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【談話】貧困を深刻にし、格差を拡大する規制改革に断固反対する
- 「規制改革推進のための3カ年計画(改定)」に対しての見解 -

2008年4月13日
全国労働組合総連合
事務局長 小田川 義和

【はじめに】
 (1) 政府は、3月25日に、「規制改革推進のための3カ年計画(改定)」(以下、「規制改革計画」という)を閣議決定している。昨年6月22日に決定された「3カ年計画」の一部改定であるが、規制改革などの「構造改革」が生み出してきた労働者、国民の貧困化や地域間などでの格差の拡大、それらに対する世論の批判に対し、余りにも無神経である。
 近年、急速な規制改革が求められた介護分野で、不正受給をおこなったコムスンが事業廃止に追い込まれ、東京都の認証保育所が不正行為を理由に認証を取り消される事案などがおきている。公共サービスへ営利企業の参入を拡大したことの矛盾の表面化である。
 「規制改革計画」は、表面化しだした規制改革の負の部分を全く検証せずに、以前からの新自由主義的主張を繰り返している。その点だけでも政策的な正当性はなく、全労連は「規制改革計画」の具体化に強く反対する。

 (2) 「規制改革計画」では、医療や福祉・保育・介護、労働分野など17分野の規制改革「重点計画事項」を示している。いずれも、市場原理になじまない分野を「儲け」の対象とするために、露骨に規制緩和や民間開放を求めている。そのような立場での規制改革が、弱肉強食の競争社会を作り出し、労働者の貧困状態を深刻にし、格差拡大の原因となり、社会全体の安定や安心を損ない、閉塞感の元となっていることは、疑う余地はない。

【認めることのできない労働分野の規制緩和論】
 (1) 全労連としてとりわけ認め難いのは、労働分野と雇用・就労分野での生活保護制度見直しにかかわる「計画事項」である。
 労働分野については、「規制改革計画」の論議過程の「第2次答申」で、規制改革の目的等に言及した次のような問題意識が明らかにされている。
 すなわち、現在の日本の労働法制は「労働者を強く保護」しているとし、労働市場の規制を「誰にとっても自由で開かれた市場」にすることを求めている。また、「労働者の権利を強めるほど、労働者の保護が図られる」という考え方は「一部に残存する神話」だと攻撃し、「規制を撤廃することこそ、労働市場の流動化、脱格差社会、生産性向上などのすべてに通じる根源的な政策課題」だと決めつけている。

 (2) このような問題意識には、労働力と言う「特殊な商品」が、雇用される側(労働者)が、雇用する側に対して相対的に弱い立場のもとで労働契約を結ばざるをえないという認識が希薄である。人を対象とする労働法制では、貧困解消をはじめ、労働者と家族の生活の安定をはかる社会政策の立場が重要である。この歴史的にも国際的にも確認された立場、非正規労働者が急増する今の日本社会で重視すべき中心課題への関心が払われていない。
 今回の「規制改革計画」では、そのような問題意識は省かれて入るが、「多様な働く方を選び得る派遣・請負労働の実現」、「労働政策の立案について」の改革課題は「第2次答申」と全く変わっていない。したがって基本的な問題意識は、引き継がれていると考える。

【現状認識が不十分な労働分野の規制改革課題】
 (1) 「計画事項」の内容のうち、第1に派遣・請負労働では、次の問題点がある。
 一つは、絶対的に禁止されるべきである労働者供給事業に実態が近似し、違法、脱法の蔓延や労働者の貧困化の温床ともなり始めている日雇い派遣について、労働基準法の周知徹底程度で対応しようとしていることである。日雇いという不安定極まりない雇用関係が、使用者に最大の強みを与え、立場の弱い労働者の権利や健康を損なわせている問題の最大要因であることを直視すれば、その禁止こそ喫緊の課題である。

 (2) 二つは、派遣と請負の区分について、「請負事業主にとってより明確」にすることを求め、派遣労働者に対する雇用契約申し込み義務の「見直し」を求めている点である。
 いわゆる偽装請負の問題は、「(請負のままでは)部品個別の受け渡し全てに伝票を要し、生産現場の効率を著しく損なう」(「第2次答申」)というような瑣末なことが障害となっているのでない。社会保険負担を含む使用者としての責任を回避しつつ、自己の管理の下で労働力を活用しようとする請負先企業の身勝手な行動原理が根底にある。
 派遣労働者に対する雇用契約申し込み義務の見直し要望も、使い勝手の良い安価な労働力の活用を求める派遣先企業の身勝手な要求に他ならない。
 期間の定めのない直接雇用を原則として、企業の雇用主責任を発揮させることは、企業の社会的責任(CSR)の具体化であり、社会政策の基本に据えられるべき課題である。
 その点では、派遣労働は、臨時・一時的な業務に限定されるべき例外的な働き方であることを確認し、派遣事業規制の再強化が求められている。

 (3) 三つには、紹介予定派遣以外の労働者派遣における事前面接の解禁を求めていることである。
 派遣労働は、派遣元企業が派遣先企業の要望に合致するよう労働者を選抜し、必要な業務研修もおこなって派遣契約が履行されることを前提に制度構築されてきた。事業規制が緩すぎるために、派遣先のニーズに十分応えきれない派遣会社が乱立している状態こそが問題である。雇用責任を果たさない派遣先企業が労働者を選択するような仕組みを整備すべきではない。
 派遣労働者に対し、派遣先企業が事実上の「採用権」を振りかざしてハラスメントを繰り返す人権侵害も数多く報告されている。そのような中で、事前面接解禁を認めるわけにはいかない。

 (4) 四つには、労働政策の立案にかかわって、三者構成の労働政策審議会への労働者等の「見解」反映方法について言及している点である。
 労働政策にかかわって多様な意見が存在する中で、労働者の意見を特定のナショナルセンターの見解に代表させている現状は大いに問題があると考える。だからと言って、「規制改革計画」で言及されているような「各種統計調査の活用」という方法を執ることに賛同できるものではない。
 労働政策の決定過程で、結社の自由を享受する代表的労使に有識者を加えた三者協議の手続きを組み入れることは、近代的な労使関係が成立している先進国では一般的である。それは、労使の社会的な協議を活性化させることで、いたずらに紛争を発生させず、社会の安定に資することになるからである。その点で、「規制改革計画」の検討課題の内容は、集団的な労使関係を軽視するものであり、受け容れがたい。

【貧弱な生活保護制度をさらに切り詰めることは国の行政責任放棄】
 (1) 生活保護制度の「見直し」課題については、「保護から脱却しないことが得策であるとの意識が被保護者に存在しているとの指摘」があるとして、「勤労控除制度等の見直し」、「医療扶助の見直し」を求めている。しかし生活困窮者の暮らしと就労の実態をふまえ、保護制度が健康で文化的な最低限の生活を保障するものとなっているか、本来の趣旨に沿った運用がなされているかなどの現状分析もなしに、過度に自立をせまり、就労促進を強調することを認めることはできない。
 そもそも保護から脱却できないのは、働いても貧困から逃れられない劣悪な雇用・労働条件の蔓延と、それを可能にしている低すぎる最低賃金などの労働基準にある。自立支援・就労促進をいうのであれば、まともな労働環境をつくることを優先すべきである。

 (2) 生活保護率は、政府の調査統計でも20%そこそこに過ぎず、生活保護を必要とする国民に対して、事実上、自立を強要するような実態にあることが伺える。生活保護の水準は、相対的な貧困水準からすればなお低く、社会保障による所得再配分機能も不十分である。
 このような中で、生活保護が認められずに餓死する事件が続発し、病気になっても医療を受けることができない生活困窮者が増えている。ネットカフェ難民のようなあらたなホームレス状態まで起きている。経済大国といわれる中での絶対的貧困の拡大は、生活保護基準の保護率の低さや自立を強要し続ける保護行政と無関係とはいえない。
 改善こそ求められる生活保護制度の現状からして、改悪方向での検討は断じて認められない。

以 上

 
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