【談話】

賃金制度の全面見直しを許さず、「闘う」春闘の前進を

〜2004年版「経営労働政策委員会報告」について〜

2003年12月16日
全国労働組合総連合
事務局長 坂内 三夫


  1. 本日、日本経団連は「2004年版経営労働政策委員会報告」(経労委報告)を発表した。
     報告では、賃金水準の引き下げ・定昇制度見直しと成果主義型賃金制度への全面転換を打ち出している。
     発表された「経労委報告」では、「わが国の賃金水準は世界のトップレベルにあり、実質賃金が上昇している」として、国際競争力を維持・強化する観点から、04春闘に臨んでは「一律的なベースアップは論外」と強調。定昇制度の見直し、縮小・廃止、さらには「ベースダウン=降給」の検討までも言及している。
     報告では、「賃上げ率・額や賃金水準の社会的横断化を意図して『闘う』という『春闘』はすでに終焉した」と改めて宣言。今後は「企業労使が年間を通じて、経営環境の変化や経営課題」について「討議・検討する『春討』・『春季労使協議』」の場と春闘解体・変質させる攻撃を強めている。
    また、ヨーロッパや韓国における労働運動の高揚を意識し、労働組合の有無にかかわらず、「労使が経営課題に共通の認識を持ち、迅速な改革に向けて合意形成を行う必要」があると、「企業内の新たな労使関係のあり方」の模索をおこなおうとしている。
     04春闘における労使交渉・労使協議への具体的対応として、企業の存続と雇用の維持を最重点に置くとして、(1)自社の付加価値生産性に応じた総額人件費管理の徹底、(2)賃金水準の適正化と年功型賃金からの脱却、(3)仕事や役割に応じた複線的な賃金管理への転換(労働力の流動化と多立型賃金体系)を打ち出している。
     また今日、雇用労働者の3割を占めるパート労働者の「均等待遇」の課題については、「外形的な基準のみで一律的な処遇の均衡を求めることになり、問題」と反論。「企業へのトータルの貢献度を個別、仔細に評価すべき」だと「均等処遇」を否定し、業績主義賃金の導入を打ち出している。さらに最低賃金制度について「産別最低賃金制度の廃止」を改めて強調するなど、低賃金構造の改善の運動を敵視する姿勢をむき出しにしている。
     さらに同報告では、この間の大企業による一連の事故やトラブルに対して、その原因がリストラによる現場の熟練工、高度人材の削減によることを認めつつも一方で、グローバル化に対応するため、更なるリストラ「合理化」・社会保障改悪による二重の「高コスト」是正をはじめ、労働分野の規制緩和策による労働力の流動化・雇用形態の多様化など労働市場の構造改革を推し進めようとしている。

  2. 全労連は以上のような日本経団連の「経労委」報告によると、「賃金水準は世界のトップレベルにある」という主張は不当であり、異議を唱えざるを得ない。
     まず第一に、日本の大企業はすでに世界トップレベルの収益を上げ、抜群の競争力を誇示している。にもかかわらず、日本の労働者の賃金水準は先進諸国中、中位にすぎない。しかも名だたる大企業でも不払いサービス残業が横行し、実際の時間当たり賃金は統計数字以上に低い。
     第二に、大企業の労働分配率はすでに低下し、売上高・収益はともに上昇し、史上空前の利益を上げている企業もある。中小企業で売上げをおとしているのは、労働コストが高いためでなく、優越的地位を濫用した大企業による不当な単価低減の押し付けによるものである。
     不況とはいえ、GDP世界第2位の位置を占めている日本の経済規模と、企業の実力に見合うだけの水準に、日本の賃金は引き上げられるべきであり、それこそが、内需主導・地域経済活性につながる本格的な景気回復への道である。
    一部上場の大企業の2003年9月中間決算状況によれば、金融・証券・保険をのぞく全産業の合計で、リストラ効果や本業回復で当期利益が前年同期比で36.6%増という高い伸びを記録した。また04年3月期末も全30業種中29業種が黒字を確保する見通しである(新光総合研究所)など、この不況下で「ITバブル期を抜いて過去最高益を更新する見込み」となっている。
     大企業が過去最高益の利益をあげる背景には、外需や海外生産、国内労働者への賃金カットやリストラ「合理化」によることは明白である。
     また報告は、「貿易立国」から「交易立国」への転換を、と題し、海外投資で「得られた利益を国内にも還元し、次なるイノベーションを生むための資金とするというサイクルを拡充する」という目標を掲げている。しかし、これは現在行われている企業の海外投資のあり方とは、相容れないビジョンである。というのも、国内から生産拠点を引き上げ、現場の技術力を喪失させてしまえば、次代を担うイノベーションなど生まれないからである。
     財界・企業は、企業と株主の短期的利益を最優先させて、人権と人命軽視のリストラを推し進める今の方向と、イノベーションとは無縁であることを知るべきである。
     全労連は日本経団連による春闘解体攻撃と財界主導による「国民的意識改革」「政治改革・再編」の動きに強く反対するものである。

  3. 全労連が発表した「主要20社の連結内部留保(2003年)」によれば、この1年間で02年が2307億円増なのに対して、2兆235億円増の39兆1513億円に拡大させてきている。これらの内部留保や膨大な利益の裏側には、失業・倒産による自殺者や自己破産者の急増、家庭崩壊に追いこまれるなど、労働者・国民の生活・雇用危機の実態がある。
     全労連は、04春闘のなかで、第一に「大企業の社会的責任を正す春闘」と位置付けた。
     大企業へのリストラ・賃金破壊攻撃とのたたかいは、「労働者の雇用と生活を守り、景気回復・日本経済の活性化をはかり、社会保障制度の安定など、日本社会の持続的な発展につなげる国民的大義」である。また、大企業の社会的責任を正す・求めるとりくみはEUをはじめ国際的流れとなっている。
     全労連は賃金破壊を許さず、すべての労働者の賃上げをめざして「誰でも1万円以上」「時給50円以上」の賃上げと最低賃金制度の確立・改善、「4・15年金ストライキ」、消費税など庶民大増税の阻止にむけてすべての労働者・あらゆる社会勢力との共同をよびかけるものである。
     同時に、全労連は04春闘を「許すな雇用・賃金・年金破壊、守ろう平和・憲法を」キーワードに21世紀に希望ある日本社会の未来をきりひらく第1歩として、すべての産業・職場・地域から総決起して奮闘することをここに表明する。

以上