全労連 TOPへ戻る BACK
TOP > 世界の労働者のたたかいトップ > オセアニア > ニュージーランド2004年
国旗 世界の労働者のたたかい
ニュージーランド
2004

 ニュージーランドは80年代の労働党政権による自由化政策、91年からの国民党政権による労働市場を含むさまざまな分野での規制緩和が行われ、市場万能論者に「ニュージーランドモデル」ともてはやされた。その中で、所得格差は拡大し、産業の競争力も損なわれた。労働分野では雇用契約法(Employment Contract Act)により労使関係は大きく変化し、賃金などの産業別・職業別の全国一律協定(Award)が破壊され、80年代後半には50%を超える組織率が、10年間で半分にまで低下した。しかし、1999年に再び労働党が政権につき、現在は行き過ぎた規制緩和の見直しが行われている。02年に行われた総選挙で、一院制の議会で労働党は過半数は取れなかったが、引き続き緑の党、進歩連合党との連立政権を維持し、03年も改革を進めている。

国をあげて イラク戦争反対!

 非核ニュージーランド政策を維持し、アメリカ、オーストラリアとの安全保障条約であるANZUS条約を事実上凍結させてきた歴史を持つニュージーランドは、アメリカ、イギリスなどによるイラク戦争にも、労働組合や平和運動などの強い世論の支持で、反対の立場を貫いた。クラーク首相は、「国連安保理の決議に従い、いかなる生物化学兵器の使用も許さない。他国の主権を尊重し、内政不干渉を定めた国連憲章の条項に従う」を、国の姿勢とした。
 ニュージーランド労働組合評議会(NZCTU)やその加盟組合は、早くからイラク侵略への懸念を表明し、戦争反対の運動にも積極的に参加した。国連安全保障理事会で熾烈なやり取りが行われていた1月31日には、NZCTU加盟34組合の代表とNZCTU代表がチャールズ・スウィンデル在ニュージーランドアメリカ大使に面会を申し入れている。記者会見でウィルソンNZCTU議長は、すべてのテロ行為を批判しつつ、「アメリカ政府が対テロ戦争の名で行おうとしている行為は、唯一の世界の統治的機構たる国連を無視し、国際法に違反し、世界中の世論の反対での中で強行しようとしている。イラクへの軍事行為は無実の市民を殺戮することは確実で、対テロ戦争の名で強行されるのは皮肉というよりない」と強く批判している。
 2月から3月にかけての世界共同行動に呼応してニュージーランドでも首都ウェリントンやオークランドで大規模なデモ行進などが行われ、労働組合も積極的に組合員に対して参加を呼びかけた。全人口400万人、首都の人口34万人というウェリントンで、1万人に近いデモ行進が行われた。
 しかし、イラク戦争後、政府はイラク復興のために、これまで国連を通じて総額430万ドルの資金援助を行ったり、対人地雷の除去をはじめとしたPKOへの人材派遣を行ったりしている。また、6月9日にはイラクとアフガニスタンの復興援助のため、約160名の兵士を派遣することを決定した。これらはあくまで、ニュージーランドが従来から進めてきた集団的安全保障の考え方に基づく、国連を通じた貢献ではあるが、アメリカの要求を受けた形だとの、国民からの批判の声も少なくない。

雇用法における労働安全衛生分野の前進

 NZCTUはかねてから、労働安全衛生の課題を重視して取り組んできた。02年から開始されたGet a life Campaign「人間らしい生活を取り戻そう運動」の中で、各種の改善を提案し法整備も勝ち取ってきた。5月5日から、労働者代表と労働者の労働安全衛生活動へのいっそうの参加と関与を可能にする新法が施行された。
 新法ではこれまでの労働者参加の範囲を、港湾労働者や航空機産業労働者にも広げ、30人以上従業員を雇用する使用者には労働安全衛生委員会の設立を義務付け、使用者・労働者・労働組合それぞれの責任と役割を規定している。労働者代表の選挙は民主的に行われ、使用者は代表選挙の時間と必要な支援をすることも規定されている。選出された代表は労働組合が主催する代表の訓練プログラムへの参加のため、少なくとも2日間の有給休暇が保障されるようになった。
 新法に基づき、NZCTUでは職場での安全衛生代表を選び、代表が適切に活動できるよう支援する運動を進めている。目標は1万人の安全衛生代表の選出であり、労働組合が提供する訓練プログラムも全国で受講できるようになっている。

2年に1回のNZCTU大会

 10月22日から24日まで、ウェリントンで第8回NZCTU大会が開催され、30人近い代議員が参加し活発な討論が行われた。大会では、ヘレン・クラーク首相やマーガレット・ウィルソン労働大臣も挨拶を行った。初日はウィルソン労働大臣から雇用関係法改正案や、前述の安全衛生新法に関して説明もあり、集中的な討論が行われた。また「人間らしい生活を取り戻そう運動」を総括し、今後の方向性を打ち出した「仕事と生活のバランス(Work-Life Balance)」という報告に基づく集中討論、また、「労働組合主義の再建(Rebuilding Unionism)」と題する報告も行われ、組織化や労働組合の改革・強化についても集中的な討論が行われた。
 大会は、大学職員組合書記長のヘレン・ケリー氏を新副議長に選出した。また5月には退職したポール・ゴールター書記に代わって、流通産業組合をへてNACTUオークランド組織化センター長を務めていたキャロル・ボーモント氏が書記に就任しており、NZCTUは三役3人のうち2人が女性という体制が発足した。

組織化の到達と戦略

 91年の雇用契約法(ECA)制定以後、労働組合組織率は激減し、99年には約2分の一の20%強にまで低下している。しかし労働党政権による雇用関係法(ERA)制定以降はわずかであるが組織拡大をとげている。主な前進は公務部門であり、民間部門での増加はあまり多くない。90年代を通じた労働市場の規制撤廃の影響で、雇用労働者に占める非典型労働者の割合が増加し、現在では女性の約4割がパートターム労働者で占められる。
 2000年末と2002年末を比べると、NZCTUは1万6264人増加しており、これにより組織率も約1%上昇している。組織化センターの設置も進み、単産レベルでも組織化への努力や教育体系の整備が進んでいる。全体では、マオリ系、女性、青年、大洋州系労働者にターゲットを絞った組織化が取り組まれている。第8回大会ではこのような前進面をとともに、今後2年間で2万5千人の新組合員を迎えなければ、現在の21.7%の組織率を維持できないことなどが報告され、真剣な討論が行われている。
 当面の取り組みとして、すべての組合が(1)協約交渉に関連した組織化戦略をもつ、(2)未組織労働者への組織化戦略をもつ、(3)労働安全衛生問題での組織化戦略をもつことを提起している。協約交渉に関連した組織化とは、労働組合が勝ち取った協約が適用されるすべての労働者を組織化することである。ニュージーランドでは労働市場規制緩和以前には、協約適用は組合員に限られることが一般的で、協約交渉適用が組織化に結びつくことで高い組織率を保ってきた。現在の雇用関係法(ERA)のもとでは、協約と適用労働者の拘束関係はなくなり、労働組合は協約「ただ乗り」労働者を生んでいるこのシステムには批判的であるが、この「ただ乗り」労働者の組織化が第一の課題である。(3)の労働安全衛生の問題でも、前述の安全衛生新法の制定にともない、安全衛生代表の選出に積極的に労働組合が関与することを通じての組織拡大である。
 雇用契約法(ECA)時代の労働組合破壊政策と比べれば、現在の政権は労働組合に友好的な政策を採っているために、労働組合組織の減少は止まっており、微増しながら推移しているのが近年の傾向である。主体的な努力で、飛躍的な組織の前進・強化を勝ち取ることができるかどうか今後の行方が注目される。

雇用関係法の改善と労働条件の改善

 99年に返り咲いた労働党政権がまず手をつけたのは、前述の雇用契約法(Employment Contract Act)を廃棄し、雇用関係法(Employment Relations Act)を制定することだった。この法律によって、労働組合を再び労働者の代表として位置づけ、団体交渉は依然として企業別中心の形態ではあるが、誠実な交渉を促進する内容になっている。この法律の制定により、組織率も徐々に回復し、協約適応労働者の数も上昇してきた。労働組合は引き続きこの法律の強化、充実を求めて労働党とともに運動を進めている。
 NZCTUの政策では、現行法の改善点として(1)団体交渉の真の促進、(2)「誠実交渉」の具体的な拘束力のある規定、(3)未組織労働者のただ乗り状況の解消、(4)経営の移行にともなう不安定労働者の保護などをあげている。
 政府は昨年末に発表したILO98号条約(団結権・団体交渉権)の批准は、6月11日に手続きが完了した。ウィルソンNZCTU議長は、批准を歓迎し、進行中の雇用契約法改正の中で、単に団体交渉を認めるだけでなく、促進する規定を設けるべきだと合わせて要求している。また、「誠実交渉」を定めた現行法のもとでも、15%の労働者しか労働協約の適用は受けていないと指摘し、労働者の賃金と労働条件の改善にはまだ法律の改善の余地があると述べた。
 年末には改正法が国会に提出され審議が開始された。CTUなどが求めた改善点はおおむね盛り込まれた形になっており、労働組合は一様に歓迎している。年をまたいで続く審議の行方が注目される。(布施恵輔)