労働組合の真価が問われる2011年春闘 2011年春闘
2011春闘賃金資料
はじめに
9月に公表された国税庁の「民間給与実態統計調査(2009年)」は衝撃的でした。前年(2008年)と比較して、1年間働いた労働者の平均給与が23万円も減っていたからです(図表1)。企業が払った「給与総額」も、約9兆円の大幅な減少です。

2009年度に資本金10億円以上の大企業は、内部留保を233兆円から244兆円につみ上げ、今すぐ使える手元資金も52兆円に膨張させました。「空前のカネあまり」にもかかわらず賃金抑制を強めたのです。

上場企業は株主配当を回復させ、2010年4〜9月期の中間配当は前年同期比18%増の2兆円強と巨額です。役員にも大盤ぶるまいで、報酬一億円以上の役員は、日産のカルロス・ゴーン社長を筆頭に280人もいます(図表2)。
図表1 民間平均給与額と対前年伸び率
図表2 役員報酬への配分が多い企業ベスト10 労働者の生活や下請け企業の経営安定より、役員報酬、株主配当、内部留保を優先する大企業の経営姿勢が、賃金低下の大もとにあります。

このような状況には、菅首相でさえ「(企業の内部留保を)労働分配に回すべきだ」(2010年10月25日 参議院予算委員会)と答弁せざるをえなくなっています。

↑ページのトップに戻る

日本経済のゆがみ是正をせまる春闘構築を
2011年春闘は、企業収益がV字回復した2009年後半以降でも、労働者の賃金・労働条件が改善せず、失業率も5%台に高止まりするなど、経済危機のつけが労働者へおしつけ続けられていることに反撃する場です。

正規労働者の賃下げ・成果主義強化も背景とする長時間過密労働、非正規労働へのおきかえによる人件費削減、下請け単価の一方的引き下げなどが、企業の収益回復と内部留保蓄積の源泉です。このしくみを変えなければ、賃金低下、雇用悪化、長時間過密労働にも、さらには社会保障の連続改悪にも歯止めを打つことはできません。

すべての労働者の賃金引き上げ、正規雇用の拡大、賃下げなしの労働」時間短縮を求める労働者の要求を職場と地域で高くかかげて春闘勝利をめざしましょう。その実現を求め、企業の社会的責任と生存権保障での政府責任の追及を強めることが、2011年春闘の最重点のとりくみです。「これ以上の生活悪化は許さない」、その思いを一つに職場と地域での力の集中をめざしましょう。

↑ページのトップに戻る

労働条件を悪化させた二つの出来事
日本では、労働者の状態を示す多くの指標が、1997年を節目に変化しています。賃金は、長期にわたり低下しつづけています(図表1)。このように、変化は90年代半ばにおきています。

労働者の賃金・労働条件に影響したのは、1995年5月に日経連が出した「新時代の日本的経営」です。終身雇用と年功賃金の「見直し」をせまるこの文書が、その後の労働者派遣法改悪(1999年)や裁量労働制拡大(1998年)などの労働法制改悪のもととなり、非正規労働者の急増、長時間過密労働の深刻化など労働条件の後退を引きおこしました。

グローバル経済と国際間競争を加速した「自由貿易」拡大の旗振り役=WTO(世界貿易機関)が発足したのが、1995年1月です。「コメの輸入自由化」にも象徴される「自由貿易」への対応は、一次産業の衰退、「勝てる産業」への集中投資などで地域経済を疲弊させ、中小企業の経営難を深めました。企業の海外進出が加速して、国内の「モノづくり」を空洞化しつづけています。

この二つ出来事が、すべての労働者の条件悪化に反映しています。

↑ページのトップに戻る

賃下げと経済停滞の悪循環は日本だけ
図表3 民間企業労働者一人当たりの賃金推移 図表4 主要国の名目GDPの推移
日本では景気が悪くなると賃金を抑制し、「非正規切り」などの雇用調整を行うのは当然のように思われがちです。
しかし、経済危機の影響を日本と同様に受けた他の先進国では、2009年にも賃金低下が見られません。90年代後半から一貫して、労働者一人当たりの賃金は上昇しつづけています(図表3)。

賃金を引き上げると企業の経営が悪くなり、経済が悪化するという主張もあります。しかし長期のデータを国際比較すると、賃金をあげなかった日本だけが経済成長も止まっていることがわかります(図表4)。

賃金引き上げ・底上げと雇用の拡大」→「家計収入の増加=消費支出の増加」→「企業での生産の拡大」→経済成長という構図が、「世界の常識」なのです。

↑ページのトップに戻る

非正規労働者増が賃金低下の一因
日本では、なぜ労働者の賃金が下がりつづけているのでしょうか。

一つは、正規と非正規労働者の賃金格差がきわめて大きい状態(図表5)を放置したまま、非正規労働へのおきかえが急速にすすめられたことです。1997年と2009年を比較すると、非正規労働者は1139万人から1677万人に500万人以上も増加し、正規労働者は約460万人減少しています。低賃金の非正規労働者への「おきかえ」がすすんだのです。

この間、雇用者総数は変化せず、失業率は、90年代後半から4%以上に高止まりしています。非正規労働者増は、雇用の量の増加にも雇用の安定にも効果はなく、人件費削減効果しか生んでいません。
図表5 正社員と正社員以外の賃金カーブ
図表6 所定内賃金の推移 二つに、一般労働者の賃金も2000年代になって低下しています(図表6)。男性一般労働者の所定内賃金は2000年代初頭のIT不況と2008年の経済危機の時に大きく下がっています。
また、一時金も、業績反映が強まり不況期に大きく引き下げられる状況が強まっています。安定的に支払われる所定内給与の抑制と、一時金の引き下げで年収低下をまねいており、基本給と一時金双方に目を向けたたたかいも必要です。

三つに、日本では、産業間や企業規模間、性差などによる賃金格差が小さくありません。たとえば、国税庁調査では、産業別平均賃金は、「電気・ガス」の630万円から「宿泊・飲食」の241万円まで2.6倍の格差があることが明らかになっています。これらを放置したまま、「労働力移動」が強制されていることが、賃金低下の一因になっています。賃金の底上げと格差是正は、賃金低下に歯止めを打つためにも重要な課題です

↑ページのトップに戻る

増え続けるワーキングプアで壊れる社会の床
一年間働いても年収200万円に届かない労働者が急増しています(図表7)。その「予備軍」と言える年収300万円以下の労働者を加えると2009年には1800万人をこえ、労働者の35%にもなります。

このようなワーキングプアの増加や、非正規労働者の増加は、たとえば国民健康保険の収納率にも影響しはじめています(図表8)。また、2009年に源泉徴収された所得税額が前年より12.3%減少したように、税収にも大きく影響しています。ワーキングプアの増加が、税や保険による社会保障制度の空洞化をまねいています。
図表7 年収300万円以下の労働者数の推移 図表8 国民健康保険料(税)収納率(前年度分)の推移

↑ページのトップに戻る

身勝手な主張をさらに強める財界
図表9 主な大企業の実際の法人負担税 図表10 企業の社会保険料、法人税負担率の各国比較
2010年7月に日本経団連が出した「『新成長戦略』の早期実行を求める」との政府あての要望者は、財界・大企業の身勝手さを露骨にあらわした文書です。

要望では、「新成長戦略」の早期具体化を求めたうえで、法人税負担の実質引き下げなどを求めました。また、企業の国際競争力強化が「雇用・賃金の改善・回復を通じた個人消費等の内需拡大」の前提だと強調しています。
しかし、今まで見てきたように、企業は国際競争力を強めても、もうけは企業にためこみ、株主配当や役員報酬は増やすものの、雇用・賃金にはいっさい回していません。余談ですが、財界も内需拡大には、「賃金・雇用の改善」が効果的だと認めたうえで、身勝手な主張をしていることは注目すべきです。

2011年に向け、財界がとくに主張しているのが法人税率の引き下げです。それも「実質」を強調し、例えば日本経団連の会長企業である住友化学では現行の16.6%より引き下げろと言っています(図表9)。

財界は、「他国より法人税が高い」から減税をと言っています。しかし、企業が負担するのは税金だけではなく、社会保障負担もあります。これを合わせると、決して大きな負担でないことは、財務省も主張しています(図表10)。

政府は、「資本金1000万円以下の中小企業では76%、資本金10億円以上の大企業でも49%が赤字」(2010年10月26日 衆議院財務金融委員会)と答弁し、多くの企業が法人税減税の効果を受けないことを示唆しています。

結局、史上空前の「カネあまり」状態の一部大企業に減税効果が集中し、内部留保をさらにふやす結果しかみえてきません。

↑ページのトップに戻る

国民の願いに逆行する菅政権
図表11 国民生活に関する世論調査での政府要望のベスト5 国民の政府に対する要望は、社会保障や高齢対策、雇用・労働対策などに集中しています(図表11)。しかし、2010年秋の段階で、菅内閣がとりくんでいるのは、法人税引き下げもふくめ、国民要望に背を向けるものがほとんどです。

2011年通常国会に向け、政府が準備している制度課題は、(1)法人税率引き下げ、(2)国の地方出先機関見直しなどの公務リストラ、(3)医療保険制度、介護保険制度の改悪、(4)在日米軍への「思いやり予算」の継続、恒久化、(5)福祉、保育の施設設置基準の緩和、(6)衆議院比例定数削減、などです。どれ一つとっても、国民の要望と一致せず、雇用の回復や生活の安定に効果があるものはありません。

↑ページのトップに戻る

賃金引き下げと雇用の安定要求を高く掲げて
国民の世論と運動が社会を動かす、2008年総選挙でも示された状況は今もつづいています。そこに確信を持ち、企業の身勝手な経営と主張を徹底して批判し、国民の要望とは逆方向にある政治の変化を求め、職場からのたたかいを一体的に強めましょう。

2011年春闘に向け、国民春闘共闘委員会・全労連は、「6つの要求と行動」を提起します。

力を合わせて実現、前進をめざす要求課題

(1)すべての労働者の賃金引き上げと雇用の安定(「誰でも時給100円、月額1万円以上の賃上げ」、すべての労働者の「時給1000円以上」の実現、正規雇用中心の職場の実現など)
(2)すべての労働者が働きつづけられる条件整備(賃下げなしの労働時間短縮、メンタルヘルス対策強化など)
(3)地域での最低賃金闘争、公契約運動強化による賃金相場の底上げ実現
(4)雇用守れ、仕事よこせの要求組織
(5)有期雇用規制や同一価値労働同一賃金など雇用と賃金規制の強化、後期高齢者医療制度廃止や最低保障年金制度確立などの社会保障制度改善
(6)衆議院比例定数削減阻止など憲法と民主主義擁護

↑ページのトップに戻る

おわりに
2011年春闘を大きな節目に、賃下げ、雇用破壊の流れに歯止めをかけ、賃上げと正規雇用が当たり前の社会にむけた前進を勝ちとりましょう。全国で、私たちの要求と運動が国民に伝わる状況を、みんなの力でつくりだしましょう。

↑ページのトップに戻る