【談話】

「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会中間取りまとめ」について
解雇と労働条件引き下げを促進する「労働契約法制」でなく、
労働者保護を強めるものに

2005年4月11日
全国労働組合総連合
事務局長 坂内 三夫


 厚生労働省「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」(座長 菅野和夫東大教授)は4月6日第20回研究会を行い「中間取りまとめ」を行った。この「研究会」は2003年の労働基準法改訂のさいの「労働条件の変更、出向、転籍など、労働契約について包括的な法律を策定するため、専門的な調査研究を行う場を設けて積極的に検討を進め、その結果に基づき、法令上の措置を含め必要な措置を講ずること」という衆参両院の附帯決議を受けて、2004年4月に上記研究会が設けられ、労働契約に関する包括的なルールの整備・整理、その明確化を図ることを目的に検討が進められてきた。今後、この「中間とりまとめ」を踏まえ、更なる議論が進められ、本年秋に最終報告が出されることになった。

 全労連は上記研究会が設けられて以後、その動向に注目し、併せて、労働者・労働組合の立場からの労働契約法制の在り方を検討し、2005年3月7日の常任幹事会で「労働契約法制に関する全労連の要求」を決定したものである。しかし、今回の研究会中間取りまとめは労働法制の規制緩和、ルール破壊攻撃という情勢下での私たちの懸念が現実のものとなって姿を現し、まさに「解雇・リストラ促進研究会」となっていることに強く怒りを感じ、抗議をするものである。

 以下、今回の「中間とりまとめ」のいくつかの問題点を指摘するものである。

 まず、労働契約法制の必要性についての認識では「事業環境や経営環境の急激な変化に対して・・・紛争なしに労働条件の変更が迅速に行われることが必要」とし、そのために「労使当事者が最低基準に抵触しない範囲において、労働契約の内容をその実情に応じて、自主的に決定することが重要」と労使自治を強調している。そして、具体的には「労使委員会制度の法制化」として、常設的な労使委員会で「使用者が労働条件の決定・変更について協議を行うこと」を労働契約法制において促進するとしている。

 全労連は労働契約法制の必要性についてあくまでも近年のリストラ「合理化」路線のもとで、横行する労働条件の一方的不利益変更、整理解雇の四要件を歪めた企業の無法・脱法を規制し、実質的な労使対等が実現できるような法制定を求めている。しかし、研究会の検討内容は企業のリストラ「合理化」推進のための法制定の方向となっている 

 また、「配転・出向・転籍・休職・昇進・昇格」などの労働条件上の検討と併せて、「就業規則を変更することによる労働条件の変更」「雇用継続型契約変更制度」「整理解雇」「解雇の金銭解決制度」「仲裁合意」など、労働者の解雇・労働条件の切り下げをトラブルなく進める上での手続論が展開されている。そして「労働時間法制の見直し」としてホワイトカラーエグゼンプションの導入検討をうながしている。

 「雇用継続型契約変更制度」では「労働契約の変更の必要が生じた場合に、労働者が雇用を維持した上で、労働契約の変更の合理性を争うことを可能にする制度」いわゆる「変更解約告知の異議留保付承諾」であるが、これを設ける前提で検討をしている。全労連は「異議留保付承諾」であっても、経営者を優遇し、労働者に過酷な道を押し付けるものとして、これを認めることには反対である。

 また、2003年の労働基準法改訂時に法案化がなる前に、法曹界、労働界の大きな反対でつぶされたはずの「解雇の金銭解決制度」をまたぞろ持ち出し、「解雇紛争救済手段の選択肢を広げる観点から・・・実効性があり、かつ濫用が行われないような制度設計が可能であるかどうかについての法理論上の検討を行う」としている。全労連は解雇が無効であれば、本人からの雇用契約終了の申し出がない限り、労働契約が継続するのは当然であり、裁判所を使って、労働者の職場復帰を求める権利を奪うことは許されず、違法解雇をさらに助長することになるため、絶対反対である。あわせて、「就労請求権」を「その具体的内容とこれによって生じる法律効果を明確にすることは困難」として「法規定をすることは適当でない」としたことは、まさに、研究会がリストラ・解雇促進の労働契約法制のための研究会であることを示している。

 また、「就業規則を変更することによる労働条件の変更」では秋北バス事件最高裁判決をもとに「就業規則による労働条件の変更が合理的なものであれば、それに合意できないことを理由として、労働者がその適用を拒否することができない」という判例法理は「(企業の)事情の変化に応じて労働条件を柔軟かつ合理的に調整することに役立つものとして一般的に評価されている」から、法律で明らかにすべきとしている。これは「変更解約告知」そのものを認めるということで看過できない重大な問題である。

 そして、就業規則の作成手続では現行の過半数労働者からの意見聴取に代えて労使委員会の労働者委員からの意見聴取等の手続を指針で定めるとしている。効力発生要件では現行規定以上の厳格化は検討されていない。全労連は「就業規則を変更することによる労働条件の変更」については就業規則そのものの制定過程で、労働者保護に資する内容面の適正確保、小数派労働組合の意向反映、不利益変更についての本人および労働組合合意、その合理的理由の提示と説明義務が担保されるべきであるし、現行の基準監督署届け出義務を承認事項とするなどを求めている。

 これらの労働条件、制度の決定システムとして「労使委員会制度」が打ち出されている。「就業規則の変更による労働条件の不利益変更」の場合、「解雇の金銭解決制度」についても労使委員会との事前の合意等が検討されている。全労連は労使委員会制度そのものを否定するものではないが、職場に存在する少数労働組合との関係、労使委員の選出の民主的手続の担保など、今後の検討方向に注目するものである。

 労働契約法制に関わり、全労連は積極的な要求政策を提起してきた。しかし、一方で財界側の規制緩和要求におされ、労働法の改悪につながる危険性も指摘してきた。「中間とりまとめ」はまさに労働法改悪攻撃が容易ならないことを示している。あらためて、労働者保護に資する労働契約法制の実現という原点をしっかり踏まえた大きな運動を労働者のみならず、幅広い国民各層との連帯を強め、引き続き奮闘する決意である。 

以上