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国旗 世界の労働者のたたかい
中国
2003
 中国は2002年、国内総生産(GDP)が8%増で10兆元(約150兆円)を超えるなど、社会経済発展の主要な目標を達成した。対外貿易総額も02年11月末、21%増の5,602億ドルに達した。
 こうした経済発展を達成した一方で、少なくない困難と問題を抱えている。02年11月の中国共産党第16回大会報告での経済総括は、「農民と都市部の一部住民の収入増加が鈍化し、失業者が増大」し、「収入・分配関係はいまだ整えられるに至っていない」ことを指摘した。そして今後、解決すべき問題として、都市と農村の二重経済構造や地域間格差の拡大、貧困問題、人口増、高齢者の人口比増、就業と社会保障の課題、生態環境と自然資源の社会、経済の発展に対する制約などをあげた。
 中国の人口は毎年1,000万人増加し、2020年には15億人近くになると予想されている。16回党大会報告は、2020年までにGDPを2000年実績の4倍に拡大することを経済成長目標として掲げた。そのためには年平均成長率を7.2%前後に維持しなければならないが、毎年7% の経済成長を実現しても、雇用者増は800万人増程度で、毎年1,000万人の新規労働力を吸収するのは難しい。農村では、現在でも潜在失業・不完全就業者は1億2,000万人と推定されている。都市の失業者は1,350万人、7%程度と発表されているが、さらに増大することも予想される。世界銀行が「国際的貧困ライン」で計算した中国の貧困人口の比率は1日1ドル未満で18.5%に達する(98年調査)。
 こうした状況の中で、国有企業改革による一時帰休・失業や給与未払いに対する不満、私企業・外資企業などでの労働者の合法的権益の侵害などをめぐって抗議行動や労働争議が増大しており、その解決をめざす様々な取り組みがすすめられている。

大慶油田で一時帰休者ら保険費負担増に抗議デモ

 黒龍江省にある中国最大の油田、「大慶油田」で3月初め、一時帰休(下崗)労働者ら約2万人が、大慶石油管理局の発表した下崗労働者向けの養老保険と医療保険の新計画による保険費負担増に抗議してデモを行った。新計画によると、労働者の保険費納付額は最高で年間1万元にのぼるなど大幅に増え、下崗労働者の生活はいっそう厳しくなる。国有企業の大慶油田は従業員と定年退職者を合わせて28万人、そのうち一時帰休者と定年退職者が7万人にのぼっている。
中国では国有企業改革で下崗・失業労働者が増大。大慶油田に続いて遼寧省遼陽市でも3月、給与未払いや失業への不満から労働者約3万人が街頭デモ行進を行った。

北京で生活保障を求め退職者ら抗議

 北京市朝陽区にある自動車工場「北京汽車製造廠」で3月27日午前、同工場の退職者ら200人以上が会社側の生活保障を不満として工場の門前に集まり、抗議行動を行った。参加者は会社幹部が一般労働者に比べて不当な厚遇を受けていると訴えた。目撃者によると、参加者の一部は市の幹線道路である第3環状線の交通を妨害、会社側との交渉を要求したが、間もなく解散した。
 中国では、未払い賃金の支給や十分な生活保障を求める労働者の示威活動が各地で起きているが、首都で労働争議が公然化するのはきわめて異例であるという。

雇用対策は「戦略的任務」 ― 労働・社会保障白書を発表

 中国国務院新聞弁公室は4月29日、白書「中国の労働と社会保障の状況」を発表した。白書は、失業者が増える中で、雇用対策を「戦略的任務」と位置づけるとともに、「健全な社会保障制度」を建設する必要性を強調している。
 同白書によると、01年度末の中国の就業者数は約7億3,000万人で、3分の1にあたる2億4,000万人が都市部、残りの4億9,000万人が農村部で働いている。
 都市部の登録失業者率は3.6%であった。また、赤字国有企業の改革にともなって増えている一時解雇者は、1998年からの3年間に2,550万人のぼり、そのうち再就職できたのは、3分の2の1,680万人であった。
 今後4年間に雇用情勢が深刻化し、失業者は2,000万人を上回るとの予測を当局者が明らかにしている中で、白書では、雇用対策は「国民経済と社会発展の戦略的任務」であると指摘している。
 社会保障の問題について、白書は、中国政府が「社会主義市場経済に対応する健全な社会保障システム」の建設に努力していると強調している。しかし、養老保険、医療保険、失業保険などの社会保険制度の枠組みは初歩的な段階にあり、都市部において、これらの保険制度の加入者は就業者数の半数程度にとどまっている。
 同白書は、「市場の導きによる雇用メカニズムと社会保障システム」が初歩的に確立したと成果を強調する一方で、構造的な失業問題、労働関係の複雑化、人口の老齢化といった、中国が直面している課題の大きさや困難さについても指摘している。

増大する労働争議の解決をめざすさまざまな取り組み

 中国では「社会主義市場経済」の発展にともない、企業形態や雇用契約が複雑化し、国有企業改革による一時帰休・失業の増大や、私企業・外資企業などでの労働者の合法的権益の侵害などをめぐって労働争議が増大しており、その解決をめざすさまざまな取り組みがすすめられている。

 <企業内の労働争議調整委員会>
 労働法第80条は、企業内に労働争議調整委員会を設立することを認めている。同委員会を構成する委員は、1)労働者側代表(労働者代表大会または労働者大会によって選任される)、2)経営者側代表(工場長または総経理が指名する)、3)工会(労働組合)代表(工会委員会が指名する)。経営者側の代表数は、委員会構成員総数の3分の1を超えてはならない。委員会の主任は工会代表が担当する。工会が未組織の企業では、労働者代表と経営者側代表が協議して主任を決める。
 同委員会は、労働争議の調整申請が出された日から30日以内に、同争議の調停案を提示しなければならない。申請者は、調停案に同意できない場合、または委員会が30日以内に調停案を提示できなかった場合には、地方労働争議仲裁委員会に提訴することもできる。企業内の労働争議調整委員会への提訴は、義務的な手続きではなく、労使双方は地方労働争議仲裁委員会に直接提訴することもできる。

 <地方労働争議仲裁委員会>
 93年8月に制定された労働争議処理条例にもとづき、各地方政府は、労働争議の仲裁を行う機関としての労働争議仲裁委員会を設立している。
 地方の労働争議仲裁委員会は、労働行政所轄部門の代表、当該地域の工会代表、政府が指定する経済管理部門の代表によって構成され、委員長は労働行政部門の代表が担当する。
 労働争議の当事者は、争議発生後60日以内に同委員会に提訴できる。仲裁委員会は提訴の受理後60日以内に仲裁案を提示しなければならない。案件が複雑な場合は30日以内の延期ができる。
 当事者は仲裁案に同意できない場合、仲裁案提示後15日以内に地方裁判所に提訴できる。
 地方裁判所も、労働争議を民事訴訟法によって調停する任務を負っている。地裁は提訴を受理した後6ヵ月以内に判決を下さなければならない。特別な理由により期限の延長が必要な場合、最高6ヵ月間延長できる。それ以上の延長が必要な場合は上級裁判所の許可を必要とする。当事者が判決に不服の場合は判決後15日以内に上告できる。
 <労働争議の仲裁・処理件数は7年半に120万件>
 02年4月に発表された労働・社会保障白書によれば、全国に3,000以上の労働争議仲裁委員会が設置されており、93年8月に労働争議処理条例が制定されてから01年末までの7年半の間に、同委員会が立案し仲裁した労働争議が約70万件、立案形式によらない処理件数も約50万件あった。

 <山東省で労使関係協調三者会議を設置>
 山東省で02年6月、省労働社会保障庁、省総工会、省企業連合会が合同の会議を開き、「山東省労使関係協調三者会議」の創設を決めた。同三者会議は、労使関係にかかわる重要問題について定期的に協議し、労使関係の安定化をはかることを目的としている。主な協議内容は次のとおり。
  1. 労働協約制度、労働契約制度の推進・改善
  2. 企業の制度改革に伴う労使関係の調整
  3. 企業利益と合理的な賃金配分
  4. 最低賃金の設定
  5. 労働時間と休暇日数の取り決め
  6. 労働環境と安全の確保
  7. 婦人労働者と未成年労働者に対する特別な保護策
  8. 労働争議の防止と処理方法
  9. 経営管理への労働者の民主的参加と工会の組織化
  10. 労使関係の調整および労使双方の権益に関する諸問題

<私営企業での労働者代表大会の任務と権限を強化 ― 瀋陽市>
 瀋陽市の総工会、経済貿易委員会、工商局など5つの部門が共同して02年3月、「非公有制企業の労働者代表大会制度の推進に関する指導的意見」を公布した。
 瀋陽市には私営企業が約2万あり、そこで働く労働者数は40万人にのぼる。今回の「指導的意見」は、私営(非公有制)企業での労働者代表大会の主要な任務と権限の内容を規定している。まず、労働者代表大会の主要任務については次のような内容をあげている。

  1. 労働者が企業経営に民主的に参加するよう制度化する。
  2. 企業の労務管理において関係法規の順守、実施を監督する。
  3. 労働者の政治的権利と経済的権利を保障する。
  4. 企業内労使関係の調整に注意する。
  5. 労使間の協議を制度化する。

また、労働者代表大会の権限について次のように規定している。

  1. 労働者の権益に直接影響を与える重要な改革案は労働者代表大会の審議・採択を必要とする。
  2. 国が規定した養老年金制度、医療保険制度、失業保険制度、労災保険制度などの保険料納付について、労働者代表大会は監督権を持つ。
  3. 労働者代表大会は企業の中間管理職に対する評議・監督を行い、賞罰と任免を提案する権利を持つ。

 以上のような今回の指導方針の内容は、私営企業における労働者の権益の保護を強化するものとなっている。(参考:海外労働時報02年12月号)