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国旗 世界の労働者のたたかい
スウェーデン
2004
社民党の総選挙勝利とEMU参加反対

 社会民主党は2002年9月の総選挙で勝利し、左翼党(旧共産党)と緑の党の協力をうけ、単独で少数政権を維持することとなった。

<図表1> 政党別獲得議席数






















1994 80 26 27 15 161 22 18
1998 82 17 18 42 131 43 16
2002 55 48 22 33 144 30 17
 新政権の重要な課題として挙げられているのは、非常に高い病気欠勤率を2008年までに50%引き下げ、政治難民と移住労働者を労働市場にうまく統合させていくことであった。その他に、労使関係分野で挙げられているのは、例えば次の点である。(1)賃金の80%を補償する健康保険の所得上限の引き上げ、リハビリ制度の改善。(2)失業保険の給付の所得上限を現行の2万クローネから引き上げること。(3)地方自治体への政府補助金を増額して、幼稚園の教員を新たに6,000人、小・中学校の教員を15,000人雇用できるようにすること。(4)臨時雇用者を減らすこと。(5)今後5年間で休暇を5日増やすこと。
 2003年9月14日に、スウェーデンのユーロ参加をめぐる国民投票が行われた。国民投票直前に起きたリンド外相暗殺という衝撃的な事件もあり、有権者は高い関心を示し、82.1%が投票した。EMUへの参加について、LOは公式には中立の立場をとったが、LOのなかでは、金属、製紙はユーロ賛成、運輸、小売業はユーロ反対の立場をとった。概して、LOでは、組合指導者のなかには賛成派が多く、ブルーカラー労働者の過半数は反対という状況であった。国民投票の結果、賛成42%、反対56%、白票2%でユーロ参加は否決された。国民は、EMU加盟によって、やがてヨーロッパ諸国の水準にまで税率を下げることにより、福祉国家が立ちゆかなることを危惧していたとみられている。
 1万人を対象にした国民投票出口調査によれば、LO組合員の65%は反対票を投じた。TCO組合員ではわずかにユーロ参加肯定が上回り(49.5%対48.8%)、SACOの組合員のなかでは参加肯定派が多数であった(57.2%が賛成)。農民、失業者、早期退職者、積極的労働市場プログラムに参加している労働者の約65%はユーロ参加反対である。また、女性(58%)の方が男性(46%)よりもユーロ圏参加に反対している。その理由としては、女性の多くが公的部門で働いており、ユーロ圏参加後に公的部門が縮小し、失業することを危惧している可能性が指摘されている。「非同盟・中立」政策を掲げてきたスウェーデン国民はアメリカの始めたイラク戦争にも批判的である。

雇用・失業情勢の悪化とその対策

 2004年の1月の失業率は5.9%と、1999年以来の高い失業率となった。特に若年失業者が増加している。2002年6月には、18〜24歳の年齢層で3万9279人が失業していた。1年後には、失業者数は25%上昇、4万9349人になった。また、労働市場政策によって雇用されている18〜24歳の労働者は1万3604人から9270人に約4000人減少した。18〜24歳の長期失業者数は、1年前に比べて2倍になっている。
 若年失業者の増加は、労働市場庁(AMS)が行っている労働市場政策に対する政府支出の減少によって一部を説明できる。もしも、通常提供されている一連のプログラムが存続していたならば、若年失業者数の増加は1万人ではなく、6,000人に止まっていたであろう。他方、スウェーデン経済の回復が予想通りに進まなかったことによる雇用減の影響もある。AMSは、長期的な見地から職業紹介機能の拡充が最善であると判断している。職安職員を増員すれば、より多くの時間をかけて求職者の相談に当たることができ、適材適所の職業紹介が可能になるであろうとする。
 雇用対策は、労使の最大の対決点といえる。議会の非社会主義政党は原則的に、AMSの下にある公共職業安定所を批判し、職安の完全民営化さえ主張している。一方、AMSには社会民主党政権の下で、求職コンピューターシステムの改善と積極的なマンパワー対策の手直しのために、常に新しい課題と資金が与えられている。

<保障基金と保護雇用>
 スウェーデンの雇用・失業対策は日本と比べるとはるかに充実している。しかし、それでも不十分であるとして次のような「保障基金」を団体交渉で取り決めている労働組合もみられる。
 ホワイトカラーの工業部門労働者と公務員は、給与の0.6%に当たる「保障基金」を団体交渉で使用者との間で取り決め、失業保険制度や、再び雇用可能になるように訓練機会などを与える職業安定所が提供する所得やサービスを補っている。こうした基金は、地方事務所と有能なカウンセラーを持っており、リストラが計画された段階、あるいは余剰人員が発生した段階で、迅速に転職支援、能力開発、自営業創業支援などを行う。ホワイトカラー労組が保障基金について使用者と交渉していた頃、ブルーカラー労組連合であるLOは、政府が提供する職業訓練、能力開発が効果的であると考えていたため、保障基金を団体交渉で要求していなかった。しかし、労働市場で必要とされる技術が急速に変化するため、公的な職業訓練プログラムによる対応が困難になりつつある。そのため今ではLOも「保障基金」を求めて使用者と交渉している。
 保護雇用は、当初、業務上または先天的な原因(ダウン症などより様々な障害を持つ人のために考案されたものである。現在、労働力人口の1.5%に当たる6万人を超える保護雇用の職が、公立の保護雇用工場や自由市場に存在している。公立の保護作業所サムハル(SAMHALL)の職は、製造業から学校や職場の食堂などのサービス業へと変化しつつある。

<リストラと企業の社会的責任>
 企業がリストラを進める際に果たすべき社会的責任とは何かという定義について、スウェーデンで一般的合意があるわけではない。共同決定法(MBL)と雇用保障法(LAS)には、交渉プロセスと先任権制度に関する規定がある。しかし、これらの法律は、リストラが実施された場合に地域社会に与える影響を考慮していない。
 労組は、地域社会やAMSに働きかけ、使用者に対し、リストラ以外の選択肢を探るように促す。例えば、リストラの実施時期をできるだけ遅らせて従業員の転職を容易にしたり、再訓練、能力開発の機会を勝ち取ることがある。また労組はMBLに基づき、使用者の費用負担で労働側のコンサルタントを雇用し、リストラ計画の妥当性を分析する。
 リストラを行う企業に対し、代替案を考慮するように使用者に義務づける法規制は存在しない。しかし企業レベルでは、(1)他工場への配置転換、(2)再訓練機会の提供、(3)早期退職など、いくつかの試みがなされている。
 社会的責任を果たした事例とされているエリクソン社のリストラへの対応は次のようなものであった。エリクソン社では、かつて10万7000人いた従業員は現在5万3000人にまで削減された。このリストラを通じ、同社は余剰労働者に対し1年分の給与を支払い、職業訓練を受けたり、自営業開業をできるようにした。その際、労組元幹部を政府が任命し、会社、労組、政府の間の仲介役とした。この仲介役には、エリクソン社が社会的に責任をとるために具体的に何ができるかを模索し、リストラに関する人々の間の話し合いを通して、地域社会への悪影響を和らげようとの試みがなされた。

<派遣労働者問題>
 人材派遣会社が一時的な職に労働者を派遣するという現象は、2001年まで増加し続けた。だが最近、経営合理化、一時解雇、人員削減の波は、主に派遣労働者に打撃を与えている。とはいえこの部門は労組によって組織化されていて、人材会社に雇用されている労働者は、派遣されていない場合でも労働協約によって賃金が保証されている。人材派遣会社で18カ月間勤務した人に対しては、協約に従って全額の賃金が支払われる。
 派遣労働者問題が顕在化したのは、ルーレオ市の製鉄所の事例である。スウェーデン製鉄は、ルーレオ市のコークス炉を修理するためにレンガ工を募集したが、国内では採用できず、ドイツのティッセン社に工事を依頼した。ティッセン社はさらにスロバキアのテルモスタフ社に依頼し、テルモスタフ社は93人の労働者を派遣した。しかし、テルモスタフ社が下請け業者を通して93人の労働者を雇っていたことまでは、スウェーデンの人々に知らされていなかった。労働協約で定められた最低賃金である時給137クローネを大幅に下回る賃金が支払われていたことが分かったのは、スロバキア人労働者に十分な安全装置を与えなかったため、1人が倒れて焼死した事故によってである。テルモスタッフ社が93人のスロバキア人労働者に遡及賃金を支払うまで、同じ工事現場で働いていた建設労働者組合の組合員は職場放棄をした。労組の介入の結果、ルーレオ市の製鉄所でわずか時給13〜18クローネで働いていた93人のスロバキア人レンガ工が、遡及賃金5万クローネを受け取った。建設、建築業では、何層にもわたる下請け関係が形成されることが多く、労働者を実際に雇用している会社が提示した労働条件を労組が把握することを困難にしている。

労働時間

<スウェーデン・トヨタの病気欠勤対策>
 スウェーデンの各企業は従業員に病気で休暇を取らせるよりは出勤させようと、様々な方法を試みている。これまで成功した数少ない例として、ヨーテボリにあるトヨタの大規模修理・サービス工場の技術労働者に取り入れられた新しい制度がある。トヨタは、サービス期間の短縮のために、営業時間を8時間から12時間に延長し、同時に1日6時間勤務の導入にともなって労働者の数は約50%増加した。第1シフトは6:00〜12:00の勤務、第2シフトは12:00〜18:00である。
 以前と同じ時給の労働者が増員されることによってコストは明らかに増加するが、同社はその設備を今では1日当たり4時間長く利用することができる。そしてさらに重要なのは、当初の意図どおり、より能力の高い労働者がこの新しい職場に注目して応募してきたことである。このプロジェクトは1年後に評価を受ける予定で、成功したとなれば他の工場もこの例に倣うという。

<生涯学習の施行>
 2002年に、生涯学習の資金調達に関する法案が提出され議会を通過した。全労働者を対象とした新しい制度が、2003年7月1日から施行された。この制度では、年間9500クローネまで貯蓄可能な個人能力勘定(IKS)が設けられる。同勘定の貯蓄は所得税申告の控除対象となり、使用者も従業員の勘定に資金を拠出することができ、その場合は支払い給与に対する税の割り戻しがある。このような勘定の開設を奨励するために1000クローネの奨励金が支給される予定である。この制度は、政府、労組、使用者団体の協力の下で施策された。この新しい生涯学習制度は、中年期のサバティカル(休暇制度)という昔からの労組の概念を、大学教授だけでなくブルーカラー労働者にも適用できるようにする。労組が全国的、また職場レベルの交渉によって、使用者が勘定を補完するよう交渉することが期待されている。最近の団体交渉では賃金上昇分の一部を取り分けて、年金積み立てに回すか、研究休暇や労働時間の短縮として用いるか、あるいは現金として引き出すかを労働者本人が決定するという傾向にあるが、新制度もこの慣行との関連において考えるべきである。今のところ、製紙業界のような高賃金部門では時間短縮を選ぶ労働者が多いが、低賃金部門の労働者はむしろ現金払いや年金口座への計上を選択している。

<サバティカル制度の実施>
 緑の党が社会民主党政権を支持して実現を約束されたことの1つに、長期有給休暇(サバティカル)制度の導入がある。この制度は2002年2月1日から12の地方自治体で試験的に導入された。
 緑の党が提起したのは、失業給付(賃金の80%)の85%が支給される3〜12カ月の長期休暇を通常労働者が取れるようにし、その間、代わりに失業者を雇用するという案であった。初めは申請者は少なかったが、6月末には1,400人がこの長期休暇をとっていたという。休暇期間は平均9カ月。長期休暇制度の恩恵を受けるのは、主として看護部門で働く50歳前後の女性である。制度運営上の大きな問題点として、賃金をかなり下回る給付を受けて休暇を取ろうとする労働者に見合った失業者を見つけなければならない。雇用された失業者はもちろん、労働協約に基づいて賃金が支給される。緑の党は、さらに長期有給休暇制度の導入が病気欠勤の減少につながることを望んでいる。
 この制度の難点として、雇用のミスマッチを解決するのが非常に難しいことがある。使用者が労働者に休暇を与えるためには、有能な代替要員が確保できなければならない。例えば、失業中の数学教員や正看護士を見つけることは容易ではない。そのため製造業や専門職の間では、この制度は人気がない。一方、看護部門の中高年女性はこの新制度に魅力を感じている。それは退屈な重労働から一時的に解放されたいという要求があるからで、新制度はそうしたニーズにこたえるものである。病気欠勤率が最も多いのが看護部門の中年の女性であり、休暇で長期病気欠勤が減るかもしれないと期待されている。

賃金交渉

 スウェーデンでは最近、職種別・性別賃金格差の拡大が顕著であるが、これに対して労働組合側の様々な取り組みがみられる。
 地方自治体労働者組合(Kommunal)は、地方自治体連合や県評議会連合と結んだ3カ年協約を破棄した。本来なら、この協約は2004年3月末に失効することになっていた。Kommunalは3カ年協約の3年目について、3.5%を上回る賃上げを目指すとした。
 過去2年間で地方自治体労働者の賃金は製造業労働者の水準に比べ、賃上げ幅は1%下回った。また、地方自治体のホワイトカラー労働者に比べて、Kommunalの准看護士などの組合員は賃金が低い。この時、ペーション首相は、「看護労働者の地位を引き上げるべきだ」とするKommunalの決議を歓迎する異例の声明を出している。
 大規模なストの末、Kommunalは、2003年5月28日に2年協約を締結し1年目に3.95%の賃上げを、2年目に2.45%の賃上げを得た。今回の合意内容で重要なのは、Kommunal内部における賃上げの分配である。新協約では、主としてケア部門の女性の待遇改善が優先された。就職1年目の最低賃金引き上げにより、初任給が1カ月12,000クローネから13,000クローネに、2年目は14,000クローネに上がる。また経験を積んだ病院用務員や准看護師も2003年に5%の賃上げを受けることを取り決めている。2003年4月におけるKommunalの組合員の平均賃金は1カ月16,014クローネであった。2004年4月には、これが1カ月17,137クローネに上昇していると見込まれている。
 この協約の後、各地方自治体で労使交渉が行われ、2年協約の約6.5%の賃上げを大きく上回る8〜9%の賃上げを実現している。大部分の地方政府は財政赤字を抱え、増税を伴う財政再建に努めながらも、提供するサービスの質を確保しようとしている。特にケア部門労働者の人材確保は困難で、待遇を改善する必要がある。各地方自治体は、能力の高い労働者を確保するためのケア部門労働者の待遇改善に前向きである。
 2004年3月末に終了する工業部門の現協約を改定するための交渉が昨年12月18日に行われた。工業部門の7労働組合は、70万人を対象とする新協約1年目に3.5%の賃上げを要求することを9月末に決定した。7労組とは、金属、製紙、化学、林業、食品産業のブルーカラー各労組、ホワイトカラー労組の事務技術系職員労働組合(SIF)、土木技術専門職労組の大卒技術者協会(CF)である。スウェーデンでは、工業部門の協約交渉は、他の部門の協約交渉の先駆けとなり、協約交渉ラウンドにおける相場を形成する。工業部門労組の要求の重点は、最低賃金の引き上げ、女性の賃金差別解消、労働時間の短縮などである。
 使用者は、従業員に関連した費用はすべて賃上げの数字に含まれるべきだとしている。例えば、2003年7月1日以来、病気欠勤者に対する使用者の傷病賃金支払期間が1週間延長されている。この費用やホワイトカラー労働者の付加的年金の費用を賃上げとみなすべきだと主張している。労組は、これらの費用は賃上げに含まれるべきではないと考えている。

健康・安全問題

 ストックホルム大学のリッコネン助教授によれば、スウェーデンは最も傷病者が多いわけではなく、傷病者を最も正直に教えている。スウェーデンでは傷病のため仕事をしていない人を傷病発生時から7年間、統計上、傷病者として扱う。ところが他の大部分の国々では傷病者とみなされるのは、初めの6カ月あるいは12カ月のみである。約14万人の労働者は傷病を理由に1年以上仕事をしていない。これらの労働者を傷病者に含めないならば、スウェーデンの傷病者数は約半分になるという。
 2003年7月1日より、失業手当を受給している失業者は、病気になっても傷病手当を併せて受給することが認められないこととなり、以前に高所得を得ていた病気の失業者にとっては、非常に大きな所得減となった。失業手当の所得上限は1万8,000クローネ(1クローネ=14.39円)で、傷病手当の給付水準は1カ月の所得2万4,000クローネまでは所得に基づいて算出される。また、傷病期間の最初の3週間の傷病手当を使用者負担とし、従来の2週間から延長して使用者に職場における傷病対策をとるように促している。傷病手当の水準も、従前の賃金の80%から78%に引き下げられた。
 国民社会保険局(NSIB)と労働市場庁(AMS)は、最近、傷病手当給付期間を最長1年に制限すべきであると提言した。スウェーデンのように傷病手当受給期間に上限を設けていない国は少ない。しかし、政府はこの提案について沈黙を保っている。

電気技師、ストレス軽減要求でスト

 電気技師の労組(SEF)は協約に定められた権利を行使して、旧協約の終了1年前に協約を破棄して電気設備設置業の業界(EIO)に29の要求を出した。この後、両者の間では数カ月間、交渉、調停、ストなどが行われた。29の要求のなかで最も重要な労組の要求は、建設部門における仕事上のストレスの軽減である。竣工予定日が近づくにつれ、電気設備を新たなビルなどに設置する電気技師は、より短い時間で仕事をこなすことが求められている。最近では、この傾向が強くなっているとして、電気技師は時間的、空間的余裕を要求した。EIOは労組の諸要求を拒否し、交渉は暗礁に乗り上げた。
 その後、ストやLOの介入などもあり、6月30日に合意に達した。新協約の内容は、2001年に合意した旧協約と内容的には大差ない。しかし、新たな合意のなかで、労働時間の問題について労使共同の作業部会を設け、2004年の協約終了時までに一連の提案を作成すると定めている。

激増する職場安全委員

 病気欠勤が増加しているため、使用者、労組双方が労働環境への懸念を深めている。こうしたなか、職場安全委員の数が急増しており、労組の選挙で職場安全委員のポストを希望する人々が増加している。新しい情報によれば、職場安全委員の数は3年間で2万人増加し、10万7000人になった。これは27%の増加に相当し、従業員1万人当たり257人の職場安全委員がいることを意味する。最大の増加が生じているのは専門職と学術部門である。大卒専門技術労働者労働組合(SACO)が、28%という過去3年間での最大の増加を示している。これは、効率重視の管理を続けた結果、耐えがたいストレスを訴える者や病気欠勤者が急増し、そのことに対する不満が噴出した結果であろう。
 1970年代の新しい労働安全衛生法などが制定された頃には、職場安全委員の数は15万人近くあった。ところが1990年代には、職場安全委員の任務が敬遠された。その原因は、1つには政府補助の削減であり、もう1つは、当時の労働組合にとっては雇用保障が最優先で労働安全衛生は二の次であったことである。現在、職場安全委員の数が増加しているのは、不況の期間中、熱意をほとんど持てずに辞めた元職場安全委員が、今になって復帰してきているためとみられる。また、政府も今後、病気欠勤を減らすことを大きな目標に掲げており、その一環として職場安全委員の教育に新たな予算を割り当てていることもおおきな要因であろう。職場安全委員は常勤の仕事として労働組合が募集し、小規模職場の安全衛生状態を監督し、約500人の労働安全衛生監督官の目や耳の役割を務める。

疾病・育児給付の引上げ要求

 一昨年9月の総選挙の1カ月ほど前、社民党政府は中産階級の支持を失いつつあるのではないかと懸念していた。そこで蔵相は、疾病給付と育児給付の算定対象となる所得の上限を2003年1月より大幅に引き上げると約束した。ところが2003年の中頃、首相は経済が予想ほど拡大していないことを理由に、所得上限の引き上げは延期せざるをえないと発言した。すぐに労働組合などから抗議の声が上がった。この時点で、全労働者の約16%は所得が基礎額の7.5倍から10倍の範囲にあるためである。
 三大労組であるLO、TCO、SACOはより高い費用が必要な疾病給付の引き上げはさておいても、育児給付は2003年夏に引き上げるべきだという要求を行った。育児給付の引き上げを強く要求する理由は、男女どちらが育児休業を取るべきかという長年の懸案事項と関係が深いからである。つまり、父親が家庭で子どもと過ごす時間をもっと増やすにはどうすればよいかという問題と関係する。現在、高所得層には男性のほうがかなり多い。したがって、母親でなく父親が休業すると、一家の収入がより大幅に減ることになる。そのため男性の育児休暇取得を促進するために、所得上限の引き上げが期待されている。(猿田正機)