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(別紙)第15回幹事会確認事項(1999年7月26日)

「産業活力再生特別措置法」(産業再生法)への対応について

全国労働組合総連合


1.法案の主な内容について

(1)法案では、「我が国産業の活力の再生を速やかに実現する」ために、
1) 企業のリストラ(事業の再構築)支援策
2) 技術開発の活性化対策
3) 中小・ベンチャー企業育成・・を政府として推進するとしている。

(2)法案では、政府が支援すべき「事業再構築」とは、「生産性の高い事業の強化」にむけた次の施策を指している。
1) 合併、営業譲渡もしくは資産の譲り受け、他の会社の株式の取得、資本増強、会社設立などによる中核的事業の開始や拡大
2) 企業が保有する施設の相当程度の撤去、設備の廃棄、営業もしくは資産譲渡、関係事業者の株式の譲渡、会社の設立もしくは清算による事業の縮小、廃止

(3)そして、次の「認定基準」を満たすと主務大臣が認めた場合には、税制や法制度上からも企業に対する特別の支援をおこなうとしている。
1) 生産性の相当程度の向上が明確である、
2) 計画が円滑かつ確実に実施されると見込まれる、
3) 従業員の地位を不当に害しない、
4) 経営資源を有効活用する、
5) 他事業者と適正競争が確保される、・・など7項目。

(4)企業に対する「支援策」としては、次のような点が検討されている。
1) 「過剰債務」の株式化で借金棒引き=銀行は「公的資金」で「株」購入
2) 過剰設備の廃棄に伴う欠損金(赤字)分には税制上の優遇措置
3) 設備廃棄後の工場跡地は民都機構・住都公団が買い上げ=税制支援と用途変更手続きの簡素化 4) 要整理事業については分社化・企業分割、合併・事業譲渡=商法手続き簡素化、独禁法の弾力的運用、税制支援
5) ストックオプション制度(自社株購入権)の対象に、子会社の社員まで加える

2.「産業再生法」の狙いと全労連の基本的見解


 この法案は、低賃金、長時間・過密労働など労働者犠牲とバブル経済をつくりあげ膨大な利潤をあげ、内部留保をため込んでいる大企業が、バブル経済の破綻と「消費不況」などにより企業内に抱え込んだ「過剰債務」や「過剰設備」などを、「産業活力再生」の名のもとに公的資金の活用などで「整理」し、よりいっそうの国際競争力の強化と高蓄積体制の確立に向けての大企業のリストラ「合理化」を国家的に支援・促進するものである。
 このことは、この法案のたたき台が財界・大企業の代表と閣僚のみによって設けられた首相直属の「産業競争力会議」によってつくられ、その内容は経団連の「我が国産業の競争力強化に向けた第一次提言」を丸呑みしたものであることからも明らかである。
 また、法案では、政府支援を受ける「事業再構築計画」の重要な柱として、「生産性の向上」があげられ、徹底したコスト・人員削減が前提とされている。しかし、労働者の「雇用」については、企業は一切責任を負うものとなっていない。そして、それは国の「労働力流動化政策」による「受け皿」作りに委ね、個々の労働者の自助努力と自己責任に任せる無責任極まりないものとなっている。
 この法案が労働者に何をもたらすかは、「金融再生法」や「金融早期健全法」さらには「金融安定」の名により、60兆円もの公的資金投入で「不良債権」を「整理」する代わりに徹底したリストラと人減らし「合理化」が政府によって押し付けられている金融機関の今日の実態が具体的な事実をもって明らかにしているとおりである。
 全労連は国家的なリストラ促進策としての「産業再生法案」には断固として反対するものである。

3.労働者の雇用確保の視点から見た法案の問題点と基本的対応


 この法案は、「産業活力再生」の名のもとに、企業組織の変更、事業の縮小・廃止等を法制度上や税制上からも政府が支援することが主目的であるが、労働者の雇用確保の視点からは次のような重要な問題があり、全労連としての緊急なとりくみが必要になっている。

(1)法案では、第1条の「目的」において「雇用の安定等に配慮しつつ」、第3条6項6号において「事業再構築計画」が「従業員の地位を害するものでないこと」がうたわれているが、これでは雇用の維持・確保が保障されることにはならない。
 このことは、87年に施行された「産業構造転換円滑法」がリストラ計画の承認基準のなかに今回の法案と同様に「労働者の地位を不当に害するものであってはならない」を明記されていたにもかかわらず、法案廃止までの9年間に鉄鋼大手5社だけで全従業員の43%、6万9千人もの人員削減を行い、これを「適切な対応であった」と通産大臣が国会答弁していることからも明らかである。

(2)また、企業組織の変更等は、労働者の雇用契約・労働条件に重大な影響を与える問題であるにもかかわらず、事業者が「事業再構築計画」を策定・実施する際の当該企業労使における事前協議と労使間における「合意形成」が明記されていない。

(3)したがって、全労連は法案そのものには反対であることを明確にしつつ、次の点の法制化を要求し、国会審議にあたって各政党・関係委員会委員への要請行動、国会審議傍聴などにとりくむ。
1) 法案の第1条(目的)に、「雇用の維持・確保」を前提とすることを明記する。
2) 「認定基準」に、「雇用や労働条件に影響を与える場合には、労働組合(ない場合には労働者の過半数を代表するもの)と協議を必ず行っていること、および、労働者の雇用維持、労働条件についての労使合意が成立していること」を明確にさせること。
3) 計画の「実施」にあたっても、「労働者の理解と協力」の内容として「雇用と労働条件に関わる場合には労使協議および労使合意を成立させる」ものであることを明確にさせること。
4) 分社化や企業分割・合併、営業譲渡などを理由とした解雇の禁止、転籍における本人同意、雇用契約の継続・労働条件の維持、関係労働組合との労働協約の継続を明確にすること。

(4)また、この法案の問題点、さらには関連して次期国会に向けて法案準備が検討されている「民事再生手続き法」や「商法」の見直し等について、その問題点を明らかにする学習・宣伝資料等を早急に準備する。また、リストラ等における労働者の雇用確保、労働条件・権利擁護等に関わる法制度の確立に向けた要求政策を早急に検討する。


以 上