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【談話】「新しい時代の働き方に関する研究会」報告書について

2023年10月23日
全国労働組合総連合
事務局長 黒澤 幸一

報告書の撤回と修正を求める
 厚生労働省は、10月20日に「新しい時代の働き方に関する研究会」がまとめた報告書を公表した。本報告書は、労働基準法と労働基準行政の在り方について、「守る」と「支える」という2つのキーワードをもとに、経済環境や働き方の変化をふまえた課題の整理と見直しの方向性を示したものである。報告書は、ただちに法改正作業の着手につながるものではないとされている。しかし、その提言にそった法制度の見直しが進めば、労働基準法と労働基準行政に重大な悪影響、深刻な打撃がもたらされることになるものである。全労連は、報告書の撤回と全面的な修正を求める。

労働者保護法制の厳格な履行こそ求められるときに的外れ
 報告書は、労働基準法のうち「労働憲章的な規定や基本原則、封建的な労働慣行を排除するための規定」は「これからも堅持すべき」であり、労働者保護の「精神は忘れてはならない」としている。当然の指摘ともいえるが、労働基準法と労働基準行政に求められているのは、こうした消極的対応ではない。
 日本の労働の現場には、男女差別、雇用形態差別、不安定雇用、労働者性を偽装した働かせ方が蔓延し、労働に起因する心身不調の増大と過労死が止まらない実態がある。労使対等原則の実現どころか、労働基本権の行使すらままならない現実がある。労働基準法の基本原則や規定、その中心をなす労働時間規制の履行が徹底されず、労働法がありながら無きが如き状態になっている職場が、残念ながら少なからず存在している。しかも、IT技術を活用したプラットフォーム・ビジネスの普及やテレワーク等の働き方の変化により、労働者保護法制の厳格な履行のための新たな手段の開発が必要となっている。こうした事態に対し、労働基準法の要請を実現するには、どうするべきか。それこそが、本来、報告書に求められている課題であるが、報告書の内容は、およそ的外れと言わざるを得ない。

「規制緩和で市場まかせ」は、厚労行政の自己否定
 労働者からの権利侵害の訴えに日々接している労働組合の立場から、報告書に代わって指摘するならば、今必要なのは、労働基準法の厳格な運用はもとより、労働時間法制にみられる安易な例外規定の撤廃、労働者保護に資する規定・罰則の拡充、法の適用対象の拡大(労働者性判断基準の改善)、そして法の履行確保をはかるための労働基準行政の充実と司法警察権行使の活発化、それを可能にするための正規職での労働基準監督官、厚生労働技官・事務官の増員確保である。
 しかし、報告書には、そうした指摘はないばかりか、驚くべきことに「労働市場の機能等を通じた企業の自主的な改善の促進」を提起している。良い企業が市場に選ばれ、悪い企業は淘汰されるという考えを、経済政策の一つとして進めることを完全には否定しないが、労働基準法制定以来の労使の歴史を振り返れば、その市場主義はおよそ信用できない。労働基準法を語る場面での市場原理の強調は、「嫌ならよい会社に転職を。労働法は要らない」というに等しい意味をもつということに、厚生労働省は気づくべきである。

労使合意さえあれば適用除外の全面展開は、労働基準法の形骸化を招く危険な主張
 さらに報告書は、労働基準法について「労使の選択を尊重し、その希望を反映」するものに見直すべきと指摘している。現行法にも、労使合意により原則違法となる働き方・働かせ方を免罰する36協定制度があり、その弊害を軽減するため、2018年に時間外・休日労働の上限規制が導入されたところだが、報告書は、労使合意を要件に、法令の適用除外を全面展開しようとする発想がある。これは労働基準法を根本的に形骸化させる危険な主張である。合意のとれた一部の労働者にのみ、法の例外や適用除外を認めるとしても、使用者は労働者保護のかからない労働力を選好する。労働基準法がフル適用される「従来と同様の働き方」を希望する労働者にも、保護から外れざるをえなくなる圧力が、採用・昇進あらゆる場面でかかることは想像に難くない。労働基準法とは、その適用除外を労使双方が求めて合意しようとも、合意を無効として守らせるべきものである。こうした法の性格を軽視した発想が、労働基準局所管の研究会から出されたことは衝撃であり、厚生労働省の失態ともいうべき大問題である。

労使対等の実現は、別の回路でなく労働組合が不可欠
 そもそも職場における労使の力関係は、基本的に使用者優位であり、労使の選択には強く使用者側の意向が反映する。労使対等の実現には、労働組合が不可欠であり、報告書も労働組合が「果たす役割は引き続き大きい」としている。しかし、報告書は組織率低下の要因分析も、組織率向上のための制度・政策上の措置の検討(労働基準法上・労働組合法上の労働者性の判断枠組みの拡大や労働組合を嫌悪する使用者の攻撃を防止する措置等)も行っていない。そして労働組合とは別の回路での「労使コミュニケーション」の充実を提起しているが、それを要件として安易に法令の適用除外を構想すべきではない。

労働者保護の使用者責任を、労働者の自己責任にすり替える巧妙なトリック
 労働者保護法制は、いかなる環境下においても全ての労働者に対し適用されるべきものである。これは憲法が求めるところでもあり、時代の変化にかかわらず、基本とされなければならない。働く人の「多様な選択」は、労働基準を上回る部分でのみ認めるべきであり、「多様性確保」を理由に労働基準法の例外や適用除外を広げるべきではない。報告書は、労使合意・本人同意を要件に、労働者が労働者保護法制を外れて「多様な働き方」を行うことを認め、推奨している。その要件として、労働者の自己管理能力、自主的な能力開発やキャリア開発を求める一方、使用者には、そうした労働者の自主的取り組みを「支える」よう要請している。これは労働者保護にかかわる使用者責任を、労働者の自己責任にすり替える巧妙なトリックであり、労働基準法を語る場にふさわしくない記述である。

規制緩和ではなく、労働時間をはじめとする労働基準法の抜本的な規制強化を求める
 日本政府は労働時間に関するILO条約を一つも批准することができていない。根本的な問題は、労働時間の規制が弱いことにある。誰もが健康で、男女ともに子育てや介護を行うだけの時間が確保できるよう、労働時間の規制強化をはかることが、ジェンダー平等の観点からも、少子化対策の観点からも求められている。政府が本来行うべきは、国民ひとり一人の幸福につながる労働者の権利保障や子どもを安心して生み・育てることができる環境を創り上げることである。
 全労連は、すべての働くものが安心して働き続けることができる社会をめざし、政府に対し、労働基準法の規制強化と労働基準行政の体制強化、全国一律最低賃金制度の確立、社会保障の拡充を要求する。それらの実現と職場における労働者の権利確立のため、全ての労働者に団結を呼びかけるものである。

以上

 
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