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【談話】国民の生存権を脅かし、雇用を破壊する生活保護制度の改悪に反対する
− 憲法違反の生活保護基準引き下げと生活保護法等の改悪計画を撤回せよ −

 安倍新政権の生活保護制度の見直し(改悪)案の全体像が明らかになってきた。(1)生活保護基準の大幅な引き下げ、(2)不正受給対策を口実とした生活保護法等の改悪(利用抑制と就労支援の名による早期追い出し等)、(3)法改悪を先取りした締め付けによる保護費の削減などである。詳細が明らかになるにつれ、生活保護制度を利用している人々だけでなく、広範な国民の生活を脅かし、雇用破壊をいっそう進行させる大改悪だということが鮮明になってきている。
 全労連は、ナショナル・ミニマムを破壊し、憲法25条を空洞化させる生活保護基準引き下げと生活保護制度の改悪計画を中止、撤回するよう強く求める。

 まず、生活保護基準の引き下げである。政府案は3年かけて生活扶助670億円(6.5%。うち2012年度・150億円)+期末一時扶助70億円もの大幅な引き下げ案となっている。生活保護利用者の生活をいっそうの窮地に追いこみ、餓死・孤立死を多発させかねないものであり、特に多人数世帯の下げ幅が大きく、子どもの貧困を助長し、教育権を侵害するものである。また、税や社会保険料、最低賃金、就学援助などに連動して広範な人々の生活に影響を与え、憲法が保障する生存権、健康で文化的な最低限度の生活をおくる権利を侵害するものである。
 政府は「他制度にできるだけ影響を与えないようにする」と弁明しているが、特に批判が強い就学援助でさえ、予算措置は何もなく、結局は地方にお願いするだけであり、大きな影響が出ることは必至だ。「他制度に影響を与えないようにする」と弁明すること自体が今回の基準引き下げの道理のなさを示すものだが、裏を返せば「他制度はダメだが生活保護は引き下げてよい」ということであり、生活保護利用者への差別と偏見を助長するものである。

 そもそも、政府の引き下げの理由は道理のないものであり、生活保護バッシングに悪乗りした恣意的な手法といわざるを得ない。社会保障審議会生活保護基準部会は、下位10%の低所得世帯(第1十分位)との比較という方法を用いたが、「水際作戦」などで捕捉率が2割程度に止まり、生活保護基準以下の耐乏生活を強いられている人々が多数いるもとでは、生活保護基準の方が高いという結論になるのは当たり前で、当初から強い批判があがっていた。
 ところが、2013年度予算案から判明したことは、基準部会の検証結果に基づく引き下げ幅は90億円に止まるのであって、その実に7.5倍(670億円)もの大幅引き下げを安倍政権は強行しようということだ。政府は「近年のデフレの反映」と説明するが、低所得世帯の消費実態と比較した時点でデフレの影響も反映されていたはずであり、二重の引き下げに他ならない。また、原油や食料などが値上がりし、物価が一時的にあがった2008年と比較してデフレ幅を水増ししていることなど、政府の主張にはいくつもの誤魔化しがある。

 次に生活保護制度自体の見直しの問題点である。不正受給対策の強化にくわえ、就労支援の強化、医療扶助の適正化などが打ち出されているが、具体的な内容を見ればみるほど、数々に問題のあるメニューが並んでいる。
 例えば、家計管理の支援という名目で、生活保護費の使途の説明やレシートの保管、提出などの権限強化が盛られている。まるで犯罪者扱いの生活保護利用を「恥」とする差別意識に根ざすものではないかと批判されねばならない。また、扶養義務の強化(扶養できない理由の説明を求めることなどの権限強化)が掲げられている。現在の厳しい経済情勢のもとでギリギリの生活をおくる親族や低年金の親などにも「1万円でも、2万円でも」などといいながら過度な扶養を強いる結果となることが容易に想像され、共倒れの多発が強く懸念される。
 これらを通して生活保護への差別意識があおられ、利用をためらう空気がさらに助長されることも明らかであり、手段を選ばぬ生活保護費の削減計画というしかない。

 就労・自立支援の強化の名目のもと、6か月を目途に、本人が希望していない職種や就労場所まで範囲をひろげて、(たとえ賃金が月3〜5万円であっても)早期就労をせまることも強く打ちだされている。これは多くの場合、本人の自立につながらないだけでなく、結果として雇用破壊をいっそう進行させ、日本経済を冷え込ませる愚策である。
 なぜなら、就職氷河期に見られるようにまともな雇用は限られ、派遣など低賃金の短期・不安定な雇用が大半という今日の厳しい雇用情勢のもとで、期限をきって早期就労を強いれば、低賃金の不安定就労につかざるを得ず、ワーキングプアの大量生産という結果にならざるを得ないからである。低賃金の短期・不安定雇用に大量の生活保護利用者が流れこめば、雇用全体の質を押し下げることも確実である。実際、派遣村などの相談者を見ても、仕事を選ばず焦って飛びついた人の大半が不安定雇用を転々とし、何度も解雇・雇止めに遭遇している。「雇用の質」こそ問われているのであって、雇用破壊の愚策は止めるべきである。

 安倍政権は上記の生活保護制度の改悪を強行するため、生活保護法「改正」法案や就労対策の新法を準備中であるが、法案要綱も示されていないのに、2013年度予算政府案ではすでに450億円の削減が制度見直しの財政効果として見こまれている。この450億円には準備中の法改悪自体の効果は含まないと説明されているから、まさに窓口での「締めつけ」で強行しようというのである。予算であらかじめ削減効果を見こむことは、現場に行けば削減の数値目標とならざるを得ず、450億円を大きく超える引き下げとなることが強く懸念される。新たな「水際作戦」として厳しく批判されねばならない。ある自治体関係者が「国が厳格化にお墨付きを与えた意味は大きい。餓死者が出ても自治体が矢面に立たず、国の責任にできる」(毎日120929)と語ったと報じられているが、こうした事態は絶対に引き起こしてはならない。
 なお、締め付けの財政効果だけで450億円の削減を政府が見こんでいるということは、準備中の生活保護法等の「改正」の全体は、それに数倍する削減が見こまれているということであり、セーフティネットである生活保護制度をますます大きく切り崩すものである。

 全労連は、生活保護制度の大改悪を許さないため、当事者はもとより、市民団体や法律家などとの共同をさらにひろげ、運動の一翼を担っていっそう奮闘する。
 今回の改悪攻撃が、生活保護バッジングで助長されてきた生活保護への差別と偏見を悪用して展開されていることを直視し、生活保護利用者の厳しい生活実態や広範な国民への影響を明らかにしながら、国民的な合意づくりのための論議をすすめていく。
 また、貧困と格差がより拡大し、ワーキングプアや失業者、低年金の高齢者など、生活保護以下の生活を余儀なくされている人々がますます増えていることが、差別と分断の背景にあることを踏まえてとりくむ。「生活保護以下の生活をなくそう」を合言葉に、憲法25条を基礎に、失業時保障や年金制度の拡充、低所得者への家賃補助制度の創設など、総合的な生活保障の実現と社会保障制度の拡充のとりくみをいっそう強化していく。

 2013年2月15日

全国労働組合総連合
事務局長 小 田 川 義 和

 
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