労基法「改正」法案要綱と全労連の考え方

全労連労働法制改悪反対闘争本部

法案要綱 全労連の考え方 現行法
解 雇 ル ー ル
一 解雇
 使用者は、この法律又は他の法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇することができること。

 ただし、その解雇が、客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とするものとすること。

二 解雇理由の明示
 労働者が、解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由を記載した文書の交付を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならないものとすること。

三 就業規則
 就業規則の記載事項のうち、退職に関する事項に解雇の事由を含むことを明らかにするものとすること。

一 「使用者は…労働者を解雇することができること」との条文は、労働者保護法である労基法にはなじまない。不当解雇を助長する可能性がある上、裁判において、労働者側に解雇の不当性を証明させることになるため、削除すべし。

二 (1) 「ただし・・」以降の「客観的かつ合理的な理由を欠き、社会的相当性を欠く解雇は無効とする」、との条文を本文として明記すべし。
(2)正当な理由が必要であることを明記し、その例として「整理解雇の四要件」(@解雇の必要性(挙証責任は使用者)、A解雇回避努力義務、B労働組合(ない場合は、労働者代表)への情報開示と協議、C整理基準、人選の客観性・合理性の「四要件」)をあげること。
(3) 正当理由があることについての立証責任は使用者にあることを明記すること。

三 企業組織の変更(合併、分割・分社化、営業譲渡、外部委託等)にあたって、労働関係のすべての権利は承継されることとし、解雇を禁止すると明記すること。労働条件の不利益変更をおこなってはならない点も記すこと。また、企業組織変更が行われる場合は、計画の変更が可能な、できるだけ早い時期に労働組合(ない場合には労働者代表)に対して、その必要性等についての情報を提供し、合意を成立させるための協議を行なわなければならない旨、明記すること。

四 解雇予告期間中の解雇理由の明示はいいが、文書交付の請求をもって、解雇に同意したとはみなさない旨、明記すべし。

五 就業規則の必要記載事項に「解雇の事由」を盛り込むことで、トラブルを未然に防止する効果があり、明示すべし。

(解雇制限)
第19条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が第65条の規定によつて休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第81条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
第104条 事業場に、この法律又はこの法律に基いて発する命令に違反する事実がある場合においては、労働者は、その事実を行政官庁又は労働基準監督官に申告することができる。2 使用者は、前項の申告をしたことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない。

(解雇の予告)
第20条 「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2 前項の予告の日数は、1日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。"

(民法627条)
 当事者カ雇傭ノ期間ヲ定メサリシトキハ各当事者ハ何時ニテモ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得 此場合ニ於テハ雇傭ハ解約申入ノ後2週間ヲ経過シタルニ因リテ終了ス
2 期間ヲ以テ報酬ヲ定メタル場合ニ於テハ解約ノ申入ハ次期以後ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得 但其申入ハ当期ノ前半ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス
3 6ヵ月以上ノ期間ヲ以テ報酬ヲ定メタル場合ニ於テハ前項ノ申入ハ3ヶ月前ニ之ヲ為スコトヲ要ス"

金銭解決(法案要綱からは削除)
*審議会で検討された内容
(判決等による労働契約の終了)
1.判決で解雇無効が確定した場合、当該労働者が職場復帰しても、労働契約の本旨に従った義務の履行が困難となる状況が生ずることが明らかであるときは、退職と引き換えに、当該解雇を行った使用者に対して補償金の支払を請求することができるものとすること。

2.使用者は、判決で解雇無効が確定した場合において、次のいずれにも該当する事情があるときは、労働者との間の労働契約の終了を裁判所に請求することができるものとすること。
ア使用者の行った解雇が、その使用する労働者の解雇に関する権利を制限するこの法律若しくは他の法律の規定に反しないもの、かつ、公序良俗に反しないものであること。
イ使用者と労働者との間に当該労働者の職場復帰に関する紛争が生じている場合であって、当該労働者の言動が原因となって、当該労働者が職場復帰したとしても、職場の秩序又は規律が維持できず、当該労働者又は当該事業場の他の労働者が労働契約の本旨に従った義務を履行することが困難となることが明らかであること。
ウ補償金の支払を約すること。

3.補償金の額は、平均賃金の○日分とするものとすること。

4.使用者による補償金の支払は、労働者の使用者に対する損害賠償の請求を妨げないものとすること。

 違法な解雇を行った企業に労働者の復職要求を拒否する権利を与え、金銭で雇用契約を終了させるなどというのは不正義そのもの。勤労権(憲法27条)を踏みにじり、労基法の立法趣旨を破壊するものである。
 公序良俗に反しない場合との条件をつけているが、これまでの裁判の実績からみて歯止めとならないことは明白である。例えば、組合敵視にもとづく解雇は不当労働行為として公序良俗に反するものであるが、実際の裁判では、解雇無効の判決がでても、よほどの場合でなければ不当労働行為だから、とまでは述べない。つまり、労働者側は、解雇無効を明らかにするだけでなく、それが組合敵視にもとづくことを余すことなく証明できなければ、「金銭で雇用打ち切り」を逃れることはできないことになる。
 「不法な解雇を金で合法化」し、職場復帰を望む労働者を「一定の額」で排除してしまうやり方は、断じて容認できない。金銭解決の手法は、今後とも議論の俎上に載せるべきではない。

 必要なのは、「就労請求権」(職場への現実の復帰をはかる権利)の明記である。

 
裁 量 労 働 制
一 専門業務型裁量労働制
 専門業務型裁量労働制の導入に当たって労使協定で定めなければならない事項として、専門業務型裁量労働制の対象業務に従事する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置並びに当該労働者からの苦情の処理に関する措置を当該協定で定めるところにより使用者が講ずることとする旨その他厚生労働省令で定める事項を追加するものとすること。

二 企画業務型裁量労働制
1 企画業務型裁量労働制の対象とする事業場は、事業運営上の重要な決定が行われる事業場に限定しないものとすること。
2 企画業務型裁量労働制の導入に当たって労使委員会が行う決議の要件は、その委員の五分の四以上の多数とするものとすること。
3 労使委員会の委員のうち、労働者を代表する委員について、当該事業場の労働者の過半数の信任を得ていることとする要件は、廃止するものとすること。
4 労使委員会の設置に係る行政官庁に対する届出は、廃止するものとすること。
5 企画業務型裁量労働制を導入した使用者が定期的に報告を行う事項は、その対象となる労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置の実施状況に限るものとすること。
6 労使委員会において、労働時間に関して労使協定により定めることとされている事項について決議を行う場合の当該決議の要件は、その委員の五分の四以上の多数とするものとすること。

 裁量労働制が適用されている労働者で、労働時間について自己裁量権を行使しうる者はほとんどいない。不払い・サービス残業が蔓延し、健康被害、不安が広がっており、裁量権を現実に行使しえない者に、無限定な裁量労働制を適用すべきではない。企画型裁量労働制の対象事業場の規制廃止については、本来対象と予定した企画職には該当しない職務を担当する労働者にまで裁量労働制を拡大する危険性がある。
 手続要件の緩和は、使用者に使い勝手を良くしようとするものであり、決議要件の緩和と労働者代表委員の信任手続の廃止は、過半数組合が存在しない事業場において、過半数代表者1人の意向で事実上労使委員会決議がなされてしまう危険をはらんでいる。

第38条の4 事業運営上の重要な決定が行われる事業場において、賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会(使用者及び当該事業場の労働者を代表する者を構成員とするものに限る。)が設置された場合において、当該委員会がその委員の全員の合意により次に掲げる事項に関する決議をし、かつ、使用者が、厚生労働省令で定めるところにより当該決議を行政官庁に届け出た場合において、第2号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を当該事業場における第1号に掲げる業務に就かせたときは、当該労働者は、厚生労働省令で定めるところにより、第3号に掲げる時間労働したものとみなす。
1 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であつて、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務(以下この条において「対象業務」という。)
2 対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であつて、当該対象業務に就かせたときは当該決議で定める時間労働したものとみなされることとなるものの範囲
3 対象業務に従事する前号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間として算定される時間
4 対象業務に従事する第2号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
5 対象業務に従事する第2号に掲げる労働者の範囲に属する労働者からの苦情の処理に関する措置を当該決議で定めるところにより使用者が講ずること。
6 使用者は、この項の規定により第2号に掲げる労働者の範囲に属する労働者を対象業務に就かせたときは第3号に掲げる時間労働したものとみなすことについて当該労働者の同意を得なければならないこと及び当該同意をしなかつた当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと。
7 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

(2) 前項の委員会は、次の各号に適合するものでなければならない。
1 当該委員会の委員の半数については、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者に厚生労働省令で定めるところにより任期を定めて指名され、かつ、厚生労働省令で定めるところにより当該事業場の労働者の過半数の信任を得ていること。
2 当該委員会の設置について、厚生労働省令で定めるところにより、行政官庁に届け出ていること。
3 当該委員会の議事について、厚生労働省令で定めるところにより、議事録が作成され、かつ、保存されるとともに、当該事業場の労働者に対する周知が図られていること。
4 前3号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める要件

(3) 厚生労働大臣は、対象業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るために、労働政策審議会の意見を聴いて、第1項各号に掲げる事項その他同項の委員会が決議する事項について指針を定め、これを公表するものとする。

(4) 第1項の規定による届出をした使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、定期的に、同項第4号に規定する措置の実施状況その他の厚生労働省令で定める事項を行政官庁に報告しなければならない。

有 期 雇 用 契 約
一 期間の定めのある労働契約については、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、契約期間の上限を3年(次のいずれかに該当する労働契約にあっては、5年)とするものとすること。
1 専門的な知識、技術または経験(以下「専門的知識等」という。)であって高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就くものに限る。)との間に締結される労働契約。
2 満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約(1に掲げる労働契約を除く。)

二 厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができるものとすること。

三 行政官庁は、ニの基準に関し、期間の定めのある労働契約を締結する使用者に対し、必要な助言及び指導を行うことができるものとすること。

 有期雇用契約期間の延長は、一見、労働者にとっても雇用の安定につながってメリットがあるかのようにみえるが、そうではない。現在の1年有期雇用契約であれば、契約更新を4、5回以上重ねると、判例により「期間の定めのない契約」に転化したものとみなされる。しかし、有期雇用期間が延長されると、3〜5年といった中期的雇用の後の雇い止めが行われやすくなる。また、これまで期限の定めのない雇用として採用してきた労働者を3年有期で雇い、選別期間として利用したり、かつて、はびこった「結婚・出産退職」の復活など、事実上の若年定年制の導入につながる条文である。そもそも有期雇用契約は、労働者の退職の自由を制約するものである。使用者も、もちろん契約期間遵守をせまられるが、3年雇用にリスクがあるとみれば、これまでどおりとすることもできる。労働者から、雇用期間を選択することはできず、この制度は、使用者の裁量を増やすだけである。
 労基法には、「雇用契約は合理的な理由がない限りは、期間の定めを設けないこと」と明記し、有期雇用契約はごく例外的な形態であるとするべし。

(契約期間)
第14条 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、1年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、3年)を超える期間について締結してはならない。
1 新商品、新役務若しくは新技術の開発又は科学に関する研究に必要な専門的な知識、技術又は経験(以下この条において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を有する労働者が不足している事業場において、当該高度の専門的知識等を必要とする業務に新たに就く者に限る。)との間に締結される労働契約
2 事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務であつて一定の期間内に完了することが予定されているものに必要な専門的知識等であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を有する労働者が不足している事業場において、当該高度の専門的知識等を必要とする業務に新たに就く者に限る。)との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)
3 満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前2号に掲げる労働契約を除く。)