2008年8月4日

中央最低賃金審議会
目安小委員会委員各位

全国労働組合総連合
議長 大黒作治

改正最低賃金法の趣旨をふまえた生活保護制度の取り扱いを

平成20年度地域別最低賃金額改定の目安審議にむけた追加意見書

 働くものの最低生計費を確定するための「参考指標」として、生活保護制度を活用する方法について、いくつかの考え方がすでに示されているが、最も妥当性のある方法を以下、提言するものである。

1.最低賃金の決定原則である「生計費」の指標として活用される生活保護基準の扱い方について

 改正最低賃金法が求めているのは、最低生計費の代理指標としての、生活保護の活用である。それには、生活保護「基準」を参照しなければならない。支給実績では、「足りない分を保障する」支払い方がなされるため、公的に必要と認められている生計費水準には届かないことになる。

 生活保護基準を活用した、最低賃金の「整合性」の取り方は、以下のとおりにすべきである。

「整合性のとれた水準」>

生活扶助I類+II類+住宅扶助(特別基準額)
+冬期加算+期末一時扶助
+勤労控除(働くことに伴う必要経費がかかる)
+医療扶助(病気になる可能性は誰にもあるので本来必要)
+公租公課補正

(1)生活扶助1類の年齢層の取り方について

 一般に18歳からが就労年齢と考えられるから、その年齢を含む全労働者に最低生計費を保障するためには、12〜19歳の生活扶助第1類費の基準額を用いなければならない。60歳以上の高齢層の扶助基準を考慮せよとの意見もあるようだが、整合性をはかる作業は、あくまでも「賃金の最低限度の水準」の指標を決めるためのものであり、高齢者への生活保護の支給・運用の状況を配慮する必要はない。

(2)冬季加算について

 言うまでもなく、冬季加算は必要である。冬季(11〜3月)の燃料代の上積み分である。その期間を年平均して加えるべきである。

(3)期末一時扶助について

 期末・期末一時扶助は、越年費用の趣旨で支給される。これも月当り額を計上すべきである。

(4)住宅扶助について

 住宅扶助については、特別基準額を用いるべきである。支給実績を使う方法が検討されているが、単身者の場合、特に基準額以内の、特別に安い物件に住むことを指導されることから(2人以上の世帯の場合は特別基準額の1.2倍まで許容される)、通常探しうる賃貸物件よりもはるかに低い金額となる。労働者の最低生計費を積算する最低限の根拠としては、通常、享受しえないような住宅サービスを意味する「生活保護世帯の支給実績」ではなく、少なくとも特別基準額を保障するべきである。
 なお、厚生労働省の資料では、住宅扶助の支給実績について、グラフで示されているものしか公表されていない。算出方法と金額を明示することを求める。

(5)勤労控除について

 基礎(勤労)控除は、働いていれば、当然ながら必要な経費としての支出が増えるため、計上すべきである。基礎控除の額は賃金や住んでいる地域で異なるが、月額3万円前後になる。基礎控除のうち、就労に伴う必要経費分は70%で、他の30%は就労奨励費分(働くことへのインセンティブ)である。少なくとも、必要経費の70%は含めるべきである。なお、残りの30%分の就労インセンティブ分は、医療扶助など基準額として算定しにくい部分をカバーする余裕分として考慮するというやり方もありうる。だれもが、病気になる可能性はあるからである。

(6)級地の設定について

 都道府県内で、県都などのもっとも高い級地の生活保護基準を適用するべきである。級地ごとの人口で加重平均をだす方法では、高い級地の労働者に適用される最低賃金が生活保護基準を下回る事態が生じてしまう。参考までに埼玉県、千葉県、神奈川県、秋田県の級地ごとの人口バランスを示しておくが、最高級地には多くの人々が集中していることがわかる。級地別人口加重平均という手法では、最高級地に住む人々に、本来の生活保護基準よりも低い指標をあてはめることになる。これは県内一律に生活保護との整合性を考慮すべきとした地域別最低賃金制度の趣旨に反する運用となる。

例1 埼玉県 1級地−1と2で35.4%、2級地−1が33.2%。両者で全体の68.6%

就業者総数2,244,443人 

【1級地−1】 509,839人22.7%(2市)
 川口市、さいたま市

【1級地−2】 285,660人12.7%(7市)
 所沢市、蕨市、戸田市、鳩ヶ谷市、朝霞市、和光市、新座市

【2級地−1】744,536人33.2%(14市1町)
 川越市、熊谷市、春日部市、狭山市、上尾市、草加市、越谷市、入間市、志木市、桶川市、八潮市、富士見市、三郷市、ふじみ野市、(入間郡)三芳町

【3級地−1】 (17市12町)
 行田市、秩父市、飯能市、加須市、本庄市、東松山市、羽生市、鴻巣市、深谷市、久喜市、北本市、蓮田市、坂戸市、幸手市、鶴ヶ島市、日高市、吉川市、(北足立郡)伊奈町、(入間郡)毛呂山町、越生町、(比企郡)嵐山町、小川町、鳩山町、(南埼玉郡)宮代町、白岡町、(北葛飾郡)栗橋町、鷲宮町、杉戸町、松伏町

【3級地−2】1級地、2級地及び3級地−1以外の町村 (16町1村)

例2 千葉県 1級地−2が45.1%、2級地−1が26.7%。両者で全体の71.8%

【1級地―2】(6市)
千葉市、市川市、船橋市、松戸市、習志野市、浦安市

【2級地―1】(9市)
野田市、佐倉市、柏市、市原市、流山市、八千代市、我孫子市、鎌ヶ谷市、四街道市

【3級地―1】(15市2町)
銚子市、館山市、木更津市、佐原市、茂原市、成田市、東金市、八日市場市、旭市、勝浦市、鴨川市、君津市、富津市、袖ヶ浦市、白井市、酒々井町

【3級地―2】(2市45町村) 上記以外の市町村

例3 神奈川県 1級地−1が65.0%、1級地−2が26.7%。両者で全体の91.7%

その他は2級地−1、3級地−1

例4 秋田県 2級地−1が33.4%、3級地−1が58.6%

その他は3級地−2

2.生活保護基準と最低賃金との比較のための労働時間の扱いについて

  • 月何時間働いて生活保護水準と整合が取れるようにするかは、きわめて重要である。
     昨年まで、厚生労働省は1日8時間×月22日労働で176時間とし、法定労働時間をオーバーする数値をあてはめて、生活保護と最低賃金との乖離を小さくみせようとしてきた。いよいよ、生活保護との「整合性」に焦点があてられるなかで、違法な労働時間数で換算していてはまずいということで、法内ギリギリの173.8時間をだしてきた、ということであろう。

  • しかし、173.8時間という数字を使うことは、妥当ではない。この数字は一般労働者の所定内実労働時間を大幅に超えており、実態としては超過実労働時間数こみの時間数に近い。昨年までの違法な労働時間で換算するという問題性は解消したとしても、実態として、残業時間こみの数字で換算するのは問題である。また、現在、時間表示しかされていない最低賃金を、日給・月給等の支払い形態で就労している労働者にあてはめるに際しては、当該労働者の所定労働時間数をもって換算する方式をとっている。このことからみても、所定労働時間数と乖離した法定労働時間数を使うべきではない。

  • 「円卓合意」の高卒初任給の時間換算においても、法定労働時間数ではなく、所定内実労働時間を活用している。このことから、所定内実労働時間数で換算することに広範な了解があるとみるべきである。なお、賃金センサスの産業・企業規模・性別・学歴計の所定内実労働時間数166時間を活用すべきとの意見もあるが、賃金センサスの労働時間数は、企業規模10人以上で、6月調査時点のものという限定がある(6月調査は労働時間が長めにでる)。これに比べ、毎月勤労統計調査は、事業所規模5人以上の一般労働者(非正規含むフルタイム労働者)の毎月の統計をもとに年平均を得られる。カバーする範囲は広く、最低賃金制度の趣旨に近い。この統計によれば、一般労働者・調査産業計の所定内実労働時間数は156.7時間である。統計を活用するとすれば、これが最も妥当な指標といえる。

  • なお、全労連としては、統計として一番妥当な毎勤統計をベースにしつつも、「あるべき労働時間」への政策誘導的な観点をふまえ、年間労働時間1800時間の月割分の150時間労働で整合性を取ることを提案する。

以上