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国旗 世界の労働者のたたかい
ブラジル
2003

 人口が1 億7,000万人を超える南米最大の国ブラジルでは、2002年の大統領選挙で、労働組合運動の指導者で、ブラジル労働党の創立メンバーでもあるルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバが当選した。ルラ候補四度目の挑戦だった。500年目にしてはじめて、軍、地主、金融資本の支配から、労働者の利益を優先させようとする勢力に政権が移った。
少なく見積もっても2,200万人が貧困ライン以下というブラジルで、労働党は、対外依存からの脱却、雇用創出を基礎にした経済モデルをうちだした。
 
ブラジル労働党は、労働組合の代表、知識人、進歩的教会指導者など多様な方面の人々が集まって22年前に結成したのであるが、それは長年にわたる軍事独裁政権に反対するたたかいに取り組んだ労働運動のなかから生まれたものだった。当初は、資本主義をなくし社会主義を実現しようという急進的な社会運動のようなものだった。
 
サンパウロ大学の教授(政治学)で労働党の創立者の一人であるマリア・ビクトリア・ベネビダスさんはいう。「党はあらゆる左翼急進主義とやっていかなければならなかった。あのころは、党としてはかなりばらばらで、制度としてどうするのかは大きな問題ではなかった。優先課題は、社会闘争であり労働運動であった」。
 
当初プロレタリア独裁を主張していたが、重点を緊縮財政、新自由主義経済を変えることに移した。しかし同党は、政治的動議、労働者の権利と人権の向上、社会的疎外をなくすこと、民主的過程をつうじての持続可能な発展をめざすとした。
ブラジル労働党の特徴は、討論と参加民主主義を党内で重視したことだった。重要な問題はオープンな場でコンセンサスをえるようにした。
 
ルラは、労働党について、「幹が社会主義でも枝には社会民主主義、トロツキスト、解放の神学、ゲイ、知識人、環境保護活動家などが参加できる木」にたとえて説明している。
 
参加型予算決定政策とよばれるやりかたでは、市民が税金をどうつかうか優先順位をきめることができるようにするという考え方をとっている。選挙で選ばれた政府が統治するのだが、国民にもっと大きな力を与えようというものだ。労働党のリオグランデ州知事は、「この一年に州内を歩くこと30万キロにものぼり、地方議会の提案をいろいろあつめてきた」という。
 
これには企業団体などの保守派からの抵抗もあったという。州知事など首長になっていちばん大変なことは、それまでの腐敗した行財政をあらため、地方官僚に巣くう利権屋たちに正面から立ち向かうことだそうだ。この困難な仕事に失敗すれば、労働党は統治する能力がないとマスコミなどからたたかれる。
 1980 年には「ボス」すなわち資本家のいない党を宣伝文句にしていた。しかし、いまでは、ルラが大統領選挙で選んだ副大統領は、ブラジル最大の資本家の一人だ。ここにルラ新政権の方向の一端がしめされている。たとえば米国との関係でルラは、たしかに、米国が最優先課題とする米州自由貿易地域(FTTA)には反対の立場であるが、反米を旗印とするのではなく、米国をふくめて一緒に問題を解決したいという姿勢をしめしている。