2008年8月5日

中央最低賃金審議会御中

平成20年度地域別最低賃金額改定の目安についての意見書

全国労働組合総連合
議長 大黒作治

 暑中、全労働者の賃金・労働条件を底支えする法定最低賃金の改定に関わる審議に尽力されている中央最低賃金審議会委員各位に敬意を表します。
 中央最低賃金審議会目安に関する小委員会は、本日未明、2008年度地域別最低賃金改定額に関する報告をまとめたとされています。報告は、労使の意見の隔たりが大きい中、目安を定めるに至らなかったとして、公益委員見解をもって目安にかかわる算定を行ったとし、Aランクの地方で15円、Bランクで11円、Cランクで10円、Dランクで7円の引き上げ額を示し、かつ、12の都道府県についてのみ最低賃金が生活保護を下回ったと認定して、その乖離額(地方により9〜89円)を2〜5年程度の幅をもって解消するよう、地方最賃審議会に提案しています。
 改正法のもとで初めて出される目安が、新法の趣旨を十分に反映せず、生活必需品の値上がりの中で、生活困窮度を高めている働く貧困層の切実な要求にこたえない、このような内容で確定されることは、認められません。改正最低賃金法と生活保護制度の趣旨を正しくふまえれば、全国いずれの地域別最賃も、生活保護基準を下回っているはずです。また、12の都道府県については、低水準を誘導する算定方法を採用してもなお、生活保護基準を下回るという見逃し難い違法状態にあることが判明したわけですから、2〜5年などという悠長な猶予期間を設けることなく、9〜89円の乖離額を今期の改定で是正することを、答申するべきです。
 6日に開催される中央最低賃金審議会では、公益委員のまとめた見解を、以下の論点をふまえて修正し、「せめて1,000円」への到達を視野にいれた大幅引き上げの目安を確定した上で、厚生労働大臣に答申することを求めます。

1.最低賃金と生活保護との整合性の取り方について

 最低賃金制度は、旧法のもとで毎年低額改定を繰り返した末に、機能不全に陥り、多くのワーキング・プアを排出してしまいました。その反省の上に、最低賃金法は改正され、「労働者の生計費を考慮するに当たつては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとする」との文言を、法の決定原則の項に盛り込み、生計費原則を強化しています。
 この点については、目安小委員会においても重視されてきた旨、報告に記されていますが、公益委員の生活保護の取り扱い方には、次のような大きな問題があり、これらを是正した上で目安内容を決めるべきです。

(1)住宅扶助については特別基準額を用いるべきである
 生活保護は「補足性の原則」にのっとり、「足らない分を補う」形で運用されます。そのため、最低賃金の決定原則として重要な最低生計費を推し量る指標として生活保護制度を活用する場合は、支給実績値でなく「保護基準」を参照しなければなりません。ところが、公益委員見解では、住宅扶助の「実績値」を使っています。生活保護の運用では、基準額以内の特別に安い物件に住むことを指導されることから、実績値では、一般的な労働者が通常探しうる賃貸物件よりもはるかに低い金額となります。労働者の最低生計費を算定するには住宅扶助の特別基準額を用いるべきです。

(2)勤労控除を含めるべきである
 公益委員の見解では、生活保護の「勤労控除」が考慮されていません。働いていれば、当然ながら必要な経費としての支出が増えます。最低賃金と生活保護との整合性を論ずる際には、勤労控除のうち、就労に伴う必要経費分である70%分を含めるべきです。

(3)級地は都道府県庁所在地での値を用いるべきである
 生活保護の級地は、都道府県内で最高6段階まで細かく設定されていますが、都道府県内一律で設定する最賃との比較においては、県都などのもっとも高い級地の生活保護基準を適用するべきです。公益委員の採用した、級地ごとの人口加重平均では、高い級地の労働者に適用される最低賃金が生活保護基準を下回ってしまいます。最高級地には多くの人々が集中して住んでおり、その人々に、本来の生活保護基準よりも低い指標をあてはめることは改正最低賃金法の趣旨に反します。

(4)労働時間については所定内実労働時間の実態をふまえ月150時間で換算すべきである
 月額で設定される生活保護基準と、時間当たり表示の最賃とを比較のベースに乗せるため、何時間の労働時間をもって換算するかもきわめて重要な問題です。公益委員は、法定労働時間ギリギリの173.8時間を使っていますが、この数字は、一般労働者の所定内実労働時間を大幅に超え、実態として超過実労働時間を含む時間数に近いもので、妥当性を欠きます。ちなみに、毎月勤労統計調査より、事業所規模5人以上の一般労働者の平均所定内実労働時間をみると156.7時間となっています。統計を活用するとすれば、これが最も妥当な指標です。全労連としては、統計として一番妥当な毎勤統計をベースにしつつも、「あるべき労働時間」への政策誘導的な観点をふまえ、年間労働時間1800時間の月割分の150時間労働で整合性を取ることを提案します。

(5)税金・社会保険料の控除については、各地方の実態値を使用するべきである
 税金・社会保険料が免除される生活保護制度と、最賃を比較するにあたっては、公租公課分を除いた数字で行う必要があり、公益委員見解でも、その作業は行われていますが、「時間額610円で月173.8時間就労した場合」として沖縄のケースをもとに0.864という比率を使っています。最賃法違反の低廉賃金をもって、公課負担率を算定することは、著しく妥当性を欠くものであり、全国平均をとって再計算するべきです。

 以上により、公益委員の採用された方法を適正なものに修正すれば、各地の地域別最賃はいずれも生活保護を下回り、最低生計費を満たすに足らない水準であることと、「せめて1,000円」の要求の正当性が明らかとなります。こうした算定方法にもとづき、目安答申を行うことを求めます。

2.中小零細企業に対する配慮について

 外需低迷・諸物価高騰という状況を迎えている日本経済を、安定した基盤にうつしかえ、内需主導型の持続可能な経済を構築するためには、低賃金労働(ワーキング・プア)の解消は必要不可欠であり、それを社会政策として一律に実施するためには、最低賃金の底上げが欠かせません。最低賃金引き上げによる中小企業の生産コスト増を心配する声がありますが、最賃引き上げによる消費需要増の成果を受け取るのは主に中小企業です。中小企業はワーキング・プア根絶の社会的意義をふまえ、積極経営の立場に立ち、原材料や燃料高騰などの苦しさはあったとしても、最賃引き上げの果実を受け取る方向に舵を切り替えるべきです。
 使用者委員は、労働者委員の主張する大幅引き上げが、中小企業に打撃を与え、失業が増えるといいますが、実際には中小企業の「全従業員」が最賃レベルで働いているわけではなく、地域の小規模企業に聞き取り調査をすると、平均賃金こそ大手より低いものの、今の低額最賃より相当高い金額を支払っているケースが多いことがわかります。小規模企業の場合、たった一人の退職でも、熟練の喪失と求人・教育訓練のコストが経営にのしかかるため、転・退職抑止効果もにらんで、できるだけ高い賃金を支払っているというのです。むしろ、支払い能力のある企業や自治体が、最賃レベルの低賃金労働者を活用しているという実態もあります。
 先進諸国では毎年、そして物価高騰で景気の見通しに陰りがみえてきた、とされる今年においても、大幅な引き上げを実施しています。OECD調査によれば、最賃引き上げが失業率を高めるといわれる説には根拠(証明)がなく、むしろそれは人的能力を高め、労働生産性をあげるとしています。
 こうした先進諸国における実践を教訓とし、中央最低賃金審議会においては、最低賃金額を大幅に引き上げる目安答申をだしていただけるよう、要請します。

3.最低賃金制度における地域格差問題について

 労働基準でありながら、地域ごとの格差を容認する今の地域別最低賃金制度のあり方を見直すことも、重視していただきたいと考えます。昨年、ランク別格差が拡大した目安がでたことに対し、低ランクの地域からは「労働力の県外流出の加速」や「生活格差拡大」の視点から批判の声があがりました。こうした批判をふまえ、今回の公益委員見解では、C・Dランクの上げ幅を支え、上位ランクとの格差の縮小が意識されています。その発想をさらに強め、ランク間格差の縮小と、ランク内の都道府県別格差を縮小し、近い将来、グローバル・スタンダードである、全国一律最低賃金制度が実現することを要望し、意見とします 

以上