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国旗 世界の労働者のたたかい
メキシコ
2003
 メキシコの人気音楽グループ「ロス・ティグレス・デル・ノルテ」の新しい歌「変革ものがたり」が人気を集めたという。「いつになったら変革は来るんだ、ねえ、ソロ」という歌詞は、金持ちと政治家が自分たちの利益のためにメキシコ経済と政治を牛耳り続けているが、労働者の苦しみは変わらない、これはどういうわけか、とソロ(zorro, スペイン語で「きつね」、英語のfox にあたる) に問いかけていると、容易に解釈できる。
 メキシコでは2000年に現在のビセンテ・フォックス政権が発足した。それまでの制度的革命党(PRI)の長期政権に終止符をうったという点で国民の多くが変化に期待したのだった。ともかくPRIの縁故主義、独裁体制とそのもとでの腐敗の温床を終わらせようとしたことは一つの変化だった。しかしフォックス新大統領は、コカ・コーラ・メキシコの社長をつとめた人、政党は右翼的な国民行動党(PAN)。国民が望むような変革は最初から望むべくものではなかったということが、次第に明らかになってくる。
 ところが、メキシコのラジオ局は、政府とトラブルが起きるかもしれないと、このフォックス大統領への問い掛けの歌を放送するのを断ったと伝えられる。にもかかわらず歌はヒットしてしまった。やはり、大統領にたいする国民の不満、疑念、いかりを代弁するものだったからだ。
 フォックス政権は2000年の選挙で景気繁栄・政治的民主主義、社会正義などを公約としてならべて当選した。幾百万人という人々が大きな期待をかけたからだった。

<経済>
 北米自由貿易協定(NAFTA)、米州自由貿易協定(FTAA)などの「ネオリベラル」(新自由主義) 政策とフォックス大統領自身がうちだしたPlan Puebla-Panama計画(外国の民間投資を促進し、米州自由貿易地域(FTAA)の基盤をつくる)で繁栄がもたらされるはずだった。しかしメキシコ国立銀行(Banamex) によると、2001年のメキシコ経済は2.0 %の縮小したことにふれ、経済の急激な落ち込みはメキシコをアメリカの経済を一体化させた結果だったとしている。実は、フォックスが就任するまえ、6.8 %の成長率だった。60年代から70年代、メキシコが保護主義的政策をとていたころ、経済成長は約6.5 %を記録していた。現在の不安定要因として、石油価格の変動があげられる。メキシコは世界第8 位の産油国(日産360 万バレル)。
 
もうひとつの問題は、米国との国境地帯でこの20年間メキシコの経済発展をささえてきたマキラドーラ(保税加工制度)の衰退である。この地域では2000年から2002年の間に、約500 の企業が閉鎖し、多くのマキラドーラ工場が中国をはじめアジアに生産拠点を移していった。(労働コストが、たとえばメキシコのティフアナでは時間あたり1.5 ドルから2 ドルであるのにたいし、アジアは25セントでできるところがあるというのである。)その結果25万人が職を失うこととなった。
 フォックス大統領は、石油と電力の民営化を示唆していたが、メキシコの電力労働組合(SME)とこれと共同する労働組合や野党からはげしい反発を引き起した。

<労働者の権利>
 
メキシコでは長い間、労働組合運動の主流は政府与党・制度的革命党の支配したにあった。フォックス政権発足でこの体制が変わることを期待した人も少なくなかったようだ。しかし、フォックス大統領がすすめてきたのは、全国労働組合(UNT) に代表される自主的な労働組合運動への敵対的態度であった。新たに、御用組合でない自主的な労働組合を立ち上げようとしたドウロバッグという企業の労働者が、会社と州労働当局それに腐敗した組合がグルになった妨害にたいし、秘密投票で役員選挙を求めても、政府は何の手も打たなかった。

<労働法改悪>
 
フォックス政権は、メキシコの労働法の近代化として労働界、財界との話し合いをもつことを方針とし、新法はコンセンサスでつくると約束していた。独立労組UNT は、メキシコ連邦議会に独自の提案をおこなった。それが労働組合をえらぶ権利、労働者が歴史的にかちとってきた成果を守ることなどが盛り込まれていた。しかし、UNT は政府や財界との話し合いから排除されていた。労働法改定にたいする政府の表向き、メキシコの生産性を高め、外国からの投資を呼びよせるためだと説明した。改定案では、ストライキを違法とし、ストを実行するばあいには労働委員会の承認を必要とする、という内容が含まれている。労働市場の規制緩和をもとめる財界は歓迎した。

<マキラドーラの危機>
 
マキラドーラによって進出企業は輸出品製造に必要な原材料、部品を無関税で輸入できたが、2000年11月以降、NAFTA(北米自由貿易協定)相手国である米国とカナダ向け輸出にはこれが適用されなくなった。米国向け輸出拠点として進出企業に大きな打撃となった。マキラドーラの都市はどこも、工場の閉鎖、アジアへの転出で深刻な打撃をうけている。メキシコ全体で、545 の企業が工場閉鎖し、15万5,000 人以上の労働者の職がなくなった。にチワワ州フアレス市では、8 万人の雇用がなくなり、商業活動も20パーセントも定価した。もはや「マキラドーラ・モデルは死んだ」とさえいわれるようになっている。
 
メキシコには、経営者は利潤の10%を労働者に還元しなければならないという法律がある。それはメキシコ革命をつうじて1910年にかちとったものだ。2002年6 月にティフアナで労働者が、かれらの雇い主はこの義務を果たしていないと裁判に訴えた。この会社は、インドゥストリアス・フロンテリサスという服飾製造では古いメーカーで、ほとんどが女性労働者で、騒音と高温という劣悪な条件での労働を余儀なくされてきた。労働組合は御用組合で役立たずだった。2002年、会社側は、今年は利潤があがらなかったとして、賃上げを拒否した。しかし、工場の学習グループが法律を根拠に利潤の公正な分配と利潤についての情報開示を求め、労働相に陳情にいった。その後、労働に陳情にいった労働者などが、あいついでクビになった。何の説明もなく、解雇を通告され、同意を強要されるのだった。それを拒否すれば退職時の補償がもらえなくなるといわれ、同意すればしたで、補償の請求を放棄するということになっていた。はじめからワナにはめられていたのである。

<PEMEX 労働者のたたかい>
 
メキシコの国営石油企業PEMEX の労働組合STRRM (9万人) は2002年、15%の賃上げを要求してたたかったが、企業側は7%を回答。最終的には9 月29日の交渉で、5.5%の賃上げと諸手当の1.8%引き上げで合意した。
 
NAFTA が成立していらいメキシコ経済はアメリカに全面的に統合されつつあるなか、メキシコは米国の不況の影響を直接受けるようになった。とくに打撃の大きいのはマキラドーラの製造業、組立工場が大きく減ってしまったことだが、そういうなかで、石油企業の労働者のストライキはメキシコを94年以来の経済の落ち込みとなるという懸念がつよまった。
 
石油のストライキは、何よりもフォックス政権への国際的信頼がかかっていた。
 
PEMEX と労働組合(STPRM) との間の交渉で大きな問題になったのは、ペメックスゲートといわれる腐敗事件だった。ドルにして何億にものぼる裏金が、選挙資金として、当時の与党、制度的革命党にながれたのではないかとの疑いがもちあがった。しかし、この問題で、組合のトップは責任を追及されないことになった。フォックス大統領は腐敗した組合とのたたかいを装ってPRI と石油労働者との間にくさびを打ち込もうとした。すると制度的革命党(PRI) のリーダーは、STPRM と一線を画しストライキに反対の立場を表明するようになった。マスコミは、フォックス大統領は労組役員の腐敗に反対してたたかっていると描きだしていたが、じっさいは、組合役員の信頼を失墜させるようなことは避けたかった。米国とフォックス政権、PEMEX は、「石油産業の安定」をのぞむ立場から、労働組合の書記長と取引するほうが得策と考え、組合内の民主的な勢力が力を増大させるのを阻止しようとした。また、デスチャンプ書記長はこれを利用して自分の立場を強化しようとした。
 
STPRM のなかには進歩的勢力のグループも存在するが、デスチャンプ指導部を変える力はまだもっていない。
 
メキシコでは国も民間企業も、労働組合をつくらせないためにコンフィデンシャル労働者の割合をふやしてきたが、国営石油企業(PEMEX)では、経営側にいちばんちかいところで働くホワイトカラー労働者(コンフィデンシャル・労働者)が9 月、自分たちの組合をつくった。7,000人で出発したが、めざすは3 万人。

<メキシコの石油と米国の思惑>
 
米国はメキシコ、ベネズエラなど近隣諸国からの石油のを重視していた。中東の石油がイラク危機で輸入できなくなるかもしれないから、米国はフォックス政権に、何がなんでもストライキを回避するよう圧力をかけたといわれている。メキシコの左翼系新聞「ラ・ホルナダ」に掲載された論評が次のように指摘した。「フォックスの石油労組との闘争は、世界のエネルギー市場を支配しようとする共和党ブッシュ政権の戦略の重要な要素になっている。それだからこそ、この労使紛争がこのような次元のものになっているのである。これもまた石油が目的の対イラク戦争の宣言で規定される状況から生まれている」。これは労使交渉にのぼらなかったが、もうひとつの要因はフォックス政権の長期目標であるPEMEX の民営化である。フォックスは、最近、民営化の意図はないとのべた。そんなことは正気の沙汰ではないとまでいったのだが、すでに電力の民営化という大きな問題が浮上している。