早くもほころび見せる年金改悪 2004年6月11日報道特集


 加入事業所の約1割滞納 01年度末の厚生年金保険料


 社会保険庁は11日、会社員が対象の厚生年金で、2001年度末に制度に加入していた約165万事業所のうち、1割近い約14万事業所に保険料の滞納があったことを明らかにした。
 02年度に新たに登記した法人では2割近い約1万7000法人が加入しておらず、経営の苦しさから制度を違法に脱退した中小企業などを含めると、厚生年金の空洞化の実態はさらに深刻だ。
 厚生年金保険法は、すべての法人と、原則として従業員5人以上の個人事業所の加入を義務付けており、保険料(年収の13・58%)は社員と企業が半分ずつ負担する。今国会で成立した改正法は保険料を17年度に18・30%まで上げる内容で、計画通り実施されれば、滞納や未加入に拍車を掛ける可能性もある。
 中根康浩衆院議員(民主)の質問主意書に対する答弁書で示した。(共同通信611日)

 <出生率低下> 若者減り、年金不信加速

 出生率低下に歯止めがかからない。厚生労働省が10日発表した03年の合計特殊出生率は政府の02年推計を下回り、1.29に落ち込んだ。この「誤算」は、改正したばかりの年金設計を大きく揺るがす。政府が約束した「50%給付」の確保は不透明になり、「年金不信」に拍車がかかるのは避けられそうにない。出生率低下はまた、経済成長の足を引っ張り、過疎化による地域崩壊などにもつながる。だが、抜本策は見えない。【吉田啓志】

 50%給付、不透明に
 政府の国立社会保障・人口問題研究所は約5年に1度、人口推計を公表している。標準の「中位」改善を見込んだ「高位」悲観ケースの「低位」の3種類で、年金など政策立案の前提にしているのはすべて中位推計だ。
 02年公表の中位推計では、03年は02年と同じ1.32で、07年に1.306で下げ止まり、32年以降は1.39近くに回復すると予測していた。
 年金はそうした推計誤りの影響を強く受ける。
 先週成立した年金改革法は、現在年収の13.58%(労使で半分ずつ負担)の厚生年金保険料率を段階的に引き上げ、17年度以降18.30%に固定する。一方で現在現役世代の平均手取り月収の59.3%の厚生年金給付水準(夫はフルタイムで働き、妻が専業主婦のモデル世帯の受給開始時)は引き下げるが、23年度以降は50%を維持する。「年金不安」払しょくを狙い、負担の上限、給付の下限を同時に設定した。しかし、こうした設計は根底から覆ることになる。低位推計をたどった場合、50年の出生率は1.10まで落ち込み、現役世代が少なくなるため、厚生年金の将来の給付水準も46.4%まで低下する。
 厚労省は給付の下限維持を優先する考えで、その場合、(1)保険料率の上限引き上げ(2)消費税を含む増税(3)年金支給開始年齢引き上げ(4)年金積立金取り崩しを早める――などの対応をとることになるが、(4)は問題の先送りに過ぎない。
 民主党の藤井裕久幹事長は10日の記者会見で、「年金は仕組みの根幹から狂っている、もう破たんしている」と述べ、制度の早期の見直しが必要との考えを示した。出生率の公表が年金改革法の成立後になったことについても、「法案への影響を考え隠していた。姑息(こそく)だ」(民主党幹部)との批判が野党から出ている。

  
少子化対策、効果薄く
 政府の人口推計は修正を繰り返している。97年公表の中位推計は、50年の同出生率を1.61と予想。低位推計を1.38と見込んでいた。それが5年後の02年には、中位推計を97年低位推計に近い1.39に下方修正した。
 低位推計は東京都の生涯未婚率を基準に算定している。01年1.3202年1.2903年1.27と見込んだが、実績値はこれをほぼ1年遅れでたどる形で推移している。
 02年推計については、政府は「晩婚化に加え出産しないケースも織り込んだ」と自信を示していた。1.29はこの推計に疑念を強く突き付けるものとなるが、厚労省は「一時的現象」と主張している。00年の「ミレニアム婚」などの駆け込み結婚の反動で婚姻件数が減ったことを出生数減に結び付けている。ただ、ミレニアム婚などの影響は01年、02年に見られてもいいはずだが、その兆候はない。
 政府は89年に合計特殊出生率が急落した「1.57ショック」をきっかけに少子化対策に取り組んできた。今回の年金改革法にも、育児休業中の人の年金保険料免除期間を現行の1年から3年に延長することを盛り込んだ。児童手当の支給対象の拡大や不妊治療に対する助成制度も設ける。しかし、出生率低下は底なしの様相だ。
 政府の出生動向基本調査によると、結婚5年未満の夫婦が「理想とする子ども数」は2.31人。しかし「予定する子ども数」は1.99人だ。その差の理由は「金が掛かるから」が8割を占める。
 フランスでは3人の子どもを9年間養育した男女に年金額を10%加算するなどし、出生率を94年の1.65から02年に1.88に回復させた。スウェーデンは、子どもが4歳になる間に所得が減っても、年金計算は(1)子どもが生まれる前年の所得(2)年金加入期間の平均所得の75%(3)現行所得に基礎額(約50万円)を上乗せした金額――の3通りから最も有利なものを充てるなどの対策で、01年に1.57だった出生率は02年に1.65に伸びた。
 政府はこうした事例を参考に、若い夫婦への「経済支援」に力点を置いているが、政府の社会保障審議会では、女性の就労形態の変化や、出産よりも自らの生き方を尊重し始めたことも出生率低下につながっているとの指摘も出ている。政府は昨年、自治体や大企業に少子化対策の行動計画作りを義務づけた次世代育成支援対策推進法を作ったが、少子化に伴う年金財政の悪化若い世代の将来不安増大一層の少子化進行――という悪循環から抜け出せていない。

     厚生年金給付水準の推移(%)

       65歳  75歳  85歳
  中位推計 50.2 45.1 40.5
  低位推計 46.4 41.6 37.4

  注:1966年生まれの夫婦のモデル世帯。数字は現役世代の平均手取り月収に対する割合(毎日新聞611)

 年金改革ほころび 給付50%維持 保険料を固定
     出生率1.29ショック 抜本改革急務に

  都道府県別の合計特殊出生率

都道府県

2003年

2002年

全国
北海道
青森
岩手
宮城
秋田
山形
福島
茨城
栃木
群馬
埼玉
千葉
東京
神奈川
新潟
富山
石川
福井
山梨
長野
岐阜
静岡
愛知
三重
滋賀
京都
大阪
兵庫
奈良
和歌山
鳥取
島根
岡山
広島
山口
徳島
香川
愛媛
高知
福岡
佐賀
長崎
熊本
大分
宮崎
鹿児島
沖縄

1.29
1.20
1.35
1.45
1.27
1.31
1.49
1.54
1.34
1.38
1.38
1.21
1.20
1.00
1.21
1.34
1.35
1.38
1.48
1.37
1.44
1.36
1.37
1.32
1.35
1.41
1.15
1.20
1.25
1.18
1.32
1.53
1.48
1.38
1.34
1.36
1.32
1.42
1.36
1.34
1.25
1.51
1.45
1.48
1.41
1.50
1.49
1.72

1.32
1.22
1.44
1.50
1.31
1.37
1.54
1.57
1.38
1.40
1.41
1.23
1.24
1.02
1.22
1.38
1.41
1.37
1.51
1.39
1.47
1.38
1.41
1.34
1.40
1.44
1.17
1.22
1.29
1.21
1.35
1.51
1.52
1.44
1.34
1.41
1.36
1.46
1.35
1.38
1.29
1.56
1.48
1.50
1.42
1.56
1.52
1.76

(注)数字は小数点以下第3位を四捨五入

 2003年の合計特殊出生率が政府が想定していた1.32を大きく下回る1.29となったことは、公的年金など社会保障制度の将来設計だけでなく、日本経済の行方にも大きな影響を与えることになりそうだ。発表の時期が年金改革関連法の成立後となったことについては、与党内からも、「厚生労働省は説明責任を十分果たしていない」との厳しい声が出ており、国民の年金不信はますます高まりかねない。

 「将来も給付水準50%を維持する」「保険料に上限を設けて将来も固定する」

 昨年の合計特殊出生率が政府の予測を下回ったことで、年金改革関連法が掲げた2つの約束は、早くもほころびを見せ始めた。

 同法は、新たに厚生年金を受給する世帯(夫が40年加入、妻が専業主婦)の給付水準について、現役世代の平均賃金の50%を確保するとした。しかし、この数字は、将来人口推計の中位推計を基礎としたもので、出生率を低く予測した推計では、50%を大きく下回る。

 給付水準50%を守るには、財源の不足分を埋めるため、保険料の上限をさらに引き上げたり、年金支給開始年齢を引き上げるなどの見直しが必要だ。

 現役世代が負担する保険料で、高齢者の年金給付を賄っている年金制度では、将来の人口見通しは年金財政を左右する前提条件だ。

 だが、これまで政府は少子高齢化の進行度合いを過小評価し、そのたびに「年金財政の見通しが狂ってしまった」と説明して、給付のカット、負担のアップを国民に求めてきた。

 先に成立した年金改革関連法は破たんしかかっている年金財政を一時的に立て直す意味がある。しかし、前提が崩れるようだと、与野党がさらに取り組むとしている年金制度の抜本改革は一層急務となる。

法改正後の公表 批判も
 厚労省は、今回、合計特殊出生率の実績値の公表に難色を示してきた。年金改革関連法成立を目前に控えた6月3日の参院厚生労働委員会では、民主党の山本孝史氏が「昨年の合計特殊出生率は1.29ぐらいに下がっているはずだ」と詰め寄った。2002年の人口動態統計は昨年6月5日に発表されたからだ。山本氏は「国会審議が止まり、法案を採決できなくなるのを恐れて、情報を隠したのではないか」と見ている。

少子化対策大綱 具体化は不透明
 出生率低下に歯止めをかけようと政府は、今後5年間の総合的指針となる「少子化社会対策大綱」を4日に決定したばかりだ。従来の対策が不十分だったことは1.29という数字で改めて裏付けられた。年末までにまとめる「新新エンゼルプラン」は、この大綱の実行計画となる。

 政府の少子化対策は、1994年に策定された「エンゼルプラン」以来、共働き家庭を対象にした保育施策の拡充が中心で、予算規模もサービス内容も限定的だった。保育所の入所希望者の増加に追いつかず、子育て不安や虐待なども広がった。
昨年、相次いで、大企業や自治体に子育て支援の行動計画を義務づける「次世代育成支援対策推進法」と、議員立法による「少子化社会対策基本法」が成立。大綱は、これらを包括した指針となるもので、すべての子どもを対象にした「次世代育成の総合対策」として打ち出された。  目玉は、「高齢者に偏りすぎた社会保障給付の配分の見直し」と「様々な子育て支援施策の総合的見直しの検討」の2点。保育サービス拡充に加え、将来の親となる若者の自立支援、小児医療の充実、家庭を大切にできる職場の実現のほか、子育てに配慮したまちづくりを「子育てバリアフリー化」と名付けて推進することも明記した。 ただ、関連予算の拡大や新たな子育て支援システムの創設には、財務省や厚労省が消極的で、「大綱がどこまで具体化されるかは不透明」(政府関係者)と指摘されている。

経済活力の低下懸念

 少子化の進展は、日本経済の活力を奪いかねない。社会保障を支える「現役世代」の減少による財政負担の増大なども予想され、活力を維持するための対策が求められそうだ。
 厚生労働省は、就業者と完全失業者を合わせた労働力人口が、2005年の6772万人をピークに、2025年には6297万人まで減少すると推計している。出生率低下が加速すれば、それに伴って、日本の労働力人口が急減するのは確実だ。
 日本経団連は、2006年のピークからの総人口減少は、2025年度までの日本の潜在経済成長率を年平均0.2%程度押し下げると試算しており、経済活力の低下は明らかだ。経団連は経済活性化のため、4月に発表した「外国人受け入れ問題に関する提言」で、安定的に外国人の労働者を受け入れる透明性の高いシステム作りを訴えている。
  また、出生率の低下は、国の一般歳出の約4割を占める社会保障費の増加に拍車をかけ、今後の財政再建や、税制の抜本改革に打撃を与える恐れも大きい。
  政府・与党は、2007年度をめどに、消費税を含む抜本税制改革を実現し、年金など社会保障関係の財源確保を図る方針だが、より厳しい方向に前提を見直し、国民の負担増を招く可能性が強まっている。(2004611  読売新聞 )

将来人口推計

 国立社会保障・人口問題研究所が、おおむね5年ごとにまとめる将来の人口推計。2002年1月の推計では、未婚率の上昇や晩婚化などの傾向を踏まえ、将来の人口予測を大幅に下方修正し、2007年以降は人口が減少に転じるとした。


【年金ニュース】

 
  年金改革の設計指標見直しへ 「支え手」2人台低下も  

 厚生労働省が年金改革関連法を設計する際に基礎にした指標や将来推計の計算方法を見直すことが、10日明らかになった。保険料収入の将来見通しがはずれている原因などを検証、年金財政の見直しに反映させる。お年寄り1人を現役世代が何人で支えるかを示す年金扶養比率も見直す方針で、支え手が3.29人(01年度)から2人台に落ち込む可能性がある。

 今月中に、社会保障審議会の年金数理部会で本格的な検討を始める。都村敦子部会長代理は「年金加入者の推移など様々な見通しが、実際の数字とずれている。より厳密な方法に見直していく必要がある」と話す。扶養比率のほか、保険料収入や積立金額の将来見通しなどが対象になるとみられる。今後、年金の一元化が焦点になるため、同省はできるだけ早くまとめたいとしている。

 国民年金(基礎年金)の扶養比率は、被保険者7016万8000人を、20年以上の加入歴がある老齢・退職年金の受給権者の推定値2130万8000人で割ったもの。同省は「高齢者を支える現役世代は3.29人から、25年に1.9人になる」と説明してきた。しかし、現役世代には保険料の未納者や免除者、保険料を払っていない第3号被保険者が含まれている一方、「支えられる側」には遺族年金や障害年金の受給権者を含めていない。

 01年度の未納者、免除者、学生納付特例対象者、第3号被保険者を引いて計算し直すと、支え手は2.36人になる。高齢者に遺族年金や障害年金の受給権者を加えると、扶養比率はさらに下がる。このため、部会の委員からは「正確に分析していない」との指摘が出ていた。また、01年度の国民年金保険料の収入総額は、納付率が悪化したり、免除者が増えたりしたため1兆9538億円と、99年の見通しより462億円少なくなった。

(朝日新聞06/11)

保育所待機児が最多 4万4千人“ゼロ作戦”で増え続け

 保育所の入所を申し込んでいるのに空きがなくて入れない待機児童が、二〇〇三年十月一日時点で前年同期より約千人多い四万四千二百八十五人に達したことが四日までにわかりました。厚生労働省が毎年四月と十月に実施している全国的な調査で、過去最多の待機児童数となりました。日本共産党の高橋千鶴子衆院議員の求めに応じて厚労省が明らかにしました。

 都道府県別では、東京都が最多で八千八百三十人。続いて大阪府七千九十七人、神奈川県五千二百三十七人。政令市では、大阪市二千二百九十六人、横浜市千八百九十六人、川崎市千三百七十人と続いています。

 希望の認可保育所を申し込んでも入れず、一時的に無認可保育施設などを利用している子どもたちを含めると、待機児童は六万七千七百九十五人にのぼります。厚労省は従来、こうした子どもたちを待機児童として集計してきましたが、小泉内閣になった二〇〇一年から除外しています。

 今年度は小泉内閣が実施してきた“待機児童ゼロ作戦”の最終年です。しかし、同省保育課の担当者は「“ゼロ作戦”終了後も待機児童をなくすことはむずかしい」と話しています。

 保育所数は一九八五年の二万二千八百九十九カ所を最高に年々減少。二〇〇一年度に十六年ぶりに増加し、その後もわずかに増えていますが、公立保育所は〇一年度以降も四百五十八カ所減っています。(2004年5月5日(水)「しんぶん赤旗」)