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2010年5月19日

最低賃金と生活保護との比較算定方法の問題点と改善方法

全労連賃金委員会

 2008年施行の改正最低賃金法は、憲法25条の文言を条文に書き込み、さらに生活保護との整合性という具体的措置も記して「最賃決定における生計費原則の強化」をはかりました。改正法には、従来の「上げ幅視点」のみの金額改定のやり方ではダメであり、まともな水準をはっきりさせて、最賃の位置づけをリセットすべきという立法者の意志がこめられています。
 ところが、改正法施行後、中央・地方の最低賃金審議会は、働くものの最低生計費をみたすだけの目標額を示していません。なぜこうした結果となっているのでしょうか。私たちは、中央最低賃金審議会が提示している最賃―生活保護の整合性算定の手法に問題があると考えています。

「最低賃金審議会で使われている生活保護と最賃比較算定方法」の問題点
<最賃を大きく見せてしまっている> <改善提案>
(1)労働時間は長く算定
  (使用者意見の月173.8労働時間を使用)
それでは残業時間込みの平均時間に近い
所定労働時間の実態をふまえ月150時間に
(2)税金と社会保険料の控除も少なく算定
  (沖縄の最賃額と公課負担率を全国に適用)
各地の実態をふまえるべき
<生活保護を少額に見せてしまっている> <改善提案>
(3)勤労必要経費(勤労控除)は不算入 労働者の生計費試算だから含めるべき
実務との矛盾が生じている。
(4)生活扶助は少なく算定
  (保護の「級地」を人口加重平均を使用)
県庁所在地での値を用いるべき
(5)住宅扶助を少なく算定
  (生保受給者の実際家賃を使用)
制度の基準額を用いるべき

(1)労働時間については所定内実労働時間の実態をふまえ月150時間で換算すべきである

一般労働者の平均月間実労働時間 生活保護基準は月額で設定されるが、最賃は時間当たり表示である。両者を比較のベースに乗せるため、何時間の労働時間をもって換算するかが重要な問題となる。厚生労働省は、法定労働時間上限の173.8時間を使って計算している。数字が安定しているということが、その採用理由としてあげられている。しかし、月173.8時間という数字は、一般労働者の平均的な所定内実労働時間を大幅に超え、「所定外労働時間を含む総実労働時間数」をも上回る長時間労働である。最低賃金は所定内労働時間分の賃金について設定するものであるから、173.8時間は妥当でない。そればかりか、173.8時間で計算すると、最賃額は実力を水増しして過大にみせることになる。
 毎月勤労統計調査より、事業所規模5人以上の一般労働者の平均所定内実労働時間をみると、過去5年間、155時間前後で推移している。こうした実態をふまえ、かつ、「あるべき労働時間」への政策誘導的な観点や、安定性という技術的メリットも配慮するならば、年間労働時間1800時間 の月割=150時間労働という数字をもって、最低賃金と生活保護との整合性を取ることが妥当である。ちなみに、埼玉の最賃735円をもとに比較すると、173.8時間労働では月収は税込127,743円となるが、150時間であれば110,250円にとどまる。月額にして17,493円の差が出る。

(2)税金・社会保険料は実態を反映させるべきである

 最賃額は、税金・社会保険料などの公課負担を引かれる前の金額であり、それらが免除される生活保護基準と比較するには、公課負担の影響を除いた数字で行う必要がある。中賃目安でも、その作業は行われているが、最も最賃の低い沖縄のケースで公課負担率をはじきだし、これを他の各地域に適用することで、相対的に最賃が高く公課負担率の高い地域の「推定可処分所得額」を多めに見せている。
 2008年の目安小委員会では、労働者委員がこの点を指摘し、東京でどうなるのか、厚生労働省に数字をださせたところ、0.844と報告された。2%の違いがあり、東京の最賃月額可処分所得は、2,499円過大に見せかけられたことになる。
 この点は目安小委員会でも議論となったが、事務局は、自治体によって住民税の超過課税(標準課税を超えた高い税金を課する)や軽減措置などあり、すべてを調べる時間はない、として沖縄の比率でおしきった(やむをえず、表の全労連試算でも沖縄の比率を使っている)。
 作業日程の事情もあろうが、最も最賃の低いケースを使わずとも、超過課税(ないのは22都府県)や軽減のない地方だけでも調べて、平均値を採用するくらいは可能であったはずで、最賃引き上げを抑える意図からする操作と考えざるを得ない。

(3)勤労控除を含めるべきである

 生活保護法は、稼働世帯も含めて保護の対象としている。働きに出れば、被服費や交通・通信費、交際費等、様々な出費が増加するため、稼働世帯の場合は、こうした就労に伴う経費の増加を、非稼働世帯の生活保護に上乗せする「勤労控除」という方法で実質的な均衡を図っている。もしこの額を補填しなければ、働きにでることで実質的な生活水準が低下してしまうことになるからだ。
 労働者の最低生計費を考える際には、「勤労控除」すなわち、勤労必要経費を含めることはきわめて当然である。ところが、公益委員見解=目安では、この勤労控除が考慮されていない。驚くべきことに労働者委員も、これを主張していない。
 埼玉県の例でみれば、勤労控除のうち必要経費部分にあたる「基礎控除」額は17,864円になる。この金額を含めるべきである。

(4)級地は都道府県庁所在地での値を用いるべきである

 「生活扶助」とは、衣食その他の日常生活の需要、暖房費など一時的需要を満たす目的で支給される費用である。生活保護では、県内を6段階の「級地」に分け、生活扶助費に差をつけている。一方、最賃は県内一律であるため、制度間の整合性を、どうつけるかが問題となる。
 中賃目安が採用したのは、級地ごとの人口加重平均をとるやり方である。県内全体の事情を反映した合理的なやり方に見えるが、実は、生計費の高い地域に住む労働者にとっては、不利益が生じる。
 埼玉県を例にとってみると、目安の金額は79,996円で、県庁所在地の1級地−1の金額より7,984円低い。そればかりでなく、1級地−2、2級地−2の水準よりも低く、71%の人にとって、本来、保障されているはずの水準よりも低い。つまり、目安によって、本来適用されるべき水準を下回る最賃額が押しつけられたのである。こうした事態は、改正最低賃金法の趣旨に反している。
 全労連を含む労働組合の主張は、県庁所在地などのもっとも高い級地の生活保護基準を適用すべき、というものである。最低賃金法にいう「最低賃金と生活保護との整合性」のつけ方は、「最賃が生活保護を下回らないように配慮する」ということであるから、県庁所在地の生活保護基準であれば、それを満たすことができる。

(5)住宅扶助については特別基準額を用いるべきである

 住宅扶助の扱い方にも問題がある。中賃目安では、住宅扶助の「実績値」、つまり生活保護を受給している人々が実際に支払った家賃の平均額を使っている。生活保護の運用においては、基準額「以内」の安い物件に住むことを指導される。特別に配慮された公営住宅への入居も含めて、一般的な労働者が通常探しうる賃貸物件よりも、はるかに低い金額となる。
 埼玉県の例でみれば、住宅扶助の特別基準は47,700円であるが、目安では31,548円と16,152円も少ない。労働者の最低生計費を算定するには住宅扶助の特別基準額を用いるべきである。

 以上であげた、中賃目安の算定手法については、新聞社説でも「比較する生活保護水準をまるでトリックのように低い数字ばかり使うのであれば、引き上げるべき最低賃金も不当に抑え込まれてしまう。最低限度の生活を保障するという改正法の趣旨がゆがめられかねない。生活保護との整合性はまだ不十分と言わざるを得ない」との批判があがっている(毎日新聞社説2008年9/14)。

以上

 
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