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2003年10月8日
厚生労働省労働基準局総務課 御中

労働基準法の一部を改正する法律(平成15年法律第104号)の施行に伴う関係省令の改正等についての意見

全国労働組合総連合

全労連は、標記の件について、以下の通り意見表明する。


1.労働基準法第14条第1項第1号の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準を定める告示案について

(1)期間の上限5年の専門職に関する「基準」

 先の国会では「弁護士、公認会計士など専門的な知識、技術及び経験を有しており、自らの労働条件を決めるにあたり、交渉上、劣位にたつことのない労働者」に限定するとの附帯決議と大臣答弁が行われている。この附帯決議と大臣答弁を生かすうえで、客観的にも対等の交渉力を有すると考えられるものに極めて厳格に規制されるべきである。

 しかし、告示案は現行の「専門職」の範囲をおおむね引きつぐものであり、あまりに広範囲にわたっている。たとえば「博士の学位を有する者」については、使用者によって指定されたテーマでの研究を行う場合も多く、容易に転職が出来るものではなく、決して「交渉上劣位に立つこと」とはいえない。さらに「発明者」に至って、1件でも特許発明等を行った場合はすべて対象になるとすればあまりにも無限定に広がることが考えられる。

 したがって、期間上限5年は第2項の有資格者に限定されるべきであり、さらに通常、当該資格をもって独立営業ができ、社会的にも高度な専門職と認められ、客観的に対等の交渉力を持つものに限定されるべきである。


2.有期労働契約の締結、更新および雇い止めに関する基準を定める告示案について

 先の国会審議では、有期雇用期間の上限延長に関わって、常用雇用の代替につながるとの危惧の念が多く出されたことからも、「常用雇用の代替化を加速させないように配慮するとともに、有期雇用の無限定な拡大につながらないよう充分な配慮を行うこと」の附帯決議がなされている。

有期雇用は合理的な必要がある場合にのみ認められるべきものであり、本来、一時的・臨時的業務に限定すべきものである。しかし、日本の非正規雇用労働者のほとんどが有期雇用労働者であり、使用者側の一方的な雇い止めや、何年働いても賃金・労働条件において正規労働者との不当な差別扱いを受け、また雇用契約更新と引き換えに労働条件の引き下げを押し付けられるなどの理不尽な扱いがなされている。国会での新法成立以後、「新規採用はすべて3年有期の契約社員」という企業も現れ、国会審議での危惧が現実のものとなりつつある。

 今日、有期雇用問題は、パート労働者だけではなく全労働者の問題となり、雇用の一層の不安定化を促進させるものとなっている。

 したがって、有期雇用契約の締結にあたっては国会審議および附帯決議の精神が生かされるように、以下の通り修正を求めるものである。

(1)契約締結時の明示事項

  @ 使用者は有期雇用契約を結ぶに当たって、有期雇用契約とする必要性、合理的理由および、契約期間の根拠を書面で明示しなければならない。

  A 契約更新時についても@と同様とし、期間については当該労働者の希望を尊重するよう努めること。

(2)雇い止めの手続き

  @ 使用者が雇い止めをする場合は、労基法20条に準じた予告および、労基法22条1項に準じた雇い止め理由書を交付する義務がある。


3.労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針の一部を改正する告示案について

法改正により、企画業務型裁量労働制は、「多様な働き方の選択肢の一つとして、同制度が有効に機能するため」導入の要件・手続が緩和されたが、衆参厚生労働委員会の審議の中では、与野党を問わず、各委員から賃金不払いサービス残業の隠蔽や、過労死にいたるような働き過ぎを誘発するものとなるのではないか、との強い懸念がだされた。これらの意見に対する答弁の中で、政府参考人ならびに坂口厚生労働大臣は、従来の法38条4項の基本的な趣旨、目的、仕組みを変更するものではないこと(注1)、サービス残業規制については別途通達を出すなどして強化すること、健康・福祉確保措置等を強化することなどの説明や対応を示したが、各議員の懸念を払拭するにはいたらなかった。法改正は通ったものの、衆参両院で、「今回の裁量労働制の適用事業場の拡大、手続緩和が、サービス残業隠しに悪用されることのないよう、適用対象事業場についての基準を設けるとともに、対象業務については当該事業場全体の運営に影響を及ぼすものとすること。また、この基準等の周知徹底を図ること」との付帯決議がついた。告示は、こうした経過をふまえ、審議でだされた意見や付帯決議を反映させていただきたく、貴省提示の案につき、以下のような修正を要求するものである。

(1)対象事業場

告示案は、対象事業場の拡大について、衆参・厚生労働委員会の場で、松崎政府参考人が答弁した内容(「実質的な分社」注2)と異なっている。各委員は、同参考人の答弁から、法改正の意図する中身を理解し、同意したわけであるから、同政府参考人の答弁に沿った告示とすることが求められる。したがって、以下の内容とすること。

「適用対象事業場に関する基準については、当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼす決定が行われる事業場又は分社化等の措置により当該事業場の属する企業等の本社・本店等から実質的に独立して独自の事業戦略を策定し、事業を進める事業場に限るものとすること。」

(2)対象業務

国会付帯決議の内容を踏まえ、対象業務については、当該事業場全体の運営に影響を及ぼすものとした上で、労働者の業務遂行上の裁量権についても以下のように限定を加えること。

「対象業務について、支社等における当該事業場の属する企業等に係る事業全体の運営に影響を及ぼす業務又は当該事業場に係る事業全体の運営に影響を及ぼす独自の事業戦略を策定する業務であって、業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があり、かつ労働者が業務の量や進捗を自己の権限で管理できるものであること。」

(3) 健康・福祉確保措置

産業医による助言指導をより確実なものとするため、「(1)  働き過ぎによる健康障害防止の観点から、必要に応じて、使用者に産業医等による助言指導を受けさせることが必要であることとすること。」とすること。

また、個人の意向を踏まえたものとするため、「(2)  使用者は、把握した対象労働者の意向、勤務状況及びその健康状態に応じて、当該対象労働者への企画業務型裁量労働制の適用について必要な見直しを行うことを決議に含めることが必要であること。」とすること。

*注1:松崎政府参考人 5月23日衆院・厚生労働委員会答弁

「冒頭申し上げましたように、今回の見直しにおきましても、基本的なこの企画業務型の裁量労働制の趣旨でございますとか目的、また仕組み、そういったものは維持していくということが前提でございます。」

*注2:松崎政府参考人 5月23日衆院・厚生労働委員会答弁

「ただ、唯一、申し上げましたように、従来、対象の事業場というものを本社、本店等に限定していたということでございましたので、本社、本店等と同じようなといいますか、事実上分社化等で、実際に独自の経営戦略、そういったものが立てられる権限、事業を進められる権限というものを持っている事業場については、従来の本社、本店等よりも拡大するという部分だけでございますので、基本的な枠組みの部分ではなくて、業務の中身、そういったものについては基本的には変わらないと思っております。

 ただ、対象事業場が拡大することによりまして、文言の書き方といいますか、従来でありますと企業全体のというふうな感じで言ったと思うんですけれども、それが、企業全体だけではなくて、権限がある場合にはその事業場というふうにもなり得るのかなということで、ただいま大臣からも御答弁ございましたように、労働政策審議会においてそういう方向での御議論をお願いしたいというふうに考えています。」

4.労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準の一部を改正する告示案について

特別条項つき協定に基づく時間外労働が恒常化しているなか、「特別な事情」が、あくまで「臨時的なものに限ることとする」との告示には大きな意義がある。そこで告示には「特別な事情」の乱用防止の観点を具体的に述べた上、対策も含めたものとするため、以下の通りとすること。

「2 労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準第3条に定める限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない事情が、前項の臨時的の範囲を超えて続くことが見込まれる場合は、要員増など業務計画の見直しを行うこと。」

以 上



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