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2017年9月26日

内閣総理大臣
        安 倍 晋 三 殿
厚生労働大臣
働き方改革担当大臣
       加  藤 勝 信 殿

全国労働組合総連合
議長 小田川 義和

【意見】「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」についての意見

 政府は「働き方改革実行計画」のうち、労働時間法制と均等・均衡待遇法制・雇用対策法等の見直しを柱とする法「改正」のため、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」(働き方改革関連法案)を労働政策審議会に諮問し、審議を行った。労働政策審議会の各分科会・部会は9月中旬までの2週間余りの期間に集中的に開催され、9月15日には「概ね妥当」との答申が出そろい、現在、厚生労働省において国会に上程する法律案を一括のものとして出す準備が進められているところである。
 全労連は、本法案が働き方の現状を改善するどころか悪化させる問題をはらんだ法案であること、そうした厳しい指摘について労働政策審議会がまともに取り上げず、審議日程の短さもあって論点が詰められていないこと、さらには国会における法案審議を軽視した多数法案一括の形式をとっていることなど、様々な面において問題があることから、この法案の国会上程には反対の立場である。
 以下、法案要綱の内容等について、意見を述べる。

1.複数法案の一括化について 〜国会審議軽視の禁じ手
 まず、法案が一括で出されることの問題点を指摘したい。同法案は、大きく分けて3つの重要な課題を取り扱っている。ひとつは労働時間の規制のあり方について、もうひとつは雇用形態別の違いによる待遇格差に関する法規制について、もうひとつは雇用対策に関する国の基本政策の見直しについてである。いずれも今の働き方に具体的な影響を及ぼす重要なテーマであり、関連する法律は8本に及ぶ(労働基準法、労働安全衛生法、じん肺法、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法、労働契約法、雇用対策法)。さらに細かく言えば、労働基準法の中には、2015年法案の中で労働側委員が最後まで反対した規制緩和に関する条項と今回検討された時間外労働の上限規制を柱とした条項が併存している。労働政策審議会において労働者代表は、規制強化と緩和という真逆の方向性をもつ条項を一括りにすべきでないと主張しており、その意見も汲めば9本の法案となる。
 数多くの論点を内包した複数法案を一括で国会に出すやり方は、戦争法をはじめ、これまでも安倍政権によって多用されてきたが、過去の経過をみれば必要な審議時間が確保されず、質疑が深められないまま時間切れとされて採決にもちこまれるケースが多い。加えて、今回は根強い批判のある法案を、与野党間で異論のない改正法案とセットにすることで、野党からの廃案要求を立てにくくさせる、いわば「抱き合わせ販売」商法のような効果も狙われている。各法案の内容に自信があるのであれば、なぜ、政府は一括法案・一括採決を求めるのか。法案は課題ごとに分けて上程し、賛否を問うべきであり、政府は、議会制民主主義を実質的に否定する一括法案の手法をとるべきではない。働き方改革関連法案は少なくとも3つの課題に分けて丁寧な審議をした上、採決にあたっては各法案を一本ずつ取り扱うべきである。

2.労働時間法制について
 労働時間法制については、安倍首相自ら「過労死の悲劇を二度と起こさない」と国会で宣言もし、長時間労働の是正のための規制強化をはかるかのように喧伝してきた。ところが今回の法案は、過労死を根絶するどころか誘発しかねない内容となっており、このままでは到底認めるわけにはいかない。

(1)労働時間の規制緩和について  〜労働時間規制の原則破壊
 第一の問題は労働時間規制の緩和が盛り込まれていることである。過労死防止対策推進法が制定されて3年、労働時間規制の強化への世論の関心はかつてなく高まっている。長時間労働を蔓延させている企業に対し、これほど厳しい批判が寄せられている時代はなく、労働行政においても厳しい指導監督を展開しているというのに、他方で労働時間の規制緩和策を臆面もなく提起するなど、あり得ない。労働行政の現場で奮闘する職員に対する裏切りであり、政府の信用を毀損する行為である。
 そもそも、人の生体リズムは日々守られることが重要であって、1日8時間の労働規制や月の時間外労働を45時間までとする規制には、健康確保のための根拠がある。欧州では1日・1週単位の労働時間総量の上限規制が設けられているほどである。
 業務量や納期、人材確保に関する権限を持たない労働者に、労働時間の裁量を与えると称して割増賃金による長時間労働防止規制や上限規制等を外せば、長時間過重労働を誘発すること必至である。断じて規制緩和を行うべきではない。
 以下、とりわけ問題の多い二つの制度について、内容に即した問題点をあげる。

1)「裁量労働制」は、業務の性質上、その遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる一定の業務に携わる労働者について、一定の時間働いたとみなし、実労働時間に基づく労働時間管理をしない制度である。しかし実態は、出退勤の時間を指定される、業務遂行の途中で追加の仕事を命じられるなど裁量のない状況で働く労働者が多く、通常の時間管理のもとで働く労働者よりも長時間労働となる傾向にある。しかも、残業代相当の手当が支払われていないケースが4割もあるなど、不払い残業と長時間労働の温床であることは、厚生労働省も把握しているところである(労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査・労働者調査」2014年6月)。
 ところが、法案は「企画業務型裁量労働制」の適用対象業務を拡大し、PDCAサイクルを回す業務と法人向けの提案型営業業務をあらたに追加するとしている。
 2015年の法案の修正として、(1)違反が横行する状況をふまえ始業・終業時刻の具体的な指示をしないと法律に書き込むこと、(2)追加業務のいずれについても企画、立案、調査、分析を「主として行うとともに」との要件を追加すること(一般的な販売業務等に広がらないよう配慮したとされる)、(3)厚生労働大臣が定める基準によって当面は勤続3年以上に限定すること、(4)制度の導入を議決する労使委員会が採用する健康福祉確保措置の選択肢の中にインターバル規制と労働時間の上限規制を加えること等が書き込まれている。
 しかし、これら修正がはかられたとしても、裁量労働制のもたらす長時間労働化や健康被害、それらの拡大を防ぐことはできない。健康福祉確保措置は、インターバル規制、上限規制、有給休暇付与、健康診断実施等のすべてではなく、ひとつを選択して労使委員会で議決すれば足りるとされている。全措置を必須要件とし、かつインターバル規制は24時間について11時間以上とするなどの義務規定をおいて、行政官庁による指導を可能とする等の内容であるならばともかく、法案の内容では、健康の確保をはかることはできない。また、企画・立案・調査・分析等を「主として行う」といった曖昧な要件では、適用対象拡大の濫用を規制することも、違反行為に対する行政による指導も困難である。勤続3年以上への対象限定は、裁量など発揮しようのない新人を適用対象にしないという当然の考え方を示したものと理解できるが、勤続3年以上であっても業務量をコントロールしうる裁量を一般の労働者が得られるわけではない。この程度の対象限定では、裁量労働制の負の効果を防止することはできない。
 専門業務型ならびに企画業務型裁量労働制で働いている労働者の実態を踏まえれば、始業・就業時間の指定禁止の法律明記などといった小手先の修正では、裁量労働制がもたらす不払い残業・長時間労働の横行を防ぐことは不可能である。一方で、通常の労働時間管理の中でも業務遂行の裁量を労働者に委ねることや、一定の成果・業績を求めることは可能であり行われている。政府は、人事や業務に関する相当の決定権のない労働者に対して裁量労働制は適用するべきではないという結論に至るべきである。

2)「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」は、一定の要件を満たす労働者に対し、年5日の有休付与以外のすべての労働時間関連の保護規定(時間外・深夜割増賃金、休日・休憩付与)の適用を除外する新しい制度である。こちらも2015年の法案に修正をつけている。まず、制度の導入要件として、(1)対象業務に従事する対象労働者に対し、1年間を通じ104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を使用者が与えることを絶対要件としている。これは従来、健康確保措置の3つの選択肢のひとつだったものである。次に(1)と併せて実施する選択制の健康確保措置として、従来の(イ)インターバル規制・深夜業回数規制、(ロ)健康管理時間による1ないし3か月単位の上限規制に加え、(ハ)1年に1回以上の継続した2週間の休日付与、(二)月の時間外労働が80時間を超えるなど省令で定める要件に該当する労働者への健康診断の実施を加えている。割増賃金支払の基礎となる労働時間を把握する代わりの措置としての健康管理時間の把握をもとに、上記の措置をとることで健康確保をはかるとされている。
 しかし、上記のイ〜ニの措置は必須要件ではなく、いずれかひとつを選択すれば足りるというものである。労働組合の組織率の低さや、未組織事業所における労働者の過半数代表の在り方などからみて、労使委員会に規制力を求めるのは無理であり、制度を採用する場合は使用者側の負担の少ない(二)の健康診断が選択されるケースが多くなるものと思われる。その場合、制度設計上では、年間104日の休日と5日の年次有給休暇付与(使用者義務分)をのぞく256日間は24時間労働が可能となり、割増賃金の支払をせずに年間6,144時間もの労働をさせることが合法となる。まさに「残業代ゼロで青天井の労働の合法化」である。これをもって高度プロフェッショナル制度は規制の適用除外ではなく、規制は組み込まれているとか、健康確保措置がはかられているなどとは、到底言えない。心身の健康を崩した労働者に事後的に健康診断などしても手遅れである。
 この制度の推進論者は、対象労働者の不当な拡大を防止する措置として、「本人同意」要件を強調することが多い。しかし、労使には力関係の差があり、本人への打診は実質的には業務命令であって、本人同意など歯止めにならないことは、職場の現実を知るものの常識である。また、たとえ本人が同意しようとも、労働基準法からの逸脱は認めないという規制が、労働基準法の本来の在り方である。
 年収要件については、賃金統計の平均値の3倍の額を相当程度上回る水準などとあいまいに書かれている。これにより対象は限定されるという考えらしいが、その水準が例えば当初1075万円とされたとして、なぜ、1074万円は対象とならないのか。そこに合理的な根拠はなにもなく、制度の見直しによる対象拡大を止める歯止めとはならない。小さく生んで、将来大きく育てるための方便として、年収要件は使われているにすぎない。また、一定の賃金水準を上回るからといって、経営者と同程度の権限をもっている証拠とはならず、当該労働者を労働者保護法制から外す根拠としては不適切である。
 対象業務となる高度専門業務については、省令で具体的に定めるとしているが、2015年法案の際に示されたものを見る限り、業務名の例示の最後には「等」がつけられ、使用者による恣意的な解釈の余地を残している。使用者が「この業務は高度な専門性が必要」と主張した場合、労働基準監督官がそれを覆すのは困難であり、適用対象の不当な拡大をとめることはできない。
 名称も制度内容についての誤解を招くものとなっている。成果に報いるなどとの誤報がはびこっているが、法案の中には成果に応じた報酬の支払いを義務付ける条文などない。制度の創設に関して、これだけの瑕疵のある条項は、直ちに削除してしかるべきである。

(2)時間外労働の上限規制等について 〜「名ばかり」上限と適用除外の濫用
 第二の問題は、時間外労働の上限規制等のかけ方である。法案では、(1)時間外労働の上限については、単月で100時間未満、2〜6か月の平均で80時間以内、休日労働も含めると年間で960時間・毎月80時間もの所定外労働が可能とされている。しかも、(2)特に長時間労働が著しい業務のうち、新たな技術、商品又は役務の研究開発業務は規制の適用除外とし、自動車運転業務、建設業務、医師については、法の施行後5年間は現状のままとする。さらに、自動車運転業務は5年後の見直しも時間外労働の上限は年間960時間、それに休日労働を追加することが可能な内容となっている。加えて、(3)中小企業に対する月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率5割の適用猶予規定の廃止は2022年まで引き延ばされ、(4)政策論議の際には目玉制度のひとつだった勤務間インターバル規制は、労働時間設定改善特別措置法において制度の導入が努力義務として追加されただけにとどまっている。
 時間外労働について上限規制を導入することを、全労連も要求してきた。しかし、月80時間ないし100時間などといった時間外労働は、過労死を発生させてしまうのに十分な長時間労働を意味している。「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」と第1条に定めてある労働基準法に、それとは矛盾する過労死ラインの残業を容認する条項を書き込むことなど、到底認められない。
 確かに現実をみれば、月80時間の時間外労働の上限規制であっても、導入すれば今よりは一定の改善となる業種・業務もある。しかし、そうした長時間労働が著しい業務に対しては規制を適用しないというのであるから、緩い規制を正当化する根拠すら存在しない法案と言わねばならない。
 原案のまま、過労死ラインの残業を合法化してしまうと、改善どころか、今の働き方、労災補償の在り方、裁判などに甚大な悪影響をもたらす危険性が高い。特別条項付き36協定において月「80時間超」の時間外労働を認めている事業場は少数(厚生労働省・平成25年労働時間等総合実態調査によれば4.8%)であり、大多数の事業場においては、月80時間もの時間外労働が「合法」とされれば、それは改悪を促すインパクトとなる。実際に、労働組合がある事業場ですら、政府案を理由に36協定の改悪提案を仕掛けてくる使用者がすでに登場している。「協定で定める労働時間の延長をできる限り短くするよう努めなければならない」とする指針程度では、協定改悪の流れを止めることはできない。
 全労連は、政府案を見直し、以下の事項を実現するよう求める。

1)「特定高度専門業務・成果型労働制」の条項は削除すること。また、「企画業務型裁量労働制」の条項については、対象業務の拡大に関する件を削除し、「使用者が具体的な指示をしない時間配分の決定に始業及び終業の時刻の決定が含まれることを明確化すること」のみ法定化すること。「フレックスタイム制度の清算期間の延長」は削除すること。

2)労働基準法について以下の規制強化を行うこと。
(1)時間外労働の量的上限規制をはかること。当面は「限度基準(月45時間、年360時間等)」を絶対上限とし、ゆくゆくはかつての母性保護措置の年150時間にすること。労働時間の量的規制に穴をあけている36協定の特別条項の制度は廃止すること。
(2)EU労働時間指令を参考に、24 時間について継続して11時間以上の休息時間を与える「勤務間インターバル制度」を導入するものとすること。「一定の時間」については、省令でなく法令で規定すること。
(3)夜勤・交替制労働は社会に必要不可欠な事業に限り認め、法定労働時間を日勤労働者より短くする旨、労働基準法に書き込むこと。
3)上記の法規制強化とあわせて、厚生労働省の職員定数を増やし、指導監督の体制を強化することによって法の履行確保をはかること。

3.均等・均衡待遇規定の見直しについて
 雇用形態別の格差の問題では、政府は「同一労働同一賃金」という打ち出しで、正規・非正規の格差を解消するとしてきた。ところが法案には「同一労働同一賃金」という文言はなく、雇用形態別の格差是正の役に立たなかった従来型の均等・均衡待遇規定をベースとして、今の企業内でまかりとおっている賃金差別の論理にお墨付きを与える法令整備になっている。

(1)当事者を救わない均等・均衡待遇規定
 現行のパートタイム労働法8条、労働契約法20条は、正社員と短時間労働者・有期契約労働者との間の労働条件の相違について、3つの考慮要素をもとに判断して不合理と認められるものであってはならないと定めている。第1要素は業務の内容と責任の程度(職務内容)、第2要素は、職務の内容と配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)、第3要素はその他の事情である。
 法案では、労働契約法20条は削除し、パートタイム労働法に有期労働契約も含めることで、従来型の3つの考慮要素にもとづく均等・均衡規定を整備することとしている。派遣労働者については、派遣先労働者との均等待遇保障のため、比較対象となりうる労働者層の賃金情報の提供を派遣先企業に義務付けた上、派遣先労働者と派遣労働者との待遇に不合理と認められる相違を設けてはならないとしている。ただし、派遣元事業主が労働者の過半数代表等と一定の協定を結んだ場合は、派遣先均等・均衡規定の適用は除外され、派遣元における通常の労働者との均等・均衡待遇規定が適用されるものとしている。
 結局、パート、有期、派遣いずれの雇用形態の労働者に関しても、待遇の不合理性を判断する場合には第2の考慮要素である「職務の内容と配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)」が活用される構造となっている。正社員には将来の配転、昇進等人事異動の可能性があるが、短時間労働者や有期契約労働者等の非正規労働者にはそのような可能性はほとんどないため、現実の職務内容が同じでも、基本給等で、正社員と非正規労働者との間に差別的な格差をつけても不合理な待遇とまではいえないことになる。すでに示されているガイドライン案では、配転の可能性がある総合職の社員には、その社員にアドバイスをしているパートタイム労働者より高額の基本給を支給してよい、といったものも示されており、非正規雇用で働く労働者からは、これでは格差是正どころか、現状の格差を法的に追認するものだとの批判の声があがっている。

(2)無期転換労働者は適用外、格差放置
 加えていえば、今回の規定では無期・直接雇用でフルタイム就労する非正規雇用労働者と、いわゆる正社員の間の待遇格差については、なにも規定がない。労働契約法第18条の施行により、有期雇用契約から無期転換された労働者は、従前の非正規雇用型の低い労働条件を維持しているケースが多く、正社員との待遇格差がつけられたままとなっているが、こうした労働者は今回の規定では救われないのではないか。無期労働契約で低賃金の労働者が増えていけば、今回の法案の対象となるパート・有期・派遣労働者との比較対象となる「通常の労働者」自体が変容し、その中に重層的な格差が内包されることになる。格差是正によって待遇を改善するための「標準」となる「通常の労働者」の労働条件が劣化すれば、待遇の改善は進まなくなる。
 これら「不合理性」の立証を労働者側に負わせたままという点も、従来と同じである。全労連は、男女間・雇用形態間の差別的処遇・格差をなくすため、以下の事項の実現を求める。

1)待遇について「不合理と認められる相違を設けてはならないものとする」のではなく、「合理的な理由のない相違を設けてはならない」とすること。待遇の相違について、使用者はその合理性を立証する責任を負うものとすること。
2)格差の合理性の判断基準から、「職務の内容と配置の変更の範囲(人材活用の仕組み)」といった差別を固定化する要素は除くこと。
3)格差の解消は待遇の改善によって行うものとし、格差解消を理由とした賃金・労働条件の不利益変更は禁止すること。
4)労働契約は無期直接雇用を原則とし、有期労働や労働者派遣は臨時的・一時的な業務に限ること。
5)労働契約法第20条は削除せず、上記1)の規定を労働契約の原則として第20条に書き込むこと。

4.雇用対策法について
 今回の一括法案の中には、雇用対策法の見直しも含まれているが、その提案は、あまりに唐突かつ一方的である。労働政策審議会は短時間の審議で終了され、議論不十分のまま、答申されている。雇用対策に関する国の基本政策の見直しという重要課題の取扱いとして、あり得ない検討プロセスと言わざるを得ない。
 また、内容についても、大いに疑問である。雇用対策法は、本来、労働者の生活の安定と向上をはかるため、安定雇用を原則とした完全雇用の実現をはかるために国が講ずべき施策の方向性を示すものである。その点、現行法にも不十分なところがあるが、今回の見直しでは、法律の名称(雇用対策法)も変え、「労働生産性の向上」を目的に加え、それに向けて労働者保護法の適用されない非雇用型労働も視野にいれた「多様な就業形態を普及」させるとするなど、認めがたい内容の変質をはかっている。以下、問題点を具体的に指摘する。

(1)労働市場の需給均衡から労働生産性向上への法の目的の転換
 まず法の「目的」の転換の問題である。現行法では国が、「雇用に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、労働力の需給が質量両面にわたり均衡することを促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図る…」とある。国は、その雇用対策によって、労働力需給バランスの均衡を促進し、雇用機会を得た労働者が能力を発揮できるようにするとの方向付けである。ところが、今回の法案要綱では「雇用」が「労働に関し」と替えられ、「労働力需給の均衡」が削られ、そのかわりに「労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び、職業生活の充実、労働生産性の向上等を促進」することで、「労働者がその有する能力を有効に発揮することができるように」とされている。
 労働力需給の均衡を削り、「雇用」を「労働」の言葉に置き換え、しかも「労働生産性の向上」を国の施策で促進するなどとしたことは、上記の雇用対策の在り方の重大な転換をもたらすものと読める。すなわち、安定雇用の否定、雇用の流動化促進、それによる労働生産性の向上、すなわちリストラと低コストでの労働力調達などを推進する施策へと、国が労働施策をシフトするということである。

(2)非雇用型就労の拡大による安定雇用の破壊
 これに呼応して、国の施策の内容には「多様な就業形態の普及」が書き込まれている。労働政策審議会では、ここには「非雇用型就業」も含まれるとの公益委員の指摘に対し、事務局から、それを認める答弁がなされている。雇用類似の働き方をしながらも労働者保護法制の適用から外れる労働者がいた場合、行政は使用従属性の判断に基づき、労働者保護をかけるべきである。現実には、いわゆるフリーランサーなどの非雇用型就業が増えるなか、労働者判断の緩和や規制の拡充が求められているにも関わらず、今回の法案にはそうした視点はなく、非雇用型の「普及」と、雇用型・非雇用型の均衡待遇という視点のみが書かれている。これは2007年にバイク便運転者を労働者とみとめ規制をかけた労働行政の姿勢を後退させるものとの懸念を抱かざるを得ない。

(3)国の施策を歪める危険性のある「基本方針」
 法案において、「労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするために必要な労働に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」を定めなければならないとしている点も異様である。労働者の能力発揮は、旧法にあるとおり、雇用機会があり、就労ができれば実現するものである。能力発揮の具体的なあり方は個別労使の課題であり、国として行うべき施策は、完全雇用の達成・維持に向けた労働市場の規制と、劣悪な労働条件が広がらないための労働基準の遵守の徹底、雇用維持と失業者の保護、職業能力開発、雇用創出、健全な労使関係のバックアップによる労働条件の向上支援等である。ところが、今回の法案では、これらの施策は削除あるいは看過され、「労働生産性の向上」が目的として加えられているため、基本方針には、リストラ支援、成果業績主義の促進支援など、雇用流動化と労働強化策が持ち込まれられかねない規定ぶりとなっている。

 以上、法案要綱にある「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」案は、拙速かつ内容に問題があるものと言わざるを得ない。
 全労連は、この法案の撤回を求める。

以上

 
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