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【談話】最低賃金改定審議の開始にあたって
中央最低賃金審議会は最低生計費を保障しうる目安を答申せよ

2008年7月2日
全国労働組合総連合
事務局長 小田川 義和

1.6月30日、第25回中央最低賃金審議会が開催され、厚生労働大臣の諮問文が審議会会長に手交された。そして本日から、目安小委員会が開催されている。大臣の諮問は、最低賃金を取り巻く状況や7月1日施行の改正最賃法の趣旨をふまえ、加えて、成長力底上げ戦略推進円卓会議における賃金底上げ議論にも配慮した調査審議を求めている。これで、いよいよ各地の地域別最低賃金に大きな影響を与える「中賃目安」策定の審議が始まる。中央最低賃金審議会は、多くの労働者の切実な要求を正面から受けとめ、大幅な底上げと地域格差の是正を促す目安を答申すべきであり、全労連として、そのことを強く求める。

2.上記の審議会では、事務局から最賃法に関する国会質疑の論点が紹介された。(1)非正規の低賃金労働者が増え、最賃制度の重要性が増していること、(2)地域別最賃は先進国の水準をふまえ1000円以上とすべきこと、(3)最賃は生活保護を上回るべきこと、などである。最賃が1000円になると、中小企業の経営を圧迫し、雇用にマイナスとの意見も紹介されたが、多くの論者はワーキング・プア根絶のために、世界的にみて低すぎる日本の最賃を引き上げるべきと主張している。審議会の冒頭で、このことを、あらためて確認した点は重要である。

3.審議会が最も時間を費やしたのは、改正法の目玉である「生活保護との整合性」に関連した生活保護制度の説明であった。「最低生活費を計算する尺度となる保護基準」について、生活扶助と各種加算制度・一時扶助、その他の扶助制度、勤労に伴う必要経費を補てんする勤労控除があることなどが事務局から紹介された。住宅扶助については、低すぎて意味を失っている「住宅扶助基準」(一・二級地で13,000円以内、三級地で8,000円以内)だけを示し、実際に運用されている「住宅扶助特別基準」を口頭での紹介にとどめるなど不適切な説明もあった。また、生活保護で免除される税金・社会保険料の扱いや、都道府県内の級地の格差の扱い、月額設定の生活保護と時間額設定の最賃を比較するための労働時間の扱いなど、技術的とはいえ、最賃額を左右する重要な論点が多々あるが、それらにはふれられなかった。「整合性」をどうつけるかの詰めは審議会に任せるとしており、委員の責任は重大である。

4.全労連は、生活保護をもとにした最低生計費の算出方法と、最賃との比較・整合性の付け方について1月18日、5月30日の2回の要請の中で明らかにし、すでに厚生労働省に提示している。その内容は、(1)18歳以上で独立生計を営む単身者の生活の必要をみたす金額とすること、(2)県内で最も生活保護の高い級地(県内どこで生活しても生活保護基準を下回らない)の基準を適用すること、(3)税・社会保険料などの負担を考慮すること、(4)生活扶助額(第1類+第2類+冬季加算+期末一時扶助など可処分所得)を積算して、これに勤労控除と税金・社会保険料分の補正をおこなって月額を算出し、1ヵ月の労働時間150時間で割って1時間あたりの金額を算出すること、というものである。この方法によれば、生活保護制度の性質上、地域によって差がでるものの、概ね各地の時間額は1,000円前後となる。
 6月20日のいわゆる「円卓合意」が示した「小規模企業の中でも最も低い高卒初任給」という目標は、生活保護をもとにした最低生計費に照らせば、5年後の目標どころか、即座に踏破すべき水準といえる。改正法の最低生計費原則をみたさず、自律した生活を保障できないほど低い高卒初任給の実態は、最賃底上げの過程の中で是正されていくべきものである。

5.本年の目安改定審議では、中小企業の経営問題をどうみるかも大いに議論となろう。実際、30日の審議会で、使用者委員は、諸物価高騰で経営がひっ迫する中での最賃底上げに対して異議を唱えていた。
 ところで使用者委員は、これまでの毎年の改定審議においても、最賃の引き上げが経営破綻を招くと主張してきた。しかし、実際に進行している事態をみると、燃料・原材料価格の高騰や取引先からの単価低減要求には対応し、賃金の底上げだけを拒んできたことが明らかとなっている。したがって、目下の経営状況の緊迫ぶりは認めるにしても、以下の点から最賃大幅引き上げを基調とした審議を行うべきと考える。

 (1)働いても生活できない賃金の存在を認めることは、憲法にも、労働基準法にも、最低賃金法にも反していること、(2)今の最賃では健康を保ちつつ、就労を続けることは不可能であり、それは全労連の「最賃生活体験」で立証済みであること、(3)使用者側は最賃の引き上げによる経営破綻論の論拠を示さず、最賃底上げがまるで全従業員の賃金アップを引き起こすかのように過大なコスト増をアピールしていること、そうではなく、「通常の事業の支払い能力」を冷静に議論すべきであること、(4)内需拡大のためには大企業・富裕層への富の集中ではなく、消費性向が高く、かつ地域で中小企業向けの消費を行う傾向の強い低所得者への収入アップが決め手となること、(5)低賃金の底上げは、労働者の仕事の意欲や企業定着意識の向上を促し、生産性向上につながること、(6)日本と同様、物価高騰とグローバル化の波にさらされている他の先進国の最賃はすでに1,000円水準に到達しており、いかにして速やかに「1000円以上」のグローバル・スタンダードに近づくかが日本の課題となっていること、(7)日本の中小企業の生産性を阻害している要因の分析と克服が重視されるべきであること、などである。

6.日本の中小企業の生産性を阻害しているのは、労働者の賃金ではなく、大企業による下請け中小企業への一方的な低単価押しつけや、さまざまな不公正取引である。それらを許さない制度と実践を確立し、かつ、自治体の発注(公契約)での公正の確保、そして政府・自治体による中小企業予算の増額や税制・金融、技術・人材育成等での中小企業支援策を強化することこそが必要である。
 要するに、最賃底上げは、中小企業の生産性向上に必要なことであり、上記の中小企業対策の拡充とあわせて進めていくことが、日本経済の持続的発展のために必要である。全労連は、中小企業振興策と経営環境整備の諸施策を政府に求めてきており、使用者団体と共同して政策実現を進めたいとの意向表明もしている。こうしたことも踏まえ、使用者委員には最賃抑制のスタンスを変更するよう、強く要望する。

7.本日から目安小委員会が開催され、密室の中で最賃改定の実質審議が進められる。中央最低賃金審議会ならびに目安小委員会は、目先のコスト論に拘泥せず、日本の雇用労働をまともにし、中小企業を発展させるという基本姿勢を共有しつつ、(1)生計費原則にもとづく到達目標を確認し、(2)今年度はそれにどこまで近づくことができるかを、丁寧に、かつ開かれた審議によって行うことを、強く要求する。
 全労連は、毎年、中央最低賃金審議委員候補を推薦し、一貫して排除されているが、審議の充実に貢献しうる論点と材料を持ち合わせており、目安小委員会での意見陳述を求めるものである。

以上

 
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