「企業が労働の対価として社員に支払うすべてのもの」だとして、「賃金が労働者とその家族の生活費である」という本質については全く触れていない。
 「2017年度経労委報告」は、この間増え続ける内部留保についても弁明をしているが、労働者・国民に還元しようとする姿勢はみじんもない。しかしそれは大企業優遇税制と労働者の賃金の抑え込み、下請け中小企業からの収奪によってもたされたものである。大企業の内部留保を労働者・国民に還元することは当然のことであり、それは労働者・国民生活の改善と日本経済の安定的発展にとって、緊急かつ不可欠な課題である。
 「2017年度経労委報告」は、2017年の労使交渉・協議にあたって、「収益が拡大した企業や、中期的なトレンドとして収益体質が改善している企業については、『年収ベースの賃金引き上げ』を前向きに検討することを求めたい」として、企業収益を最優先するとともに、月例賃金の引上げ(ベースアップ)をあいまいにしようとしている。しかし、月例賃金が基本にあり、そこから残業代や一時金、退職金などが決まっていく。それは決してあいまいにできないことである。労働組合は、労働者の生活を改善する基本として、将来の人生設計をはっきりさせていくためにも、月例賃金の引き上げ(ベースアップ)にこだわるのである。
 「2017年経労委報告」も認めるように「マクロで見た企業業績は全体として高水準」であり、「賃金引き上げのモメンタム(=勢い、方向性)を2017年も継続していく必要がある」。今こそ、大企業のぼろ儲けと膨大な内部留保を広く労働者・国民に還元し、労働者・国民生活の改善を図るべき時である。そしてそれが長く続いた日本経済の停滞状況を抜け出し、日本経済の持続的・安定的発展を実現していく確かな道である。全労連は、日本経団連「2017年度経労委報告」を乗り越え、社会的な賃金闘争を強化し、大幅な賃金の引き上げと底上げをめざすとともに、偽りの「安倍働かせ方改革」ではなく、真の「働き方改革」の実現をめざして、2017年国民春闘を闘い抜く決意である。

 
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