【談話】

「労働関係事件への総合的な対応強化についての中間とりまとめ」について

2003年9月1日
全国労働組合総連合
事務局長 坂内 三夫


 司法改革推進本部労働検討会は8月15日、「労働関係事件への総合的な対応強化についての中間とりまとめ」(以下「中間とりまとめ」)を発表した。「中間とりまとめ」の柱は次の三本である。(1)「労働審判制度」という新しい制度の導入を提案。(2)労働訴訟の迅速化について、計画審理などの訴訟実務の運用改善を提案。(3)労働委員会の救済命令に対する司法審査に関して、新証拠の提出制限を提起。

  1.  全労連は労働裁判の改革について(1)労働参審制の導入、(2)事実上の5審制となっている労働委員会命令取り消し訴訟の審級省略の二点を重要課題として運動をすすめて来た。その点で労働検討会の「中間とりまとめ」は全労連の要求と乖離し、また「司法制度改革審議会意見書」の趣旨が充分に盛り込まれず非常に残念なものとなっている。
     しかし、「裁判官、労働者側の審判員、使用者側の審判員の三者が合議のうえ決定する」という新しい形の「労働審判制度」が提起されたことは、国民が裁判に参加するという点で一歩前進した貴重な成果と評価するものである。
     今後、検討会のなかで制度の中身が議論されていくが、「労働審判制度」を実効性があり、労働者が利用しやすい制度とするために次の点を盛り込むことを提案する。

     (1)労働審判制度は「非訟手続」として「非公開」「非対審」で導入するとされているが、「公開」「対審」を原則とすることを求める。
     「労働審判制度」は「簡易・迅速・適正な紛争解決」という目的を実現するために、訴訟手続きとは別に、選択的に制度を設けるものである。この「労働審判制度」は異議があれば失効し、申立て人は訴訟を選択することもできる。したがって裁判を受ける権利を侵害しない範囲での合目的な制度であると考える。ただ、本来は訴訟性を特質としている以上、「公開」「対審」の原則を守る必要があると考える。また、労働事件は労働者と使用者が権利・義務を争うもので、本来的には訴訟事項にほかならない。国民の監視のもとに民主的に行われることが重要である。
     (2)調停と同様に当事者には出頭義務を課すべきである。相手方が不出頭の場合は、裁判所は当事者不出頭のまま決定を出すか、手続きを打ち切るかを決することができるように求める。
     不出頭など、いたずらな引き伸ばしによって、申立て人の不利益が拡大したり、苦痛が増幅されることのないよう取り計らうべきである。
     (3)手続きについては書面、もしくは口頭での口述にて行えるようにし、証拠については事前に提出することとすることを求める。また費用は出来るだけ低額にすることを求める。
     (4)迅速な解決という点で、申し立てから3週間以内に第1回期日を設け、基本的に3ヶ月以内での決定をめざすことを求める。
     (5)審判員の選任については、労使の利益代表でなく、あくまでも中立の公正な立場、雇用・労使関係の事実について専門的知識・経験を有するものを選任すべきである。労働側の審判員についても産業・業種・労働組合の系統などを考慮し、少数派にも配慮した適正かつ民主的に選任することを求める。

  2.  労働委員会救済命令取り消し訴訟については訴訟実務の運用改善が提起されたのみで、審級省略など制度の改革には踏み込まず、厚生労働省の「不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会報告」にもとづく労働政策審議会での今後の審議を待つこととなっている。労働委員会自らが機能強化を図るとともに、裁判所は労働委員会の審判機能を評価し、その命令を尊重することが重要である。全労連は引き続き、労働委員会救済命令取り消し訴訟の審級省略を求めるものである。

  3.  弁護士費用の敗訴者負担制度については司法アクセス検討会に対して、導入反対を求めさらに運動をすすめていくこととする。