| 概 観 
												
													| 2003年の指標 |  
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																| 経済(GDP)成長率 | 
																		△0.8% |  
																| 消費者物価上昇率 | 
																		3.40% |  
																| 失業率 | 
																		6.60% |  
																| 賃金(名目)上昇率 | 
																		2.70% |  
																| 財政赤字の対GDP比率 | 
																		△2.9% |  
																| 累積債務の対GDP比率 | 
																		△57.5% |  |  
													| 「欧州委員会経済予測」2003年 秋版による。
 |   ポルトガルでは、2002年3月の総選挙でギテレス政権の与党だった社会党が敗退し、バゾロ首相(社会民主党)が率いる「中道右派」連立政権(社会民主党と国民党)が続いている。財政赤字が3%を超えているなど厳しい経済状況下にあっため、就任直後から政府は対策に取り組んだ。2003年は下表に見るとおり、財政赤字ではEUの成長・安定協定の基準3%をクリアしたものの、経済成長のマイナスへの下落、失業率の上昇など、経済状況は全体としては悪化した。労使関係の分野では、EUの動向とも関連して、労働市場の弾力化が進められ、それに対応した労働法制の改悪攻勢が強まり、労使対立が激化した一年だった。賃上げ率は前年の5.3%から2.7%へと半減した。労働時間に関してはポルトガル商業銀行やフォルクスワーゲンAUTOEUROPAなどに代表されるような弾力化が増えている。
 ■2003年の主な闘い・できごと 
												4月 国会で、既存の個別的および集団的労働法制を統合した労働法典(2003年12月施行)が採択。同時に、労働市場弾力化の拡大措置、労働者・労働組合の権利縮小、労働行政改革(労使紛争調停サービスなどの廃止と人員削減など)を盛り込んだ法改定も行われた(別掲本文「右派政権が労働者権縮小と弾力化拡大の新労働法典制定」参照)。
6月 フォルクスワーゲンAutoeuropaのパルメラ工場の労使(経営側と労働者委員会)が、生産減少への対策として、3200人の労働者のうち570人の解雇防止策を盛り込んだ事業所協定に調印(6月10日発効)。協定には、2003年分の賃上げ3.3%の有給休暇10日への代替(工場の操業停止日に取得する)など新しい労働時間方式が定められている。
6月16日 労使関係当事者が「企業の社会的責任(CSR)」の促進のためのセミナーを開催。
6月20〜21日 リスボンで「パレスチナ人民・労働者との連帯、中東での戦争に反対し平和をめざす国際会議」が開催され、ポルトガル労働者総同盟=CGTP- INが参加した。
9月 2003年前半の労働協約統計が発表。年末の労働法典施行待ちの気運もあり、近年の協約件数減少傾向が継続していることが確認された。
9月 2大労連(ポルトガル労働者総同盟=CGTP−IN、労働者総連合=UGT)が、低賃金層および低年金層の底上げを中心とした2004年賃上げ要求を提出。
10月14日 政府がEUの貧困・社会的排除克服戦略の国内具体化策としての2003〜2005年社会的編入に関する行動計画を決定。
11月 政府(社会保障・労働相)の失業保険改悪案に労働組合と野党が反対を表明。
11月20日 フォルクスワーゲンAutoeuropaのパルメラ工場の労使(経営側と労働者委員会)が生産減少への対応策として、労働者3300人中の800人の解雇防止策を盛り込んだ事業所協定に調印(6月の協定への追加・修正協定)。協定には、2005年までの賃金凍結、その「代償」――同年まで、整理解雇なし、年次有給休暇12日増(6月協定の10日分と合わせ計22日、工場の操業停止日に取得する)、2004年に無給休暇1日など――、現行の2交代制勤務の維持などが定められている。
											 ■右派政権が労働者権縮小と弾力化拡大の新労働法典制定  2003年4月、ポルトガル国会(1院制)は、中道右派政権与党の支持で、政府が2002年6月に提出し、審議してきた労働法典を採択した。同法典は既存の多数の労働法を、一連の修正(改定)を加えつつ、初めて、一つの法典としてまとめたもの。主な改定は次のとおり。
 
 
												有期雇用契約期間の6年への延長。
夜間勤務の場合の、労働時間短縮。
雇用契約への、地域的移動(転勤)条項の盛り込みを可能に。
労働協約への、有効期限条項の導入。
個人が労働協約に署名・参入する可能性の導入。
労働協約の期限切れ後、労使の更改交渉がまとまらない場合における、社会保障・労働相による強制調停の可能性。
交渉済みの諸問題に関して労働組合がスト権を放棄する「労使平和」条項の容認。
使用者が、解雇された労働者の原職復帰に反対する権利。
労働者が特定の病気にかかりやすい素質があるか否かを判定するために、労働者の遺伝子暦を検査する可能性。
 財界・使用者側は、労働市場、労働法、団体交渉を弾力化するものとして、法典を歓迎しているが、2大労連は、違憲の条項も多数あると指摘としつつ、労使関係に否定的影響をもたらすものと批判し、再検討・修正を要求している。(宮前忠夫) 
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