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国旗 世界の労働者のたたかい
EU(欧州連合)
2003

EU(欧州連合)とEUレベルの労働組合運動

 EU(欧州連合)は2002年12月のコペンパーゲン首脳会議で、中・東欧などの10ヵ国の新加盟を決め、「グローバル化」の進行下でのさらなる拡張段階にはいった。EUの基本条約としてのニース条約は加盟国批准手続きを終え、2003年2月正式に発効した。99年にEU内の12ヵ国で発足し、2002年1月から現金流通も開始したユーロは、変動を経ながらも、信用を拡大しつつある。一方、経済グローバル化のもとでの国際競争の激化とリストラの波はEUとその加盟国にも大きな変化をもたらし、労使関係当事者、とくに、労働組合に新たな対応を迫っている。また、この間の各国の選挙を経て、EU15ヵ国の「中道左派」政権と「中道右派」政権の数は2002年末現在で、6対9(下記参照)へと大きく「右」に傾いた。この変化は労働問題の分野ではなく、とくに各国労働法制の改悪をもたらしつつある。
 「中道左派」=ベルギー、フィンランド、ドイツ、イギリス、ギリシャ、スウェーデン
 「中道右派」=オーストリア、デンマーク、フランス、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、スペイン
 そうしたなかでの2002年、EUレベルでは労使関係や社会福祉を重視する「欧州社会的モデル」の継続発展、その方向性が改めて問われ始めている。
 EU議長国は2002年前半をスペインが、後半をデンマークが務めた。03年は前半をギリシャが、後半をイタリアが務める。
 2002年の経済指標は、経済(GDP)成長率0.8%(ユーロ12ヵ国平均、「欧州委員会経済予測2002年秋」による推定値、以下同様)、消費者物価上昇率2.1%、失業率8.2%(対前年比0.2%増)、財政赤字(対GDP比)2.3%、累積債務(対GDP比)69.6%、とかなり厳しい状況だった。

2002年の主な闘い・できごと

1.EU関係

  • 1月15日、欧州委員会が「賢明なリストラ」合意(協約)の取り組み(労使関係当事者との協議)開始
  • 2月28日、労使関係当事者が職業訓練協約に調印
  • 3月15〜16日、バルセロナEU首脳会議
  • 3月20日、欧州委員会が派遣労働者指令案を提案
  • 3月23日、一般労使協議会指令を公布(EC官報に掲載)
  • 3月23日、労働時間指令を路面運輸労働者にも適用
  • 6月19日、航空管制労働者がEUの欧州空域単一化計画に反対してストライキ
  • 7月2日、欧州委員会が「企業の社会的責任」緑書に関する利害関係者からの回答を総括し、「マルチ・ステイクホルダー(利害関係者)フォーラム」の設置など今後の推進方向を提案した通達を発表
  • 7月16日、労使関係当事者がテレワ−ク労働協約に調印
  • 10月5日、新均等待遇指令(76年の指令を修正)を公布
  • 10月16日、欧州委員会が「企業の社会的責任」問題を検討する「欧州マルチ・ステイクホルダー・フォーラム」を発足(ブリュッセルで第1回フォーラムを開催)
  • 11月20〜21日、欧州議会が派遣労働者指令案の第一読会終了・修正を提案
  • 12月12〜13日、コペンハーゲン首脳会議

2.欧州労連(ETUC)および欧州レベルの産別または企業レベルの労働組合運動

  • 3月13日、欧州の労組がEU首脳会議を前にバルセロナで4万人を超えるデモ
  • 3月20日、ETUC、欧州産業連盟(UNICE)がイタリアでのビアージ氏暗殺への抗議声明
  • 3月26日、運輸労働者国際統一行動デー、第3回国際鉄道労働者行動デー
  • 5月23日、欧州退職・高齢者連合(FERPA)が基本的社会権を、策定中のEU新基本条約に盛り込むことなどを求めて各国で統一行動
  • 4月15日、ETUCが16日のイタリア・ゼネスト支援声明
  • 5月10日、欧州金属労連がドイツIGメタルの労働協約(賃上げなど)ストに連帯声明
  • 7月9日、航空管制官が国際統一行動
  • 11月6〜10日、イタリア・フィレンツェで第1回欧州社会フォーラム開催、ETUCが正式参加、閉幕行事のデモ・集会に100万人参加
  • 11月28日、欧州労使対話サミット開催
  • 12月16日、欧州金属労連が呼びかけたイタリア・フィアット労働者への連帯行動日

路面運輸の労働時間に関するEU指令を公布

 EUは、路面運輸運転手の労働時間に関する指令(「移動路面運輸業務従事者の労働時間編成に関するEU指令2002/15」)を3月21日に公布した(4月26日発効)。加盟国はこの公布を受けた同指令の国内法化の措置を2005年3月までに取らなければならない。
 これまで、トラック運転手などの移動路面運輸業務従事者に関する規制は、1958年に施行され、運転時間と休息期間に関する規制を示した「路面運輸関連特定社会法令の調和化に関するEEC規則3820/85」があった。しかし、これは労働時間全体への効果的規制に欠けていることや、自営運転手が除外されていること、監督制度が弱いことなどから、実効性の低いものとして労組側から批判されていた。
 そうしたなか、1993年に公布された「労働時間編成の特定の側面に関する指令93/104」が、運輸部門を除く他産業の労働時間規制の基本的枠組みを示したが、移動労働者は適用除外とされた。
 新指令(「移動路面運輸業務従事者の労働時間編成に関する指令2002/15」)は16条から成り、被雇用運転手と共に自営運転手を適用対象としている。
 新指令は「週当り最長労働時間」を48時間とし、4ヵ月平均で週48時間を超えない場合にのみ、週60時間を認めている。複数の使用者に雇われている場合は、その合計労働時間としている。

欧州委が「緑書」への回答集約・発表 ― すすむ「企業の社会的責任」・リストラ規制のルールづくり

 EU(欧州連合)の政府にあたる欧州委員会は2001年7月、「企業の社会的責任に関する欧州の枠組みを促進する」と題するグリーンペーパー(=たたき台としての政策提案文書。以下、緑書と呼ぶ)を発表し、協議(すべての関係組織、個人の「緑書」討論への参加)を呼びかけた。欧州委員会は1月、さらに、「変化を予測し、管理する ― リストラの社会的側面へのダイナミックなアプローチ」も発表し、労使関係当事者との第1次協議を開始した(「緑書」の内容とそれへの欧州労連の反応は2002年版を参照)。
 緑書は「国際機関を含むあらゆるレベルの公的当局、中小企業から多国籍企業までの企業、労使関係当事者、非政府組織、その他の利害関係者、関心を持つすべての個人に、『企業の社会的責任』を促進する新たな枠組みを発展させるための協力関係をいかにして構築するかに関する見解を表明すること」を求めた。
 欧州委員会は7月23日の通達で、寄せられた回答意見のまとめと、今後の推進計画、とくに、検討・意見集約機関としての「EUマルチ・ステイクホルダー(利害関係者)フォーラム」の設置を提起した(同フォーラムの第1回は10月16日、ブリュッセルで開催された)。
 「緑書」への見解・意見は258件寄せられた。見解表明をした企業および利害関係者には、たとえば次のような機関、団体(労組含む)、企業などが含まれている。全体として、イギリス、北欧から多いことが特徴である。

  • 国際レベル: OECD、ICC(国際商業会議所)、アムネスティ・インターネショナル。
  • 欧州(EU)レベル: 欧州理事会、UNICE(欧州産業連盟)、CEEP(欧州公共企業センター)。欧州労連、欧州金属労連。
  • 各国レベル: 独、仏、英、蘭を含む八ヵ国政府、英商業会議所、「企業の社会的責任」監視所(仏)、独使用者団体連盟・産業連盟(BDA・BDI)、英産業連盟、デンマーク・労働組合連合(LO)、英労働組合会議(TUC)、英UNIFI労組(金融など)、英GMB労組(自治体など)、仏「労働者の力」(FO)。
  • 個別企業: バークレーズ(英)、フォード(米)、EDF(仏エネルギー公社)、GMヨーロッパ、マクドナルド(米)、NIKE(米)、ジーメンス(独)、ヴォーダフォン(英)、P&G、英核燃料公社、Adidas(独)。

 回答意見のなかでの共通の、最も大きな問題点は、「企業の社会的責任」実行の方法に関する、企業の自発性と法的規制の問題をめぐる対立だった。
 この問題に関する「緑書」の提起は、欧州労連の主張(2002年版参照)ほど具体的ではないものの、既存の実践を含めた企業の自発性の尊重と、国際法を含む法的規制の結合・併用であった。
 これに対して、各レベルの企業、経営者団体は ILO(国際労働機関)の中核的労働基準やOECDの多国籍企業ガイドラインまでは否定しないがこぞって、自発性原則一点ばりで、「企業の社会的責任」への行政的規制を拒否しているのが特徴である。たとえば、欧州の代表的経営者団体UNICE(欧州産業連盟)の見解は次のようにのべている。
 「『企業の社会的責任』は企業主導であり、今後ともそうでなければならない。したがって、UNICEはEUとしての、『企業の社会的責任』へのアプローチ、あるいは、枠組みを作りだそうとするいかなる試み――UNICEはそれを不適当かつ不当と考えるので――にも強く反対する。自発的対応が企業内での持続的な、すぐれた実践を堅実に育成するのに対し、規範的あるいは規制的対応、または枠組み設定は企業の『企業の社会的責任』への関与を侵食しかねない。『企業の社会的責任』は企業内から発展させられなければならず、規律というものは押しつけることはできない」、「欧州委員会は、EUレベル企業間での、すぐれた実践の経験交流の助成によって、『企業の社会的責任』促進に、効果的に貢献できる」。
 ICC(国際商業会議所)に至っては、欧州委員会の役割に関して、「『企業の社会的責任』はグローバル・レベルで対応する必要があるグローバルな問題だと考える。したがって、「緑書」が示唆するように、EU法制あるいは『企業の社会的責任』に関する公的政策枠組みが必要だということには、必ずしもならない。いかなるEUの対応も、この分野における、より広範な国際的イニシアチブへの補完的で、かつ支援的(協力的)なものでなければならない」と「コメント」している。
 7月23日通達は、これらを総括する形で、「共同行動の原則」として、「『企業の社会的責任』の自発的な性格の承認」など6原則を提起、「EUマルチ・ステイクホルダー(利害関係者)フォーラム」が2004年までに活動報告を欧州委員会に提出するよう求めている(欧州委員会はこの報告を受けた後、更なる対応・促進方法を具体化する)。
 次に、欧州委員会リストラ協議文書は、「変化を予測し、管理する ― 企業リストラの社会的側面へのダイナミツクなアプローチ」(以下、第1次協議文書)と題され、英文で13頁ある。
 協議文書はその基本的立場を、「創造的リストラ ― 積極的な変化の原動力(独文テキスト=積極的な変化の原動力としての創造的リストラ)」の節で、太字の斜体文字で次のように強調している。「時にはそれがもたらす痛みに満ちた社会的結果にもかかわらず、企業リストラは不可避であるだけでなく、変化の原動力でもある。それは生産性の向上と新テクノロジーの導入に貢献する。そういった意味で、ただ単純に無視したり反対したりしないことが大切である。リストラの社会的影響を適切に考慮に入れ、取り組むことが、それを受け入れ、その潜在力を高めることに大きく寄与する。これは、自らの活動を支配する条件の変化に直面している企業の利益と、失業の危険に脅かされている労働者の利益を、バランスよく結合することを意味する」。
 協議文書はEU基本条約138条にもとづき、「リストラ状況下における企業のすぐれた実践を支援するような行動に関する一連の原則をEUレベルで確立することの有効性」など3点について、意見を求めることが目的であるとして、「ありうる主な原則」として次の4項を提起している。

  1. 雇われうる能カと適応能カ(キャリア管理、雇われうる能力と適応能力の支援、あらゆる選択肢の考慮=解雇は最後の手段であるべきで解雇に訴える前に、労働時間短縮を含む労働組織の再編成などを実施していくことが必要。社会的コスト(負担・犠牲)は最小でなければならない)。
  2. 有効性と簡素化(リストラに関する法規制の枠組みの簡素化)。
  3. 対外的責任(=「企業の社会的責任」の外部的側面。地域に関する責任=地域への影響、地域関係者との協同、地域職業訓練、産業立地の再生など。下流部門への責任=下請企業とその労働者への責任など)。
  4. 実施のあり方(労使対話を含む労働者関与、公正な補償、紛争の予防と解決、中小企業でのリストラのあり方)。 

 欧州労連は3月11〜12日、ブリュッセル開いた執行委員会で第1次協議文書に関する決議(付属文書として「欧州労連の見解」を収録)を採択した。労連見解は「欧州労連のこの領域における行動への強力な支持にかんがみて、文書における分析内容面に関しても、提案されている措置に関しても、不十分さに失望を禁じ得ない」とする一方、「確かに、積極的な要素もある」として、「失望」と「積極的要素」の両面からのコメントをした後、「第二次協議において、さらなる野心的な対策の試み」をと、次のように求めている。
「そうした対策には、次の内容が含まれるべきである。

  • 諸規定の調和と法的効果を確保するために、さまざまなEU指令において定められている情報・協議諸規定(欧州会社法指令、いわゆる欧州の『最良の順守』規定を基準として活用して法典化するための提案。環境問題に関する情報・協議権も確立されるべきであり、中小企業に関する情報・協議規定を拡充するために、さらなるイニシアチブが必要とされている。
  • とくに、リストラ実施の場合の情報・協議を強化するための、欧州労使協議会指令の見直し。
  • 企業に、雇用、労働条件、環境に影響を及ぼす変化および異動に関する年次報告の作成を義務づける指令あるいはEUレベルの枠組み合意。
  • 変化を予測し管理する能力を強化するための――原則的に部門および地域別の――変化に関する欧州モニタリング・センター(EMCC)の展開。
  • 変化および再訓練に関する構造基金の活動の策定および実行における各国レベルの労使関係当事者の役割の強化。
  • 集中に関係したリストラ実施に関して、欧州委員会、権限ある各国当局の双方または一方とともに訴訟手続きを開始することに関する労働者代表の権利の強化について定めた規則4064/89の見直し。
  • 技能および職業資格を維持し発展させるための、継続職業訓練への参加権の確立。欧州労連は生涯学習の領域におけるEU雇用戦略の強化を支持する。われわれは2002年3月に労使関係当事者間で合意された『行動の枠組み』の各国および部門レベルでの実行がこの領域における明確に定量化できる前進への指針をもたらすことを希望する。現行の職業訓練をつうじて労働者の能力を維持することなしに労働者を解雇する企業を罰するために産業上の変化に関する上級グループによって検討されたこの考え方は、依然として妥当性を保っており、さらに検討されるべきものである。
  • さまざまな関連指令(集団解雇、企業間移動〔=既得権〕、欧州労使協議会の各指令)における、労働者の事前の情報・協議に関する規定の不服従の場合の、EUレベルおよび各国での制裁の強化。

 こうして、欧州労連が積極的に推進する立場で望んでいるのに対し、経営者側の欧州産業連盟(UNICE)は協議文書受領直後の声明および今年3月8日の欧州委員会への回答で、現状以上の法的拘束に反対の立場を表明した。

派遣労働の均等待遇をめざすとりくみ

 派遣労働に関する欧州レベル労使間の交渉が2000年7月に開始された。しかし、交渉は2001年春、事実上、決裂した。この事態を受けて欧州委員会がイニシアチブを発揮し、2002年3月、指令案を提出した(ただし、この時点で加盟15国中、11国はすでに、派遣労働者の均等待遇を法制化していた)。
 指令案(「派遣労働者の労働条件に関する欧州議会・欧州理事会指令案」)は主に次のような内容を規定している。

  • 非差別原則 「派遣労働者はその派遣期間中、待遇上の差異が客観的理由によって正当化されないかぎり、職務上の年功〔勤続年数〕を含む基本的な雇用および労働条件に関して、少なくとも、利用者企業の比較可能な労働者と同等の有利な待遇を受ける。それが適当な場合、時間比例原則が適用される。」
  • 派遣労働の質的改善(正規の良質な雇用への参入)1)派遣労働者に派遣先での正規採用の機会を与えるために、空きポストについての情報提供を保障する。利用者企業との間での派遣期間終了後の正規採用契約の締結を妨害されない。派遣企業による派遣労働者からの、正規採用見返り手数料の徴収の禁止。派遣労働者への派遣先企業の社会的サービス〔企業がその労働者に関する提供する便宜〕への参加・利用保障。派遣企業と派遣先企業はともに派遣労働者の職業訓練参入の改善に努める。2)派遣労働者は、労働者代表制の選出・指名基準に関して、派遣企業の労働者数に参入される。3)派遣先企業の労働者代表機関は派遣労働者の採用について通知を受ける。

 同指令案に関する関係当事者・諸機関の検討は12月3日、欧州議会が第一読会を終了するにいたったものの、主に、使用者側が均等待遇の明記に抵抗していることのために、指令の採択には至っていない。

第1回欧州社会フォーラム − 欧州労連と傘下労組多数が参加、閉幕反戦デモに100万人

 第1回世界社会フォーラムが開催を決定した地域別社会フォーラムの一環としての第1回欧州社会フォーラムが11月6〜9日、イタリアのフィレンツェで開催された。フォーラムは426の団体によって主催・運営され、欧州各国を中心とする105ヵ国から6万人が参加して、150のセミナー(基調報告と討論)と250の分科・分散会を含む大小の集会で諸課題について討論し、交流した(開催時点の登録・計画数による)。
 11月9日、閉幕行事「平和を求めあらゆる戦争に反対する欧州デモ」が行われ、対イラク戦争反対を中心スローガンに掲げた100万人のデモが「花の都」フィレンツェを埋めた。青年が参加者の大半を占め、マスコミは「青年の海」と形容した。
 フォーラムには欧州労連、地元イタリアの最大労組センターのイタリア労働総同盟(CGIL)をはじめ、フランスの労働総同盟(CGT)、ドイツの金属産業労働組合(IGメタル)など欧州各国の有力労組全国センター、個別労組が、平和・非政府団体などとともに、多数参加した。
 とくに、主催・運営の主力となったFIOM(CGILの金属機械産業労組)は全力動員で取り組むとともに、自治体と住民の協力、宿泊施設、ボランティアの組織化を含め開催地での受け入れ体制作りにも大きな貢献をした。FIOMはフィアット(自動車部門の株20%はGMが所有)の労働者犠牲の危機対策に反対し、経営側責任の追及、生産と雇用を守る闘いと一体のものとして取り組んだ。
 欧州社会フォーラムの100万人集会が採択した「戦争反対アピール」は2003年2月15日に欧州の全首都でデモと集会を展開するように訴えた。

拡大するEU ― 10ヵ国が2004年新加盟・25ヵ国体制へ

 12月にコペンハーゲンで開かれたEU首脳会議は「2004年5月1日に中・東欧などの10ヵ国新加盟」で合意し、25ヵ国体制に移行することを決定した。新加盟が決まったのはエストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、マルタ、キプロスの各国で、旧ソ連圏の国も含まれている。これが実現すれば、第2次世界大戦後の東西対立による欧州分断に終止符が打たれ、歴史的な「単一欧州」の誕生となり、EU人口は現在の15ヵ国約3億8千万人から25ヵ国約4億6千万人となる。世界のGDP(購買力平価基準の国内総生産。2001年分)総計に占める割合で見た経済的なウェイトでも、現在の17・0%(15ヵ国)から3.8%増の20.8%へと、米国の規模に接近する(米国22.3%、日本6.7%)。
 新加盟が決定した各国では、おおむね今年中に加盟の是非を問う国民投票が実施され、その結果を受けて2004年4月16日に正式加盟協定が調印される。加盟した国の有権者は同年6月に実施される欧州議会選挙での選挙権を獲得する。
 なお、他の加盟候補国のうち、ブルガリアとルーマニアについては2007年の加盟実現を目指し交渉が続けられる。今回の交渉の一大焦点となったトルコの加盟問題については、04末までに加盟条件を満たしていると判断されれば「遅延することなく加盟交渉を開始する」と決定された。トルコは、1)地理的にイラクに隣接するNATO 加盟国であり、かつ、基地としての利用を狙い米国が強引な加盟工作をしていた、2)イスラム教が支配的な国である(他のEU加盟国ではキリスト教が支配的)、3)ギリシャ系のキプロスと対立する「北キプロス・トルコ共和国」を実効支配しているなどの問題を抱えている。それだけにトルコの加盟を巡っては現EU内にも強力な反対意見があり、同国の強い要請にもかかわらず前記の「加盟予約」的な決定に終わった。キプロスに関しては、議長総括が「統一キプロスでの加盟を強く望む」として和平を促している。
 EUでは諸課題を解決するうえで、政府とともに労使関係当事者も大きな責任を果たす。以前からEUの枠を超えた組織・運動を展開し、34ヵ国の78全国労組、組合員6千万人(2003年3月現在)を擁する欧州労連はEU拡大をチャンスと捕らえて新たな展開を始めている。欧州労連は10ヵ国の新加盟を決定したEU首脳会議の直前、同じコペンパーゲンで、各界の代表を交えた欧州の未来に関する会議「社会的な・市民の欧州」を開催。閉幕にあたって、ガバリオ書記長は「欧州労働組合運動は、欧州基本権憲章、および、完全雇用・ソーシャルダイアローグ(労使対話)・多国間共通労働組合権・EUレベル労使関係当事者の役割・EUレベル労使関係・社会的市場経済・効率的ユニバーサルサービス、を含んだ真の欧州憲法に向かう一段階としての憲法的条約を要求する」とのべ、当面、拡大EUの基本条約に「欧州社会的モデル」を守リ発展させる内容を明記するよう求めた。