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国旗 世界の労働者のたたかい
メキシコ
2005
 政治腐敗の深刻かや経済の低迷で、メキシコの資本とその利益を代表する保守勢力が、反労働者政策をすすめるなか、労働組合運動に新しい動きがみられた。
 メキシコでは2002年の大統領選挙で、制度的革命党(PRI)の長期政権に終止符が打たれ、PRI と一体の労働組合ナショナルセンターの影響が低下する一方、自主労組として全国労働組合(UNT)やメキシコ労働戦線(FSM)が広範な統一戦線、労働・社会・農民・民衆戦線(FSCSP)に結集してデモや時限ストなどを組織してビセンテ・フォクス政権の新自由主義政策に反対するたたかいをつよめたことが注目される。
 フォックス政権になってから、メキシコの経済の低迷からさらに「雇用なき成長」の時期に移った。2004年までに、わずかに好転し、成長率は4.1%だったが、同時に、失業は32.8%だった。
 社会問題はされに悪化した。労働者は4,500万人だが、そのうち3,000万人は、いわゆるインフォーマル部門で働いている。インフォーマル部門とは所得税を払わず、社会保障にもはいっておらず、組合も協約もない、年金などもないまま働かせる状態である。このため、貧困層、極貧層は、医療などの社会的サービスを受けられないでいる。
 さらに悪いことには、かつて外国企業が争って投資先として選んでいたメキシコは、2004年になって大きく後退した。もっとも魅力的な市場トップ10からはじめて転落して、いまは22位。
 貧困の増大のもっとも典型的な現れは、毎年50万人が米国に職と生活を求めて渡っていることだ。現在、就労ビザを持たずに米国に居住する外国人推定930万人のうち530万人がメキシコ人といわれている。これはメキシコの人口の5%にあたる。米国に出稼ぎに言っているメキシコ人からの送金は2004年に160億ドルで、主要な外貨獲得手段になっている。
 多くの勤労者の生活と仕事の困難が増大する一方で、メキシコの富裕層いっそう豊かになっている。超低賃金構造にささえられてメキシコの一握りの大企業と米国企業がこえ太っている実態がある。米フォーチュン誌によると、2004年の億万長者は世界で587人、ラテンアメリカで24人だったが、このうちメキシコ人は11人もいた。
 とくにアメリカの企業の力を拡大している。いまや、米国の最大の大型小売りチェーンであるウォルマートが、メキシコでも最大の雇用主(10万人)となっているのをはじめ、多くの米企業がこの20年の間にメキシコの企業を買収したりして、その地位を強化してきた。
 ビセンテ・フォックス大統領が就任して4年目、社会支出の削減に加えて企業の民営化、増税政策、労働法の改悪が進められた。8月には、フォックス政権とその与党・国民行動党(PAN)、野党・制度的革命党(PRI)が一体となって、国の社会保障(年金)制度のための労働者の拠出引き上げ、退職年齢の引き上げ、年金給付額の削減などを内容とする改悪法を成立させた。
 これらのフォックス政権の反労働者的政策の推進にたいして、自主的労働組合運動の潮流がたたかいを組織している。電力の民営化計画、メキシコのナショナリズムの象徴ともなった国営石油企業PEMEXの民営化に強く抵抗しており、労働分野の規制緩和法案についても成立を阻止している。

(混迷する政治)
 メキシコでは歴史的にスキャンダル(汚職)はめずらしくないが、与党PANとフォックス大統領それにその選挙運動組織「フォックス友の会」(Amigos de Fox)の違法資金問題が発覚したり、前の大統領選挙で野党に転落したりしたPRIの候補者が国営石油企業PEMEXとそこの石油労働組合(STPRM)から献金を受けていた疑いで告発された。さらに中道左翼といわれる民主主義革命党(PRD)の幹部が実業家アウマダ・クルツ氏からワイロ(45,000米ドル)をうけとったところをビデオに撮られていたというスキャンダルが発覚した。そのなかには、メキシコ市長の前秘書長でメキシコ市議会のPRD議員団長が含まれていた。さらに、緑の党(PVEM)でも観光開発を支持する見返りに数百万ドルを求めていたところをビデオにとられた議員がいた。
 PRDは、もっとも誠実で透明性の高い、責任ある政党として売り出していたが、いまや他の腐敗政党と変わらないことになってしまった。
 このなかで、前回2000年の大統領選挙で長期の政権の座をPANに明け渡したPRIは、フォックス政権と中道左派といわれるPRDの失態に乗じる形で、いくぶん支持を挽回してきている。

(自主的労働組合の前進)
 全国労働組合(Union de Trabajadores Nacional)は労働組合だけでなく広範な勢力を結集する統一戦線に参加を促してきた。2002年につくられ発足した労農社会民衆戦線(FSCSP)に広範な勢力を結集している。
 メキシコでも、他の多くの国とおなじように、この20年余りの間、経済、政治の構造の変化にともなってさまざまな攻撃にさらされてきた。
 UNT は2004年2月の会議で、次の1年の戦略・行動計画を採択した。それは、全体としてメキシコ政府がすすめている新自由主義の経済政策に反対し、そのために他の労働組合や社会運動との共同を重視する、社会全体の利益となり、国の産業をまもり、労働者の生活条件を改善するための生産性と効率性の向上は支持するという立場を明らかにし、世界の労働者の状態を脅かす自由貿易協定に反対するたたかいで各国の労働組合や社会運動と共同する、という方向を明確にした。
 有力な自主的労働組合の一つであるメキシコ電気労働組合(SME)は、制度的革命党(PRI)の支配下にあるメキシコ総同盟(CTM)から脱退しないまま、約40の労組、農民組織、都市の貧民組織などとともにメキシコ労働組合戦線(FSM)という労働組合連合をつくっている。FSMは「統一的、民主主義的な労働者階級の反資本主義の労働組合運動」と規定している。しかし、UNTと同じように、新自由主義の「改革」とりわけメキシコの国営電力会社の民営化に反対することを第一の課題としている。
 自主的労働運動のなかで、真正労働戦線(FAT)がひきつづき重要な役割をはたしている。2004年には、清掃労働者や教員、保険会社の従業員、運輸労働者などさまざまな分野で労働者の組織化をおこなってきた。メキシコ北部の国境地域では労働者教育センターをつうじて活動している。FATはUNTの一部として、民主主義、戦闘性、国際連帯を重視していることを明らかにしている。とりわけ、新自由主義経済政策の批判的分析をおこなって重要な役割をはたしている。

(民営化反対のたたかい)
 
2月16日、メキシコ電気労働組合(SME)と教員組合調整委員会(メキシコ教員組合内のフラクション)が電力、石油、公教育制度、社会保障(医療)制度の民営化反対のデモをおこなった。
 フォックス政権は、明らかに米国の圧力のもと、とりわけNAFTA(北米自由貿易協定)のもとで、電力の民営化を進めようとしてきた。これが、この何年もの間民間の企業の参加をみとめてきた石油企業(PEMEX)の民営化に道を開くものとなるのではないかとの危機感をつよめている。メキシコ社会保障機関(IMSS)の年金プログラムはすでに数年前に民営化されたので、次は、公務員の社会保障年金機関の民営化がおこなわれるのではないかとの懸念が広まっている。
 メキシコの自主的労働組合運動は、医療保険と社会保障年金の民営化に反対してたたかう統一戦線をつくった。全国労働組合(UNT)、メキシコ労働組合戦線(FSM)、ネオリベラリズム反対運動(Promotora contra el Neoliberalismo)が参加した。
 4月14日、社会保障労働組合(SNTSS)の組合員など8万人が、退職年金制度の維持を要求して、メキシコ中心の広場ソカロまでデモ行進した。UNTをはじめ自主的労働組合がこれを支持した。
 この年のメーデーでは、UNT、FSM)が中心となって、メキシコ社会保障機関(IMSS)とその職員組合をまもろうという要求がかかげられた。フォックス政権の社会保障一部民営化計画は、職員組合の役割をなくしていくものだとして、数千人がソカロ(メキシコ市中心大統領官邸前広場)に集まった。
 与党PANと野党PRIは6月、メキシコの社会保障制度を改革するためとして、社会保障年金受給資格を得るための勤続年数を長くし、職員の年金負担分の増額と給付の削減をする計画を明らかにした。これは、国内でも有力な社会保障労働組合(36万人)つぶしの攻撃であるとみられている。民主主義革命党(PRD)は反対を表明。
 IMSSは退職年金、医療保険などのプログラムで、3,500万人の産業労働者を対象としている。現在1200万人が拠出している。フォックス大統領は、社会保障機関職員が「特権的」待遇を受けているとしている、と主張。メキシコ経営者団体(COPARMEX)がPAN、PRIとともに、「財政危機」を口実に、労働組合の抵抗をなくしながら労働者に犠牲を押しつけようとしている。労働組合側は、政府などの言う「危機」が根拠のないものだと批判、UNTをはじめ、教員組合(SNTE)内の自主的グループ教員組合全国調整委員会などの支援を受けて抗議行動をおこなった。

(マキラドーラ)
 メキシコといえば、「マキラドーラ」。外国のメーカーがこの国の安価な労働力を利用して、製造の一部の生産工程(組み立てや管理)をおこない、メキシコから各国へ完成品を輸出するところとして、知られている。歴史的には、もともと、米国との間で1964年までつづいた、メキシコ労働者に米国の農業で雇用と提供するブラセロ・プロラムがあったが、これが終わって、それにかわる雇用創出のための方策としてつくられたのが、このマキラドーラだった。だが、そこでの労働者の待遇は、今日の「自由市場経済」、「新自由主義」の実態の走りだ。数年前までこのマキラドーラが「繁栄した」のは、安い労働コストだが、それをささえたのは、最低賃金以下の「見習い給」、「役に立たない」と判断されれば直ちにクビになりなんの保障もうけられない労働者の状態、団結権、団体交渉権など労働基本権の剥奪があり、企業の側には、免税措置、メキシコの税金でインフラ整備、工業団地の建設などの優遇措置、環境法や労働法などの事実上の規制緩和があった。そうした経営方式がいま、マキラドーラ以外のメキシコの他の労働分野にも影響を与えた。
 4月にバハ・カリフォルニアのティフアナの労働者情報センター(CITTAC)によると、マラドーラでは現在100万人が働いており、男女ほぼ半々。
 マキラドーラでは、労働者に権利についての啓蒙活動がおこなわれている。ティフアナでは、3月下旬、女性労働者のグループが以前あったグループの活動をひきついであらたに「女性の権利要求」とみずから名乗るグループを立ち上げて。女性労働者を対象にした教育活動を開始した。
 マキラドーラの労働者を支援する会議が4 月下旬にバハ・カリフォルニアのメヒカリで開かれた。メキシコ自治大学職員組合の代表も参加した。ここでは、メキシコの労働法の完全適用、FTAA反対、戦争反対などがスローガンとしてかかげられた。

(労働法制改悪)
 
2004年に労働組合が直面した大きな問題の一つは、前年にひきつづき、労働法制の改悪であるが、2004年11月になって与党PANと野党PRIがいわゆる「アバスカル・プラン」という資本家側の改悪案で合意し、議会で一括採択成立させようとしたことにたいして、これに反対し12月にいっせい阻止行動をよびかけた。12月1日に真正労働戦線(FAT)と全国労働組合(UNT)が発表したプレス・リリースは、反対の理由として、同法案が(1)労働者の団体交渉権をうばう、(2)パートタイマーなど臨時雇用を拡大し、労働時間を長くできるようにするものであることなどをあげている。(岡田則男)