【談話】

春闘終焉、労働組合解体攻撃に反対し、

安心、平等、平和な「もうひとつの日本」実現を

〜2006年版「経営労働政策委員会報告」について〜

2005年12月13日
全国労働組合総連合
事務局長 坂内 三夫


1. 日本経団連は13日、2006年版「経営労働政策委員会報告」を発表した。

 「経営者よ 正しく 強かれ」とのサブタイトルは、財界といえども「あらゆる不公正・不透明な行動は許されない」、「正しく」を強調しなければならないほど相次ぐ企業不祥事が日本企業と経済にとって放置できない深刻な影響を与えていることを明らかにしている。また「報告」は、財界大企業が進めてきたこの間のリストラ、正規労働者の非正規への大規模な置き換え、労働者の人間性無視の長時間過密労働と成果主義の強要などにより職場で表面化している企業の経営基盤にすらひびを入れかねない深刻な労働実態とその犠牲のもとで大企業が軒並みバブル絶頂期を上回る史上最高益を更新し続けていることの矛盾を色濃く反映したものとなっている。

 「報告」は、景気の現状として「わが国経済は、2005年の前半は『踊り場』にあったが、夏にはふたたび回復局面に入った」「多くの企業が2004年度までに業績回復した」と景気回復を断言。他方、賃金決定の考え方については、「国際的にみてトップレベルにある賃金水準をこれ以上引き上げることはできないという判断に至る企業が大多数を占めるものと思われる」とし、「総額人件費の徹底」にむけ、賞与・一時金反映型の重視や定期昇給制度、退職金・年金、継続雇用など制度見直しを打ち出している。さらに「賃金を中心にした交渉だけでは認識の共有化に限界がある」として、「横並びの『春闘』はすでに終焉し、春季の労使討議の場として『春討』」へと春闘解体攻撃を繰返している。このような春闘解体攻撃は断じて容認できない。

 しかしその一方で、各調査機関やマスコミが主要大企業の業績が引き続き増益基調にあることを報じていることや「大企業の一人勝ち状態」に対する労働者・国民の不満や社会的批判を考慮してか、「この好機を活かすためには、労使の一層の協力が不可欠であり、賃金などの労働条件の改定についても、企業の競争力を損ねることなく働く人の意欲を高める適切な舵取りが望まれる」と部分的ながら業績向上の企業に労働条件改善を促すような矛盾する記述も見られる。

 こうした背景には、労働者・国民のくらしや雇用は、7年連続の年収ダウンをはじめ依然として高止まりの失業率、経済的理由による自殺者の急増、年金・医療・介護など社会保障負担の増大など「景気回復」を実感できるような状態には到底ないことがあげられる。今回の報告を真に実践するものであるならば、いまやGMを抜こうとし、3年連続で純利益1兆円もの利益をあげる日本経団連会長企業=トヨタや次期会長企業であるキヤノンがまず範を示すべきであると改めて主張したい。

2.「報告」は、「地域経済の活性化と中小企業」の項で、「中小企業をめぐる状況は依然として厳しい」「地域経済の本格的な回復のカギを握っているのは、地元の中小企業」とふれている。この考え方が真実ならば、この間の大企業工場の生産拠点の海外移転にともなう国内工場の縮小・閉鎖による雇用喪失や大型店の郊外進出などによる地元中心街の「シャッター通」化、単価引き下げなどのよる下請け・中小いじめなど大企業がおこなってきたことは「地域経済を疲弊する」身勝手なふるまいとして改めるべきである。また、社会保障問題への対応では、持続可能な制度を構築するため、国民の自助努力を基本に「消費税率の引き上げを前提として、税制・財政、および年金・医療・介護の一体的改革に取り組むべき」だとし、改めて大幅な消費税率引き上げを主張。年金一元化や国民医療費の増大抑制にむけた医療制度改悪を「躊躇なく断行すべき」と強調しているが、大企業の負担軽減を要求し、国民に犠牲を押付けることは断じて容認できない。

3.「経営と労働の課題」では、国際協力強化のために規制改革が必要不可欠だとして、労働分野における規制改革として、(1)雇用・就業形態に多様化に対応するインフラ整備(ハローワーク関連分野での市場化テスト導入や雇用保険三事業の見直し、派遣期間の延長)、(2)労働時間の規制改革(ホワイトカラーエグゼンプション制度の導入)、(3)労働契約法制(解雇の金銭解決など)、(4)最低賃金制度(産別最賃の廃止)などを打ち出した。06年通常国会での最低賃金法改正、07年通常国会での労働契約法制など労働法制の全面改悪と労働組合の弱体化を狙ってきている。

 また「報告」では、「激動する世界情勢と日本」の項で、21世紀に入り、BRICs諸国など新興国家の発展が本格化したことにふれ、「新たな国際競争に打って出る素地ができつつある」として、企業がより自由に活動できるようにするために、「規制改革、行財政改革による民間への一層の機会拡大(市場化テストなど)や公務員制度の改革を急がなければならない。『官から民へ』、『中央から地方』へめざす構造改革は引き続き推進」することを強調している。日本経団連が「規制改革」や「公務員制度改革」を声高に叫ぶ理由がここにあることは明らかである。

 今回、「報告」では「序文」や「今後の経営者のあり方」の項で、度重なる企業の不祥事や多発する労働災害などモラルハザードとそれに対する社会の不信感を強めているとして、企業の社会的責任のとりくみ強化を指摘している。また今回はじめて「メンタルヘルス(こころの健康づくり)の重要性」について項をおこして記述した。いままさに大規模な労働災害やあとをたたない不祥事の多発などモラルの低下、また雇用差別による賃金引下げや成績・業績主義賃金制度は技術継承の寸断による現場力の低下と職場内チームワークの希薄化、ノルマ強要・過重労働による健康・精神障害まで起こし、この間の矛盾が噴出し、「『日本的経営』の再構築・再評価」をせざるを得ない事態におかれてきている。

 真に「経営者よ 正しく 強かれ」の基本精神を唱えるなら、日本経済と労働者・国民の労働と生活に対する企業の社会的責任を発揮し、常に「人間尊重」の視点をもった企業活動を展開するようただちに改めるべきである。

4.全労連は06春闘にあたって、すべての労働者の賃上げ確保をめざしてすべての組合が、(1)「誰でも月額1万円以上」の賃上げ、(2)「誰でも時給1,000円」の引き上げ、(3)最低賃金「月額 15万円」「日額7,400円」「時間額1,000円」を掲げて労働者の底上げを重視してたたかう。

 すべての職場での要求確立とともに、「全労連統一要請書」をすべての経営者や自治体に提出する運動を進めていく。また青年や非正規の仲間に、まともな雇用と生活できる賃金をめざして職場・地域から、最低賃金や初任給の改善、非正規労働者の均等待遇、青年の雇用拡大などを広く社会にむけてアピールを強めていく構えである。

 全労連は、小泉「改革」がすすめる「小さな政府」に反対し、国民の安全・安心を求める国民的な運動の前進と、公務職場ではたらく仲間を激励して、「もうひとつの日本をめざす全労連闘争本部」を軸に、国民世論形成をはかっていく。また労働者・国民に大きな負担増を強いる医療改悪・大増税や憲法改悪に反対して、全組合員が「一日の有給休暇」を取ってストライキをふくむ国民的統一行動を構えてたたかう決意である。

 最後に、全労連は小泉首相の「小さな政府」=「ルールなき競争と格差、戦争する国」に反対対し、「もうひとつの日本」=「安心、平等、平和、働く仲間が元気の出る社会」の実現をめざして奮闘することをここに表明するものである。

以 上