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労働者の貧困の改善は急務、コロナ禍だからこそ賃金引き上げを
全労連小畑雅子議長 衆議院予算委員会で発言

 衆議院予算員会は2月24日に中央公聴会を行い、2021年度予算案について公述人が意見陳述を行った。全労連からは小畑雅子議長が参加。小畑議長は、労働者、労働組合の代表として、ジェンダー視点から、ケア労働者の賃上げ、労働条件の改善を求めた。いまコロナ禍にある労働者の深刻な実態を紹介しながら、広がる格差と貧困の抜本的ない解決策が必要と指摘。コロナ禍だからこそ、賃金、最賃引き上げの重要性、そのための軍事費削減と大企業の内部留保活用を訴えた。

衆議院予算委員会公聴会発言内容

 全国労働組合総連合(全労連)議長の小畑です。本日は、2021年度政府予算に関わって、労働者の立場、労働組合の立場からの発言の機会をいただき、ありがとうございます。
 さて、2021年度予算編成にあたっては、何よりも、コロナ禍からいのちを守る政策に予算を重点配分すること、そして、国民経済の基盤である労働者の雇用と暮らしを支える予算を増やし、制度政策を改善することが求められております。この間、森前東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長の女性差別発言に端を発して、ジェンダーの視点から社会のあり方を見直す機運が高まっています。労働の分野を見たときにも、コロナ禍によって、女性労働者、非正規労働者に最もその矛盾が集中しております。女性労働者、非正規労働者の実態を踏まえて、改善に向けた実効ある施策をすすめるなど、ジェンダーの視点から予算のあり方を見直すことが求められていると考えます。
 そうした立場から、いくつかの点について意見を述べさせていただきます。

1.いのちとくらしを守るケア労働の賃上げ・労働条件の改善を

 第1に、コロナ禍にあって、私たち国民のいのちとくらしを守り、支える、いわゆるエッシェンシャルワーカーと言われる労働者が、劣悪な労働条件のもとに置かれている問題です。その多くが女性労働者です。本日は、看護師、介護士、保育士など、医療・介護・保育・福祉の分野で働く女性労働者の賃金を資料としてお示ししておりますので、2ページをご覧ください。
 看護師は、国家資格による専門職であるにも関わらず、賞与を含む賃金をみると、経験を積んでも賃金は上昇せず、現場では「寝たきり賃金」と言われる低い賃金水準となっています。介護に従事する労働者や保育士の賃金水準はさらに低く、ホームヘルパーや施設の介護士、保育士はピーク時であっても300万円台です。
 それぞれ、専門の分野で、資格を持ち専門職として働いているにも関わらず、非常に低い賃金水準に押し込められています。背景には、子育てや看護、介護、福祉などのケア労働に対して、「家事労働的な仕事」であるから、賃金が低くてもよいというジェンダーバイアスのかかった考え方があるのではないでしょうか。そのことが、今回のコロナ禍で、くっきりと明らかになってきました。
 医療、介護、保育、福祉の分野で働く労働者は、新型コロナウイルス感染拡大のもとで、感染の危険ととなり合わせとなる緊張感、感染拡大の収束が見通せない不安感の中で、必死で、患者や入所者、子どもたちのために、長時間過重労働を強いられながら働いておられます。それなのに、非常に低い賃金水準におかれています。
 春闘アンケートに寄せられた職場からの声を紹介します。
・奨学金や年金負担、税金、最低限の生活費で手元に残るお金はほとんどありません。専門性の高い仕事で、病院の利益にも貢献しているはずなのに、賃金が少なすぎると思います。若者のモチベーションは下がってしまい、この職業に悲観して去っていく人も多数います。
・新型コロナを経験し、日本の医療の脆弱さが浮き彫りになったような気がします。もっと健康で生き続けられる社会をつくるためには、診療報酬を改善し、かかりやすい医療体制にしていく必要があると思います。命が何より大切です。
・介護職の仕事はきつい。仕事と賃金が見合わない。
・コロナウイルスにより緊急事態宣言が出ている中でも休園になることもなく医療機関で働く保護者さんたちを必死である意味命がけで支えてきた。しかし、国からそれに対する支援金も慰労金も出ず、つくづく保育(福祉)の仕事は、情熱や自分自身のやりがいのみでしかモチベーションを保てないのだ…と悲しくなった。コロナ禍の中、今後、働く親を支える保育は今のまま保障や年収があがらないままだとどんどん減っていくだろう。

 こうした切実な声を受け止め、国民のいのちと暮らしを支えるエッシェンシャルワーカーの賃金、労働条件を改善するための施策、予算を要望します。具体的には、医師・看護師・医療技術者・介護職、保育士などの大幅増員、診療報酬や介護報酬の改善、非正規を含めた処遇改善手当・加算の改善などのための予算の確保を求めるものです。
 
 さらに言えば、国民のいのちを守るためにも、コロナ禍で減収を余儀なくされている医療機関への減収補填は、欠かせない課題です。
 この間、3次にわたる補正予算によって支援策が実施されてきたことは承知しております。しかし、2021年1月末時点で交付は1兆2千億円どまりと、支援が十分行き届いていない実態があります。早急な交付実施が求められています。
同時に、コロナ非対応の医療機関では、厳しい状況が続いています。ここに対する支援は、三次補正まで見ても、たいへん不十分なものでしかありません。地域医療はパッケージです。コロナ対応病院からリハビリのための患者さん、また、一般の患者さんを受け入れる体制の強化が非コロナ対応病院にも求められています。発熱外来、感染防止等支援金の増額、継続も含めて、2021年度予算においても、地域住民のいのちを守るために、医療従事者の待遇の確保・改善につながる減収補填を強く求めたいと思います。

 2.広がる格差と貧困の根本的な解決を

 第2に、コロナ禍によって、ますます広がる格差と貧困を根本的に解決するために、国としての責任が問われています。
 全労連をはじめとする実行委員会は、昨年12月19日、日比谷公園で、「コロナ災害を乗り越える何でも相談会」を開催しました。そして、12月29,30日、1月2日には、労働弁護団の皆さんの呼びかけに応えて、幅広い労働組合が協力をして、年越し支援・コロナ被害相談村を開催しました。相談に来られた方は、どちらの取り組みでも、20代から50代までの働き盛りの方がほぼ7割、女性が2割となりました。相談村に相談に来た方のうち、約3割は所持金が1000円以下でした。日比谷公園の相談会には、コロナ禍で仕事を失い、生活に困窮する切実な相談が寄せられました。いくつか紹介します。
 「月20万円の収入があったが、臨時で働いていた唐揚げ屋を解雇された。仕事がみつからない」「コロナで再び短期バイトがなくなり、今年の収入は30万円。生活保護をすすめられたが、仕事がしたい」「日雇いの建設業で20年以上働いてきたが、今はコロナでほとんど求人がない。アパート代も払えなくなった」

 また、NPO法人の「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の実施したアンケートには、半数近くが「勤務時間が減少した」と回答し、「収入が減少した」「収入がゼロになった」と答えた人を合わせると、7割を超えています。記述欄には、「自分は1日1食、子どもはお休みの日は2食」「自分は朝ご飯はやめて、職場のウォーターサーバーのお湯を朝ご飯にしている」「4月から少ない貯金と国からの一時金の20万円で生活しており、来月のお給料日まで残り8000円しかない」といった内容が書き込まれています。そもそも賃金が低く、蓄えなどないところに、勤務時間短縮、休業、学校休校措置後の復職の難しさなどがあいまって、収入減、収入ゼロへと追い込まれていることがわかります。

 普段は、貧困に暮らしているとは必ずしも思わない人たちまで含め、アルバイトやパートがちょっと切れる、仕事が休業になることが、1か月、2か月続くとたちまち食べるものがなくなるというレベルの貧困に陥るという、今までの日本の貧困・困窮のスケールと違う状況があることが、コロナ禍で浮き彫りになりました。

 私は、この背景には、2つの問題があると思っています。
 一つは、労働者の賃金が、そもそも低すぎるという問題です。コロナ禍の前から、賃金が上がらない、上がらないどころか、実質賃金は下がり続けるという状態が長く続いてきました。さらに、非正規化が急速にすすめられてきました。正社員と同様な基幹的業務でも、低賃金・非正規雇用に行わせることができる状態が蔓延していることが、日本の労働市場を異常事態に追い込んでいます。
 7ページの資料をご覧ください。物価動向を考慮した実質賃金の変動を指数によってみていくと、日本の平均賃金は1997年をピークとして、10ポイントも低下しています。20年の長期間でみれば、どの国も実質賃金は20〜60%ほど上昇しており、マイナスになっているのは日本だけといっても過言ではない状況です。
 低賃金のもとで、貯蓄ゼロの世帯は、単身世帯では4割に迫り、2人以上世帯でも2割強になっています。普段から余裕がないところで、仕事があれば、ぎりぎり生活できていたが、実は1か月の収入の一部が減るだけで、生活が成り立たなくなってしまう層が大きな塊としてできていたのです。
 この低賃金構造の根底には、女性労働者が多くを占める非正規労働者を、「家計補助的」で「安価な労働力」、「雇用の調整弁」としてきたことがあり、それが、コロナ危機のもとでの矛盾と困難を広げています。そこには、普通に生活し子育てできる賃金を保障するという考え方が欠如しています。12ページの資料を見てください。女性労働者全体の22.5%,女性パート労働者に至っては、41%が最低賃金近傍で働く低賃金労働者であり、しかも、エッセンシャルワーカーに最賃近傍で働く労働者が多いことがお分かりいただけると思います。これが先ほど触れたような、貧困の状況を作り出しています。

 10ページの資料を見ていただくと、女性労働者は、1997年も2017年も、どの年代も250万円未満の層に5割〜7割近くが集中していることがわかります。女性労働者は、ずっと、一人の賃金では普通に暮らしていかれない賃金水準に置かれてきました。一方、男性労働者は、ほぼどの年代でも、250万円未満の層が、1997年から2017年にかけて倍増しています。しかも、500万円以上の割合が激減している。つまり、女性・非正規労働者の低賃金が、そのまま男性・非正規労働者にも適用されて、全体の低賃金構造を作り出していることを示しています。11ページの資料では、家計を支える層で非正規労働者が大幅に増大していることがお分かりいただけると思います。
 「世帯単位で見れば、女性の働き方は家計補助的なものなのだから低賃金におかれたままでいい」という考え方を放置してきたことが、全体の低賃金構造を作り出しています。女性も男性も一人ひとりの労働者が、一人分の賃金で8時間働けば普通にくらせる構造を作り出していかなければなりません。

 全労連は、最低賃金1500円、全国一律最低賃金制度の確立を求めています。この間、全国26都道府県で最低生計費試算調査をすすめてきましたが、全国どこでも、若者1人が人間らしく暮らしていくために必要な最低生計費は、月150時間労働で換算すると、時間額1500円から1600円程度となることが明らかになっています。2020年度の最低賃金は、全国加重平均で時間額902円となり、1円の引き上げにとどまりました。
 コロナ禍だからと言って、労働者にしわ寄せするのは、もうやめて、2021年度は、最低賃金の大幅引き上げ、地域間格差の解消に踏み出すべきです。低賃金状態をこのまま続ければ、リーマンショック後の失われた20年を繰り返すことになります。

 最低賃金の引き上げを実現するためには、中小企業支援も欠かせません。コロナ禍で苦しむ中小企業への支援を強めることが、労働者の雇用の確保、賃金の底上げを可能にし、地域経済を豊かにすることにつながります。中小企業対策費を大きく増額し、使えるものに施策を充実すること、中小企業が経営を継続できるための施策を強めること、社会保険料率を応能負担による累進方式とし、大企業に相応の負担を求めるものとすること、消費税を5%に減税し、免税点の引き上げを行うこと、インボイス制度を導入しないこと、1度目の持続化給付金が必要なすべての人に行き渡るように申請・給付を続けるとともに、持続化給付金の事業規模に合わせた2度目の支給、家賃給付金の2度目の支給を行うことなどを求めるものです。

 二つは、雇用の確保の問題です。はっきり見える形での解雇・雇止めの問題とともに、雇用を維持されているのに、事実上失業状態に追い込まれている労働者が大量におり、そこへの対応が求められています。
 総務省の労働力調査によれば、2020年、非正規労働者数は、前年比で75万人減少しました。その内訳は、男性25万人に対して、女性50万人になっています。野村総合研究所は女性のパート・アルバイト労働者など、勤務シフトが大幅に減り、受け取れるはずの休業手当を受け取ることができずに実質的な失業状態にある人は、90万人いると試算しています。
 この間、飲食店や宿泊、観光、流通小売り業などを中心に、使用者が一方的に勤務シフトを入れず、それを休業ではないとして、非正規労働者に休業手当を支払っていない問題が明らかになっています。時短営業、シフト減が非正規労働者、女性労働者を直撃しています。
 企業が、休業させた労働者に休業手当を正当に支払い、雇用を維持すること、そのためにも、雇用調整助成金の特例措置の継続が求められています。
 また、緊急的な措置としておこなわれている休業支援金については、中小企業で働く非正規労働者だけでなく、大企業で働く非正規労働者にも同じように支払う制度を確立するべきです。現在示されている内容は、部分的、限定的であり、中小企業の非正規労働者に適用した制度を全面的に適用することを強く求めます。
 加えて、本来企業が支払うべき休業手当を、きちんと企業に支払わせる、使用者責任を果たさせるため、シフト制契約のあり方や休業手当制度についての規制の強化、制度改善が必要だと考えます。

3.改善のための財源は十分ある

 コロナ禍で明らかになった、格差の広がりを是正し、公正な社会に転換していくことが求められています。そのために、国の果たす役割は大きいと言わなければなりません。私たちは、以上述べてきた施策をすすめていくことは、税の集め方、税の使い方を変えれば、十分に可能であると考えています。
 2019年には、資本金10億円以上の大企業は、内部留保を新たに10兆円も積み増し、その額は459兆円にも膨れ上がっています。コロナ禍にあっても、株価は3万円台になり、2020年10〜12月期のGDPは年率12.7%増と2期連続で大幅な伸びとなりました。内部留保が「非常事態への備え」というのであれば、今こそその時であり、ため込んだ内部留保を、下請け中小零細企業への支援や、生活できないほどに下げられてしまった労働者の賃上げにこそ使うべきだと考えます。同時に、内部留保への課税や、累進課税への転換によって、税収を増やすことは可能です。
 さらに、世界的なコロナ・パンデミックの中で、何よりも一人一人のいのちを守ることが最優先の時に、軍事費を増やす必要はありません。軍事費を削って、コロナ対策、医療・公衆衛生への抜本支援、生活困窮者への支援に回すことを求めます。
 ジェンダーの視点に立って、最低賃金の引き上げも含め、今の低賃金構造を見直し、雇用の安定、同一労働同一労働同一賃金を実現することを強く求めます。よろしくお願いいたします。

 最後に、私、小学校の教員の出身ですので一つだけ。今国会において、小学校の全学年を35人学級とすることを内容とする義務標準法の改正法案が提出されています。これに関わって、先日、菅首相が、予算委員会について「中学校も検討する」と明言してくださいました。ぜひ、1日も早く中学校も高校も少人数学級を実現することをお願いし、私からの発言といたします。よろしくお願いします。

【配布資料】予算委員会 中央公聴会資料(PDF3,245KB)

 
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