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2016年12月2日

内閣総理大臣
        安 倍 晋 三 殿
厚生労働大臣
        塩 崎 恭 久 殿
働き方改革担当大臣
        加 藤 勝 信 殿

全国労働組合総連合
議長 小田川 義和

【意見書】安倍政権の進める「働き方改革」についての意見

 安倍首相は「働き方改革」を、現内閣「最大のチャレンジ」と位置づけ、9つのテーマに取り組むとしている。その中には、長時間労働の是正や同一労働同一賃金の実現、最低賃金の引上げなど、労働組合が掲げてきた課題も含まれており、多くの労働者が注目している。
 しかし、検討中の政策の内容をみると、労働者の要求には程遠いどころか、逆の方向を目指すものと言わざるを得ない。「残業時間の上限規制の検討」を掲げながら、厚生労働省の検討会で議論されているのは「柔軟で弾力性のある規制」である。そればかりか、労働時間の規制が適用除外される「柔軟な働き方」を導入し、「残業代ゼロで働かせ放題」を合法化しようとしている。裁判で解雇無効とされても一定の金銭を払えば解雇ができてしまう「解雇自由法制」の実現も目指している。人材ビジネスの事業領域の拡大や、テレワーク・兼業・副業を契機とする個人請負化もはかり、雇用流動化を加速させ、不安定雇用を典型労働にしようとしている。ワーキングプアが増加する事態に対し、雇用形態別の格差を是正する提案はしつつも、最低賃金は最低生計費の水準に遠くおよばない金額に抑え、雇用流動化と非正規化により、労働者全体の平均賃金を下方均衡させようとしている。さらに、国家戦略特区制度や入国管理制度・外国人技能実習制度、税制・社会保障制度などを総動員し、女性・高齢者・外国人を安価な労働力として活用する仕組みを整えようともしている。いずれも、ここ数年、政府が強調されてきた「女性の活躍推進」を阻害し、財界・大企業の意向にそった「働かせ方改革」を目指す施策ばかりである。
 労使同数代表の対話による政策決定プロセスを重視するILO三者構成原則をふみにじり、労働者代表が一人しかいない官邸主導の会議で労働政策を決定、強行しようとしていることも、重大な問題である。

 以上をみれば、安倍政権の「働く人の立場に立った改革」(9月26日の首相所信表明)という言葉には疑念を持たざるを得ない。本音は「世界で一番企業が活躍しやすい国」づくりを目指し、労働法制・雇用政策を経済(グローバル大企業の利益)に従属させ、産業・企業の新陳代謝(再編)と一体で、雇用のさらなる流動化、非正規化をはかろうとしていることにあるのは、明らかである。
 それを端的に示すのが、「第1回働き方改革実現会議」における安倍首相の発言である。安倍首相は、「働き方改革は、第三の矢、構造改革の柱……大切なことはスピードと実行」「働き方改革こそが労働生産性を改善するための最良の手段」「働き方改革は、社会問題であるだけでなく、経済問題」と語っている。「働き方改革」の目標である「多様で柔軟な働き方」とは、今より低コストで、いつでも調達でき、いつでも首切りできる、使用者にとって都合のよい働かせ方に他ならない。

 労働者のためのように装いながらも、雇用・労働条件の劣化をもたらす安倍政権の「働き方改革」に、全労連は反対である。非正規的雇用を多様化・増加させ、格差が重層化した雇用構造のもとでは、職場の人間関係は分断され、労働者間の協力・連携は希薄化し、企業固有の技術・技能・知識は形成されず、イノベーションも生まれない。情報流出などの企業不祥事・経済犯罪が増え、企業業績は停滞するであろう。賃金も増えず、消費も拡大しない。安倍「働き方改革」は、企業にとっても深刻な事態を招くのではないか。
 今の日本は、人手不足にもかかわらず、安定した雇用が増えず、長時間労働と失業・半失業が併存し、かつ賃金も上がらないで、一部大企業に内部留保が累積する歪んだ状況に陥っている。すべての労働者に、安定した雇用と1日8時間労働の原則にのっとった働き方、まともな賃金、ディーセントワークを保障することこそが、日本経済の正常化に資する成長戦略である。
 全労連は、政府に対し、「働き方改革実現会議」をただちに中止し、労使同数の代表が協議をする労働政策審議の場において、普通の労働者の切実な要求を汲み上げた「真の働き方改革」を行うことを強く求め、以下、意見と要望を述べる。

1.労働政策審議会の在り方について
 働き方改革全般に関わる課題として、労働政策審議会の在り方の見直しが議論されている。検討の場である、厚生労働省の「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」は、「ILOがどれだけえらいのか」「労使同数の委員はおかしい」「連合は労働者代表たりうるのか」「意見反映はヒヤリングで足りる」などの意見を言い放つ座長や委員で構成される異様な会議である。「三者構成は大事」と、従来の審議会の枠組みを擁護する委員もいるが、その意見も突き詰めれば、「労働者内の異論をまとめて調整し、政策決定を柔軟に進めるうえで労政審の果たした役割は大きい」とし、労働者委員に対して法案に徹底抗戦するような対応をやめるよう諭す役割を果たすものであり、いずれの立場も、ILOの三者構成主義(労使の社会的対話を重視する原則)軽視の姿勢が甚だしい。
 全労連は、複数同人数の労働者代表と使用者代表による協議を経ずに、労働政策の審議を進める仕組みには反対であり、以下の点を主張する。

1)三者構成主義を守るため、「働き方改革実現会議」と「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」をただちに解散し、それら会議で行われていたことの検証を含め、労働政策決定のプロセスの在り方についての審議を、労働政策審議会において行うこと。
2)その際、様々な系統の労働団体が意見表明を行う場を設けること。

2.「同一労働・同一賃金」について
 「働き方改革」の目玉政策、「同一労働・同一賃金」の検討は、非公開で行われ、審議プロセスを見せないことで、労働者の期待をふくらませる効果を発揮している。しかし、検討会で公開されている資料をみると、ILOなどが提唱する同一(価値)労働・同一賃金原則とは程遠い内容が議論されているように思われる。将来にわたっての「人材活用の仕組み」の上での位置づけが異なる労働者間であれば、今の職務内容が同じであったとしても、賃金に格差をつけることは合理的であるとみなすような結論となっては、雇用形態や男女間の処遇差別を正当化し、むしろ格差を固定するものとなる。全労連は、男女間・雇用形態間の差別的処遇・格差をなくすため、以下の事項の実現を求める。

1)憲法14条1項の精神に立ち、「すべての働く人々を対象に、性別や雇用形態をはじめ合理的な理由のないすべての差別を禁止し、同一労働同一賃金、均等待遇原則を実現」するため、労働基準法、男女雇用機会均等法、労働契約法、パート労働法、労働者派遣法、最低賃金法とその関連法を改正し、以下の点を踏まえた内容にすること。
 (1) 性別や雇用形態をはじめ合理的な理由のないすべての差別を禁止すること。また、間接差別の禁止を含む実効性あるものとすること。
 (2)「均等・均衡待遇」ではなく、「均等待遇」を原則とすること。
 (3)「人材活用の仕組み」を格差の合理的な理由としないこと。
 (4)「合理的である」ことの立証責任は使用者側におわせるものとすること。また、合理性判断の基準の構築にあたっては、賃金差別訴訟の原告や、全労連をはじめとする非正規雇用労働者を組織する労働組合の意見聴取を行い、反映させること。
 (5) 格差の合理性の判断基準は、使用者の恣意的な判断の余地を排除した客観的なものとし、また、異なる職種間の格差問題にも適用しうるよう、ILOの職務比較の方法(※)を基本において策定すること。具体化にあたっては、賃金差別訴訟の原告や、全労連をはじめとする非正規雇用労働者を組織する労働組合の意見聴取を行い、反映させること。
  ※ILOの提唱する分析的職務評価法における職務分析の要素
   ○ 知識、技能・技術、資格(職務知識、コミュニケーションの技能、身体的技能)
   ○ 負担(感情的負担、心的負担、身体的負担)
   ○ 責任(人に対する責任、ものに対する責任、財務責任)
   ○ 労働条件(労働環境、心理的負荷)
 (6) 非正規雇用労働者の賃金改善が法改正の趣旨であり、「同一労働同一賃金」を理由とした正規雇用労働者の賃金引き下げは許されないことを明記すること。
 (7) 賃金の相対的な違いの問題だけでなく、賃金の水準が生計費原則を基本にした人たるに値する水準を満たすものでなければならない点にも留意すること。
2)非正規雇用労働者の労働条件の交渉力を弱める原因である有期労働契約の濫用を防ぐため、恒常的業務に就く労働者の労働契約は無期契約とする「入口規制」を確立すること。

3.賃金(最低賃金)の引き上げについて
 日本経団連に対し、安倍首相が毎春実施している「賃上げ要請」は、一部大企業にしか影響を与えておらず、労働者の7割弱が就労している中小企業の賃金水準は低く抑え込まれたままとなっている。中小企業で賃金改善が可能となるような公正取引ルールの確立、助成策、中小企業振興策などの施策が必要である。
 また、安倍首相は「政治のリーダーシップで最賃を大幅に引き上げた」と自画自賛しているが、2015年の改定は2%、16年も3%に抑えこんでいる。16年10月改定の地域別最低賃金は、最高額の東京でも時間額932円、最低額の宮崎と沖縄では714円と地域間格差を拡大させている。これでは年間1800時間のフルタイム就労をしても、東京で168万円、宮崎と沖縄では129万円と、ワーキングプアの水準のままである。非正規雇用が雇用労働者の4割を占めるなどして低賃金層が増え、貧困が広がっている状況への対応として、あまりに小さな改善というべきである。政府が目標として1000円に言及したことは、労働者の要求と運動の反映であるが、その1000円は全国一律でなく平均値目標であるため、大半の地方は1000円未満にとどめられる。これでは、同一労働同一賃金の原則にも反し、地域間の格差を固定化しかねない。貧困をなくし格差を是正するため、全労連は以下の事項の実現を求める。

1)最低賃金法を改正し、8時間働けば生計費を確保できる金額水準とする旨、法に明記すること。地域間格差をなくすため、全国一律の最低賃金制度とすること。中央・地方最低賃金審議会は、すみやかに1000円を実現し、さらに1500円を目指すこと。
2)賃金・最低賃金の引き上げが、広範な事業所で円滑に実施されるようにするため、中小企業に対する助成措置の拡充、中小企業振興策、官公需優先発注・公契約法・条例の制定と普及、中小企業の社会保険料の負担軽減、消費税増税の中止、独禁法・下請法の改正による公正取引ルールの確立、例えば、不公正取引に対する損害賠償の導入や中小企業の価格協定についてのカルテル適用除外など、中小企業の経営環境を改善する政策を行うとともに、賃金引上げ分のコストが価格に適正に反映できる仕組みを整備すること。

4.長時間労働の是正について
 現在、国会に上程されている、内閣提出の労働基準法「改正」法案の目玉は、一定の時間働いたとみなし、実労働時間に基づく時間外労働の割増賃金支払いをごまかす「裁量労働制の拡大」と、年5日の有休付与以外のすべての労働時間関連の保護規定(時間外・深夜割増賃金、休日・休憩付与)をはずす「高度プロフェッショナル制度創設」といった労働時間法制の規制緩和である。政府は、これらについて、「画一的な枠をはめる従来の労働制度を改め、時間ではなく成果で評価すれば、労働者は残業をしなくなる」とみているようだが、現実には、「残業代ゼロで働かせ放題、過労死しても自己責任」となることは、今の裁量労働制における働き方をみれば明らかである。
 一方で、政府は、時間外労働の上限規制やインターバル制度を言い始めているが、厚生労働省の検討会で出されている意見は、「一律の上限規制は企業の競争力をそぐ」「上限規制は、柔軟で弾力的なものに」などといった声ばかりで、労働者の厳しい実態や切実な要求、生体リズムに配慮した議論など、まるでなされていない。また、勤務間インターバル制度も、労使自治任せで助成金をつける程度のことしか検討されていない。実効性のない「まやかし上限規制」と引き換えに、裁量労働拡大や労働時間規制の適用除外制度の創設をはかることなど、あってはならない。全労連は、以下の事項の実現を求める。

1)上程されている労働基準法「改正」法案にある、「労働時間規制の適用除外制度の導入」「裁量労働制の対象拡大・手続き緩和」「フレックスタイム制度の清算期間の延長」は撤回すること。
2)労働基準法について以下の規制強化を行うこと。
 (1)時間外労働の量的上限規制をはかること。36協定の特別条項の制度は廃止し、当面は「限度基準(月45時間、年360時間等)」を絶対上限とし、ゆくゆくはかつての母性保護措置の年150時間すること。
 (2)EU労働時間指令を参考に、24 時間について継続して11時間以上の休息時間を与える「勤務間インターバル制度」を導入すること。「一定の時間」については、省令でなく法令で規定すること。
 (3)夜勤・交替制労働は社会に必要不可欠な事業に限り認め、法定労働時間を日勤労働者より短くする旨、労働基準法に書き込むこと。
 (4)月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)についての、中小企業への猶予措置をただちに廃止すること
3)上記の法規制強化とあわせて、厚生労働省の職員定数と労働基準監督官を増やし、指導監督の体制を強化することによって法の履行確保をはかること。

5.転職・再就職支援、人材育成の課題について
 転職・再就職支援や人材育成は、労働者とその家族の生活の根幹にかかわる重要なテーマであるが、安倍政権は、それを雇用仲介事業(労働者派遣、職業紹介、委託募集、求人広告・情報提供等の就労マッチング事業)、すなわち、人材ビジネスの事業拡大の場にしようとしている。2015年には、労働者派遣事業の全面自由化ともいうべき労働者派遣法の大改悪が強行され、ハローワークの求人・求職情報の民間提供や、キャリア・コンサルタントの国家資格化、採用時の書類選考に使われる「ジョブカード」の改悪(前の会社による評価を記載)も実現されている。
 2015年の国会では、人材ビジネスが、退職勧奨のコンサルタントをしてリストラを促しつつ、切られた労働者の再就職支援や受け皿としての労働者派遣事業で儲け、そこに助成金が流れていることが大問題となった。労働市場の需給調整機能に、人材ビジネスを過度にかかわらせることは、労働者の権利侵害や不当解雇を横行させ、過剰なリストラ・雇用流動化を促進させてしまうということを、如実に示す事案である。こうした現実をふまえ、全労連は、以下の事項の実現を求める。

1)労働市場の需給調整は、国が責任をもって行うという原点に立ち返り、人材ビジネスは、厳格な規制のもとにおかれるべきものとすること。厚生労働省の定員を大幅に増やし、職業安定行政に関わる人材は、すべて正規職員として確保すること。
2)雇用保険については、雇用流動化を進める施策の助成金の財源などにはせず、失業給付を改善させ、求職者が充実した職業訓練を受け、落ち着いて、よい仕事を探すことができる制度とすること。

6.解雇の金銭解決制度について
 リストには明示されていないが、転職・再就職支援というテーマの背景には「雇用流動化」政策、すなわち解雇をしやすくする制度の導入が隠されている。安倍政権は、2015年10月から「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を開始させ、そこに規制改革会議の有力委員らを招集し、「解雇の金銭解決制度」の導入をはかろうとしている。この制度は、「解決金の水準を制度的に明らかにすることで、わかりにくい労働紛争解決システムを透明にする」などと正当化されているが、現実には「裁判で解雇無効となっても、あらかじめ見積もることができる一定額の解決金で、迅速かつ確実に首切りを可能とする制度」、言い換えれば、「どんな乱暴な解雇をしても、解雇訴訟がこわくなくなる制度」として機能する可能性がある。この制度が実現すれば、和解交渉のプロセス、すなわち、労使双方の違法の程度や事情を斟酌し、当事者間の合意をまとめていく作業など成立しなくなり、使用者は和解に応じなくなる。そればかりか、使用者が気に入らない労働者を狙い撃ちで解雇する事件を増加させる可能性があることから、全労連は以下の事項の実現を求める。

1)「解雇の金銭解決」制度は、モノ言えぬ労働者づくりをめざす「解雇自由」法制であり、ただちに、検討を中止すること。
2)整理解雇四要件を法定化するなど、解雇規制の強化をはかること。

7.テレワーク、副業・兼業について
 最近、厚生労働省や経済産業省の会議・研究会等で、有識者がしきりに語るのが、労働者保護が適用されない「雇用されない働き方」、すなわち請負労働者の急増である。それを避けがたい潮流とみなし、近い将来の労働者はIT技術で企業とつながり、仕事の都度、企業と契約し、プロジェクトが終われば契約終了となる一人親方的労働が、典型的働き方になるなどと展望されている。雇用労働から請負労働への転換の道筋として、政府が力を注いでいるのが、テレワークや副業・兼業の推進である。
 テレワークは、育児や介護、健康問題を抱えた場合の一時的な対策として、労働者側のニーズもある。しかし、財界がテレワークにこめている期待は、まずは、事業場外みなし労働の拡大・裁量労働化であり、次には個人請負化である。仕事の量と納期を契約で決め、あとは労働者任せとすれば、企業は、労働時間管理や残業手当の支払いなどの責任を負うことなく、働かせることができる。労働者に健康被害があっても自己責任に転嫁し、身体を壊し仕事がなくなれば、使用者の都合で簡単に契約解除ができる。それは企業側からみた「柔軟な働き方」でしかない。
 また、副業や兼業については、リーマンショックの生産調整に伴う一時帰休が行われた頃、アルバイトによる収入補てんを容認する企業が現れた程度で、就業規則で禁止されているのが一般的である。安倍政権が、副業や兼業を認めるよう、企業に促すねらいは、裁量労働化と雇用流動化を広げるための導入方法として活用するためである。企業内副業は、多くのプロジェクトに関わることで長時間過重労働に陥るのは必至である。また、企業外の副業や兼業は、基本賃金の引き下げや労働時間の自己管理化、リストラ対象となった労働者を追い出す手段として、活用されるおそれがある。
 全労連は、テレワーク、副業・兼業を契機とした、裁量労働制の拡大や業務委託・請負化の導入に反対であり、下記の規制を求める。

1)使用従属性のある労働者に対しては、労働契約を締結して雇用責任をはたすべきこと、適用される労働者保護法制を順守することといった当然の原則を使用者に徹底すること。請負や業務委託契約を偽装した不当な経営手法に対する監督指導を厳格化すること。これらの原則や政府の姿勢を、フリーランスで働く人を含む労働者にも周知徹底すること。経済産業省が主導する「雇用関係によらない働き方」が広がらないよう、必要な措置をとること。
2)テレワークは、育児や介護、健康問題を抱えた労働者のための一時的な措置としてのみ活用する制度とし、恒常化は認めないこと。その場合も「事業場外みなし労働時間」とはせず、実労働時間に基づく、労働時間管理を行うこと。
3)企業内副業などの言い方で労働者を多様なプロジェクトに関わらせる場合も、1日8時間・週40時間の労働時間規制には従わなければならないことを明確にすること。

8.働き方に中立的な社会保障制度・税制について
 安倍政権は、女性・若者が活躍しやすい環境整備として、働き方に中立的な社会保障制度・税制を検討課題にあげ、配偶者控除、第三号被保険者の廃止と夫婦控除制の導入をいったん提案した。その後、配偶者控除廃止ではなく、控除の年収要件を103万円から150万円に拡大する案を浮上させるなど、確定した方向を示していない。
 これらの模索からもわかるように、政府の狙いは、あくまでも労働力の調達にのみ置かれている。しかし、本来「働き方に中立的な税・社会保障」とは、男女共同参画社会の形成という観点から、性別による固定的な役割分担を反映した世帯単位の制度を見直し、個人単位化を志向するという方向性で行うべきである。全労連は、以下を基本に検討を進めることを求める。

1)本テーマを、配偶者控除の廃止等に矮小化させず、安定した雇用、長時間労働の根絶、賃金水準の引き上げなどの雇用環境の改善、教育・医療等の無料化・低料金化、年金、児童手当、住宅手当、疾病手当等の公的保障の確立、税制における基礎控除の大幅な引き上げなど、ジェンダー平等実現の立場に立ち、男女の違いなく個人として労働と社会保障の抜本改正の果実を享受できる制度見直しを志向するものとして位置づけること。
 これら、雇用・労働条件の引き上げと男女間の平等を進める政策と同時に、税・社会保障の個人単位化を進めること。所得税については、生計費非課税の原則に立って、基礎控除の大幅な引き上げを行い、たんに増税となる税控除見直しはおこなわないこと。
2)社会保障の拡充にあてる財源は、消費税増税ではなく、大企業への応能負担を高めることで確保すること。そのために、大企業優遇税制は廃止し、巨額の内部留保への課税や法人税・社会保険料への累進制の導入を行うこと。

9.高齢者雇用について
 少子高齢化による労働者不足と、社会保障の財源問題は、アベノミクスの経済成長の大きな足かせとして、政府に認識されている。しかし、これらを解消する一石二鳥の切り札として、税・社会保障と高齢者雇用政策の改悪が進められている。企業に対する税・社会保険の負担は減らしつつ、財源難を理由に年金も生活保護も給付を引き下げ、働かなくては生きていけない高齢者を生みだして就労に追い立てている。
 現在、60代前半層に多い再雇用労働者の賃金は、50代後半に比べて4〜5割程度と低く抑えられている。さらに60代後半以降の雇用の受け皿であるシルバー人材センターの就労では、「いきがい事業」を理由に最低賃金並みの賃金水準とされている。政府は、こうした現状を知りつつも、処遇改善となる手立てを打たず、高齢者雇用安定法を改悪してシルバー人材センターの規制を緩和し、シルバーの労働者派遣事業や職業紹介事業でフルタイムの一般的雇用も扱えるようにし、低賃金・不安定雇用の労働市場に、大勢の高齢者を流し込もうとしている。低賃金の高齢労働者の大量創出の影響は、青年労働者の労働条件にも影響し、ますます世帯形成ができない青年層を生み出すなど、社会に悪影響を及ぼす可能性がある。
 高齢者は、心身の状態、資産・所得、家族関係などに大きな個人差がある。年金など社会保障制度による生活保障を後退させながら、一律に雇用による自立へと追い立てる施策はとるべきでない。意欲と能力を持って積極的に就労できる高齢者もいるが、生活を支えるために健康問題を抱えながらも就労を強いられている高齢者も多い点に、十分な配慮が必要であり、全労連は、以下の事項の実現を求める。

1)社会保障制度(年金、医療、介護、福祉等)を拡充し、安心して引退できる社会を築きつつ、働く意欲と条件のある高齢労働者に向けて、労働安全衛生や、他の労働者の雇用・労働条件の影響なども十分に考慮した質の高い雇用を開拓する施策を進めること。
2)高齢労働者の賃金・労働条件を改善する措置をとること。
3)高齢労働者がそれぞれの事情に応じて、定年もしくは就労継続を選択できるようにし、雇用と年金制度が切れ目なく接続されるよう、制度を整備すること。

10.子育て・介護の課題について
 政府は、保育士・介護士の劣悪な処遇を改善するとしているが、具体的な対策は極めて不十分であり、現場の処遇改善はいっこうに進まず、人手不足の解消も見通せていない。子ども・子育て支援新制度で、営利目的の企業の参入を促したが、これら事業の営利化は、保育の質の低下、事故・犯罪すら招いている。政府は、施設整備が追いつかない回避策として育児休業の上限延長を再検討しているが、育児休業期間の延長は待機児問題の先送りにしか過ぎず、保育所入所への不安解消にはならない。一方、介護においても労働力不足で施設の拡充や受け入れ利用者の拡大は進んでいない。
 こうした中で、国が急ぎ打とうとしている手は、外国人や高齢者を、低コストの労働力として受け入れる施策である。介護保険改悪で、高齢者の介護サービス利用はより困難さを増しており、「介護離職ゼロ」の政府のうたい文句とは逆に、ますます介護を家族で抱え込む状況になっている。
 全労連は、国による福祉・介護分野への大幅な財政投入と併せて、以下の施策を求める。

1)保育士・介護士の処遇の改善に向けた、実効ある財政措置をとること。
2)労働時間規制の強化によって、介護士の深夜労働の負荷の改善をはかるなど、雇用環境を改善し、当該業務に参入する労働者を増やすこと。それに合わせて、職員配置基準を向上させ、利用者の安全をはかること。
3)日本語が覚束ない外国人労働者の福祉分野への受け入れは行わないこと。日本人スタッフの手も足りていない事業所では、外国人技能実習は不可能であり、認めないこと。
4)国有地の無償貸与や施設整備費の補助金増額など、施設整備対策を行うこと。

11.外国人労働者について
 外国からの人材の受入れについて、安倍政権は、外国人労働者の人権や労働基本権の保障の整備などの移民政策を検討せず、労働者としての基本的な権利発動ができないような労働力を調達する施策を進めようとしている。第192回国会で成立した、外国人技能実習制度「改正」法は、国際貢献の表看板とは異なり、実態は使用者を選べず、安く使っていつでも首切り・追い出しができる奴隷的な労働者をアジアから調達する「善人だった社長を悪人にしてしまう」(衆議院での参考人発言)政策である。国会の法案審議の中では、受入れ監理団体が、自ら行うべき業務を労働者派遣事業を営むブローカーに丸投げ委託したり、ブローカーから役員を受け入れて事業を運営し、実習実施企業から多額のマージンを取っていることや、そのコストが実習生の低賃金・長時間労働や不当に高い家賃等によってまかなわれていることが明らかにされた。政府も「丸投げ委託は認められない」と答弁したが、「不正は指導する」と繰り返すばかりで、業務委託禁止などの法的規制ははかられなかった。若い実習生たちが、過酷な労働条件・生活環境のもとで毎年30名前後も死亡していることも明らかにされたが、国の対応は明言されず、参議院では「過労死が疑われる死亡事案が発生した場合」の支援等を国に求める付帯決議がついた。
 今でも建設業、農業、製造業分野で約20万人が働いているが、政府は、これに介護分野も加え、期間も延長可能とし、さらに多く受け入れようとしている。そればかりか、国家戦略特区を使った外国人家事労働者も、地域によって、すでに導入されている。
 労働条件が低すぎて、人が集まらない業種については、待遇改善をしなければならないはずである。そこに外国人労働者を低賃金・劣悪な労働条件で受け入れる場当たり的対応をとってしまうと、当該産業の労働市場はますます劣化していくことになる。
 グローバル化のもと、労働者の国際的往来はさらに活発化するものと考える。全労連は、すべての外国人労働者に、人間らしい労働条件を確保する政策整備をはかることを、政府に求める。外国人技能実習制度については、制度の趣旨をふまえた下記の2)の措置がとれないのであれば、廃止すべきと考える。

1)すべての外国人労働者に、日本人と同等の権利と労働条件を法的に保障し、人間らしい労働条件を確保する政策整備を行うこと。
2)外国人技能実習制度については、開発途上国の経済発展に資する人材の育成という、制度の趣旨に立ち返り、以下の措置を行うこと。
 (1)充実した実習が可能な受入れ監理団体と企業にのみ、受け入れを許可すること。
 (2)送り出し機関への規制強化のための二国間協定の締結を、実習生受け入れの条件とし、かつ、質の高い実習が可能な範囲に受け入れ人数を制限すること。
 (3)受入れ監理団体と実習実施企業に、人たるに値する住・生活・労働環境の保障や仕事がない場合の講習の実施、同種の仕事に従事する日本人労働者との均等待遇などの労働条件確保を義務付けること。
 (4)受入れ監理団体は、業務を外部委託してはならないものとすること。受け入れ企業に問題があった場合、速やかに別の受け入れ企業を紹介すること。
 (5)受け入れ監理団体と受け入れ企業への監督は、国が行うこと。国は、審査・相談・指導・監督の実施体制を確保し、監督権限をもった職員を配置すること。

以上

 
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