【談話】

総合規制改革会議による労災保険の民営化方針について

2003年12月9日
全国労働組合総連合
事務局長 坂内 三夫


  1. 政府の総合規制改革会議(議長・宮内義彦オリックス会長)は本日、小泉首相宛てに提出する最終答申案をまとめた。答申案は、労働者災害補償保険(労災保険)について民営化する方針を打ち出している。
     労災保険の民営化は、総合規制改革会議の「構造改革特区・官製市場改革ワーキンググループ」(八代尚宏主査)が今年7月、新たな検討項目として労災保険の民営化をあげたことに基づいたもので、労災保険への未加入者の増大、保険料率の算定根拠の不透明さ、労災病院など労働福祉事業の経営効率悪化などを理由に、自動車損害賠償責任保険と同様の損保会社への全面委託や事業移管を提起している。すでに第3次答申において、「12の重点検討事項」に追加する5項目の一つとして「労災保険及び雇用保険事業の民間開放の促進」が盛り込まれ、本年11月の「アクションプラン実行ワーキンググループ」では、労災保険と雇用保険三事業の民間開放について厚生労働省と意見交換している。そこでは、規制改革会議側が労災保険の保険料徴収が厳格に行われていないことが一部使用者のモラルハザードを助長していると指摘し、「改革」の方向として、運営を民間の保険会社にゆだねることを提案している。

  2. 全労連は、長時間・過密労働が社会問題化し過労死など労災認定が急増している中で、労災保険を営利目的の民間保険会社にゆだねることは、労働者保護を後退させる危惧があることから、民営化には反対である。
     労災保険は、(1)罰則をもって強制される労働基準法上の「労働者の業務上負傷、疾病に対する使用者の無過失賠償責任」を実効あるものとするために創設されたものであり、民事上の損害賠償義務を肩代わりしリスクを分散させることを目的とした自賠責保険とは性格を異にしていること。(2)未手続事業主に対しては職権で保険関係を成立させ、保険料滞納事業主に対しては滞納処分による保険料を徴収する等、強制保険であること。(3)すべての産業に適用され、全事業主が費用を負担している社会保険であること。(4)労災事故発生時には労働基準監督署が原因究明し事業主に改善措置を促すなど監督行政と一体のものとなっていることなどから、当然、国自らが執行すべき業務である。

  3. 政府・厚生労働省に今求められているのは、労災保険の民営化などではなく、労働時間を短縮し過労死などの労災被災者を出さないことや、労働安全衛生法上の義務を果たし労災事故を撲滅するよう事業主に対する指導を強めることである。
     全労連は、政府・厚生労働省がこうした措置をとることを求めるとともに、今回の労災保険民営化に断固反対し、すべての労働者・国民と団結してたたかう決意を表明するものである。