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国旗 世界の労働者のたたかい
韓国
2003

 韓国経済は、2000年第4四半期から下降局面に入り、景気低迷が続いていたが、2002年に入ってからは上向きに転じ、世界経済の不透明さが増すなかでも好景気が続いた。
 このなかで雇用情勢の推移をみると、景気低迷下の01年2月には失業者数106万9,000人、失業率5.0%に達していたが、02年5月以降は失業率が2%台を維持し、9月には2.5%にまで下がった。しかし、企業のコスト削減策としてすすめられている正規労働者から非正規労働者への切り替えが目立ち、臨時職や日雇い職の増加傾向が続いている。02年9月には、正規労働者が8月に比べ1.0%(6万3,000人)増にとどまっていたのに対し、臨時職は2.3%(10万6,000人)増、日雇い職は3.7%( 8万8,000人)増にのぼった。
 こうした状況の中で、政府が構造調整政策の一環としておしすすめる公企業の民営化計画に対し、2大労組ナショナルセンター傘下の公企業労組による史上初の同時ストや発電所労組の長期ストなど、世論の支持を背景とした激しい反対闘争が展開された。また、非現業の公務員労組が結成され、労働3権の獲得をめざすなど、公的部門での労組運動の活発化が目立った。
 景気好転のもとでたたかわれた02年の賃金闘争では、平均6.9%の賃上げがかちとられた。現代自動車では非正規労働者の賃上げ(8%)も獲得している。最低賃金委員会は02年9月から1年間の最低賃金の8.3%引き上げを決定した。
 労働組合の組織化が99年以降ひきつづいて増大している。その中で、全国民主労働組合総連盟(民主労総)が組織を拡大している一方で、韓国労働組合総連盟(韓国労総)は減退しており、両センター間の勢力分布の変動が続いた。
 12月の韓国大統領選挙では、北朝鮮に対する「太陽政策」の継続、対米「自立」外交などを公約した、与党・新千年民主党(民主党)の盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏が当選した。また同選挙では民主労総を最大の支持基盤とし「働く人々の政党」を掲げる民主労働党の権永吉(クオン・ヨンギル)候補が、前回選挙の得票(約30万票、1.1%)を3倍(96万票、3.9%)に増やし、善戦した。2000年に結成された同党は、「社会主義運動の継承」を綱領に明記した、韓国で初の大衆的な“左派政党”で、6月の一斉地方選挙では全国平均8.1%を得票するなど、国民の中で少しずつ支持を拡げてきている。

公企業労組が同時スト ― 民営化撤回、賃上げを要求

 韓国労働組合総連盟(韓国労総)傘下の全国鉄道労組と韓国ガス公社労組、全国民主労働組合総連盟(民主労総)傘下の韓国発電産業労組は2002年2月25日、政府の民営化方針の撤回と賃金引上げ、労働時間短縮などを要求して、同時ストライキに入った。韓国の二大労組中央組織の公企業労組が同時ストを展開するのは初めてであった。
 労組側は、民営化は国民生活に直結する基幹部門に対する責任放棄だと指摘するとともに、民営化すれば多数の労働者が解雇されると批判。これに対して金大中大統領は同日、「鉄道の施設部分は国が責任を持つが、運営は民営化することで経営を改善する」と述べた。
 労働省の集計によると、各労組のスト参加率は、鉄道労組(2万3,000人)は首都圏で90%、全国的には30%、発電労組(5,600人)は50%などであった。
 ガス公社労組は同日午後、交渉が妥結しスト中止を発表した。鉄道部門では2月27日午前6時ごろ交渉が妥結し、ストは2日間で終結した。しかし発電部門では民営化反対ストが長期化した(別項参照) 。

民営化に反対し38日間の発電所スト

 韓国発電産業労働組合(発電労組、5,600人)は、国営の韓国電力の民営化阻止を掲げ、2002年2月25日から4月3日まで38日間にわたり、全国36ヵ所の火力発電所でストライキをたたかった。ストは政府の強硬姿勢により中断を余儀なくされたが、国民の意思を問うことなく公営企業の民営化を強行する政府の姿勢に対し批判の世論が高まった。
 政府の電力部門民営化方針は00年12月に国会を通過した「電力産業構造改革に関する法律」で決定され、同法の附則で「1年間の準備期間を置く」こととされた。01年4月に同法に基づいて電力部門は6社(火力発電の5社、水力・原子力発電の1社)に分割され、02年1月にはそのうち5社の民営化の方式や手続きなどの細部計画が明らかにされた。
 これに対して、民営化の対象となる5社の労組(発電労組)は、「労組と合意した労使政策委員会での案には、電力産業の構造改革を推進する過程で労組と誠実に協議するという項目が盛り込まれたが、会社の分割後、経営側は労組との話し合いになかなか応じようとせず、むしろ労組の存在を無視する行動に出た」と反発。また民営化に伴う雇用不安についても、「今までの事例を見るかぎり、政府の雇用保障方針とは裏腹に雇用不安はさらに深刻化する」と主張し、政府の電力部門民営化阻止を掲げて、2月25日から全国36ヵ所の火力発電所でストライキに突入した。
 発電労組の上部団体である民主労総は強力なスト支援態勢をとり、2月26日には発電労組スト支援のための対政府連帯ゼネストを実施、現代自動車、起亜自動車労組などを含む傘下労組100ヵ所余で12万9,000人余が参加した。
 しかし、発電労組のストが長引くにつれ、政府・経営側は強硬姿勢を強めた。政府は「民営化問題は交渉しない」との姿勢を一歩も譲らず、「労使協議の対象にならない経営問題を理由にしたストは違法」とする検察は、労組執行部の逮捕状を発した。経営側は342人を解雇し、648人を刑事告発、さらに経営損失を理由に3,928人を相手に148億ウォン(約15億円) 相当の財産差し押さえを請求した。
 厳しい対決のまま闘争が長期化する中で、発電労組から交渉権の委任を受けて交渉に当たっていた上部団体の民主労総は、組合員の被害を最小限に抑えるため、4月2日に至り政府との間で、「発電事業の未来のために共同で努力する」との一文を入れる代わりに、「民営化に関する交渉を論議対象から除外する」ことを受け入れた合意書を作成。4月2日午後1時に予定していたゼネストをその直前に撤回した。
 しかしこの労政合意書に対しては、発電労組の幹部や組合員から「これでは降伏文書だ」との強い非難の声があげられた。激しい突き上げを受けた民主労総執行部は、4月3日に闘争本部代表者会議を開いて、執行部がその責任をとって総辞職するとともに、労政合意案を廃棄し、政府が発電所の売却を強行する場合には再びゼネストに突入する方針を決めた。さらに4月4日には組合員向けの謝罪文を発表し、ゼネストの撤回決定や労政合意の内容などに過ちがあったことを認めた。
 発電労組の李虎東委員長は4月3日、無念の思いでスト中断の記者会見を行い、「勝利するまでたたかいたかったが、もはや援軍もない。組合員も疲労の極みにあり、職場復帰を決定した」と発表。労組は同日、全組合員に職場復帰を指令、「第2次闘争に備える」よう指示した。
 38日間に及んだ民営化反対の発電所ストはこうして中止されたが、このストは民営化を強行する政府への世論の批判を高めた。3月18日には、与野党の議員が、「国会の公聴会すら開かず、国民的合意がないまま一方的に民営化を進める政府の姿勢に問題がある」として、ストの中止と国会での公聴会開催などを内容とする勧告案を政府、労組に提示した。労組は受け入れを表明したが、政府は「民営化は予定どおり進める」と勧告案を拒否した。この直後に、世論調査会社ハンギルリサーチが、発電所を外国資本や財閥に売却することについて世論調査を行った結果、81%が反対と答えた。

韓国で公務員労組結成 - 労働3権獲得めざす

 韓国の一般公務員による「全国公務員労働組合(全公労)」が2002年3月23日、ソウル市内の高麗大学で結成大会を開いた。公務員社会を「政権維持の道具」から「常識と正義が確立される国づくりの主体」に変えるとの目標を掲げている。組合員は約6万5,000人。全国民主労働組合総連盟(民主労総)への加盟予定を決めた。
 これに対し政府は、現業を除く公務員労組が現行法では禁止されていることから、全公労加盟者を懲戒処分する構えを表明。一方、警察は結成大会に参加した100人以上の代議員を拘束した。初代委員長予定者も拘束されたため、全公労は非常対策委員会を設置し、民主労総の支援を受けて、拘束代議員の釈放と公務員の労働3権獲得を当面の たたかいの中心におくことを決めた。
 全公労の結成大会には国際公共労連のハンス・エンゲルベルツ事務総長がメッセージを寄せ、全公労への支援を表明、韓国政府に対し公務員労組の合法化を求めた。国際労働機関(ILO)理事会も3月22日、韓国政府に対し「公務員の労組結成と加入権の認定」を勧告した。韓国政府は、2005年から公務員労組を合法化する方向で立法準備を進めているという。
 一方、3月16日には、韓国労働組合総連盟(韓国労総)が支援する「大韓民国公務員労働組合総連盟(韓公労)」が結成されたが、合法化まで活動は控えるとしている。

現代自動車の賃上げ争議妥結 ― 非正規労働者も8%賃上げなど獲得

 現代自動車では、2002年の賃上げ交渉が6月18日からの全面スト突入の直前に暫定合意に達し、6月21日の組合員投票で暫定合意案がいったん否決されたが、新たな暫定合意案についての6月27日の組合員投票で賛成多数で可決され、争議は終結した。
 現代自動車労組は2002年の賃金引上げ要求として、1)賃金12万8,880ウォン引き上げ(通常賃金基準で10.1%)、2)当期純利益の30%を組合員に配分、3)1998年の経営危機の際に未払いの成果給の支給、などを要求した。
 これに対して経営側は、1)賃金7万7,800ウォン引き上げおよび諸手当1万2,200ウォン引き上げ、2)経営目標達成の際の成果給2ヵ月分および交渉妥結の際の一時金100万ウォン、3)1997年の未払い成果給を支給する、などの回答を行ってきた。
 労組側は5月27日、7回目の交渉が決裂したのを受けて、争議発生を決議し、中央労働委員会に争議調停申請を出した旨を発表した。同労組はその後、6月17日まで時限ストを続け、6月18日から全面ストに突入すると警告して経営側に譲歩を迫った。労資交渉が全面スト突入直前まで続けられた結果、次のような暫定合意案に達した。
 暫定合意案の内容は、1)賃金9万5,000ウォン(諸手当を含む)、2)成果給2ヵ月分および一時金150万ウォン、3)1997年の未払い成果給1.5ヵ月分、4)非正規労働者に対する成果給2ヵ月分及び賃金8%引き上げ、などであった。ところが、合意案で成果給の支給を旧盆休み・年末・旧正月休みに分けて支給することになっていたことが組合員の不満を引き起こし、6月21日の組合員投票で暫定合意案が否決された。このため労資の再交渉が行われ、「成果給の支給期間を1、2ヵ月ずつ繰り上げる」ことにした新たな暫定合意案がつくられ、6月27日に組合員投票にかけられた。この投票では58.14%の賛成多数で合意案が可決され、現代自動車の賃上げ争議は終結した。

起亜自動車労組のスト、9.1%賃上げとリストラ規制の経営参加権を獲得

 起亜自動車労組は、基本給12.5%引き上げなどの賃上げ要求と、労組の経営参加権を含む労働協約改定要求を掲げて5月2日から労資交渉を重ね、6月24日から時限ストを続けていたが、7月19日に至り暫定合意案で妥結、ストを終結した。7月23日の組合員投票で暫定合意案は賛成多数で可決された。

 主な妥結内容は次のとおり。

 .賃上げについては、労使交渉で労組側は基本給12万8,800ウォン( 12.5%) の引き上げと成果給3ヵ月分を要求したのに対し、経営側は基本給7万8,000ウォン引き上げと成果給1.5ヵ月分を回答していたが、時限ストを背景に18回にわたった交渉の結果、7月19日の暫定合意案で、1)基本給を9万5,000ウォン(9.1%)引き上げる、2)年末に目標を達成した場合、成果給として一律80万ウォン・プラス1.5ヵ月分を支給する、3)生産・販売台数を挽回するための激励金の名目で150万ウォンを支給する、などで合意した。
 .労働協約改定についての合意で最も注目されるのは、リストラ規制など労組の経営参加権を認める条項が盛り込まれたことである。すなわち、新協約には、1)「合併および事業譲渡、外注・分社化、工場・販売店の移転および統廃合などの構造調整と、新車種の投入や新技術・設備の導入に伴う労働条件など」を決定する場合には労使が意見の一致を見なければならない。2)「時間外労働・休日勤務、週休2日制導入に伴う賃金および労働条件、配置転換の際の労働条件など」を決定する場合には労組の合意を得なければならない、という労組の経営参加条項が新設された。なお、週休2日制については「労働法が改正されるか、または他の自動車メーカーで先に導入されること」が条件とされた。そのほか新協約には、非正規社員の労働条件改善や、定年を58歳まで延長することなども盛り込まれた。
 起亜自動車では、1997年に経営危機に見舞われ、会社更生法の適用を受けるなどの経過の中で、労組側は会社再建に協力するためにそれまでかちとっていた経営参加権を一部放棄せざるを得なかった。韓国では97年の通貨危機後、経営危機や構造調整(リストラ)から雇用と労働条件を守るために労組の経営参加権を求める動きが広まっており、今回の起亜自動車労組の経営参加権再獲得はこの動向をさらに勢いづかせるものと見られている。

最低賃金(時間当たり)8.3%引き上げ

 最低賃金委員会は6月28日、2002年9月から一年間実施される最低賃金額を現行の時間当たり2,100ウォン(月47万4,600ウォン)から2,275ウォンに引き上げ(8.3%)る案を議決した。
 最低賃金の引き上げ率をめぐって、同委員会では労働側が時間当たり2,340ウォンを要求したのに対して、経営側は2,275ウォンを主張。票決の結果、経営側の引き上げ案が採択された。
 これに対して韓国労総は「今回の引き上げ率は生計費上昇率12.4%のほか、最近の賃金上昇率9.6% 、生産性上昇率8.8%などにも満たないほど低いため、受け入れられない」との立場を表明。また労働大臣にあて最低賃金案の再審議を要求する上申書を提出した。民主労総も、「今回の最低賃金引き上げ額は、最低賃金委員会が独自に調査した生計費56万1,000ウォンより少ない水準である。これは低賃金労働者の生活保護という同制度の趣旨に反するので、市民団体などの意見を収れんし、同制度の改善に取り組む」との態度を表明した。

2002年度の賃上げ率は6.9%

 2002年の賃金闘争では、景気回復のもとで民主労総系労組の連帯闘争などが展開され、平均賃上げ率は前年を上回る6.9%(10月末現在)を記録した。
 労働部によると、10月末までに賃金交渉が妥結した従業員100人以上の事業所4,377ヵ所(調査対象事業所総数5,401ヵ所の81%)の平均賃上げ率は、前年同期より0.9%上昇し、6.9%となった。
 交渉妥結事業所のうち賃上げに合意したのは3,894ヵ所(89%)で前年同期(3,343ヵ所)よりも増加し、一方、賃上げを凍結したのは472ヵ所で前年同期(711ヵ所)を下回った。
 業種別の賃上げ率では、製造業7.2%、建設業8.0%、宿泊・飲食業8.3%などが平均賃上げ率を上回った。
 なお、韓国経総が従業員100人以上の事業所1,326ヵ所を対象に調べた「2002年の賃金調整実態」によると、平均賃上げ率は7.6%で、前年同期(6.1%)に比べ1.5%上昇した。
 2002年の賃金闘争に向けて、労働側では、韓国労総が12.3%、民主労総が12.5%の賃上げ要求を掲げた。これに対して使用者側を代表する韓国経総は4.1%を提示していた。

労組の組織化進む ― 民主労総が組織拡大、韓国労総は減退

 政府労働部がまとめた2001年末現在の労働組合の組織状況調査によると、韓国の単位労働組合数と組合員数は、金融危機による企業の休廃業などで98年に一時減少したが、99年から増加に転じた後、ひきつづき増え続けている。単組の数は97年の5,733組合から98年に5,560組合に減ったが、00年には5,698組合、01年には6,150組合へと増加した。組合員数も、97年の148万4,194人から98年に140万1,940人に減ったが、00年には152万6,000人、01年には156万8,000人へと増加を続けている。
 ナショナルセンター別の勢力分布の動向を見ると、95年に結成された民主労総の加盟組合員数は、95年の41万8,000人から01年には64万3,506人へと増加した。一方、韓国労総の傘下組合員数は95年の110万3,000人から01年には87万7,827人へと大幅に減っている。この勢力分布を組合員総数との対比でみると、01年に民主労総が41%、韓国労総が56%となっており、組織勢力の差が年々縮小している。02年に入ってからも、韓国労総傘下の有力単産であった鉄道労組(組合員数2万1,540人)が民営化反対闘争を契機に、11月6日の組合員投票で54%の賛成により民主労総への上部団体変更を決めるなど、両センター間の勢力分布の変動が続いている。