【談話】

労基法の一部を「改正」する法律案の閣議決定について

2003年3月7日
全国労働組合総連合
事務局長 坂内 三夫


 政府は本日、「労働基準法の一部を改正する法律案」について閣議決定を行なった。法律案には、労働者保護法たる労働基準法の基本的性格と相容れない重大な改悪規定が入れられており、到底認めるわけにはいかない。

  1. 法律案は解雇について、「使用者は、この法律の規定によりその使用する労働者の解雇に関する権利が制限されている場合を除き、労働者を解雇することができること。ただし、その解雇が、客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」としている。この法律案では、使用者による労働者への解雇権を原則(訴求原因)としているため、使用者の権利濫用は例外(抗弁)であるとの解釈が生じる。したがって、解雇に正当理由がないことを労働者側が立証しなければならず、裁判における取り扱いがこれまでとは逆転した構造となり、客観的合理的理由が存在しないことを十分立証できない場合は、労働者敗訴の判決になる危険性が大きい。さらに、使用者に解雇権のあることを印象付けることによって、不当解雇を増加させる危険性もはらんでいる。
     そもそも労働者保護を目的とする現行労働基準法には「使用者が、…できる」などと定めた条文は皆無であり、解雇制限や解雇予告を定めた19条、20条においても「使用者は、…解雇してはならない」「使用者は、…予告しなければならない」と規定されているのである。したがって、労基法には、解雇を規制する条文のみが盛り込まれるべきであり、使用者の解雇権を明記すること自体、法の根拠を喪失させるものといわざるを得ない。解雇権濫用法理を成文化するというのであれば、「使用者は、客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められる場合のほかは、労働者を解雇することができない」と規定すべきである。

  2. 有期雇用契約では、現行法では原則1年とされているものを3年に、例外3年を5年とし、5年(専門的知識)の対象者は厚生労働大臣が基準を定めるとしている。現行法による期間1年の原則が、反復更新された雇用契約を期限の定めのない雇用とみなす判例法理と結合され、有期雇用の安易な拡大を抑制してきた。今回の法律案が適用されるなら、常用雇用の有期雇用への大規模な置き換えや若年定年制の復活へ道を開くものとなるだろう。有期雇用契約の労働者は、使用者に対して極めて弱い立場にあり、「雇い止め」という名の事実上の解雇がまかり通っていることを考えるなら、今回の法律案は認めるわけにいかない。

  3. 裁量労働制については、企画業務型の導入要件を緩和し、対象事業場を本社・本店だけでなく無原則に拡大する内容となっている。長時間残業をしても「裁量」を口実に残業代が支払われない裁量制については、98年の法改正の際に厳格な導入要件を盛り込み、歯止めがかけられてきた。法律案は、この規制を取り払おうとするものであり、現行法では犯罪行為である不払い・サービス残業を合法化させる恐れがある。過労死の温床とも言われる長時間労働、サービス残業を法の網から潜り抜けさせる企ては認めるわけにいかない。

  4. 全労連は、今回の法律案は労働基準法の性格を根本的に変質させるものとして、断じて認めるわけにはいかない。今後、国会審議を通じて同法案の重大な問題点うきぼりにしつつ、改悪案の廃案をめざして院内外の取り組みを展開する。あわせて、すでに判例で確立されてきた整理解雇4要件を盛り込んだ解雇規制法の制定によって、これ以上のリストラ・解雇に歯止めをかけるため全力をあげてたたかい抜く決意を表明するものである。


INDEXに戻る
全労連のホームページに戻る