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国旗 世界の労働者のたたかい
英国
2003

経済の概況

 2001年にITバブルが崩壊し、9.11同時多発テロ事件後さらに世界経済が不安定化した中で、イギリス経済は、海外需要の落ち込みによる輸出関連の製造業の不振が続いたものの、2002年を通じてサービス部門を中心に個人消費の拡大や積極的な政府支出などによる内需の伸びに支えられて、先進国中で高い水準の経済成長率(2001年実質2.2%、2002年1.6%前後)を維持した。とりわけ外需とは対照的に、個人消費が堅調であり、低金利と住宅価格の上昇が続いている。しかし、物価水準(基礎的インフレ率)は、2002年後半まで政府の目標値である前年比2.5%を若干下回る水準で推移していたが、11月と12月にはイラク問題に絡んだ石油価格の上昇などもあり、2.8%前後まで上がってきた。この間のイギリス労働市場は、外需の先行き不透明感が強まる中でさえ、かなりの好調を維持し、総雇用者数の拡大が続いた。失業率も25年ぶりの低水準を維持しており、2002年 のILO失業率は若干悪化したものの5.2%にとどまる模様である。こうした中で、労働組合員数の長期低落傾向は、ブレア政権になってしばらく歯止めがかかっていたが、臨時・パート化の波の中で2001年には再び減少に転じ、組織率も2001年の労働力調査で28.8%(GB)となり、最低水準を記録した。

イギリス労働運動の焦点

<拡大する鉄道スト>
 年明け早々の1月3日、ロンドンから南東部への鉄道運行会社サウスウエスト鉄道で鉄道海運労組(RMT)が48時間ストを決行した。労働者側の要求は、鉄道の警備員や駅員、車掌の賃金を人材不足で優遇されている運転手並みに引き上げろというもの。その後も7日、28日と第2波、第3波の48時間ストが決行された。また、イングランド北部のアリバ(Arriva)鉄道でも、1月24日RMTの組合員が48時間ストを決行、1,600本もの列車が運休した。このストも南西部のストと同様、警備員や駅員にも運転手並みの賃上げを求めている。こうした鉄道ストは次第にイギリス全土に波及し、アリバ鉄道などでは、交渉がもつれて紛争が長期化した。
 この背景には、単に賃上げ要求のみならず、イギリスの鉄道が抱える危機的状況がある。すなわち、イギリスの国鉄が1997年に当時の保守党政権のもとで完全民営化されたが、民営化後のリストラ計画が行き過ぎて、運転手不足を招いてしまい、運転手の待遇改善を図った。しかし、他の職種については賃金を抑制したため、同一職場内で賃金格差が広がっていた。また、民営化後、2000年10月のハトフィールドでの大惨事をはじめとする重大事故が相次ぎ、収益性を優先し安全性をおろそかにしているとの批判が沸騰する中、2001年10月にはイギリスの鉄道軌道会社レイルトラック(民営化後の国鉄はこの鉄道軌道・駅所有会社と各地の運行会社に分割された)が700万ポンドの損失を出して経営破綻する事態となった。イギリスの鉄道の老朽化が露わになり、その整備に巨額の費用を費やしたものの、事故に伴うスピード規制やダイヤの信頼性が崩れ、鉄道離れを促してきた。昨年の経営破綻により、さらに運行の遅延、運休が相次ぐなどサービスの悪化が国民の不満を高めていた。

<民営化後の郵便公社も窮地に>
 2001年3月、郵便事業の民営化に向けて郵政公社が政府全株保有の株式会社(PLC)、コンシグニア(Consignia)となったものの、この2年間に急激に経営が悪化した。そのため、同社は2002年3月25日には人員削減計画を発表し、向こう3年間にわたり、15,000人のリストラを実施するとした。これは主に小包部門の労働者11,700人の内6,700人を削減するなど小包部門が中心であるが、輸送部門も2,500人削減される。ところが、同社の経営悪化はこれに止まらなかった。6月13日には、コンシグニアは、今年3月期に11億ポンド(約2,000億円)の最終赤字を計上したと発表し、コスト削減のため、今後3年間に17,000人分の新たなリストラ計画を打ち出した。人員削減の多くは、自然減、希望退職、非基幹業務の外注化によるとしているが、郵便配達を日に2回から1回に減らし、都市部の郵便窓口も3,000ヶ所を閉鎖するという計画だ。また、会社の名称も評判が悪かったコンシグニアから旧郵政公社時代のロイヤル・メール(Royal Mail)に変更すると発表した。このため、賃金協定が成立したばかりにもかかわらず、通信労組(CWU)などの組合は受け入れがたい人員削減案だとして、同社の労使関係が悪化している。
 旧郵政公社の時代は、過去40年間黒字経営で、この10年間だけを見ても毎年3億5,000万ポンドの収益を上げていた。しかし、2年前の民営化後は赤字経営が続き、赤字額も累増している。この原因としては、総額6億ポンドを投じた小包部門による海外事業の展開が失敗したこと、郵便事業の段階的自由化によりこれまでの郵便事業の独占が崩れたこと、政府が切手料金を意図的に低価格に据え置いたことによる収入の伸び悩みなどが揚げられている。このため、郵便市場の自由化を促進する郵便事業の監督機関ポストコム(Postal Service Commission)は、2002年1月に発表した2006年までに3段階にわたって郵便市場を完全自由化するという計画案を、1年ずつ延期すると修正発表している。

<アミカスの誕生と新書記長>
 2002年1月1日、合同機械電気工組合(AEEU)と製造科学金融組合(MSF)が合併し、英国民間で最大の組合アミカス(Amicus)が誕生した。組合員数は、英国最大の組合である公共部門労組Unison(約127万人)に次ぐ108万人である。アミカスの主要な組織産業である製造業では、外国企業や大企業の撤退・人員削減が続き、組合員が減少し続けており、政治的な発言力を維持強化すると同時に財政的な合理化を図りたいとするねらいがある。同労組の書記長には、当面AEEUとMSFの両書記長(ケン・ジャクソン氏とロジャー・ライオンズ氏)が共同で務めることになった。
 そして合同後初のAEEU部門の書記長選挙が7月18日に行われ、TUC内でも最右派でブレア政権に親密なケン・ジャクソン氏(長年現職で最有力候補とされていた)と、ブレア政権に批判的な左派で無名に近いデレク・シンプソン氏の争いとなり、89,521票対89,115票(投票率25.4%)という僅差でシンプソン氏が勝利した。鉄道海運労組(RMT)や通信労組(CWU)、消防士組合(FBU)、運輸一般労組(T&GWU)などの指導部内でブレア政権の支持派から左派に交代する動きが相次いでいるが、今回もブレア政権に距離を置きつつあるTUC内部の動きを象徴する出来事となった。とくにこのAEEUは、サッチャー政権時代の1980年代に「ノー・ストライキ協定」=「シングル・ユニオン協定」の流れに乗り、「ノーストライキ協定」を結んで、使用者からシングル・ユニオンとして承認を受ければ、その企業の組合代表権や交渉権を独占できる制度を利用して組合員数を拡大してきた旧電気工組合(EETPU)と旧機械工組合(AEU)が1992年に合併してできた組合であった。シンプソン氏は、「ブレア政権と喧嘩するつもりもないし、盲目的支持者となることもない」としているが、今後は同組合が「ノーストライキ協定」や「シングル・ユニオン協定」を締結することはないと表明し、それらの協定によって排除され、組合間紛争で苦しめられてきた他の組合から歓迎されている。

<欧州人権裁判所で組合側勝訴>
 ストラスブールの欧州人権裁判所(ECHR)は、7月2日、組合に代表してもらおうとする労働者を経営者は罰することはできないとする英労働者側の訴えを認め、7人の裁判官全員一致で英国における法律が組合を通じて経営者と交渉してもらう権利を一部制限しているのは違法との判決を下した。
 訴えていたのは、英紙デーリー・メイルの元副編集長でジャーナリストのデイヴィッド・ウイルソン氏(NUI組合員)とアソシエイテッド・ブリティッシュ・ポーツ(ABP)に勤めていた港湾労働者のグループ(RMT組合員)。ウイルソン氏は、1990年に会社側が全国ジャーナリスト組合(NUI)の承認を取り消して団体交渉を打ち切るとともに、ジャーナリストらに対して昇給にあたって組合に代表される権利を放棄することを条件に賃上げを認める「個人契約」(personal contracts)を迫ったが、これを拒否した。それ以後彼は個人契約を結んだ他のジャーナリストと差別され、昇給を見送られてきた。港湾労働者のグループ10名も1991年に同様な待遇を受けた。組合員であるかどうかは問題とされなかった。これに対して、両組合は英国労働審判所に提訴し勝利したが、経営者側が控訴して雇用控訴審判所で経営者側が勝訴した。組合側は、さらに控訴して控訴裁判所で勝訴した(1993年)。この時点で当時の保守党政権は、労働組合雇用関係法を修正(Trade Union and Employment Relations Reform Act, 1993)し、「従業員との関係を促進しようとする」場合には、労働組合員にそれよりも劣る条件を提示しても違法とはならないとした。その間、経営者側は上院に控訴し、そして1995年に上院は、会社側の措置は違法ではないと判決を下した。これに対し、TUCは、97年と98年にILOとEUに苦情を訴え、両者から英国政府への批判がなされた。その間、英国の政権が労働党に代わり、欧州人権条約を受け入れた。これを受けてNUJとRMTの両組合は、TUCと人権団体のLibertyの支援を受けて欧州人権裁判所に本件が欧州人権条約第11条に違反すると提訴していた。
 欧州人権裁判所は2日の判決で、「従業員が経営者に対して組合を代表に立てる自由は必須の権利であり、もし労働者がそうする権利を制限されるならば、労働組合に加入する自由は幻想になってしまう」と断じた。このため、英国政府は、雇用関係法の改正を迫られることになった。

<雇用法成立>
 7月8日、2002年雇用法(Employment Act 2002)が成立した。そのほとんどの条項は2003年4月から施行される。
 この法律は大別して、働く両親の出産・育児に関する権利の拡大、急増する雇用審判所への訴訟を抑制することをねらいとした紛争解決制度の見直し、およびその他の部分からなる。第1の点に関する主な改正点は、1)現行の有給出産休暇18週間を、勤務年数に関わらず26週間とする。2)現行1年の勤務年数を要件としていた無給の追加的出産休暇権を半年の勤務年数以上で26週間とする。3)現行(2002年4月から)週75ポンドの最低法定出産手当を2003年4月から週100ポンドとする。最初の6週間については平均給与の90%または週100ポンドの高い方を支給する。4)父親となるものは2週間の有給父性出産休暇を取得する権利を有する(誕生の56日以内)。5)その金額は法定出産手当と同額である。6)養子受け入れの両親には、現行13週間の無給育児休暇を26週間の有給育児休暇と追加的な26週間の無給育児休暇を取得する権利がある。7)法定養子手当は、法定出産手当と同額とする。
 第2の点に関する主な修正点は、1)従業員は、不当労働行為を雇用審判所に訴える前に当該事業主に苦情を申し立てる手続きを経なければならない。2)規模に関わらず全ての事業主は、社内に最低限の懲戒および苦情申立手続きを設けなければならない。3)事業主または従業員が正当な手続きを経ずに申請した件については、判例に関わらず裁定内容を変更できる権限が雇用審判所に与えられた。
 その他、労働組合の教育訓練役員への休暇制度、有期雇用者の同等待遇など。

<自治体労働者など公務員のストライキが拡大>
 公務員に様々な紛争が生じている。ロイヤルパーク公園事務所、警察、ブリティッシュ・ミュージアム、スコットランドのナショナル・ギャラリーでは、賃金や人員削減などでストライキや残業拒否闘争などが起きている。このうち、ブリティッシュ・ミュージアムで起きた6月17日のストは、その250年の歴史上はじめてストによる閉館となった。一方、2001年9月に始まった職安(Jobcentre)でのストは、この15年間で最大規模の公務員ストとなったが、4月12日に安全対策などで合意した。
 こうした中で、7月17日、イングランド、ウェールズ、北アイルランドの自治体労働者が一斉に24時間ストに突入した。ストは役所職員、ゴミ収集員、学校教員、清掃員など75万人が参加し、1979年以来の全国ストライキとなった。この15年間の民営化政策のもとで、福祉の仕事が下請化され、パートや臨時雇いが増加し、自治体労働者の多くが低賃金で働いている状況の中、公務員労組Unisonと都市一般労組(GMB)、運輸一般労組(T&GWU)が120万人の自治体労働者を代表して、低賃金層の底上げと平均6%の賃上げを求めて交渉を重ねていたが、スト予告期限までに溝を埋められなかった。英国の約400の自治体で働く労働者の75%は女性で、Unisonによると、役所職員の約20%は時給5ポンド(約900円)以下であり、3分の2は年収13,000ポンド(約234万円)以下に過ぎない。
 第2波のストライキが8月14日に予定されていたが、8月5日夜、第1波ストの時から調停に乗り出していた助言調停仲裁局(ACAS)の妥協案を関係団体が受け入れたため、第2波の24時間ストは回避された。ACAS案は、1)2年の複数年契約とする、2)4月に遡って平均3%の賃上げ、3)同最低時給を5ポンドに引き上げ、4)10月からさらに1%引き上げ(給与ポイントの低いscp4-5の職員にはさらに1%)、5)2003年4月からさらに3.5%の引き上げ(低所得層には1%上乗せ)、というものであった。これにより、全体で最低所得層は10.9%の賃上げ、全体平均でも7.7%の賃上げを獲得した。また、低賃金および同一賃金に関する自治体賃金委員会(Local Government Pay Commission)も設立されることになり事態は収束した。しかし、問題は賃金だけでなく、NHSにも共通するが、これまで政府が進めてきた民間資本導入計画(Private Finance Initiative)が学校や病院などに様々な問題(低賃金の補助教員問題、下請・外注化、モラルの低下など)を投げかけている点を忘れるべきではない。

<NHS改革と教育問題>
 国民医療制度(NHS)は、イギリスが誇る国民皆保険制度であり、子供から高齢者まで全ての国民が無料で医療を受けられる制度である。ほぼ全額が政府の一般財源で運営され、戦後のイギリス社会保障制度の根幹をなしてきた。しかし、精密検査や手術の待機期間が長く、希望時に診察が受けられないなどの不満が強く、多くの人が民間医療と併用せざるをえないのが現実である。与党の労働党は、2001年の総選挙でNHS改革を1つの重要公約としていた。
 この公約を果たすため、ブラウン蔵相は4月17日、NHS予算を向こう5年間で年平均実質7%引き上げ、現在の654億ポンドを2005年度には872億ポンドに、2007年度には1,056億ポンドに増額することを目玉とする政府支出案を発表した。その結果、1997年比で支出は倍になる計算だ。これは主に患者の待機期間を削減し、重要疾患の死亡率を減らすことを重点に置いている。具体的には、7月15日に公表された厚生省のPublic service agreementによると、1)予約待機期間を2005年までに外来3ヵ月、入院患者6ヵ月までとする、2)一般開業医への予約待ちは2004年までに2日までとする、3)救急医療については2004年までに最大4時間とする、4)2010年までに心臓疾患の死亡を40%に減らし、ガン死亡を20%に減らす、などというものである。これを賄うため、国民保険料を1%増額するという。
 また、ブラウン蔵相は7月15日の発表で、大学を含む学校教育にも大幅増額を行う計画を明らかにした。これは、教育内容と教育環境の充実のため、2006年までの3カ年間に毎年147億ポンドを学校教育に追加支出することを主な内容とする計画である。蔵相によると、これにより教育予算は2006年までに合計684億ポンドとなり、国民所得の5.6%に達するという。さらに、イングランドの典型的な中等学校に直接5万ポンドを支給し、教育内容の向上を図ってもらうなど、初中等教育を中心に「挑戦的な」教育を促すために追加的な支出を約束した。もちろん、これら一連の支出増には条件があり、独立の監査機関を通じて教育内容などの達成度を監督する。「落第点」の学校や自治体は、管理者の交代や合併・閉鎖を通じて成功したところに引き継いでもらうこともあり得るとクギを刺した。また、低所得者層向けに教育給付金や児童センターの設立などの諸施策も発表された。
 こうしたNHSや教育予算の増額は、選挙公約によるものとはいえ、その背景としてイギリスの公的な医療制度、教育制度の機能不全という問題があること、そしてPFIに代表される民営化の推進があることを考慮しなければならない。PFI(Private Finance Initiative)とはブレア政権が推進する民営化の一手法であり、病院や学校などの新設にあたり、民間資本を導入する制度である。建設会社や銀行などの金融機関、施設管理会社、コンサルタントなどの会社からなる民間企業連合(private sector consortium)が、たとえば新NHS病院の企画・建設・所有・運営を引き受け、各地のNHSは資金団にその使用料、家賃や民間に委譲した補助業務やリスクの代金、を支払うのである。NHSは、医師と看護婦など一部のスタッフを雇い、資金団からビルやその他の設備・サービスを借り受けることになる。それゆえ、上述の公的資金の増大も、その多くが民間企業に流れるのではないかとの批判もある。

<年金問題>
 9月のTUC大会でも大きな議論となった年金問題は、従来の制度維持が困難な状況が進行する中、今後とも英国労使関係の最大の争点となりつつある。問題となっているのは、これまで多くの労働者が受けてきた「ファイナル・サラリー」。これは、確定給付型の企業年金(職域年金)で、勤続年数とその最終給与の額により代わるが、勤続40年ではその最終給与の最大3分の2が保証されるというもの。労働者にとって安全で有利な年金とされ、最も普及している制度である。しかし、近年の株安・低金利などの年金基金運用環境の悪化や受給者(男65歳以上、女60歳以上)の長寿化により、年金の積立額と受給額の逆ざや現象が広がり、財源不足に陥る企業年金が増えている。このため、ファイナル・サラリーを廃止して確定拠出型年金を導入しようとする企業が相次いでいる。当初は、新規従業員から廃止する企業がほとんどであったが、鉄鋼など一部の企業では既存の従業員を含めた全面廃止の動きもでてきている。こうした企業の動きに対して、鉄道海運労組(RMT)や運輸一般労組(T&GWU)、アミカス、公共民間サービス組合(PCS)などは反発を強めており、年金を守るためならストライキも辞さない構えを見せている。TUCも年金積立の10%負担を企業に義務づけ、労働者には加入を義務づける法案を政府に提案して行く。

<イラク攻撃に反戦運動の盛り上がり>
 大衆的な反戦運動が盛り上がりを見せる中、TUC大会でも労働党の大会でも、そして国会でもイラク問題に関する議論が沸騰し、戦争介入に反対する意見と軍事行動もやむなしとする意見が激しく対立した。TUC大会では、評議会声明が「一方的なイラク攻撃には明確に反対する」としたものの、「もしサダム・フセインが大量破壊兵器を開発していた証拠が明らかになれば軍事行動もあり得る」としたため、これに反対するグループから、いかなる場合にも軍事行動に反対するとしたTSSA案が提出され、採決となった。都市一般労組(GMB),アミカス、運輸一般労組(T&GWU)などが評議会声明を支持するブロック票を投じたため、TSSA案は否決されたが、PCSやRMTなどの有力組合の支持を得て4割の票を獲得した点が注目された。
 9月30日から開催された労働党大会でも、その直前の28日にはロンドンのハイドパークでの反戦集会に40万人もの参加者であふれるなど、内外の反戦運動の盛り上がりを反映したものとなった。ブラックプールで開催された与党労働党の大会2日目、イラク問題が大きな争点となり、外交など他の手段が功を奏さない場合、軍事行動も辞さないとするブレア首相の立場を支持することが確認されたが、「いかなる武力行使にも反対する」動議への賛成が4割に上るなど与党内の抵抗も根強いことが示された。

<消防士のストライキ>
 11月13日、全国の消防士約3万人が25年ぶりにストライキに突入した。この48時間ストに続き22日からは8日間のストライキを実施したが、自治体当局との話し合いは暗礁に乗り上げたまま年を越すことになった。消防士組合(Fire Brigades Union; 52,000人)の要求は、当初40%の賃上げと報道されたが、ACAS(助言・調停・仲裁業務)を交えた実際の交渉では、16%の賃上げが攻防ラインとなった。また、このストライキ期間中にはロンドンの地下鉄も防災対策上の理由からストップし、一層の衆目を集めた。
 英国の消防士たちは、この大幅賃上げ要求に世論の理解を得るため、年の初めから各地でデモやキャンペーンを展開してきた。消防士は、採用後訓練センターで4ヵ月の教育訓練を受け、4年間の見習い期間の後、正規の消防士になる。この消防士は15年間、年間給与として約21,000ポンドを得ているが、これを25,000ポンドにしてほしいというのが基本要求である。これに対し、直接の雇用主である自治体側は、勤務形態の「近代化」を条件として、初年度4%、次年度7%の2年間で計11%の賃上げ回答をしていた。22日のスト直前には、ACASの調停もあり、3年間で16%の賃上げと勤務の「近代化」で自治体と組合が合意したものの、政府の責任者であったプレスコット副首相が介入し、この合意に待ったをかけたため、交渉がもつれることになった。ブレア首相によると、消防士の大幅賃上げは、公務員の賃上げ連鎖を生み、財政と経済に大きなダメージを与えるおそれがあること、また、消防士の業務態勢の「近代化」が賃上げの前提条件であるというのが、政府側の立場である。この時、問題の焦点は賃上げから、「近代化」の内容に移った。この「近代化」には、より柔軟なシフト体制、より少ない人数の夜間勤務、管理センターを救急と共同利用することなどが含まれていた。しかし、これは結果として人員削減につながることが明らかになり、組合側は雇用と防災体制に脅威を与えるものとして強く反発している。