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国旗 世界の労働者のたたかい
アメリカ合衆国
2005

 米国ではイラク戦争・占領の継続、戦争の大義とした「テロとのたたかい」も「大量破壊兵器」も根拠のない口実であったことがあきらかになり、一時成功したかのように見えた、「愛国的」あるいは「サダム・フセイン憎し」の世論動員の欺瞞も明らかになったが、それにもかかわらず大統領選挙でブッシュ大統領が再選された。
 労働組合運動で特徴的だったのは、第一に、それまでの反戦労働組合運動がひきつづき前進したこと、第二に、大統領選挙、議会選挙で「ブッシュ再選阻止」を一斉に取り組んだが、成功せず、米国労働組合運動のありかたについての議論、論争が活発に始まったことである。
 雇用を伴わない景気回復といわれる米国経済のなかで、米国労働者は、雇用、賃金、労働時間、そして何よりも労働者、労働組合の権利への攻撃のつよまりに直面しながら、組織力低下の傾向を挽回することができず、この面でも、あたらしい道を探究する議論が盛んになっている。
 2005年は米労働総同盟・産業別労働組合会議(AFL-CIO)の定期大会が開かれる。議長選挙もおこなわれる。

イラク戦争と労働組合運動

 米国のAFL-CIO加盟労働組合のうち最大のサービス労働組合(SEIU、170万人)が全国大会(6月22日)で、「米国のイラク占領に反対する決議」を全会一致で採択した。「米国の外交政策を変えなければ、失業、賃金低下、社会サービスの削減などさまざまな経済問題・社会問題を解決することはできない」という見地をはっきりのべている。
 AFL-CIOのもう一つの大手組合である地方公務員組合連合(AFSCME、120万人)、同じく全米の労働組合員の六分の一を擁するカリフォルニア労働組合連盟も7月13日に同様の反戦決議をあげていた。AFL-CIO本部が、2003年3月の米軍のイラク侵略開始いらい、イラク戦争への批判をいっさいしないばかりか、議論もしなくなったなかでの動きである。同時に、伝統的に、AFL-CIOの米労働組合運動が米外交を批判することがなかったという歴史的な経過からしても、大きな変化だった。
 8月31日には、これもAFL-CIO加盟の大手労組となる米通信労組(CWA、65万人) が年次大会(カリフォルニア州アナハイム)で、先制攻撃戦略をやめ、イラクから米兵を安全に帰還させることをブッシュ大統領に要求する決議を、ほぼ全会一致で採択したことも注目された。「わが国をより安全にするために」と題する決議にたいして反対意見は出されなかったとCWA は報告している。
 このほか、港湾倉庫労働組合(ILWW、6万人)、郵便労働者組合(APWU、27万人)などの組合が同様の決議を採択した。APWU決議は、米のイラク軍事占領の停止、イラク国民に速やかに主権を回復させること、米軍の撤退を明確に要求した。

ブッシュ政権下で悪化する労働者の状態

 ブッシュ米大統領はその第二期最初の年頭一般教書の冒頭で「経済が健全に成長し、さらに多くの米国民が仕事に就き、わが国が世界で活発な勢力でありつづけており、合衆国の現状は確信に満ち強力である」とのべた。その中身としてあげたのは減税、景気低迷の克服、海外での市場開放、企業の犯罪行為の取り締まり、史上最高になった持ち家数、そして「過去一年だけで230万の雇用があらたに創出された」というものだった。労働省労働統計局が2005年1月初めに発表した数字も、2004年の雇用が過去5年で最高になったとしている。
 これにたいして、米国の代表的経済シンクタンクである経済政策研究所(EPI)は、毎年9月に発表する「米勤労国民の状態 2004-05年版」(The State of Working America 2004-05)で、この2年半の景気回復にもかかわらず、この前の2001年に始まった不況以来の問題、雇用を伴わない回復(jobless recovery)という問題は依然として根深い、と指摘している。失業率は5.6%前後になっているが、「景気回復」に比例して雇用創出が進んでいないというのだ。所得についても同報告書は、さまざまな所得層のうちもっとも多い中間部分の所得額が減りつづけ、所得格差が広がっていることを強調している。ブッシュ大統領が自慢する「減税」も税制改正としては富裕層に圧倒的に有利な逆進的な改悪で、中間所得層と低所得者層はその恩恵がほとんど感じられないものだったとのべている。米国ではもっとも層の厚い中間層の労働者は、所得を増やすために、余分に働かなければならなくなっていると、EPI は指摘している。
 じっさい、ブッシュ政権第一期4年の最初の3年間に労働者の解雇率は80年代初めの3年間 (レーガン政権時代) とほぼ同じ8.7%だったと労働統計局は報告している(8月)。これについて経済専門家は「グローバリゼーションを反映したものだ。企業はますます、低賃金拠点での生産にシフトしているからだ」と分析している (ニューヨークタイムズ2004年8月2日) 。

(低賃金のうえに健康保険がない)
 2004年10月はじめ、米国の調査団体The Commonwealth Fundは、低賃金労働者の半数は健康保険をもっていないとの調査結果を明らかにした。それによると、時給15ドル以下 (年間収入約30,000ドル)の正規雇用(フルタイム)労働者は、雇用者と折半の健康保険に加入していないことが多い。このため、具合が悪くなっても医療を受けることができない。

(つよまる労働強化の傾向)
 この10年あまりの間、米国では労働時間の長時間化、実質賃金の一層の低下にくわえて、労働強化と健康被害が増大していることが問題になっている。
 9月5日のニューヨークタイムズ (電子版) は、「米国の労働者はストレスで疲れ(stressed out)、過酷な経済のなかで日々ますますひどくなっている」と報じ、さらに次のように指摘している。「サッカー観戦中にも、レーバーデー (労働祭) のピクニックでも労働者は携帯電話、ノートパソコンにしばられ、これが、いつクビになるかわからない状況、医療費の高騰、企業年金の低下などに加えて、多くの労働者を苦しめているというのだ。従来、ストレスといえば、心臓マヒ、糖尿病、免疫力低下などとの関連で指摘されてきたのであるが、ストレスと増大する職場の不安が労働者の健康に大きな影響を及ぼしていることが問題にされるようになっている。」「ほとんどのストレスに関係した健康問題は日本で『過労死』として知られている現象からは遠いが、減量経営、急速な事業拡大、アウトソーシング (外注化) など国の景気を良くするともうたわれる一方で、傷病日数、入院、心臓マヒの危険の増加をはじめ、ストレス関連の問題につながっていることをストックホルムのスウェーデン国立心理社会医療研究所は明らかにした。」 

(時間外賃金制度改定問題)
 米国では8月23日に新しい時間外賃金のルールが発動された。公正労働基準法(Fair Labor Standards Act)を改定したもの。年収23,660ドル未満の労働者は、時間外賃金を受け取ることができるというもの。時間外というのは週40時間を超えた分のことで、五割増となる。70年代からこれまでは年収8,060 ドル未満の超低賃金労働者にたいしてのみ支払われていたので、改定は改善されたかのように見えるが、じっさいには、600万人以上の労働者が、時間外賃金を受け取ることができなくなるという。これは、管理職は対象外とされていることから、中間管理職 (チームリーダーや職場監督) 、作業班々長など現場のリーダー的存在などが「管理職」扱いになって時間外賃金を受け取れなくなる可能性が大きいためである。このため連邦議会下院は9月はじめ、この法改正措置を覆した。しかし大統領の拒否権発動によって、実施される可能性が大きい。

(労働者の権利にたいする攻撃)
 ブッシュ政権の一期目の4年間で、共和党が多数を占める議会や全米労働関係委員会(NLRB)の労働組合あるいは労働者の基本的権利にたいする攻撃がいちだんとつよまった。
 NLRBは、労働者の団結権を左右する機関であるが、現在、共和党派が多数を占めている。(2004年は共和党3人、民主党2人だったが、12月に2人が辞任して3:2の力関係になった。)
 二大政党制の米国では、労働政策にかんするかぎり、露骨な資本寄り姿勢をもつ共和党と、同じ資本主義擁護に立ちながらも労働組合を大きな支持基盤としてきた民主党との間には、しばしば対立状況が起こる。共和党多数のNLRBは、労働者の団結権などにかかわる提訴にたいして、経営側の言い分を支持する裁定を下すことが多くなっている。その結果、(1) 労働組合を結成し団体交渉権を獲得することがいちだんと難しくなっており、(2) 協約改定交渉では経営側に財務状況を明らかにさせることがますますむずかしくなったなどが指摘されている。
 11月の大統領選挙でブッシュが再選された直後、NLRBは、派遣労働者は「正社員」と一緒に協約交渉に参加することはできないとの判断を示した。この判断の直接の対象はニューヨークのナーシング・ホーム(長期老人介護施設) で、2000年にクリントン政権下で任命されたメンバーからなるNLRBが下したもので、派遣社員も正社員と一緒に交渉に参加できるとした判断を覆した。今回の判断は、派遣労働者の割合が増大するなかで今後の労働運動に大きな否定的影響を与えるものとみられている。

2004年選挙と労働組合運動

 2004年の米大統領選挙で、米国の労働組合はAFL-CIO と同加盟組合もその他の労働組合も共和党の現職大統領ジョージ・W・ブッシュの再選阻止で一致し、民主党のジョン・ケリー候補(上院議員)を推したが、350 万の差でブッシュの再選を許してしまった。この選挙では、少なくとも外部からみるかぎり現職のブッシュには不利な、挑戦者に有利な客観的条件があった。その最大のものは、イラク戦争がウソでかためられた「大義」にもとづく侵略戦争ことが明らかになったことだった。それ以外にも、金持ち優遇の減税、景気回復の宣伝にもかかわらず深刻化した雇用問題、年金改悪計画、時間外労働の賃金支払いルールの改悪なども再選阻止の要因になりうるものだった。
 AFL-CIOは、1億5,000万ドル(約160億円)という膨大な資金を投入し、20万人のボランティア運動員を組織して宣伝や個別訪問、電話作戦を展開した。AFL-CIOによれば、4年前の大統領選挙のときよりも、選挙運動への動員は3倍になリ、ボランティアの参加、資金の投入などどれをとっても歴史的な運動の高まりがあったという。電気無線労働組合(UE)などAFL-CIO以外の労働組合も重点選挙区で「ブッシュを落とせ」のキャンペーンをおこなったが、肝心のケリー候補は、労働組合が熱烈に推す候補ではなかった。当面の最大の問題であったイラク侵略、占領問題でケリー氏は、広範な労働組合の反対の声(AFL-CIO中央本部は明確な反対を避けたが) にたいして、反戦・平和の訴えでこたえるのではなく、戦争・占領容認の枠組みから脱却することがなかった。
 ブッシュ共和党は、大企業の利益を優先させた政策とあわせて、ミドルクラスを対象にした保守的な価値観の宣伝(中絶や同性婚禁止など)に集中し、当面の最大の問題だったイラク戦争の問題を選挙戦の争点とするのを避けた。
 今回の選挙結果について、民主的運動を草の根から発展させる方針を堅持している電気無線労働組合(UE) は、「真の問題は、民主党は人々のほんとうの、日常抱えている問題のためになる代案となるビジョンを提示することができないし、その意思もないということである」とのべ、「いまこそ労働運動は、財政資源と活動をつかって討論の方向を転換させ、新しい労働者階級の多数派を形成すること」が必要だと強調している。

労働組合の現勢

 米労働省労働統計局(US Department of Labor Bureau of Labor Statistics) が2005年1月27日に発表した米国労働組合調査によると、2004年に米国の労働者の組織率は12.5%で前年比0.4 ポイント下がった。1983年の20.1%から下がり続けている。
 民間の組織率は8%で1983年から半減している。政府職員の36%と大きな差がある。最も組織率が高い分野は教員、図書館員などで37%だった。地域的にみると、組織率が20%を超えたのはニューヨーク州(25.3%)、ハワイ州(23.7%)、ミシガン州(21.6%)、アラスカ州(20.1%)の4州だった。反対に5%以下はノースカロライナ州、サウスカロライナ州、アーカンソー州、ミシシッピ州で南部に集中している。

AFL-CIOと米国労働運動の今後をめぐる議論−組織改革論議

 米国では今後の労働運動のありかたをめぐる議論がAFL-CIOの加盟団体の指導的な人々の間で2003年以来おこなわれている。2004年の大統領選挙でブッシュ再選を阻止できなかったことで、AFL-CIOの運動や組織のありかたに根本的な疑問や改革提案がだされた。しかし、これが歴史的な「改革」への道を開くことになるのか、あるいはAFL-CIO内部の一部の有力労組指導部の何らかの思惑にもとづくものか、今後の行方をみる必要があるが、労資協調主義の総本山のような存在で米国の対外干渉・侵略政策への協力もふくめ、国際的な労働運動において否定的な役割をはたしたAFL-CIOで、労働組合運動の低迷を打破したいという提案と議論が起きていることは注目に値するだろう。
 ブッシュ再選を許した直後の11月10日、首都ワシントンのホワイトハウスに近いAFL-CIO本部では執行評議会が開かれ、選挙での「敗北」をふまえ、これからの運動をどうするかについて意見がかわされ、有力労組から、労働組合運動の改革が提案されたことが新聞でも大きく報道された。
 11月10日のAFL-CIO執行評議会は、選挙後の新しい情勢 (予想される国民切り捨ての政策のいっそうの推進、イラク戦争の継続、労働組合の権利への攻撃のつよまりなど) とたたかうために、長期にわたる運動の低迷を打破していく運動の提案を「改革委員会」で検討し、その結果を2005年に執行評議会に提言するという段取りをきめた。討論の詳細は明らかでない。
 160万人を擁する、AFL-CIO内最大の組合組織であるサービス労働組合(SEIU)のアンドルー・スターン議長は、主要労組に書簡を送り、労働運動の抜本的改革をめざす提案を明らかにしていたが、この執行評議会の後の記者会見で、自分たちの提案が労働運動強化の方針として採用されなければ、AFL-CIOからの脱退も辞さないとの強硬姿勢を表明したと報じられた。同氏は、執行評議会では労働組合員の減少や賃金闘争で労働組合が力を失っていること、多くの労働者が健康保険や年金を失っていることなどの問題について発言しないことに苛立ちを表明した、とニューヨークタイムズは報じた。
 スターン氏は、労働組合の勢力を増大方向に転じさせるために次のような課題を提起した。
 ・雇用の「ウォルマート化」( 低賃金・健康保健などの手当ての削減、雇用の海外流出、組合づくりの妨害など) をやめさせる運動をすすめ、そのなかでAFL-CIOの中心的役割を果たす
 ・すべての労働者に質の高い健康保健を保障するための全国キャンペーンの先頭に立つ
 ・労働者の労働組合加入の自由を保障する
 ・21世紀にふさわしい全国労組の再編で、産業別の労働組合組織を統合・整理する
 ・政治行動化し、労働者の生活改善に必要な立法をかちとる
 ・地方の労働組合運動の強化
 ・労働組合員の多様性を尊重する
 ・経済のグローバル化に対応して労働運動でも他の国、地域の運動との協力を広げる
 スターン氏はまた、現在AFL-CIOを構成している労働組合全国組織を現在の約60組合から20以下に整理統合すること、労働組合結成のためにAFL-CIOの年間予算1億1800万ドルのうち2500万ドルをウォルマートなどでの労働組合づくりに投入すること、などを提案した。

(「 5人組」の提案)
 今回のSEIU議長提案は、2年ほど前、AFL-CIO加盟組織を含む5つの労働組合がAFL-CIO中心の労働組合運動の大幅な再編を提唱したことからはじまった。
 5人は、SEIUのスターン議長のほか、7月に合併したホテル・レストラン労働組合(HERE)と服飾縫製労働組合(UNITE) 、建設労働組合(Laborers)、大工労働組合(Carpenters)の各議長で、「新しい団結パートナーシップ」(New Unity Partnership) というグループの旗揚げをしたのだった。大工労働組合が2年ほど前にAFL-CIO を脱退しているほかは、AFL-CIOの有力構成メンバーである。
 1995年以来スウィーニー指導部下でAFL-CIOが進めた組織拡大が成功しておらず、それどころか、組織人員がいっそうの減少傾向にあることから、「改革」を主張したものだ。その最大の趣旨は、小さな労働組合組織をどんどん合併させて数個の大組織に再編するとともに、AFL-CIO内の「健康・安全」「教育」「公民権・人権」などの部局を縮小あるいは廃止し、現在のAFL-CIOの組織化局を「戦略的成長局」とするなどを内容としている。
 2004年の大統領選挙の後、全米トラック運転手組合(チームターズ=Teamsters) のジェームズ・P ・ホッファ議長が「抜本的な」改革提案を明らかにした。組織化のための資金を増やすこと、とくに大統領選挙での重点州での政治行動を強化することを強調している。
 自動車労組UAW 内のNew Directionsという自覚的民主的グループのリーダーだったジェリー・タッカー氏は、現在の提案、論議には、現在のアメリカの労働運動の何が問題で、どういう方向で発展させるべきなのかという根本問題がとりあげられていない、と指摘している。

(AFL-CIOの組織勢力)
 AFL-CIOは約60の労働組合組織(産業別団体)からなる。地方(州)でそれぞれの地評(Central Council)があるが、それぞれ独立性をもち、AFL-CIOの方針に縛られない。これは、たとえばイラク戦争をめぐっては、カリフォルニア評議会が明確にイラク戦争反対を決議していることなどに現れている。加盟組合の組合員は現在約1,300 万といわれる。現在の議長はサービス労組の全米組織SEIUの議長だったジョン・スウィーニー氏であるが、2005年のAFL-CIO大会で議長選挙が行われる。加盟組合組織率は多くの分野で低下し続けており、製造部門では未組織労働者が1,000万人いる。組織率の低下に対応するために、従来の産業分野を超えた組織合併がすすんだ。AFL-CIO加盟組織は、1979年に108あったのが現在では66に減った。
 20万人以上の組合員を要するAFL-CIO加盟組織は以下のとおり。

SEIU サービス労組
1,272千人
9.70%
AFSCME 地方公務員
1,258
9.6
IBT チームスター
1,222
9.3
UFCW 食品・商業
1,135
8.6
AFT 教員
858
6.5
UAW 自動車
737
5.6
IBEW 電気
670
5.1
CWA 通信
626
4.8
IAM 機械・航空
452
3.4
USWA 鉄鋼
445
3.4
LIUNA 建設
306
2.3
IUOE 機械技師
281
2.1
PACE 製紙・化学
273
2.1
APWU 郵便
271
2.1
HERE ホテル・レストラン
238
1.8
UA 職人
220
1.7
NALC 郵便配達
210
1.6
UNITE 縫製
200
1.6
(Atephen Lerner: "Three Steps to
Reorganizing and Rebuilding the Labor
Movementより)

(イラク戦争にたいする態度)
 ブッシュ政権のイラク侵略戦争にたいしてAFL-CIOは明確な反対を表明していない。
 イラク開戦直前の2003年2 月28日には定例の執行評議会で「いま戦争をすることに反対する」という趣旨の決議を採択し、イラク問題では広範な連合を構築し、国連の支持を得てイラク・フセイン政権の武装解除をおこなうべきだと主張した。「いまの時点では」という限定的な反対だったことがわかる。イラク攻撃に反対する世論が高まっていたことを無視するわけにはいかなかったのであろう。だが、それ以上に次の年の大統領選挙対策上、この問題でもブッシュ政権との対決軸を明確にする必要があったとみるべきだろう。
 しかし、2003年3月に戦争が始まるや、スウィーニー議長は、イラク戦争での米軍の役割・行動への支持を明確にした。以来、AFL-CIOは、イラクで米兵の死者が増大するなかでも、イラク戦争については沈黙を続けた。「AFL-CIOば中立を維持しているのだ」と説明する加盟組合のリーダーもいた。だが、AFL-CIOはイラクにかんして、反対の声をあげないばかりか、積極的に米政府の占領、干渉政策を支持してきたという面がある。米国が「民主主義を広げる」という大義名分をかかげて対外干渉をおこない、米国の多国籍企業の進出・支配に有利な「国づくりを助ける」ために80年代に設立した「国家民主化基金」(National Endowment for Democracy, NED)などから資金を受け取ってブッシュのイラク政策に沿った活動をやっている。2004年3 月、バルハーバー( フロリダ州) でのAFL-CIO執行評議会がイラクに労働組合をつくる決議をしたのもその一環であった。

(AFL-CIOの対外活動の問題)
 AFL-CIOは、米国の労働運動のナショナルセンターであるが、日本では労資協調主義の権化として知られているし、ベトナム侵略戦争を支持した。チリのアジェンデ政権を転覆したクーデターで一役買うなどの暗い過去も忘れられない歴史である。最近でも米英を中心とするイラク戦争・占領にたいしては明確な反対を表明することなく、イラクの労働組合対策的な面で米政府に協力している。また、南米のベネズエラにたいしては、チャベス大統領打倒のクーデター事件(2000年4月) を企業団体といっしょになって引き起こした労働組合を、資金面もふくめて支援してきたことで、内外から批判をあびてきた。このように、対外政策、国際活動では、AFL-CIO指導部はアプローチに変化があったものの、過去の悪習を復活してきている。
 指導部が交代して10年を経た後も依然として、労働外交諮問委員会(Advisory Committee on Labor Diplomacy、ACLD) という機関への参加をつうじて政府の対外政策の手助けをしている。このことは、イラク戦争に明確に反対を表明することはおろか、この問題を正面から論ずることもできないという状況をつくりだしている。ACLDがつくられたのは1999年だった。ジョン・スウィーニー議長のもとでの「改革」からの逆戻りともいえる。言い換えれば、米国の外務省にあたる国務省があらたに労働界を外交の手段の一つとして利用しはじめたということだ。2001年のACLD報告書「労働外交・民主主義と安全保障のために」と題して、「米国の国家安全保障を促進し、安全保障上の利益を損なう地球的規模の政治的、経済的、社会的状況とたたかううえでの、労働外交の役割」を論じている。ACLDの委員長はトーマス・ドナヒュー元AFL-CIO財政部長(書記長に相当)。バーバラ・シェイラーAFL-CIO国際部長も定期的にこの会議に出席しているという。
 AFL-CIO本部では、かつての対外干渉の機構だった自由労働運動開発研究所(AIFLD) にかわってアメリカ国際労働連帯センター(ACILS) なるものをつうじて、基本的には同じ活動をやっている。ベネズエラの反政府活動への支援をおこなったのも、このAIFLDおよびNEDをつうじてであった。

(AFL-CIO内部からの批判)
 こうした活動にたいしてカリフォルニア教員連盟は2004年3月の年次大会で、「AFL-CIO指導部はNEDから資金を受け取るべきではない」との決議を採択した。「AFL-CIO指導部は、その連帯センターをつうじて、イラクでの活動のための資金としてNEDに300万ドルから500万ドルを申請すると発表した。そもそも、ILO条約は各国の労働者はみずからを代表する労働組合を選ぶ権利を有しているとしている。しかるに、NEDの資金を受けてイラクにおける連帯活動をおこなうというのは、イラクの内部問題に干渉して米国の外交政策目的をすすめようとするものであるとみられてしまう。このため、カリフォルニア教員連盟は、自主・独立、自決というILO条約に明記された諸原則を支持することをあらためて確認する」とのべている。
 また、カリフォルニアのAFL-CIOは2004年7月の大会で、AFL-CIO指導部の外交方針を痛烈に批判し、占領をやめるよう要求した。これまで民主的に選ばれた政府さえも干渉して打倒するために使われてきた「NEDのいかがわしい歴史を指摘し、AFL-CIOはNEDとの関係を絶つべきだ」としている。カリフォルニアAFL-CIOは、250万人を要する大組織であることを考えると、これは重要な発展といえる。
 AFL-CIOは2005年7月に定期大会を開き、議長選挙をおこなう。スウィーニー議長は2004年末時点でまだ立候補を声明していなかったが、2004年に合併してできた組合UNITE-HERE (縫製労働組合とホテル・レストラン組合) のリーダーの立候補、つまりスウィーニー氏への挑戦、が取りざたされた。(岡田則男)