2003年国民春闘共闘情報
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第64号  2003年8月08日

 

史上最悪。トリプル賃下げを勧告

 03人勧  平均16.3万円の年収マイナス

公務労組連が抗議・要請行動。民間も

写真

 人事院は8日、国家公務員の2003年度賃金等の改定について、史上最悪の「賃金・年収引き下げ」を勧告しました。
 月例賃金は官民格差がマイナス1.07%(4054円)になったとして、2年連続で本俸を引き下げ、一時金を5年連続で削減し0.25カ月減。さらに配偶者手当、持ち家の住宅手当を引き下げるなどトリプル賃下げとなりました。加えて実施時期を4月に遡る(12月の一時金で精算)という不利益遡及で、民間では考えられない不当なもの。年収ベースでみると平均16.3万円(2.6%)の減収になり、子育て世代ほどきびしいものです(別掲参照)。民間賃金、年金支給額、地域経済や景気への影響も懸念されます。
 人事院はこのほか、給与制度や働き方にも言及。職務・職責や勤務実績の重視、地域間格差の拡大など給与制度の全面見直しを宣言しています。国立大学等の法人化に伴う教育職俸給表の「見直し」の結論は先送りしました。また、「公務員制度改革に関する報告」では、フレックス、短時間、裁量労働など多様な勤務形態を公務にも導入しようとするなど、公務員に負担と犠牲のみを強要する勧告になっています。
 公務労組連絡会に結集する国公労連、自治労連、全教、郵産労、特殊法人労連などの各単産は、全国から3500人を結集した7月31日の中央行動につづき、8日昼休み時間から霞ヶ関の人事院前に300人を結集して、怒りの抗議行動、総務省前では要請行動(写真)を実施しました。この行動には全労連、国民春闘共闘、東京春闘共闘、東京地評、千葉労連、神奈川労連や、民間の建交労、建設関連労連、JMIU、全労連全国一般、日本医労連、福祉保育労などの代表が連帯、激励に駆けつけました。8日、各公務単産・団体は声明や談話を発表し、勧告をきびしく批判しています。


 2003年勧告の主な内容

◎本年の給与勧告のポイント
〜平均年間給与は5年連続、かつ、過去最大の減少
(年収△16.3万円(月例給△1.1%と期末・勤勉手当△1.5%を合わせて△2.6%))
@ 官民給与の逆較差(△1.07%)を是正するため、2年連続で月例給の引下げ改定
― 俸給月額の引下げ、配偶者に係る扶養手当の引下げ、自宅に係る住居手当の支給対象を限定
A 期末・勤勉手当(ボーナス)の引下げ(△0.25月分)
B 通勤手当の6箇月定期券等の価額による一括支給への変更、調整手当の異動保障の見直し
C 本年4月からこの改定の実施の日の前日までの期間に係る官民較差相当分を解消するため、4月の給与に較差率を乗じて得た額を基本として、12月期の期末手当で調整

◎官民給与の比較

約8,100民間事業所の約36万人の個人別給与を実地調査(完了率93.5%)


○官民較差(月例給)  △4,054円△1.07%〔行政職…現行給与377,535円 平均年齢41.0歳〕
(俸給△3,459円 扶養手当△209円 住居手当△173円 はね返り分△213円)

◎改定の内容
〈月例給〉官民較差(マイナス)の大きさ等を考慮し、月例給を引下げ
(1)俸給表:すべての級のすべての俸給月額について引下げ
@行政職俸給表 級ごとに同率の引下げを基本とするが、初任給付近の引下げ率は緩和、管理職層の引下げ率は平均をやや超える率(平均改定率△1.1%)
A指定職俸給表 行政職俸給表の管理職層と同程度の引下げ(改定率△1.2%)
Bその他の俸給表 行政職との均衡を基本に引下げ

行(-)の級別平均引下率(再任用職員もほぼ同じ)
4〜8 9〜11
引下率(%) △0.5 △0.7 △0.9 △1.1 △1.2 △1.1

(2)扶養手当 配偶者に係る扶養手当の支給月額を500円引下げ (14,000円→13,500円)
(3)住居手当 自宅に係る住居手当を新築・購入から5年間(2,500円)に限定 (月額1,000円に係るものは廃止)
(4)通勤手当 ・6箇月定期券等(交通機関等利用者)の価額による一括支給を基本とすることに変更するとともに、2分の1加算措置を廃止し、55,000円まで全額支給・交通用具使用者に係る通勤手当について片道40q以上の使用距離区分を4段階増設
(5)調整手当 ・いわゆる「ワンタッチ受給」防止のため、異動前の調整手当支給地域における在勤期間が6箇月を超えることを要件化
・異動保障の支給期間(現行3年間)を2年間とし、2年目の支給割合は現行の80/100
〈期末・勤勉手当等(ボーナス)〉民間の支給割合に見合うよう引下げ、4.65月分→4.4月分

(一般の職員の場合の支給月数)
  6月期 12月期
本年度 期末手当 1.55月(支給済み) 1.45月(現行1.7月)
勤勉手当 0.7月(支給済み) 0.7月(改定なし)
16年度 期末手当 1.4月 1.6月
勤勉手当 0.7月 0.7月

[実施時期]「改定の内容」(1)、(2)、(3)及び期末・勤勉手当等の改定については、公布日の属する月の翌月の初日(公布日が月の初日であるときは、その日)から実施。(4)及び(5)の改定については、平成16年4月1日から実施
〈その他の課題〉
(1)教育職俸給表の検討 国立大学の法人化等に伴い、教育職俸給表の在り方等について早急に必要な改正を行うため検討
(2)寒冷地手当の実態の把握 速やかに全国的な調査を実施し、調査結果を踏まえて検討
(3)特殊勤務手当の見直し 手当ごとの実態等を精査して廃止を含めた見直し等を検討
(4)別例給の比較方法の見直し 行政職俸給表(二)を来年から比較の対象外とする方向で検討
(5)特別給の算定方法の見直し 民間の特別給の前年冬と当年夏の実態調査に基づき特別給を改定
(6)独立行政法人等の給与水準 役職員の給与水準の公表に向けた検討への協力



(参考) モデル給与例

  勧 告 前 勧 告 後 年間給与
  月額 年間給与 月額 年間給与 の減少額
係  員 25歳 独身 185,600 3,090,000 184,400 3,024,000 △66,000
   30歳 配偶者 237,300 3,931,000 234,600 3,829,000 △102,000
係  長 35歳 配偶者、子1 319,700 5,365,000 315,900 5,219,000 △146,000
   40歳 配偶者、子2 358,200 6,005,000 354,000 5,842,000 △163,000
地方機関課長 50歳 配偶者、子2 479,360 7,938,000 473,910 7,729,000 △209,000
本府省課長 45歳 配偶者、子2 669,060 11,500,000 660,940 11,174,000 △326,000
本府省局長 1,123,360 19,076,000 1,109,920 18,532,000 △544,000
事務次官 1,475,040 25,048,000 1,457,120 24,329,000 △719,000


 

声  明

 一、人事院は、本日、国会と内閣に対して、「1・07%、4054円」の官民逆較差にもとづき、一般職国家公務員の年収を5年連続で引き下げる給与勧告をおこなった。

 月例給の2年連続の引き下げ、5年つづきの減となる0・25月もの一時金の大幅な削減、2年連続の扶養手当(配偶者手当)、住宅手当(持ち家)など諸手当の引き下げを含めて、国家公務員労働者の平均年収を過去最大16.3万円も減収させる勧告は、制度史上最悪のものであり、断じて受けいれられるものではない。

 公務労組連絡会は、公務員労働者の切実な要求に背をむけた「賃下げ勧告」に対し、怒りをもって抗議するものである。

二、長引く不況のもと、750万人の公務関連労働者はもとより、民間労働者にも直接・間接の影響をあたえる勧告の社会的な影響力をふまえれば、デフレ不況打開にむけ、人事院には、「官民較差」にとどまらない積極的立場での検討がこれまで以上に求められていた。

 しかしながら、人事院は、「民間準拠」との従来の姿勢に固執したばかりか、日本経団連の賃金交渉妥結集計1・65%(定昇込み)をはじめどの調査結果ともかけ離れた「官民較差」をはじき出し、公務労働者に民間をこえた賃下げをせまった。

 そのうえ、4月にさかのぼって賃下げする「調整措置」を盛り込んだことは、労使台意ぬきの不利益変更や不利益遡及が今後いっそう民間でまかり通るなど、労働者の権利侵害におよぶ重大な問題をはらんでおり、再びその行為をくり返すことは到底容認できない。

 また、一時金の期末手当からの引き下げは、勤勉手当の比重を高め、能力・業績主義強化にもとづく給与制度を先取りしたものと言える。一方、研究会の報告にもとづく地域給与の見直しでは、検討対象を国家公務員としているものの、地方公務員や教員給与にも影響がおよび、ひいては、地域経済への悪影響も懸念される。

 これらを見ても、今夏勧告は、労働基本権制約の「代償措置」どころか、過日、目安額据え置きが答申された最低賃金制とともに、日本の低賃金構造を支えてきた勧告制度の役割をあらためて鮮明にしている。

 加えて、年金給付カット、福祉施設運営費の切り下げなどにも波及して、国民犠牲の突破口に利用されてきた事実からも賃下げ勧告は重大である。

三、公務労組連絡会は、「マイナス勧告」阻止により「賃下げの悪循環」をくい止め、国民生活の改善、不況打開、地域経済の活性化をはかるため、国民共同のたたかいを追求してきた。とりわけ、人事院勧告・最低賃金の改善、賃金底上げのたたかいを一体的に取り組み、民間労組との共闘態勢の確立に力を尽くしてきた。

 30万筆を集約した賃金改善要求署名、官民労働者が人事院・厚生労働省前に結集した「7・9中央行動」、3日間連続の座り込み行動、3500人が人事院前を埋めつくした「7・31中央行動」を通して、官民一体で人事院への怒りの声を集中した。

 こうしたたたかいは、地方組織においても追求され、賛同と連帯の輪は地域から着実に拡大している。

 賃下げ勧告は強行されたが、今夏季闘争では、今後の賃金闘争の発展につながる貴重な財産を築いた。

 あらためて、職場・地域から奮闘された仲間のみなさんに敬意を表するとともに、民間労組のみなさんの熱い結集に心より感謝するものである。

四、勧告を経て、運動の重点は、使用者たる政府に公務労働者の生活と労働条件の改善をせまるたたかいへと移る。政府に対しては、賃下げの勧告を実施させず、労働組合との交渉・協議をつくすことをねばり強く求めていく必要がある。

 また、地方人事委員会に「国準拠」で勧告を出させないことや、財政赤字を理由とした自治体職員の賃金カット、地方財政の切り捨てを許さないため、地域から共同したたたかいが重要となっており、公務労組連絡会がその先頭に立って奮闘することが求められている。

 加えて、たたかう権利の剥奪が要求前進を阻んでいるもとで、労働基本権回復などILO勧告にもとづく民主的公務員制度を実現する課題がいっそう重要さを増している。

こうして迎える秋季年末闘争は、衆議院の解散・総選挙をひかえ、政治の流れが大きく動くなかでたたかわれる。そのなかで、公務労働者の生活改善はもとより、国民犠牲の小泉「構造改革」を許さず、国民共同の旗を高くかかげてたたいぬく決意である。

 2003年8月8日  

 公務労組連絡会幹事会  



公務員制度改革に関する報告の骨子

1 公務員制度改革に当たっての基本事項
○ 国民の求める改革への対応
・ 公務員制度改革の出発点として、国民の公務員に対する批判に正面からこたえる必要。国民からは、セクショナリズム、キャリアシステム、「天下り」、幹部公務員不祥事、年功的人事等について様々な批判
○ 公務員制度の基本理念
・ 国民全体の奉仕者たる公務員の公正な職務遂行を支えるため、公務員人事管理が申立公正に行われるような仕組みが必要。とりわけ採用試験や研修等については、人事院が引き続き重要な役割を果たす必要
・ 公務員にも憲法第28条の保障が及ぶ中で、労働基本権の制約を継続する場合には、制約に見合った代償機能が適切に発揮される仕組みが維持される必要
○ 検討プロセス
・ 公務員制度の検討に当たっては国民的視点が不可欠。そのため、有識者等を含めた幅広いオープンな議論を経て改革案が作成されることが必要
・ 改革の趣旨や新たな制度の内容等について、現場の管理者を含め各府省において十分理解されることが必要。また、実際に働く職員側の納得を得て改革を進める必要
2 制度改革が向かうべき方向
○ 能力等級制
・ 公務において、能力主義による人事管理を推進することは極めて重要。そのため、職務を遂行する能力を的確に評価し、昇任・配置等を行うとともに、職務・職責を基本として、実績や成果を適切に反映した給与システムを構築することが適当
・ 検討に当たっては、各府省や職員団体などの関係者との十分な意見交換を行うとともに、広く有識者とオープンに議論するなど、透明な検討プロセスが必要。その際、「能力等級制」の是非を議論するためには、官職が必要とする能力基準、評価基準の案が公表される必要
・ 能力等級表及び能力等級は、職員の給与決定の基準となるものであり、重要な勤務条件。これは多くの労働法学者も指摘
・ 評価基準については、中央レベルにおいて関係者と協議の上、共通的・統一的な基準を作成し、各府省レベルにおいてそれをブレークダウンすることが適切
・ 評価結果についての職員からの苦情等に対応するための苦情処理システムの充実が必要
○ 「天下り」
・ 「大臣承認制」についてはマスコミ、有識者から厳しい批判。セクショナリズムを是正するためにも、営利企業への再就職だけではなく、特殊法人・公益法人等への再就職等を含めた再就職全般について内閣が責任を持って一括管理する必要
・ 営利企業への再就職を認める基準は、法律で定める必要。また、特殊法人、公益法人等への再就職についても、統一的、総合的な基準が必要
○ 人材の確保・育成
・ キャリアシステムの見直し……全体の奉仕者としての使命感を持ち、政策立案能力、管理能力等にも優れた幹部要員の採用・選抜・育成・処遇システムを新たな視点で再構築する必要。そのため、採用試験の種類について精査するとともに、中途採用者の位置付けなどにも十分配慮しつつ検討。なお、U・V種等採用職員の登用も着実に推進
・ 試験制度……T種採用試験について、大学院卒の受験者の増大への対応を中心に、問題設定能力、多角的考察力等についてもよく検証して最終合格者を決定する試験に改編
 採用試験については、内閣がどのような人材が必要とされるかなどの採用に関する基本方針を定め、人事院がそれを踏まえて試験を企画・実施するシステムとすることが適当
・ 研修……国民全体の奉仕者性の徹底を中心とした研修の強化、思索型プログラムによる幹部行政官セミナーの導入
 研修については、任命権者、内閣総理大臣、人事院がそれぞれの立場で実施し、人事院は、その性格上国民全体の奉仕者としての職業公務員の養成研修を実施することが適当
・ 人事交流及び民間人材活用の促進……具体的な数値目標を設定するなどにより府省問人事交流を一層進めるとともに、民間人材の基幹的ポストヘの採用・登用を促進
・ 女性国家公務員の採用・登用の拡大……各府省の「女性職員の採用・登用拡大計画」のフォローアップを的確に行い一層の促進。育児休業をより利用しやすくする制度の改善
○ 服務規律と勤務環境の整備
・ 各府省と人事院が協力して一層厳正・公正な懲戒権の行使が可能となる仕組みの導入。また、各府省が懲戒処分の公表を判断する際の指針を作成
・ 多様な勤務形態の導入を図るための研究会を設置し、フレックスタイム制、短時間勤務制などの適用拡大、弾力化等を検討
・ セクシュアル・ハラスメント防止対策について、実効ある苦情相談体制などを構築 ・ メンタルヘルスに係る研究会を設置し、予防対策の充実と治療回復のための施策等を検討
○ 人事管理の適正な運用の確保
・ 職員からの不服申立てを迅速かつ弾力的に解決できるよう、あっせんの手続を設けるとともに、簡易な審理方式等を整備。また、人事院の苦情処理と各府省の苦情処理とを併置するとともに、苦情処理の体制・方法、手続等各府省共通の指針を設定
・ 基準化を更に進めつつ、人事院が適切に事後チェック機能を果たすため、報告から調査、是正指導等を経て人事行政改善勧告に至る手続等を整備




 
 春闘で 職場と暮らしの 元気回復