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第18回定期大会第1号議案付属資料

大企業の横暴、労働者の使い捨てを許さず、雇用を守るために
リストラ「合理化」反対闘争方針案

全国労働組合総連合


はじめに <この方針案の目的・位置づけ>

 長引く不況とグローバリゼーション・国際競争、最近では「産業競争力強化」などを口実とした本格的で大掛かりなリストラ「合理化」攻撃が労働者にかけられてきている。
 その特徴は、徹底した能力・成果主義の人事・賃金制度によるコスト削減と搾取強化、不採算部門の切り捨てとM&Aなどによる企業・事業の再編におかれている。
 そのもとで、今日もっとも大きな問題となってきているのが、すべての産業分野でより大掛かりにすすめられている人減らし「合理化」攻撃と雇用不安の拡大である。
 全労連は、かつてなく深刻になっている失業者の増大に対しては「雇用・失業に関する緊急要求」を労働省や日経連・経団連等にも申し入れ、この秋には「全国網の目キャラバン」を中心とした全国的な運動を展開する方針をすでに提起している。
 本方針案は、これらを踏まえつつ、労基法に続く派遣法・職安法など労働法制の改悪に加えて「産業活力再生特別措置法(産業再生法)」(概要と全労連の見解は別紙)により政府・財界が一体となって本格的に強化しようとしている国家的リストラ促進策による企業・事業の再編と、そのもとでの大掛かりな人減らし「合理化」を職場・地域から跳ね返し、地域経済を守り国民本位の不況打開をめざす課題と結合しながら雇用確保の大衆的な運動を前進させるために提起するものである。

1.最近の人減らし「合理化」の特徴・手法

 「リストラ計画を発表した企業の株価が上がる、というのは如何なものか」と労働大臣ですら発言せざるを得ないほど、リストラ競争が社会的な問題となっている。しかも重要なことは、財界・大企業はリストラの(re・structuring)本来の意味である「再構築(再編成)」を捻じ曲げ、いまやリストラ=人減らしとして、しかも、その人減らしのためには「何でもあり」の無法な攻撃を労働者に大掛かりにかけてきている。最近の人減らし「合理化」の特徴・手法を大きく括ると次のようになっている。(実際には、いくつかの手法が重なり合っている)

(1) 「不況・貸し渋り」などによる企業倒産と労働者の整理解雇
 消費不況による売り上げと生産の縮小、金融機関による貸し渋り、大企業などによる下請単価の切り下げ、受注減などにより増大する中小企業の「不況型」倒産・廃業を増大させている。加えて、大企業の下請・関連企業の整理や部品の内製化などのリストラ、銀行破綻が中小企業の経営破綻・労働者の整理解雇を拡大している。期限を迎えている「制度融資」の返済と金融機関の自己資本比率引き上げに向けての債権回収の強まりは、中小企業の倒産を今後さらに加速・拡大させることは必至である。
98年の企業倒産件数は戦後2番目の高水準であり、すべての業種で倒産件数が前年比で二桁増加、内訳でも「不況型」が70%を上回り、「貸し渋り倒産」は前年比236%増となっており、企業倒産により職場を追い出された労働者数も約17万人におよんでいる。

(2) 徹底したコスト削減による大規模な人減らし「競争」
 「売り上げが伸びなくても収益の上がる企業」をめざして、あらゆる産業分野で大企業を中心に徹底した「コスト削減=人減らし」計画が打ち出され、大量の労働者が職場から追い出されている。そしてそれは、公務においても国家公務員の25%削減が打ち出されているように、官民問わずの労働者への攻撃となっている。政府統計でも「非自発的離職者」は100万人を超え、「東洋経済誌」の調査によれば比較可能な「上場・店頭公開」企業・全産業で約1900社だけでも4年前に比べ従業員は46万人減らされており、そのうち製造業だけでも約27万人の従業員が削減されていることが明らかになっている。
 この人減らしの手法として、能力・成果主義人事制度と選択定年制、早期退職制度の拡大、不安定雇用への置き換え、一定年齢での出向・転籍や「いじめ」「希望退職」による人権無視の退職強要、労働時間の延長、ME化、情報通信など「技術革新」の活用による間接部門切り捨て・縮小、中間管理職の削減、CAD(computer-aided design)による製品開発期間の短縮と要員大幅切り捨てなどの攻撃が労働者に加えられてきている。

(3) 工場閉鎖、不採算部門の切り捨てによる解雇・人減らし
 東芝・多摩川半導体試作工場(600人)や日石三菱・川崎精油所(約210人)、日産ディーゼル・群馬工場(789人)、ヤマハ・天竜工場(500人)、東京・広島に続くキリンビールの京都工場(243人)、コマツ・柏崎など3工場(800人)、旭化成マイクロ・厚木製造所(900人)の閉鎖等など、「過剰設備」の廃棄や不採算部門の切り捨て、生産設備の集中、事業の特化などによる工場閉鎖、事業打ち切りなどがあいついでうちだされている。
 そして、これらにともなう労働者の関連企業への労働条件の引き下げをともなう出向・転籍の強要のみならず、最近では「整理解雇」や「希望退職」の強要が拡大している。「日糧製パン」では、不採算の本州2工場を閉鎖、パートを含む約570人の労働者は事実上整理解雇、JMIUの組織がある「高見沢電機・長野」でも、工場(約350人)を本体から分離・子会社と統合(「必要人員」は218名・「余剰人員=45歳以上」は「希望退職」強要)、工場は事実上閉鎖(現時点ではたたかいで阻止しているが)の攻撃がかけられてきている。

(4) 合併・営業譲渡による人減らし、「整理解雇」の拡大
 三菱石油と日本石油の合併で労働者の2割削減、ゼネラル石油とエッソ石油の業務統合で3割の人員削減など、企業の合併、企業間の業務の共同化などによる「間接部門」を中心とした人減らしも広範な産業分野に拡大している。なかでも最近拡大し、労働者にとって大問題となっているのが、経営危機・破綻による営業譲渡による労働者の「整理解雇」である。
 全労連の単産関係でも、大阪庶民信組に譲渡された弘容信組にたいする全員解雇(380人・うち約3分の1を再雇用、大阪市内10信金に分割譲渡された不動信組では全員解雇(約170人)で再雇用ゼロの攻撃などが組織破壊と一体で全信労の仲間たちにかけられてきている。また、「業績不振」から大阪の同業者に株式譲渡された自交総連の組織もある業界中堅企業の「イースタンモータース(本社・東京)」(約2000人)でも、全員解雇の攻撃がかけられてきている。これらの攻撃で特に問題なのは、前記の信組のように「雇用の継続はしない」ことを「覚え書き」に盛り込んで営業譲渡し、「全員解雇」と全信労への組織破壊攻撃を加えてきていることである。

(5) 分社化、子会社化、持ち株会社などによる労働者の切り捨て
 持ち株会社への移行を視野に、不採算部門の切り捨てを容易にし、部門別の独算制で徹底した人減らしやコスト削減をめざす「社内分社制」やカンパニー制の導入を拡大している。
 なかでも、最近の特徴として現れているのは企業の中枢部門までを「分社化」し、労働者に転籍とそれにともなう労働条件の大幅な引き下げを強要する企業が拡大していることである。たとえば、膨大な利益を上げているにもかかわらず日本IBMでは、「人事」「総務」「経理・財政」部門をそれぞれ別会社化し、労働者は以前とまったく同じ仕事をしているにもかかわらず転籍を強要され労働条件が45%も引き下げられている。また、日産自動車では人事部の一部(給与計算)を分社化したが、さらに他部門での分社化を拡大、本体の間接部門を2000人削減する方向をうちだしている。この7月に分割・再編、持ち株会社に移行されたNTTは、直ちに3万人もの新たな人員削減を打ち出している。検討が進められている「連結納税制」の導入などはこうしたリストラにいっそう拍車をかけるものである。

2.背景にある大企業の国際的戦略とその矛盾


(1)日本経済の行き詰まりと大企業の国際的戦略が背景に
 今日の大掛かりなリストラ「合理化」の背景には、現在の深刻な不況に加えて、戦後50年以上にわたる大企業本位で対米追随のわが国経済の「構造的」矛盾がある。
 そしてそれは、国内的には、(1)深刻化する不況下での内需・生産の停滞と落ち込み、バブル経済の崩壊「過剰債務」と「過剰生産体制」、(2)ゼネコン型公共事業や海外市場依存の国民生活をないがしろにした大企業本位の日本経済の構造的歪みとその行き詰りとして、国際的には、(1)途上国の経済発展と先進資本主義国による従来型の世界支配の行き詰りと矛盾、(2)国際的な過剰生産体制と消費の矛盾など構造的問題や環境問題などによる経済成長への制約、などとして現れている。
 今日のリストラ、「合理化」は、こうした国内外における資本主義経済の構造的矛盾の犠牲・しわ寄せをすべて労働者・国民に転嫁しながら、国際的規模での独占・大企業の再編成と新たな資本蓄積にむけた搾取と収奪強化のため、自動車産業に象徴的に見られるように国境や企業グループの枠を超えた独占・大企業のM&Aや資本提携など、質的にも量的にも従来では考えられない規模での大掛かりな攻撃となっている。
 とりわけ重要なことは、「産業再生法」などに見られるように、こうした大企業のリストラを政府が法制度の見直しや公的資金の活用、税制上の優遇措置などによって積極的に促進する、いうなら税金を使って労働者の首を切ろうとしていることである。
 しかし、このような労働者や国民生活をないがしろにしたリストラは、人減らし・所得減少→雇用や将来への不安拡大→個人消費の停滞・落ち込み→不況のいっそうの深刻化→生産落ち込み・企業収益悪化→企業リストラ加速という悪循環を生み、多国籍企業化した大企業の国際戦略は地域や国内経済を空洞化させ、国際的にも日本経済の基盤をいっそう不安定にさせるものである。

(2)今日のリストラ「合理化」が拡大する矛盾
 また、大がかりな人減らし「合理化」による正規・本工労働者の切り捨てとパート・派遣など不安定雇用労働者への置き換え、さらには「終身雇用・年功賃金」の解体と「能力・成果主義」の導入、中間管理職の廃止・縮小、ホワイトカラー層への攻撃の集中などは、一方では労働者を分断しつつ過酷な競争を煽りつつも、他方では労働者の企業への従属意識を弱め、管理職層を含む職場のすべての労働者が団結できる客観的な条件を拡大させている。さらに「生産部門」丸ごとの分社化や下請け・外注化は、企業の生産一貫体制にとってのアキレス腱的弱点を大企業自身が作り出しているともいえる。
 こうした大企業のリストラ「合理化」は、下請け・関連中小企業の切り捨てや経営危機、さらには国内産業、地域経済の空洞化をも深刻なものとしている。また、多国籍企業化した大企業の海外進出と引き換えのわが国の無原則的な市場開放は、伝統的地場産業や農水産業をも崩壊させている。こうした大企業の横暴とのたたかいは、いまやわが国のすべての労働者・国民諸階層にかかわる社会的な課題となっている。
 また、アジアなどの途上国の「低コスト」などを口実とした労働条件の切り下げ攻撃は、他方で大企業や多国籍企業と国内外における労働者・国民諸階層との矛盾を拡大し、労働者・労働組合の生活と権利擁護のたたかいを不可避的なものとし、国際的にも労働者・労働組合の連帯の必要性を高めている。

3.たたかいの基本方向と具体的な運動展開


 人減らし「合理化」の個別・具体的な攻撃に対するたたかいを重視し、雇用確保と地域経済活性化・不況打開の課題と結合しながら職場・地域からの運動を強化すると同時に、これまでの「判例」や国際的に到達している労働基準・ルールをも無視した「何でもあり」の攻撃に対して、解雇規制や労働時間に関わる「国際的な水準への到達」を基本とした「社会的ルール確立」の運動を統一的に追求する。具体的には、以下の点を柱に運動を展開する。

(1)典型的に現れているいくつかの具体的な攻撃を、全労連の重点闘争課題に据え、当該単産や地方・地域組織の共同の力で雇用と労働条件確保のためにたたかう。
 1)人減らし「合理化」の典型例となっている次のたたかいを重視する。
(1) 全国的に拡大している中小企業などの倒産・解雇
(2) 「分社化による転籍・見せしめ出向」=(日本IBM)
(3) 行政指導にもとづく「事業譲渡による全員整理解雇」=(大阪・弘容信組など)
(4) 企業から分離・子会社と統合、「工場閉鎖・解雇」=(長野・高見沢電機)
(5) 事業部門の売却や今後予想される工場閉鎖=(日産自動車)
2)具体的な運動については、当該単産や地方組織とも協議の上ですすめていく。

(2)労働者犠牲の大企業の無法ぶりを批判・告発し、社会的責任を追及する宣伝を重視し、大企業の横暴を規制し「社会的ルール確立」をめざす世論形成を重視する。
 1)膨大な利益を上げながら労働者犠牲の大掛かりなリストラ計画をうちだしているIBMなどにみられる大企業の「合理化」攻撃の典型的な無法ぶりの実態を社会的に告発・糾弾し、市場経済における「社会的ルール確立」の必要性をアピールする「シンポジウム」を関係組織と共同して開催することを検討する。(IBMシンポは10月9日予定)
 2)当該労働者のみならず関連・下請け企業の雇用や地域経済にも影響を与えている大企業のリストラの特徴、これとの地方・地域からの運動の交流、「合理化」反対・雇用確保闘争の強化を中心に「全国的な交流・討論集会」を10月31日〜11月1日(場所・未定)に開催する。なお、これまでの「大企業・関連労働者交流集会」は、今年度はこれに合流させる。

(3)企業による一方的な人減らし「合理化」、転籍・出向などを許さないため、労働時間の短縮やサービス残業の根絶による雇用維持、労働組合との「事前協議」や「本人同意制」などの労働協約の確立、職場のすべての労働者を視野に入れた産別・職場政策活動、労働者の権利についての学習宣伝など職場からのとりくみを重視する。
 また、改悪労基法の職場への導入や改悪派遣法に基づく派遣労働者の拡大を許さず、労働者の権利擁護や不安定雇用労働者の労働条件改善のたたかいを重視する。
 地域的にも、未組織労働者や大企業労働者などをも視野に「労働者の基本的権利」や「首切りを跳ね返す10ヶ条」、「泣き寝入りをせず労働組合を結成して攻撃をはね返そう」の宣伝、呼びかけをおこなっていく。また、OBなどの協力もえながら「リストラ100番」などの労働相談活動の定期化・常設化などの運動を全国各地から強化する。
 「工場閉鎖」等の動きには、雇用と地域経済を守る視点で地域の広範な労働者・労働組合や民主勢力などにも働きかけ、共同の力で反対の運動を組織してたたかう。

(4)全労連の「雇用・失業に関する緊急要求」を基本に、それぞれの地方・地域ごとの要求の具体化を図りながら、失業者の生活保障と雇用確保の運動を「全国網の目キャラバン」を中心に、地方・地域の広範な労働者・労働組合にも共同を呼びかけながら展開する。

(5)「競争力強化・産業再生」を名目にリストラ・人減らし促進策として検討されている持ち株会社や分社化の推進、営業譲渡の自由化などにむけての「独占禁止法」「商法」「倒産法」などの見直しにたいし、労働者の雇用確保や「労働債権」の優先権明確化などの視点から早急に要求をとりまとめその実現をめざす。また、国家的リストラ促進策としての「産業再生法」(具体的見解は別途)に反対してたたかう。

(6)政府・財界の「国際競争力強化」「グローバリゼーション」に抗して、「時短・解雇規制」を中心に国際的な労働基準(ILO条約、EU指令など)の遵守とそれを基本とした「社会的ルール」確立などを財界や政府に要求して、全国的な運動を展開する。
1) 財界・大企業・経営者団体等には、雇用確保のため、
(1) 「整理解雇の四要件」を厳守すること、
(2) サービス残業を厳禁すること、
(3) 年間実総労働時間1800時間以上や年間「360時間以上」の「36協定」を締結している企業では労働時間短縮を積極的にすすめること、
(4) 正規常用労働者のパート・派遣労働者への置き換えをおこなわないこと、
(5) 企業の合併・営業譲渡にあたっては雇用の継続、労働条件の維持を前提とすること
(6) リストラ「合理化」計画の策定にあたっては、事前に労使協議・合意をおこなうこと
 などによる、雇用確保・雇用拡大を要求していく。
2) 政府にたいしては、企業の一方的な人減らしの規制、雇用の確保・拡大のため、
(1) 企業による労働者への一方的な出向・転籍の強要、整理解雇等を規制する「解雇規制法」を制定すること、また、分社化や企業分割・合併、営業譲渡などを理由とした解雇の禁止、転籍における本人同意、雇用契約の継続・労働条件の維持、関係労働組合との労働協約の継続などを法的にも明確にさせること、
(2) サービス残業の厳禁と国際公約の「年間総実労働時間1800時間」の達成に向けた法整備をおこなうこと、
(3) 「整理解雇の四要件」厳守や常用正規労働者の「派遣労働者」等への置き換えをおこなわないよう企業・経営者団体への指導をおこなうこと
(4) 地域経済に影響を与えるような「工場閉鎖」や大量の人減らし「合理化」計画については、事前に地方自治体などとの協議・合意をおこなうよう企業・経営者団体への指導をおこなうこと、
(5) 大企業の下請け・関連企業の経営と雇用確保のため、「下請け代金支払い遅延防止法」や「中小企業分野調整法」を実効あるものとするため罰則規定を設けること、
(6) 中小企業や地場・中小金融機関の経営を脅かしている「貸し渋り」「早期是正措置」を止めさせ、「規制緩 和政策」を見直すこと、また、信用保証協会による「貸し渋り対策特別保証」融資の返済据置期間および返済期間の延長、保証限度額(無担保5000万円)の引き上げ、保証対象枠の拡大など制度の拡充をはかること、
 などを要求していく。
3) 地方自治体に対しては、地域経済を守り雇用を確保するため、
(1) 地域経済に影響を与えるような「工場閉鎖」や「工場・事業所移転」、人減らしについては、事前に地方自治体へ計画を届け出、十分な協議・合意を図ることを企業に義務づける「リストラ規制条例」の制定、
(2) 政府に対して、2)項の要求実現に向けて「意見書」を提出すること、
(3) 地場・中小企業の経営基盤の強化にむけた施策を充実させること、
などを要求していく。
4)次期通常国会に向けて法案準備が検討されている「民事再生手続き法」や「商法」の見直し等について、その問題点を明らかにする学習・宣伝資料を早急に準備する。また、リストラ等における労働者の雇用確保、労働条件・権利擁護等に関わる法制度の確立に向けた要求政策を早急に検討する。

以 上