【談話】

「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」

発表にあたって

2006年6月14日
全国労働組合総連合
事務局長 坂内三夫


 1.6月13日、厚生労働省は第58回労働政策審議会労働条件分科会において、「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」と題した、いわゆる「素案」を発表した。厚生労働省は、同文書を分科会の「中間とりまとめ」の叩き台とする考えのようだが、分科会の労使各委員からも文書の性格と内容について多くの疑問と異論がだされている。労使間で多くの不一致や対立点があるにもかかわらず、それらの意向を軽視し、独自の視点にもとづいて厚生労働省によって作成した文書が、審議会のとりまとめの「素案」となることはありえず、全労連は、本文書の撤回を求めるものである。

 2.本文書はその性格のみならず、内容にも多くの問題がある。まず、労働時間規制の適用除外ができるとする「自律的労働時間制度」である。現行労働基準法で認められている管理監督者ですら、対象範囲が不当に広げられて裁量のない労働者を時間規制の適用除外としてしまい、不払い・長時間労働や過労死を多数うみだしているのに、それをさらに広げる提案である。過労死防止や少子化対策の必要性をいいながら、不当な不払い残業を合法化してしまうだけでなく、過労死やメンタルヘルスなどの健康被害が生じた場合の使用者責任を免除してしまう同制度を、よりによって厚生労働省が提案するのは言語道断である。

 3.不当解雇であっても労働者の原職復帰の要求を抑え込み、金銭で解決してしまおうという制度の提案もあってはならないものである。あらかじめ一定額の金銭を見積もっておけば、気に入らない労働者はいつでも解雇できる効果をもつこの制度を、なぜ、厚生労働省が提案するのか理解に苦しむ。さまざまな制限をつけたとしても、この制度が導入されたとすれば、解雇権濫用法理は空洞化され、いまでも横行する使用者による不当な解雇が、さらに多発することは疑いない。今後の審議においても二度と検討に付すべきではない。

 4.「就業規則の変更等による労働条件と労働契約の関係」については、過半数組合や特別多数労働組合の合意、「労働者を代表する者」との合意などによって、個別労働者が労働条件の切り下げに合意したことを推定するとの法的効果を与えようとしている。これは労働契約締結当事者としての個人の権利侵害であり、また、少数労働組合の団体交渉権を封殺する制度であり断じて認めるわけにはいかない。「過半数代表との合意についても上記に準ずる法的効果を与えることを検討する」などとあるが、会社親睦会の代表や人事課長などが代表となっているケースもあるといった現実をかえりみない暴論といわざるをえない。

 5.以上は「素案」に盛り込まれた問題の一例である。厚生労働省は、過労死、過労自殺・メンタルヘルスの増加、長時間・不払い残業の横行、歯止めのかからない少子化傾向、有期雇用の濫用をテコにして進行する低賃金・不安定雇用労働者の急増などといった労働関係の実態を直視した審議に時間をかけるべきである。そして労働規制を強化し、労使の実質的対等を実現し、労使がともによりよい社会を築くスタンスで審議をする場をつくることを強く望むものである。

 全労連は、多くの未組織労働者・国民との団結と共同をひろげ労働法制の充実にむけた運動をさらに強める決意である。

以 上